子宮頸癌

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子宮頸癌(しきゅうけいがん、: cervical cancer)は、子宮頸部と呼ばれる子宮の出口より発生する性行為感染症である尖圭コンジローマと同様、ヒト乳頭腫ウイルス (HPV) の感染によって発症する為、性行為感染症に分類される。

概要[編集]

子宮頸部扁平上皮癌は、ヒトパピローマウイルス (HPV) の長期間の感染による発症である。近年の疫学的調査によると、扁平上皮癌80%、腺癌20%であり、腺癌の比率が上昇している。以下、特に断りのないかぎり本記事では子宮頸部扁平上皮癌について述べる。

子宮頸癌の最大の特徴は、原因がはっきりしている為、予防可能な癌であるという点である。これは異形成(子宮頸癌になる前の病変)が発見可能なためであり、定期的な子宮頸癌検診により、異形成の段階で発見・治療することにより癌の発症を未然に防ぐことができる。

その為、性経験のあるすべての女性に年に一度の子宮癌検査が勧められており、欧米では多くの女性が子宮癌検査を受診している。

国別の子宮頸がん検診受診率(2006年)[1]
検診受診率
米国 82.6%
フランス 74.9%
カナダ 72.8%
ノルウェー 72.5%
スウェーデン 72.0%
イギリス 69.8%
オランダ 69.6%
オーストラリア 60.5%
ドイツ 55.9%
ポーランド 49.0%
韓国 40.6%
イタリア 36.7%
日本 23.7%

老化現象とも捉えられる他の癌と異なり、性的活動期である20代から40代に発症のピークがあり、近年、性交開始年齢の低年齢化などにより、若年層の子宮頸癌が増加している傾向がある[2]

HPVは性交経験のある女性の全てに感染の可能性があり、性交経験のある女性のうち80%が一生に1 度は感染しているともいわれている。また、妊娠回数や出産回数が多い女性、不特定多数の性行為などは、子宮頸癌のリスクを上げる危険性があり、注意が必要である。他の性行為感染症と同様、一度しか性行為の経験が無い女性や、出産、妊娠経験が無い女性にも子宮頸癌のリスクは充分ある為、性交経験のある女性全てに注意が必要である。

疫学[編集]

2004年における10万人毎の子宮頸癌による死亡者数(年齢標準化済み)[3]
  データなし
  2.4以下
  2.4-4.8
  4.8-7.2
  7.2-9.6
  9.6-12
  12-14.4
  14.4-16.8
  16.8-19.2
  19.2-21.6
  21.6-24
  24-26.4
  26.4以上

日本の子宮癌の罹患者数は2005年のデータで年間17,476人(子宮頸癌:8,474人、子宮体癌:8,189人、どちらか不明な癌:813人)と報告されている(上皮内癌を除く)。年齢別にみた子宮頸癌罹患率は、20歳代後半から40歳前後まで増加した後、横ばいになる。近年の日本の子宮癌罹患者数の推移では、39歳以下での罹患者数の増加が認められる。なお子宮体癌の大部分は40歳以降に発生し、39歳以下の子宮癌のほとんどは子宮頸癌である。また39歳以下では、子宮頸癌は乳癌の次に罹患率が高い[4]

日本の子宮癌による死亡数は2008年のデータで年間5,709人(子宮頸癌:2,486人、子宮体癌:1,720人、どちらか不明な癌:1,503人)と報告されている。年齢別では30歳代後半からの死亡率の増加が認められる[4]

病因[編集]

子宮頸部扁平上皮癌ヒトパピローマウイルス (HPV) という腫瘍ウイルスの感染が原因で引き起こされる。HPVには100以上もの種類があり、皮膚感染型と粘膜感染型の2種類に大別される。子宮頸癌は粘膜感染型HPVの中でも高リスク型HPVと呼ばれている性交渉によって感染する一部のHPVが長期間感染することによって引き起こされる。

HPVは性交渉により感染するウイルスであり、性交経験のある女性は感染の可能性が高くなるが、性交経験がなくても発症はある。HPVに感染しても多くの場合は、免疫力によってHPVが体内から排除される。HPV感染の大半は2年以内に自然消失するが、約10%の人では感染が長期化(持続感染化)する。HPVが持続感染化するとその一部で子宮頸部の細胞に異常(異形成)を生じ、さらに平均で10年以上の歳月の後、ごく一部(感染者の1%以下)が異形成から子宮頸癌に進行する。

HPVによって引き起こされる他の疾患としては、尖圭コンジローマ疣贅がある。このほかHPV感染者とのオーラルセックスなどに起因して口腔癌のリスクを高めるとの報告がある。

組織型[編集]

ほとんどが子宮頸部に生ずる扁平上皮癌である。粘液腺癌(頸管円柱上皮由来)扁平上皮癌以外で比較的多い。類内膜腺癌、漿液性腺癌、腺扁平上皮癌、粘表皮癌、すりガラス様細胞癌、腺様嚢胞癌などがある。

分類[編集]

FIGO分類とTNM分類の2種類がある。日本ではFIGO分類にTNM分類を併記する形式がとられている。以下はFIGO分類である。

0期 
浸潤が認められない上皮内癌 (Carcinoma in situ)。
I期 
癌が子宮頸部に限局。
Ia期 
組織学的に微小浸潤癌が確認されたもの。
Ib期 
Ia期以外のI期癌。
II期 
癌が子宮頸部を超えて広がるが骨盤壁または腟壁下1/3に達しないもの。
IIa期 
腟壁に浸潤するが子宮傍組織へは浸潤しないもの。
IIb期 
子宮傍組織に浸潤したもの。
III期 
骨盤壁に浸潤したか腟壁下1/3に達したもの。
IIIa期 
腟壁下1/3に達するが骨盤壁へは浸潤しないもの。
IIIb期 
骨盤壁に浸潤したもの。
IV期 
癌が骨盤腔を超えて広がるか、膀胱、直腸の結膜に浸潤したもの。
IVa期 
膀胱、直腸の粘膜への浸潤があるもの。
IVb期 
小骨盤腔を超えて広がるもの。
Ch 
Ia期までの症例で子宮摘出を行ったところ、癌が子宮を超えて広がっていたことが判明したもの。

症状[編集]

初期の子宮頸癌はほとんど自覚症状がない。癌が進行すると不正出血が見られる場合もある。

検診[編集]

日本国内で実施されている子宮頸癌検診の検査法は細胞診とHPV検査である。いずれもWHOで子宮頸癌の検診検査として有効性が認められた検査法。

細胞診[編集]

細胞診は子宮頸癌を疑うような異常細胞がないか判定する検査。子宮頸部から採取した細胞を色素で染色し、異常細胞がないか顕微鏡で観察する検査法。検査結果は日母分類と呼ばれるクラス分類に従って、以下のいずれかに判定される。

  • クラス I:正常である。
  • クラス II:異常細胞を認めるが良性である。
  • クラス IIIa:軽度~中等度異形成を想定する。
  • クラス IIIb:高度異形成を想定する。
  • クラス IV:上皮内がんを想定する。
  • クラス V:浸潤がん(微小浸潤がん)を想定する。

クラス IIIa以上の場合は精密検査を実施。細胞診による癌または前癌病変の発見率は約70%とされている。細胞診結果の記述法として上記の日母分類(クラス分類と異形成の対比)の他に、Papanicolaou (Class) 分類、WHO分類、CIN分類、ベセスダシステム(医会分類)などが知られている。

HPV 検査[編集]

HPV検査は子宮頸癌の原因である高リスク型HPV感染の有無を判定する検査。細胞診と同様に子宮頸部から採取した細胞を用い、HPV感染を判定する検査法。30歳以上では10%弱がHPV陽性と判定される。HPV検査による癌または前癌病変の発見率は約95%とされている。細胞診とHPV検査を併用した場合、癌または前癌病変の発見率はほぼ100%とされている。

診断[編集]

検診の結果、細胞診クラスIIIa以上であったり、HPVに持続感染しているなど、精密検査の必要性があると判断された場合は精密検査を実施し、最終的な診断を行う。

精密検査ではまず、コルポスコープと呼ばれる拡大鏡を用いて子宮頸部粘膜表面を拡大し、観察するコルポ診と呼ばれる検査を行う。その際3 - 5%の酢酸を子宮頸部に接触させそれによる変化をも所見とする。コルポ診で異常を疑う箇所がみられた場合、その部分の組織を採取し、組織診と呼ばれる病理学的検査を行い、確定診断を行う。

予防[編集]

定期検査[編集]

パップテスト、HPV検査の2つの検査は予防に非常に有効である。 パップテスト(子宮頸部細胞診)は子宮頸部の細胞を擦り採って顕微鏡検査を行う検査で、がん細胞や前がん状態(癌になる前の異形成)を見つけ出せる。 HPV検査は子宮頸癌を引き起こすHPVへの感染をチェックする。 これらの検査を21~65歳の間、定期的に受けることが重要とされる[5]。 アメリカなどでは腟鏡を使って自分で子宮頚部をセルフチェックすることを推奨する動きがある[6][7]

HPVワクチン[編集]

HPVワクチン(ヒトパピローマウイルスワクチン)は子宮頸がん、膣がん、外陰がんの原因となるほとんどのタイプのHPVを防ぐことができる。ワクチンは12歳頃からの接種が推奨されている。またワクチンの接種後も定期的なパップテストを受けることは重要である[5]。(ヒトパピローマウイルスワクチンも参照のこと)


その他、禁煙コンドームの使用、性交渉のパートナーを制限することも、子宮頸がんのリスクを下げる可能性がある[5]

HPVと性行為[編集]

HPVはほとんどの場合感染者との性行為(膣性交、肛門性交、オーラルセックス含む)で感染するが、性行為は感染に必須の行為ではない。HPV感染は皮膚と皮膚が接触することでおこるため、性行為がなくとも(例えば感染した手で肛門や陰部に触れても)感染し、同一の体でも部位から部位にうつる。 そのため他人と性器接触をしないことでHPV感染のリスクを下げることはできるが、他の経緯で感染をする可能性は排除できない[8]。また「男性経験が豊富だから子宮頸がんになる」というのは俗説であり、患者への偏見にもつながっているが根拠はない[9]

治療[編集]

異形成の治療法[編集]

異形成は程度に応じて軽度異形成、中等度異形成、高度異形成に分類される。また、上皮内癌も高度異形成と同様の取り扱いである。

軽度異形成はHPVが自然消失すると、それに伴い異形成も自然治癒する可能性が高いため、通常は治療を実施しない。

中等度異形成の日本国内での取り扱いは一定していない。経過観察、または治療を行うが、日本産科婦人科学会の治療指針では、16型、18型、31型、33型、35型、45型、52型、58型は癌化リスクが高く、治療を検討する指針となっている。特に16型、18型、33型のリスクが高い。治療法は病変部位を含め、子宮頸部の一部分を円錐状に切除する円錐切除術が一般的。円錐切除術では子宮を切除することなく、ほぼ完治するが再発の可能性もある。子宮を残すことができるため、術後の妊娠出産にもほとんど影響はないとされているが頸管無力症などの合併症も報告されている。[要出典]

高度異形成の場合も円錐切除術等により、治療を行う。

子宮頸癌の治療法[編集]

子宮頸癌の進行期は軽度のものから順に0期、IA1期、IA2期、IB1期、IB2期、II期、III期、IV期に分類される。

0期(上皮内癌)は癌が粘膜層にとどまっている段階であり、異形成と同様に円錐切除術で完治可能。しかし、挙児希望がなければ子宮全摘術を行うこともある。

Ia期は程度が軽い場合は円錐切除術で子宮を残すことが可能であるが、円錐切除術で病変を取りきれない場合は子宮全摘術を行う。

Ib期以降の進行癌の場合は子宮の他、卵巣卵管、その周りのリンパ節などの臓器も摘出する。国内ではIII期やIV期でも手術をおこなうことがあり、III期では動静脈を切断して靭帯の根部から摘出する術式が、IVa期では膀胱、直腸なども摘出する術式が取られることもある。

米国の子宮頚癌ガイドラインではIA2期以降では放射線療法単独療法、IB2期以降では放射線療法化学療法併用療法が推奨されている。

脚注[編集]

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関連項目[編集]

外部リンク[編集]