匂える園

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匂える園』(におえるその)は、15世紀ムハンマド・イブン・ムハンマド・アル=ナフザウィ (Muhammad ibn Muhammad al-Nafzawi) によって書かれたアラビア語による性典性愛文学作品である。正式な題名は、"官能の悦びの匂える園" (al-rawd al-'âtir fî nuzhati'l khâtir)。

本書には、魅力的な男女となるために必要な資質や、性交時のテクニック(東西の性交体位を参考にした体位や、自分の文化圏から生まれた「押し車」などの体位も紹介。基本は、『後背位』。インドの影響の珍無類な体位も紹介。陰茎の例えが、中世までは「槍」「剣」「刀」や「弓矢」だったが、近代以降は銃器になる。インドとは違い、男根の動かし方は「ピストン運動」のみになる)、性の健康に関する注意、割礼(簡単な包茎手術)などの性病の治療法などが解説されている。加えて、陰茎の徳(中国の場合は、「五常」)は、「アッラーへの絶対帰依」のみ(事に及ぶと「天を仰ぐ」。通常と礼拝時は「地にひれ伏す」)や、硬い砲身に火種(欲情)が加わると即座に熱くなって放たれる(射精する)とか。陰茎の名称がザカル、蝴蝶、茸・筍、象の鼻、猪の牙、蛇、剣・槍、杖、杵、ポット(急須)、種・鋤(犂)、筆、櫂、管楽器、魚、柱、鍵、ハンマー・斧・衝車、弩・投石機・火砲、探検家など35あり、に関する名称がファルジ、蓮・牡丹・薔薇、壺、杯・鼎、鍋、鉢、カップ・器、畑、紙、舟、弦楽器、二枚貝、卵、宝箱・女部屋・箪笥・戸口・家・城門・館、陣幕・砦・町、穴・洞窟・深淵を始め38ある。悪女について、男根を大きくする方法、女陰を小さくする方法―(盛唐との交流を通しての知識)の一覧や夢判断(夢解釈)を解説する章が含まれており、動物の生殖行動についても(ほ乳類の大部分は、「後背位」。但し、鯨や海獣類は立交位。蛇も向かい合って行為をする)簡単な説明がある。また、これらの解説の合間には、娯楽的な要素を持つストーリーが全体の流れを補うように挿入されている。イスラム圏における本書の評判は千夜一夜物語に匹敵するという。

1999年のジム・コルヴィルによる英語翻訳版の序文によると、『匂える園』がムハンマド・イブン・ムハンマド・アル=ナフザウィによって書かれた場所はチュニジアで、ハフス朝の君主アブー=ファーリス(Abu Faris Abd al-Aziz II)の命によって1410年から1434年ごろ編集された。

各国語への翻訳[編集]

欧州言語[編集]

初期の欧州言語訳としては、1850年に在アルジェリアフランス軍人の自称 "Baron R..." が翻訳したフランス語版がある。

その後、英語圏でこの本が初めて広く知られるようになったのはリチャード・フランシス・バートンによるフランス語からの重訳が1886年に出版されてからであった。バートンが元にしたのは、1886年にイサドール・リズーがアラビア語から翻訳出版した版の書写本である。この書写本は最終章である21章が不完全であったが、この章で扱われていたのが同性愛少年愛であったためと思われる。バートンは1890年代の終わりに没したが、晩年は原文を元にして、欠落部分を含む新たな翻訳を手がけていた。この翻訳 "The Scented Garden" と題が付けられていたが、バートンの死後すぐに妻のイザベルが原稿を焼却してしまったため、結局出版されることはなかった。

バートンは、『匂える園』はピエトロ・アレティノフランソワ・ラブレーの作品、それにニコラス・ベネットによる "Tableau de l’amour conjugal, ou l'Histoire complète de la génération de l’homme"(フランス語)と同種の作品でありながら、極めてみだらでわいせつな内容を大まじめに説明していることが本書の最大の特徴であると考えていた。

バートンの指摘によると、『匂える園』はすべてが独自の内容ではなかった。MoçamaとChedjaに関する記述の元はすべてがMohammed ben Djerir el Taberiの作品に求められ、さまざまな体位や動きはインドの作品から得られたものであり夢判断(フロイトの「精神分析学」に影響を与える)に関しては Azeddine el Mocadecci (Izz al-Din al-Mosadeqi) の『Birds and Flowers』が参考にされている。

1976年には、ルネ・カワン(Rene R. Khawam)による新たなフランス語訳が出版され、さらに1999年にはジム・コルヴィルによるアラビア語から英語への初の直接翻訳となる版が出版された。コルヴィルによると、バートン版は原典以外の要素が多数加えられており、たとえば体位を解説する章はコルヴィル版では2ページ半しかないものがバートン版では25ページにも及ぶ、相当に誇張された「奇妙な」作品に仕上がっているという。

日本語[編集]

過去に日本語訳が複数出版されたが、いずれも発禁処分を受けた[1]現在は、青弓社から立木鷹志の翻訳による版が出版されている (ISBN 4-7872-3095-6)。

その他[編集]

イギリス作曲家カイホスルー・シャプルジ・ソラブジは、1923年に本書に触発され、ピアノソロ曲『匂える園』 ("Le jardin parfumé: Poem for Piano Solo") を作曲した。

参照項目[編集]

  • 老いたスルタンのための枕絵

脚注[編集]

  1. ^ 『せっぷん千夜一夜』(大場正史)による。

参考文献[編集]

  • The Perfumed Garden of Sensual Delight』, Muhammad ibn Muhammad al-Nafzawi, translated by Jim Coville, 1999, Kegan Paul International, ISBN 071030644X, 82 pages. (英語)
  • La Prairie Parfumee Ou S'ebattent Les Plaisirs』, Umar Ibn Muhammad Nafzawi [sic], translated by Rene R. Khawam, 1976, ISBN 2859400052. (英語)
  • The Perfumed Garden』, Shaykh Nefwazi [sic], translated by Sir Richard Francis Burton, 1886. (英語)
  • (再版) ISBN 0586016430ISBN 1853266000 など
  • "The Perfumed Garden 全文 (英語)