ハー・マジェスティ

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ハー・マジェスティ
ビートルズ楽曲
収録アルバムアビイ・ロード
英語名Her Majesty
リリース1969年9月26日
録音
ジャンル
時間23秒
レーベルアップル・レコード
作詞者レノン=マッカートニー
作曲者レノン=マッカートニー
プロデュースジョージ・マーティン
アビイ・ロード 収録曲
ジ・エンド
(B-10)
ハー・マジェスティ
(B-11)

ハー・マジェスティ」(Her Majesty)は、ビートルズの楽曲である。1969年9月に発売された11作目のイギリス盤公式オリジナル・アルバム『アビイ・ロード』に収録された。レノン=マッカートニー名義となっているが、ポール・マッカートニーによって書かれた皮肉が込められたミュージックホール調の楽曲。楽曲はマッカートニーのアコースティック・ギターの弾き語りで構成されており、他のメンバーは参加していない。前曲「ジ・エンド」の演奏が終了して14秒後に本作に移行するが、発売当時の曲目には表記されていなかった。これにより、本作が初の隠しトラックとされている[3]

背景[編集]

曲名「Her Majesty」は「女王陛下」などの意味を持つ英語で、本曲では「愛しの女王陛下」という意味合いとなっている。歌詞は「女王陛下を口説きたい」という内容[注 1]となっている。

マッカートニーは、小学生時代にも、エリザベス2世を題材にした作品を書いており、即位式を祝う行事の一環としてリヴァプール公共図書館が開催した作文のコンテストに応募した。応募した作品は、「1953年6月2日にウェストミンスター寺院で開催されるセレモニーをどれだけ楽しみにしているか」という内容で、マッカートニーはこの作品で賞を受賞し、この作品はリヴァプール公式図書館に保存されている[4]

ジョン・レノンと本作について論じたトニー・マッカーサーは、1968年11月にマッカートニーとアルバム『ザ・ビートルズ』に関するインタビューを録音した際に、本作を初めて聴いたとしており、「ポールが僕のために弾いてくれた。実際には僕らがインタビュー・テープのレベル調整なんかをしていたときに」と語っている[4]。その後、1969年1月に行われたゲット・バック・セッションでも採り上げられており、トゥイッケナム・スタジオ英語版でマッカートニーが定期的にやっていた朝のピアノ練習時や、1月24日のアップル・スタジオでのセッション時にも本作をギターでも即興的に演奏された[4]。いずれのバージョンも、リリースされた音源で歌われているヴァース以外の歌詞は存在しない[4]

レコーディングと配置[編集]

「ハー・マジェスティ」は、1969年7月2日にEMIレコーディング・スタジオのスタジオ2で、「ゴールデン・スランバー/キャリー・ザット・ウェイト」に先だってレコーディングされた[4]。8トラック・レコーダーのトラック1にアコースティック・ギター、トラック8にボーカルが録音された[4]。3テイクで録音されており、いずれも完奏しているが、テイク2のみ演奏し直している。

本作は当初、『アビイ・ロード』のB面の特徴となっているメドレー「ザ・ロング・ワン」の「ミーン・ミスター・マスタード」と「ポリシーン・パン」の間に位置していた[4]。7月30日に「ザ・ロング・ワン」に含まれる楽曲のレコーディングが完了したため、曲順を決めるための仮編集が行われ、本作もミックスが行われた。本作は「ミーン・ミスター・マスタード」の最後のコード[5]が鳴った後、ギターとボーカルは右側で流れ、それがだんだんと左寄りになり、曲の終わりには完全に左側に寄り、「ポリシーン・パン」に移行するという構成になっていた[4]。しかし、メンバー内で考えが変わったため、「ハー・マジェスティ」はメドレーから外れることとなった。これにより、「ポリシーン・パン」への移行の関係から、「ミーン・ミスター・マスタード」の最後のコードが取り除かれた。

メンバーはエンジニアに対して本作をメドレーから外し、マスターテープを破棄するように伝えていたが、EMIの「ビートルズが録音したものは何でも残しておくこと」のポリシーにより、とりあえずの形でテープの後ろに貼り付けられた[4]。翌日、メドレーのテスト・レコードがカッティングされ、最後に突如始まる「ハー・マジェスティ」を聴いたメンバーは、このまま残すことに決めた[4]。1969年9月のラジオ・ルクセンブルク英語版のインタビューで、レノンは「最後にジョークかサプライズを持ってくるのが好きなんだ。『サージェント・ペパー』のエンディング[注 2]みたいにね。これもあの手のやつの一つ」と語っている[4]。なお、本作はメドレーの仮編集時にミックスされて以降、新たなミックスは作成されておらず、マッカートニーは「あれはほぼ成り行きのもの。実際のところ、僕らの活動全体がそんな感じだったから、それに相応しい結末だった」と語っている[4]

本作は発売当初は隠しトラックの扱いを受けていたが、1987年のCD化以降は曲目に追加された。

備考[編集]

2002年6月のエリザベス2世女王戴冠50周年コンサートにおいて、マッカートニーが初めてこの曲をライブ演奏した[6][4]

2009年10月にMTVネットワークスは音楽ゲーム『The Beatles: Rock Band[注 3]の追加楽曲のダウンロード配信を開始。追加楽曲には本作も含まれており、こちらではアルバム収録時にカットされた最後のコードも含まれている。

2019年9月27日に『アビイ・ロード (50周年記念アニバーサリー・エディション)』が世界同時発売され、本作のセッション音源(第1テイクから第3テイクを繋いだもの)と本作がカットされる前の試作段階のメドレー「ザ・ロング・ワン (試作エディット&ミックス - 1969年7月30日)」(The Long One (Trial Edit & Mix - 30 July 1969))が収録されている[7][8][9]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 訳すと「女王陛下は素晴らしい娘。でも話すべき言葉を余り持っていない。女王陛下は素晴らしい娘。でも気まぐれだ。「本当に好きだよ」って言いたいがワインを嫌と言うほど飲まないと言えそうもない。でもいつかきっと僕のものにしてみせる。いつか僕のものに」というものになっている。
  2. ^ 『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』の最終曲「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」の演奏終了後、無音を挟んで犬にしか聴こえない高い音とお喋りで構成された「サージェント・ペパー・インナー・グルーヴ」なるトラックが収録されている。
  3. ^ ゲームソフト自体は2009年9月9日に発売された。なお、日本では未発売となっている。

出典[編集]

参考文献[編集]

  • Everett, Walter (1999). The Beatles As Musicians: Revolver Through the Anthology. Oxford University Press. ISBN 0195129415 
  • ハウレット, ケヴィン (2019). アビイ・ロード (スーパー・デラックス・エディション) (ブックレット). アップル・レコード.
  • Turner, Steve (2005). A Hard Day's Write: The Stories Behind Every Beatles Song. New York: Harper Paperbacks. ISBN 0-06-084409-4 

外部リンク[編集]