トリプトファン事件

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トリプトファン事件(トリプトファンじけん)とは、米国において1988年末から1989年6月にかけて、昭和電工が製造した必須アミノ酸である「L-トリプトファン」を含む健康食品を摂取した人の血中に好酸球が異常に増加して筋肉痛発疹を伴う症例、好酸球増加筋肉痛症候群[1] (eosinophilia–myalgia syndrome - EMS)が大規模に発生した事件である。FDAのサイトによると、被害は1,500件以上、死者38名と記録されている[2]

経緯[編集]

当初、ドイツ企業によってトリプトファン製品に不純物が検出され、昭和電工に不純物の性質について問い合わせがなされた。これに対して昭和電工はトリプトファンを産生する遺伝子組み換え大腸菌の、遺伝子をさらに変更するという、製造工程の変更により不純物が発生しなくなる措置を執る事により、問題の解決を図った。

しかし、この対応によって新たな不純物が副産物として含まれる事となり、昭和電工はこの不純物の存在を認識しつつ、製品を出荷した。不純物を含む製品の出荷時期は、事件を発生させた製品ロットと一致していた。このため疫学的因果関係が立証される事となった。以上の経過は米国の訴訟において確認された経過である。訴訟件数は全体で2000件を超え、賠償請求額は2000億円に達したものとみられている[3]

ちなみに問題となる不純物によるEMS発生の機序は解明されてはいない。しかし食の安全性のためには濾過などにより純度を高める事が必要である事を示しているという意見がなされる、理由としてあげられる場合もある。また、この事件によりアメリカ合衆国においてはトリプトファン製品の販売は禁止される事となった。

FDAの見解[編集]

2001年2月、FDAはトリプトファンの市販に関する規制を緩和し、次のように表明している[4]

"Based on the scientific evidence that is available at the present time, we cannot determine with certainty that the occurrence of EMS in susceptible persons consuming L-tryptophan supplements derives from the content of L-tryptophan, an impurity contained in the L-tryptophan, or a combination of the two in association with other, as yet unknown, external factors."
「現時点で利用可能な科学的証拠に基づくならば、L-トリプトファンのサプリメントを摂取した人々に発生した大規模健康被害(EMS)が、L-トリプトファンの内容物に由来するのか、不純物に由来するのか、あるいは互いに関係するこれら2つの組み合わせに由来するのか、それとも未知の外的要因に由来するのかについて、我々は確信を持って特定することができない。」


新しい仮説[編集]

2005年にトリプトファンの大規模健康被害であるEMSに関して、推定[5]にもとづく新たな仮説が提案された[6]

それによると、トリプトファンの大量摂取により、トリプトファンの代謝物のうちのいくつかが、ヒスタミン代謝分解反応を阻害(することでヒスタミンを増加させた)。さらに視床下部-下垂体-副腎系(英)に不調をもつ人たちが、トリプトファンやヒスタミンに対する高い感受性をあらわし、これらにより好酸球増多症候群および筋肉痛(英)につながったとするものである。なお論文著者のひとりは執筆当時FDAのCFSAN所属としている。

参考[編集]

脚注[編集]

  1. ^ 「好酸球増多症候群および筋肉痛」とも呼ばれる
  2. ^ FDA & Last updated at Oct 2010 1989年.
  3. ^ 『国際取引法 貿易・契約・国際事業の法律実務』唐澤宏明、同文館出版。 ISBN 4-495-46282-2
  4. ^ FDA 2001-02-01.
  5. ^ 論文内に推定手法が記載されている。
  6. ^ Smith MJ, Garrett RH 2005, pp. 435–450.

関連項目[編集]