トゥイストー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索
トゥイストー

トゥイストー[1](またはトゥイスト[2])( Tuisto )、もしくはトゥイスコー[3]( Tuisco )は、タキトゥスの『ゲルマニア』第2章で「すべてのゲルマン民族の祖先」として紹介される神の名である。

トゥイストーはこの栄誉を、彼の息子マンヌスと共有した。

名前「トゥイスコー」の由来[編集]

ヤーコプ・グリムによると、トゥイスコーの名前とその変形した形(ThuiscoThuiskonTuisco)は、神「ティウ(Tiu)」の名に由来する形容詞「tivisco」に由来するという。 その名「ティウ」とは、ゲルマン祖語では「*Tiwaz」であるが、インド・ヨーロッパ祖語における天空の神の名「*Dyeus」に由来している。そして、それに由来する形容詞は、「天の存在」か「ティウの息子」のどちらも意味する可能性がある。 つまり、トゥイスコー(Tuisco)の語末の「-isk-」が「裔出」という意味だという仮定によるのだが、「ティウ(Tuiz)の後裔」を意味する場合は、ティーウィスコー(Tivisco)でなければならない。[4]

この語源説明は「Tuisco」が本来の名前であることを前提としている。実は「Tuisto」のほうは誤って筆記された名である。 しかしテキストで多く見られるのはむしろ「Tuisto」のほうである。[4]

名前「トゥイストー」の由来[編集]

より受け入れられるのは、「tvi- (数値の2)」から「Tuistoトゥイストー)」となったという説明である。

つまりその語が現在のドイツ語Zwitter(「双生児」もしくは「陰陽両性者」)に該当すると考える説である。[4] 何人かの研究者は、これが両性具有者の存在を説明することを示唆している。 さらに仮説を進めるならば、もし両性具有だとすれば、トゥイストーは北欧神話に登場する原巨人ユミルと同一の存在であり得る。 ユミルも、1人で巨人の血統を生み出したいわば両性具有者であった。

他の推測は、トゥイストー(Tuisto)を「対立・争い・境界」を意味する他のさまざまなゲルマン語派の単語に関連づけている。それは例えば、ドイツ語の「zwist」、スウェーデン語の「tvista」、オランダ語の「twisten」などである。これらはまた、「tvi-」という語根から生じた単語である。 そして、ローマ神話における神マールス(Mars)の重要度、およびマルスがローマ建設に関わったことを、トゥイストーのそれと比較する。 ローマとその民族の父としてあげられるのは、マールスと彼の息子ロームルス(Romulus)であり、主神のユーピテル(Jupiter)でない。 この比較に基づけば、「トゥイストー」は、北欧神話に登場する神テュール(Tyr)の古い時代の名前であり得る。 テュールはしばしばマルスと比較される。また、2人はともに戦争の神であると知られている。

こうして、トゥイストーは「2つの顔」あるいは「2本の掌」を意味し、我々のいる世界を構成するあらゆる正反対のものを代表している。それはたとえば、太陽と月、昼と夜、熱さと寒さ、男性と女性、その他のものである。 さらにまた、ギリシャ神話ゼウス(Zeus)とインド神話ディヤウス(Dyaus)と共通点がある。 まず彼らの名前は、テュールの名と語源的に関係がある。 そしてトゥイストーも大地から生じたと語られている(『ゲルマニア』第2章)。 ちょうどゼウスが地母神ガイア)によって生み出されたように。

比較宗教学者のブルース・リンカーンは、ジョルジュ・デュメジルの三機能仮説を援用し、トゥイストーとマンヌスの伝説はインド・ヨーロッパ語族の原創造神話にさかのぼるものだとしている。[5]

[編集]

[ヘルプ]
  1. ^ タキトゥス『ゲルマーニア』(泉井久之助訳注)31頁にみられる表記。
  2. ^ 「ゲルマン神話」(山室静訳)『ブリタニカ国際大百科事典』(1973年)第6巻609頁にみられる表記。
  3. ^ 『ゲルマーニア』30頁にみられる表記。
  4. ^ a b c 『ゲルマーニア』31-33頁。
  5. ^ Bruce Lincoln, The Indo-European Myth of Creation, History of Religions 15.2(1975), 121-45.

参考文献[編集]

備考[編集]

  • 語の隣の「*」は、これが再建された語であることを示す。

関連項目[編集]