サリエル
サリエル(Sariel)は、「神の命令」という名の大天使(アークエンジェル)であり、死を司る。スリエル(Suriel)、サラカエル(Sarakiel)、ザラキエル(Zerachiel)とも呼ばれる[1]。七大天使の一人であり、エノク書によると熾天使の一人とされている[2]。
目次 |
概要 [編集]
神の前に出る事を許された十二人の天使(御前天使)の一人[3]。神の玉座近くにはべる権利を持ち、神の意志を執行する司令官の役割を持つ[1]。一説では医療に精通していて、癒す者として認知されていた。その説によると、サリエルはその力を駆使し、ラファエルの右腕として働いていたという[3]。
神に忠実な天使であるが、キリスト教徒間では、彼もまた堕天使であると考えられている。悪魔と敵対関係にある天使、それも大天使がそのような汚名を着せられた理由は、神から指令された役目とサリエルの邪視にある[1]。
サリエルの任務 [編集]
エノク書によれば、サリエルの任務の一つは”霊魂を罪にいざなう人の子らの霊魂の看守”である[1]。人間がその魂を汚すことを防ぐという役目から死を司る天使ともされる。一説には大鎌を持ち、死者の魂を狩ると言われている。また、悪の道に走った天使の罪を量り、堕天させる役目を持ち、時にはこれまで堕天させた仲間を想い、血の涙を流している[2]。
もう一つの役目が”月の支配”であり、これが堕天使と見なされる理由である。月は古代人にとって非常な霊力を持つものだった。日中に頭上で輝く太陽に比べて、暗い夜を照らしてくれるのは月であり、しかも満ち欠けという不可思議な性質がある。これは古代の人々にすれば創造、成長、衰退、破壊という全ての生物の宿命を象徹しているようであった。しかも、月は潮の干満を支配することから、生死は月の霊力によって支配されていると考えられた(日本人の間でも、人が生まれるのは満潮、死ぬのは潮が引く時とする俗信が未だ残されている)。よって古代人たちは、”人間の霊魂は月に保管されており、誕生するときは月から霊魂が送り込まれ、肉体が滅びてしまうと、その霊魂は月に帰っていく”と思っていた[1]。
魔術の源である月 [編集]
こうした発想は根強いもので、「当然ながら地母神信仰、つまりは生命を司る大地なる母へと結びついている」という。イザヤ書において、預言者イザヤが「三日月の護符」を身に着けているシオンの乙女を非難するのも、その背景があるためである。月へのそういったイメージは、次第に魔術と結びつけられていった。例えば、信心深いキリスト教徒は月明かりの射す場で眠ることを嫌い、イギリスの哲学者兼科学者のロジャー・ベーコンは真剣に「月光を不用意に浴びたために生命を失った者が少なからずいる」と述べた。
こうした魔力を持つ月の統制権を得たサリエルが”神への反逆者”と糾弾されるのは、エノク書の中で”月の秘密を人間に教えた”と記されたからに他ならない。月の秘密とは、月が生命の誕生や死亡に密接に関係している”魔力”を指すと推測されている[1]。月の運行に関する知識を人間に教えて堕天する彼は優雅に、何も語らず、自らの意志で堕ちたとされる[2]。
そしてサリエルの象徴は”鍵”である。この鍵が意味するところは諸説あるが、恐らく魔術との深い関係がありそうだと意識され、一層サリエルのイメージは月に似て神秘的となる[1]。
邪視の始祖 [編集]
サリエルは邪視(邪眼・魔眼)の元祖と目されている。邪視とは一瞥で相手を害する事が出来るもので[2]、見ただけで身動き出来なくさせたり、死に至らしめる強大な魔力である[1]。そのためか、この天使の名が書かれた護符は邪視から逃れる効力があるとされる。その力の強さは時の教皇が、邪視の対策の為に護符を発布したと言われている程である。そういった言い伝えがあるためか、彼の邪視を奉り、その力を手に入れようとしていた者も居た[2]。
ヨーロッパや東洋、さらにはアラブにおいても邪視は人々の恐怖像であり、サリエルの名を記した護符が持たれていた[1]。
不可解な正体 [編集]
サリエルは死海文書やその他の伝承されている文書において、最も記述が少ない天使の一人であり、その本来の姿を特定して描き出す事は難しい[3]。
出典 [編集]
- ^ a b c d e f g h i 真野隆也 『堕天使-悪魔たちのプロフィール』 新紀元社、1995年、70-71頁。ISBN 4883172562。
- ^ a b c d e f 森瀬繚、坂東真紅郎、海法紀光 『「堕天使」がわかる』 ソフトバンク文庫、2008年、pp56-59。ISBN 4797346916。
- ^ a b c 吉永進一 監修」 『「天使」と「悪魔」がよくわかる本』 PHP文庫、2006年、pp54-55。ISBN 456966685x。