クロヨン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

クロヨンくろよん

  • 税務署による課税所得の捕捉率に関する業種間格差を指す語。本項で詳述する。
  • 「くろよん」。富山県にある黒部川第四発電所の通称。
  • 「くろよん」。黒部川第四発電所の通称にちなむ同発電所の所在する黒部ダムの通称。
  • 黒部川第四発電所と黒部ダムにちなむ列車名「くろよん」。この列車についてはちくま (列車)を参照のこと。

クロヨン9・6・4)とは税務署による課税所得の捕捉率に関する業種間格差を指す語である。トーゴーサン10・5・3)、トーゴーサンピン10・5・3・1)と呼称することもある。1960年代後半から使われ始めた。

目次

[編集] クロヨン

勤労者が手にする所得の内、課税の対象となるのは必要経費を除いた残額である。本来課税対象とされるべき所得の内、税務署がどの程度の割合を把握しているかを示す数値を捕捉率と呼ぶ。この捕捉率は業種によって異なり、給与所得者は約9割、自営業者は約6割、農業林業水産業従事者は約4割であると言われる。このことを指して「クロヨン」と称する。

給与所得者の所得は原則として源泉徴収されているため遺漏が発生する可能性は極めて低い。これに対し、必要経費を自ら算出して自己申告する者、例えば自営業者の場合、家屋の一部分を店舗や事務所として用いる、事業用の車を自家用車としても用いるなど収支における公私の境界線が曖昧にならざるを得ない。このグレーゾーンについて、税務署が逐一検証することは物理的に不可能に近い。

この事に着目し、家屋の内装工事にかかった費用を事務所の維持費として、あるいは私的な食事を交際費として計上するといったケースがみられる。結果、自営業者や農業所得者の所得捕捉率は給与所得者のそれに比して一般に低くなっていると言われる。

なお、給与所得者は自営業者のような必要経費が認められていない訳ではない。あらかじめ所得税を天引きされた額が支給されるため、個別に必要経費を算出するのが困難であることから給与所得に応じて概算した経費を控除する方法(給与所得控除)が一般に行われている。給与所得控除は低所得層になればなるほど控除率が大きい仕組みとなっており、年間65万円以内の収入ならば所得ゼロ、給与収入500万円の場合で30.8%(154万円)、1000万円の場合で22%(220万円)の控除率(概算経費)が認められており、最も収入が大きい部分でも最低5%の控除が認められている。しかし給与所得者の多くはスーツなどの衣装代や交際費以外は会社から支給されているケースが多い。このため、実費経費がほとんど無いのが実情であることから、「クロヨン」問題における格差に対する補償として控除率が大きく取られているという見方もされている。

[編集] トーゴーサン、トーゴーサンピン

捕捉率の業種間格差は「9対6対4」に留まらないとの考え方から「トーゴーサン」という語も生まれた。即ち、捕捉率を給与所得者約10割、自営業者約5割、農林水産業者約3割にそれぞれ修正した呼称である。

また、これに政治家に関する捕捉率(約1割)を加えて「トーゴーサンピン」とも称する。政治家の場合、政治資金は課税対象とならないため業務と無関係な支出金を政治資金として計上するケースが考えられる。国税庁の上級官庁たる財務省のトップ(財務大臣や財務副大臣)の職は政治家が務めるため彼らを媒介して政治的圧力がかかる可能性も指摘されている。

[編集] 現状

税務署による実地調査は大口の確定申告者のうち脱税の疑いのある者について5年に1度行われるのみであり、税制の複雑化や申告者数の増加により税務署の業務量が年々増大する現状では全ての不正を発見することは困難である。所得が300万円を超える者は収入や経費に関する事項を記帳する義務を負うが、違反者に対する罰則規定は存在しない。

国税庁は捕捉率に関するこれらの数値を公には認めていない。また、経費の水増しや政治的圧力の全国的な実態、あるいはその有無を完全に解明することは極めて困難であり、断片的な事実から推察するより他に無いというのが現状である。しかし給与所得者層が抱く漠たる不公平感は「クロヨン」や「トーゴーサンピン」といった単語に如実に現れていると言える。

[編集] 対策

こうした不公平(建前上は存在しない事になっているが)を是正するために、

  • 納税者自身の意識の高揚と誠実・正確な申告
  • 税務署の調査能力の向上
  • 脱税行為に対する罰則規定の強化
  • 納税者番号制度

などの対策が求められる。しかし、税務署の人員や設備の増強は膨大な経費を要するため実際には難しく、意識改革や罰則強化についてもどれほどの成果が挙がるかは不透明との指摘がある。

なお、大型間接税(かつての売上税・現在の消費税)の導入理由の一つとして「クロヨン・トーゴーサンピンの是正」が挙げられていた。すなわち、捕捉率が低い直接税中心の租税体系から捕捉率が高い間接税中心の租税体系に改編することが不公平税制是正の一手段となるという考え方である[1]。 しかし、所得を完全に捕捉できないからといって他の税源で置き換えるのは著しく公正さを欠くとの指摘がある。

[編集] 脚注

  1. ^ 安部忠 『所得税廃止論 税制改革の読み方』 光文社、1994年。ISBN 4-334-01292-2

[編集] 関連項目