ハルトラノオ

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ハルトラノオ
茨城県筑波山 2019年4月上旬
分類APG IV
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 Eudicots
階級なし : キク上類 Superasterids
: ナデシコ目 Caryophyllales
: タデ科 Polygonaceae
: イブキトラノオ属 Bistorta
: ハルトラノオ B. tenuicaulis
学名
Bistorta tenuicaulis (Bisset et S.Moore) Nakai var. tenuicaulis (1926)[1]
シノニム
  • Polygonum tenuicaule Bisset et S.Moore (1878)[2]
和名
ハルトラノオ(春虎の尾)[3][4][5]

ハルトラノオ(春虎の尾、紫参、学名Bistorta tenuicaulis)は、タデ科イブキトラノオ属多年草[3][4][5]。別名、イロハソウ[5]

特徴[編集]

根茎は長く、節が球状に肥厚し、暗褐色で、地表または地中を浅く横に這う。は直立し、高さは3-14cmになる。根出葉は2-3個あり、長い葉柄をもち、葉身は楕円形から長楕円形または卵状楕円形で、長さ2-10cm、先端は短鋭形、縁は全縁、基部はくさび形になって葉柄に沿って流れ、質は薄い。花の頃は小さいが、花後に卵形の大型の葉を展開する。茎につくは小型で1-2個が互生し、短い葉柄がある[3][4][5][6]

花期は4月。茎先につく花序は長さ1-3cm、径6-10mmで、密につき、花柄は長さ1.5-3mmになる。花冠裂片に見えるのは裂片で、萼は白色で5深裂し、裂片は長さ2.5-3.5mmになり、わずかに斜上する。雄蕊は8個あり、萼片より長く、葯は濃紫色で萼片を突き出る。花柱は3個あり、糸状。果実は広楕円形の痩果で、褐色で光沢があり、長さ2.5-3mmになる。染色体数は2n=24[3][4][5][6]

分布と生育環境[編集]

日本固有種[7]。本州の福島県南部以西から和歌山県までの太平洋側・山口県、四国、九州に分布し[4][8]、山地の木陰、沢沿いの林床などに生育する[4][8]

名前の由来[編集]

和名ハルトラノオは、「春虎の尾」の意[3][4][5]。春早く開花し、花穂を虎の尾のように出すことからつけられた[5]。また、イロハソウについては、牧野富太郎 (1940) は、多分としながらも「春ニ早ク花サクヨリ之レヲいろは四十七文字ノ最初ニ在ルいろはニ比シタルモノナラン」[9]としている。なお、1856年(安政3年)から1862年(文久2年)にかけて出版された飯沼慾斎の『草木図説』前編20巻中第7巻に「ハルトラノオ」が掲載されている[10]

種小名(種形容語)tenuicaulis は、「細い茎の」の意味[11]

分類[編集]

日本に産するイブキトラノオ属に属するもののうち、小型で低地から山地に生育するものは、本種のほか、クリンユキフデ Bistorta suffultaアブクマトラノオ B. abukumensis がある。クリンユキフデとアブクマトラノオは、本種と比べ、花茎は葉より高く、根出葉の基部は心形になり、葉柄に翼はない。クリンユキフデは頂生の花序以外に、上部の葉腋に無柄の花序をつける。アブクマトラノオの花柄は他の2種と比べ長い。本種は、花茎は葉より低いか同じ高さになり、根出葉の葉柄に翼があり、基部は切形かくさび形になる[4]

ギャラリー[編集]

下位分類[編集]

下位分類として、変種にオオハルトラノオがある。

オオハルトラノオ[編集]

  • オオハルトラノオ Bistorta tenuicaulis (Bisset et S.Moore) Nakai var. chionophile Yonek. et H.Ohashi (1998)[12] - 根茎は地下で横走し、節部が紡錘形に肥厚し、節間は長く伸長する。基本種と比べ全体に大型で、根出葉は卵形から三角状卵形で、長さ4-13cm、先端は鋭くとがり、基部は切形となる。花期は4-5月。花茎は高さ5-18cm、花序は長さ2-5cm、径8-12mmになる。日本固有種で、本州の富山県石川県福井県岐阜県滋賀県京都府兵庫県岡山県広島県のおもに日本海側に分布する。和名は、基本種のハルトラノオと比べ大型であることから、変種名(変種形容語)chionophile は、多雪地帯に生ずることからつけられた。米倉浩司および大橋広好 (1998) により新変種として記載発表された[4][7][8]

脚注[編集]

  1. ^ ハルトラノオ 米倉浩司・梶田忠 (2003-)「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  2. ^ ハルトラノオ(シノニム) 米倉浩司・梶田忠 (2003-)「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  3. ^ a b c d e 『山溪ハンディ図鑑2 山に咲く花(増補改訂新版)』p.254
  4. ^ a b c d e f g h i 米倉浩司 (2017)『改訂新版 日本の野生植物 4』「タデ科」pp.86-87
  5. ^ a b c d e f g 『新分類 牧野日本植物図鑑』p.848
  6. ^ a b 『原色日本植物図鑑・草本編II(改訂53刷)』p.303
  7. ^ a b 『日本の固有植物』p.46
  8. ^ a b c 米倉浩司,大橋広好: 「タデ科ハルトラノオの新変種オオハルトラノオとハルトラノオ群における雌性両全性異株の報告」、『植物学雑誌』、The Journal of Japanese Botany、第73巻第1号1-11頁、(1998)
  9. ^ はるとらのお、「牧野日本植物図鑑」(初版・増補版)、インターネット版
  10. ^ 飯沼慾斎 草木図説前編20巻(7)、「ハルトラノオ」、コマ番号60/100、国立国会図書館デジタルコレクション-2021年2月2日閲覧
  11. ^ 『新分類 牧野日本植物図鑑』p.1516
  12. ^ オオハルトラノオ 米倉浩司・梶田忠 (2003-)「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)

参考文献[編集]