むこうぶち
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むこうぶち 高レート裏麻雀列伝は、雑誌『近代麻雀』に連載中の長編漫画。作者は天獅子悦也(作画)、安藤満(協力)。(安藤満逝去後はケネス徳田が闘牌協力)
[編集] 概要
- 麻雀プロであり、80年代の賭け麻雀事情にも詳しい安藤の見聞をもとに描かれた作品。高レート麻雀に集う人々の内面を力強く描いている。相手に決定的な敗北を告げる時に傀が口にする「御無礼」という台詞は、麻雀好きの間でちょっとした流行語になっている。
- いわゆる「麻雀劇画」が一般的には「麻雀で勝った者の勝者のストーリー」であるのに対して、この「むこうぶち」は「傀と麻雀して負けた者」を描いた「敗者のストーリー」である点が画期的であった。その意味で本作品の本当の主人公は、さまざまな理由で高レート麻雀の卓に着き、傀に敗れていく者たちであると言える。直接的な比較は難しいが、ちょうど「ゴルゴ13」が長年愛読されているのと似た構造になっている。この本作品独特の視点と合わせて、高度な作画力と闘牌シーンで2000年代を代表する麻雀劇画となった。
- DVD映画化されている。
- ニンテンドーDSでゲーム化もした。
[編集] ストーリー
「むこうぶち」――それは誰とも組まず、何処にも属さない一匹狼。誰も何も必要無い、真のギャンブラー。
バブル経済が頂点に差し掛かりつつあった1980年代の東京。市中の雀荘に飽き足らず、1000点千円、あるいはそれ以上の高レートで行う賭け麻雀に走る人たち。その中に一人の男が現れた。一見優男。しかし、彼に狙われた者は、この言葉と共に、獣に食い殺されるが如く敗れ去るのみ-「御無礼」。
決して己の内面を見せず、その強さ鬼の如し。男の名は「傀」。
[編集] 登場人物
- 傀(カイ)
- 魔物じみた強さを持つ謎の麻雀打ち。どこからともなく雀荘(高レートが多い)に現れる。卓に座った瞬間に敗者を見抜き、彼に「御無礼」を言われた対戦相手は必ず負ける。
- 本名、出身、住所一切不明。「傀」という名前は「人鬼」から来ている。常に丁寧な物腰で決して声を荒げたり暴力を振るったりすることはないが、容赦なく対戦相手から金を毟り取るため「暴虎」の異名を持つ。極端に無口で表情に乏しいため一見冷静沈着に見えるが、傲慢な相手やイカサマをする相手は率先して潰す。特に、イカサマを見破っている事をこれ見よがしに打ち筋で相手に伝えたり、相手の待ちスレスレの牌を連打するなどの行為から、印象よりは感情の起伏があると思われる。また、たまにではあるが、相手を言葉で挑発して勝負に乗せる事もある。一方で、麻雀に真摯で腕も立つ者や、欲望に取り付かれず引き際を知る者を、追いかけてまで殺そうとはしないなど、彼なりの美意識を持っている事も伺わせる。
- 主人公というわけではなく、各話に出てくるゲストキャラ(これが主人公にあたる)の対局相手として登場する(はじめの話で出てきた水原祐太のように彼と対局しないパターンもあり)。笑ゥせぇるすまんでいう喪黒福造のような存在。
- 雀風は特に固定されておらず、自由自在。鬼ツモや御都合的な役満、イカサマを使っているわけではなく、一回戦落としてでも相手の戦術やイカサマを見抜き、それを逆手にとってトータル収支で勝つパターンが多い(ノーテンリーチなど強引なことをする事はある)。初めのうちは負けておいて、レートやビンタを吊り上げてから逆転して有り金奪いつくすのが常套パターン。相手の運を奪い、自分の流れを掴むまでのパターンは様々だが、一旦自分が優勢と見るや徹底的に攻め続け、一気呵成に叩き潰す。
- 対戦相手は彼との対戦によって、人生に多かれ少なかれ影響を与える。全てを失う者もいれば、大切な何かを見つける者もいる。
- 大概は雀荘「東空紅」に現れる。都内の高レート雀荘に出没しているが、その打ち筋ゆえに客を殺してしまう(有り金を根こそぎ奪う=破滅させるという意味、直接殺してしまう事は無い)ため、高レートの店主には彼を恐れている人間もいる(出入り禁止としている処もあるらしい)。
- 高レートの場に現れているが、求めているのは大金ではなく強者との勝負。ゆえに安永などにそれらの存在を聞かされては足を運ぶケースもある。
- タネ銭は帯封のまま紙袋に入れて無造作に持ち込む(数百万から数千万)。勝ちで得た金は、作中で明示されている分だけで数億円に及ぶが、その金は駅のコインロッカーに仕舞っており、彼がその金で物を買うシーンは無い。
- 詳細は一切不明ではあるが、対戦相手を待つ間には英字新聞(誌名不明)、ルモンド(仏語版)、ロシア語新聞(誌名不明)などを読んでいることから傀の学識の広さが伺える。
- 安永萬(やすなが ばん)
- 表と裏の世界を行き来するプロ雀士。作品中、傀の次に登場回数が多い。初登場時は五段だったが、のちに六段に上がった。過去、初めて傀と対決した際、「単に沈まないだけ」と評され、それ以降二着をキープする雀風になってしまった。
- 傀の強さについて研究し、秘密を探ろうとする。しかし傀に肉薄する打ち手の心の闇を知る都度、自分に欠けているものがあると思い知らされる。
- 雀力はプロ雀士としては強いが、傀には及ばない。一方で傀を意識する余り、表プロの闘牌ではここぞという時に勝ちきれない弱点を持つ。
- 全雀連に属し、理事として若手プロ雀士の育成に努めている(18巻現在六段)。表では意志を持った面前志向の打牌を通し、「メンチンの安永」の異名とともに慕う者も多い。見込まれた若手は伸びるが、睨まれた若手は長続きできないらしい。若手プロが一人前になれるかどうかの試金石として、あえて傀と戦わせる事もある。
- 裏では高レート雀荘で金を稼いでいる。こちらでは鳴きも存分に使う。二着狙いの闘牌が結果として大勝を避け、店からも客からも嫌われていない。
- 都内雀荘において顔が広いため、賭場荒らしが現れた時などに相談役を頼まれる場合がある。自身でも倒せないほどの相手に対しては、傀をぶつけたりもする。
- 裏において傀と同卓する機会が多いため、しばしば傀のメッセンジャーと思われているが、彼自身も傀と直接連絡を取れるわけでは無い。雀荘にあらかじめ連絡をとって、傀が現れたという店に安永自身が足を運んで用件を伝えている(それでも傀が来るかどうかは傀自身の意思による)。
- 水原祐太(みずはら ゆうた)
- 元競技麻雀プロの青年。第一話で安永と対戦し、競技麻雀で優勝を収めるも納得のいかない勝ち方をしてしまう。安永に「東空紅」に連れて来られ、そこで傀の麻雀を見て、衝撃をうけ、それ以降「東空紅」へ通い、彼の強さの秘密を探ろうとする。「東空紅」ルール(東風戦アリス)での勝ち方を見つけ、勝負に勝つようになる。その後、安永の前から消息を絶つ。
- 13巻で大阪・九州に行き、代打ちになっていたことが判明。風貌も性格も大きく変化した。東京に戻り安永と再会し、傀と戦うこととなる。代打ちで培った雀力は傀も認めたらしく、珍しく傀に名を尋ねられた。
- 多河巧典(たがわ よしのり)
- 元暴走族の安永の後輩。漢字が苦手。だが真面目な性格で、安永を慕っている。傀との対戦以降、登場ごとに雀力が付き強くなっている。若手プロ中心の有志団体「青龍會」の指導者的立場。
- 作中でただ一人、傀に二度「御無礼」を言わせた。頭角を現すにつれて傀も多河の力を認めるようになったのか、初めて多河に振り込んだ時は笑顔を見せた。
- 樹村潤子(きむら じゅんこ)
- 全雀連所属の女流プロ。プロ雀士としてタイトルも持っているが、かつては効率打法と勘麻雀を併せたような、説明不能の打ち筋だった。安永の引き合わせで傀と戦い、敗れたものの自分のスタイル「すっぴん打法」に目覚める。以来プロとして活躍しているが、裏の猛者と戦うにはまだまだ力不足。現在はOLとの兼業からプロ一本に転進。
- 藤永太郎(ふじなが たろう)
- 全雀連所属のプロ雀士で、「青龍會」の中核的存在。効率打法を得意としているが、闘牌レベルは安永や多河のそれより数段劣る。傀との初対戦では呆気なく負けたが、本人は傀の闘牌の凄さに気付かず「効率を無視したツキ野郎」と思っていた。その後もちょくちょく登場しては、他エピソードで傀と対戦する敵手に翻弄される役回りを背負っている。
- 織田(おだ)
- 全雀連所属のプロ雀士。実家は会社を経営しており、所謂ボンボンである。名声欲しさに同じプロの佐藤を引き込み、イカサマを使って優勝をかすめ取った。それに怒りを覚えた安永は、彼らを高レート雀荘で傀と戦わせることにした。
- 自惚れ屋で、安永を「過去の人物」と見下す一方、自身はすぐばれる様なイカサマばかり繰り返す。安永いわく「プロとしても人間としてもまがいもの」。案の定負け続け、佐藤は途中で返されたが、大量の小切手を持っていた彼は返してもらえなかった。
- その後再び登場し、安永と敵対する。
- 河田(かわだ)
- 赤坂の雀荘「東空紅」のマスター。かつて「東空紅」は高レートも手がけていたが、好景気によるマンション麻雀の台頭で現在はアリス麻雀による低風速の道を選んだ。高レートで有名な傀や安永が、そんな自分の店を今でも贔屓にしてくれる事を「雀荘冥利」と喜んでいる。物言いがやや文学系チック。
- 上島(うえしま)
- 「東空紅」の常連客で、本職はインテリアデザイナー。オカマのような口調で話すことが多い。マスター曰く「遊びがキレイ」で、一見の客も生かさず殺さずの闘牌で常連客に引き上げる。店で傀とは何度も対戦しているが、その打ち筋ゆえに決定的な負けを喫した事は無い。
- 三橋秀俊(みつはし ひでとし)
- 「上野(ノガミ)の秀」と呼ばれている赤ドラ麻雀専門の裏プロ。幾度か傀と対戦する。機嫌が良いと歌いだす癖がある。
- 中古品屋を副業としていたが実際は窃盗犯。傀に負けた夜に逮捕され執行猶予の判決が出た。拘置所を出た後も、安永を通じて傀にリベンジを挑んだり、チップ麻雀の時に偶然傀に出会って勝負したりとたびたび登場している。傀の麻雀を研究しており、傀を彼なりに認め、尊敬してもいる。傀と共闘?した事も。
- 安永にとっては己の暗黒面のような存在。「表に未練がなかったらアイツみたいになっていた」と言わしめている。安永とは対立しているものの奇妙にウマが合い、そのやり取りはまるで掛け合い漫才のよう。
- チップ麻雀の後、高レート雀荘の指南役として生きる道を選ぶ。
- 巫藍子(かんなぎ あいこ)
- 裏カジノの女ディーラー。「キラークイーン」と呼ばれている。興味のない人間には声をかけられても無視するなど冷たく傲慢な性格。過去の交通事故で足が不自由なため車椅子に乗っている。場の流れを読むことに秀でている。
- 傀に勝負を挑むも傀にロン牌をスルーされ、相手にされないことに動揺し、流れを奪われ、最後にやっと相手にされ、喜んで負けてしまう。これは巫に限らず、傀と戦った女性雀士には多い負け方。
- 後にディーラーから管理者に昇格。その時にまた傀に出会い自分の父親の力も借り、再び傀と麻雀勝負をする。
- 日蔭(ひかげ)
- 裏プロ。「氷の男」と呼ばれている。ホテル暮らし。能面のように無表情でいることが多い。冷静で効率重視の打法をする。
- 傀に自分と同じ匂いを感じ取り、勝負を挑むも勝負の最中、自分のホテルが火災にあっていることが分かって動揺し、最後は冷静さを欠いて大敗を喫し、麻雀の負けとホテルの火災で何もかも失う事となる。その後又傀と遭遇し、大敗こそしなかったが獲物を傀に横取りされる事になる。
- 江崎(えざき)
- 悪徳不動産屋。傀の捨牌読みに自信を持ち高レートに連れて行くが敗北。
- その後、傀に麻雀で復讐することを支えに3年間密入国船で働き、借金を返して傀に再挑戦する。地獄のような環境を生き延びて身に付けた捨牌・流れ読みの実力は傀に匹敵する。
- 速攻で鳴き(チー)をする時に「チィ!」と唇を尖らせて独特の発声をすることがある。
- 劉(ラウ)
- 裏社会にも名の通った華僑の大物。自分のマンションで1000万単位の現金を動かす超々高レートの卓を立てている。同卓しては振らずあがらずの見物麻雀を行うが、その真意は弱者が破滅する瞬間を見届けたいため。一方で本気になった時の戦法として、罠を掛ける戦いを得意とする。江崎を一度は破滅させ、密入国船に送りこんだ人物。
- 及川勝依(おいかわ かつより)
- 大企業の会長(作中では「社長」と呼ばれる)にして相撲部屋「伯洲部屋」のタニマチ。裏では政界のフィクサーとも噂される。軍隊時代は少尉の地位にあった人物で、当時の部下とは年に一度の戦友会を行う。作中、傀とコンタクトを取れる数少ない人物のようで、傀の闘牌に魅せられている。大勝負見たさに傀を招き、負け分を立て替えても笑って済ませる大物。
- 小暮幸男(こぐれさん)
- 米穀商。高利の闇金融に手を出してしまい、なけなしの現金を持って高レートで一発逆転を図るも傀に遭遇して無残に刈られてしまい、金融屋にウルトラCでツメられてしまった不遇な登場人物第1号。特に悪人という訳でも闘牌が強い訳でもないのに、傀と同卓したばかりに全てを失った。この辺りが「むこうぶち」独特の魅力のひとつであろう。見事な負けっぷりと傀に無心してあっさりと断られる等の往生際の悪さが読者の同情を誘ったか、1話だけに登場しただけなのに何故かファンが多い。
- 佐野(さのさん)
- 町工場の社長。かつては麻雀で食っていた凄腕の打ち手だったようだが、所帯を持って守るべき家庭を作ったことで勝負運を失った。にもかかわらず麻雀をやめなかったために負けが込み、無尽やトイチ、手形などで金策をしなければならないほど追い詰められていた。最後は傀に遭遇してとどめの大敗を喫し、自殺して自分の死亡保険金で手形の代金を返済することとなった。歴代の登場人物の中でも結末の悲惨さは屈指。


