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「酸度」の版間の差分

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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{{distinguish|x1=化学における塩基分子中の水酸基数|link1=塩基|1=塩基の酸度|x2=化学における酸塩基性の強さ|2=酸度関数|x3=化学における酸解離定数の別名|link3=酸解離定数|3=酸性度定数}}
{{distinguish|x1=化学における塩基分子中の水酸基数|link1=塩基|1=塩基の酸度|x2=化学における酸塩基性の強さ|2=酸度関数|x3=化学における酸解離定数の別名|link3=酸解離定数|3=酸性度定数}}
工業分野で'''酸度'''(さんど、{{lang-en-short|acidity}})とは、対象に含まれる[[酸]]の[[濃度]]のことである<ref name="sanseido_Sando">{{Cite web|url=https://www.weblio.jp/content/%E9%85%B8%E5%BA%A6|title=「酸度(2)」(出典:三省堂 大辞林 第三版)|language=ja|accessdate=2020-07-25|website=weblio辞典}}</ref>。同様に[[アルカリ]]の濃度は'''{{anchor|アルカリ度}}'''ということがある。
<!--{{Otheruses|果物の酸度|土壌の酸度|酸度 (土壌)}}赤リンクのためコメントアウトします-->
{{出典の明記|date=2013年5月11日 (土) 13:48 (UTC)}}
'''酸度'''(さんど)は、食品に含まれる酸の[[濃度#質量パーセント濃度|質量パーセント濃度]]である。[[酸味]]を示す指標のひとつである。


水溶液の[[酸|酸性の強さ]]とは別の概念である。酸性の強さとは[[水素イオン]]の濃度のことで、酸の一部が水中で[[解離 (化学)|解離]]した''結果''である(水素イオン濃度から算出される'''[[水素イオン指数|pH]]'''で表わす)。それに対して'''酸度'''はその水溶液中にある酸という[[化学物質]]自体の濃度であって、その酸が今どのくらい解離しているか否かは関係ない。
単に'''酸度'''というと[[有機酸]]の濃度を指すことが多い。有機酸以外の酸度には、揮発性酸の濃度を示す'''揮発性酸度'''('''揮発酸度''')がある。以下の説明においても、特記がない場合、酸度は「有機酸の濃度」を指す。


また、酸の種類ごとの「酸の強さ」(「[[硫酸]]は[[強酸]]である」等)の指標である[[酸解離定数|酸性度定数]])とも全く別物である。しかし、人によっては酸度(酸の濃度)のことを「酸性度」<ref name="sanseido_Sando" />と言うこともあり、いっぽう「酸性度」はpH<ref name="sanseido_Sanseido">{{Cite web|url=https://www.weblio.jp/content/%E9%85%B8%E6%80%A7%E5%BA%A6|title=「酸性度)」(出典:三省堂 大辞林 第三版)|language=ja|accessdate=2020-07-28|website=weblio辞典}}</ref>を指す場合もあって、これらの語はまぎらわしい。
[[果物]]の[[甘さ]]を示す指標として[[糖度]]があるが、糖度が高くても酸度も高ければそれほど甘くは感じない。そのため、果物の甘さを数値で示す際には、糖度と酸度を併記する方法が好まれる。
さらに、化学分野では「酸度」という単語は全く別の定義があり、「酸の濃度」という意味はない<ref name="iwarika1981_Sando">{{Cite encyclopedia|和書|title=酸度|page=528|encyclopedia=岩波理化学辞典|publisher=岩波書店|year=1981|edition=第3版増補版}} (1)塩基分子中の水酸基数、(2)酸性度(水素イオン指数)の別称。(「酸の濃度」という意味は記載されていない)</ref>。
英語の"acidity"という単語も色々な意味があって同様にまぎらわしい。


==酸の濃度==
[[ワイン]]の酸味は揮発性酸によるものであるため、揮発性酸度にて酸味の度合いを示す。
ひとくちに「酸度」(酸の濃度)と言っても、その対象範囲と単位が分野毎、国ごと、さらには品目ごとに異なる。同じ対象物でも、異なる規格で測定した値同士は比較できない。特に「換算」という慣習により、さらに比較しにくくなっている。


====滴定酸度====
[[中和滴定]]法で測定される酸度の値を'''滴定酸度'''(てきていさんど、{{lang-en-short|titratable acidity|link=no}} ([[:en:titratable acidity]]) (TA。総酸度もTAと略されることがあるので注意))という。規格類の酸度は、この滴定酸度の値で規定されることが多い。
一般に中和滴定では総酸度が測定される。特定成分だけの酸度を測定するためには追加の作業が必要である。


==測定方法==
====総酸度====
溶液中にはいろいろな酸が混じっていることがある(例えば、無機酸:塩酸、硫酸、亜硫酸、炭酸; 有機酸:酢酸、クエン酸、酒石酸)。
酸度の測定器は'''酸度計'''と呼ばれる。[[中和滴定]]法などを利用して測定する。
その溶液中のすべての種類の酸全体を'''総酸'''、その酸度を'''総酸度'''(そうさんど、{{lang-en-short|total acidity|link=no}} ([[:en:total acidity]]) (TA。滴定酸度もTAと略されることがあるので注意))ということがある。特定の○○酸成分だけの酸度は「(溶液中の)○○酸の酸度」というふうにいう。「すべての種類の酸」の定義も分野によって違い、中和滴定で測定される酸度のことだったり、単純な中和滴定だけでは検出されない酸も含めた全ての酸のことだったりする。


====換算====
酸は、種類によって同一量の水素イオンを出せる酸の[[質量]]が異なる。したがって異なる種類の酸同士の化学的性質は質量では比較できないし、各々の質量を合計したのでは化学的には意味がない。そこで、ある水溶液に含まれている各種の酸を一個の「酸度」値にまとめるのに換算が必要になるが、いくつかの方法がある。例:
# 酒類を水酸化ナトリウム水溶液で中和滴定して得た酸度(水酸化ナトリウムの[[モル濃度]] (mmol/100mL)で表記)。例: 酸度A=19.3 (mmol/100mL)
# 清酒業界ではコハク酸の質量に換算することがある。酸度(コハク酸の質量に換算) S=A*0.059 (g/100mL)。例: S=19.3*0.059=1.14 (g/100mL)。おおまかには、「もしこの酒の中の酸が出せる全水素イオンを、全てコハク酸が出したと仮定した場合には、コハク酸何g分に相当するか」という意味である。
# ワイン業界では、酒石酸の質量に換算することがある。酸度(酒石酸の質量に換算({{lang-en-short|acidity expressed as tartrate|links=no}}<ref name="BeelmanGallander_wine">用例: {{Cite book|title=Wine Deacidification|publisher=Academic Press|year=1979|last1=Beelman|first1=R. B.|url=https://books.google.co.jp/books?id=kRn1-hiDZwgC&lpg=PA3&pg=PA3#v=onepage&q&f=false|urlaccess=restricted|series=Advances in Food Research|accessdate=2020-07-28|language=en|page=3|chapter=II. Acidic components of grapes and wines|volume=25|location=London|last2=Gallander|first2=J. F.}}</ref>)) T=A*0.075 (g/100mL)。例: S=19.3*0.075=1.45 (g/100mL)。
つまり、同じ測定物でもAとSの数値は約17倍違い、SとTは約1.3倍違う。別々の物質として換算された値同士は比較できない。単位や換算物質が省略された数値も比較できない。

{| class="wikitable"
|+酸度の換算
! colspan="5" |酸度
! colspan="3" |参考(換算先の酸)
|-
!呼称
!値
!単位
!値
!単位
![[組成式]]
![[分子量]]・[[式量]]
![[酸#酸の塩基度|酸の価数]]
|- align="right"
|align="left"|試料10mLを中和するのに要した0.1 mol/L水酸化ナトリウム水溶液の量
|1.0
|align="left"|mL
|1.0
|align="left"|mL
|
|
|
|- align="right"
|align="left"|試料10mLを中和するのに要した水酸化ナトリウムの量
|0.1
|align="left"|mmol
|0.1
|align="left"|mmol
|
|
|
|- align="right"
|align="left"|酸度(水酸化ナトリウムモル濃度換算)
|1.0
|align="left"|mmol/100mL
|10.0
|align="left"|mmol/L
|
|
|
|- align="right"
|align="left"|酸度([[塩酸]]の質量換算)
|0.036
|align="left"|g/100mL
|0.36
|align="left"|g/L
|align="left"|HCl
|36.46
|1
|- align="right"
|align="left"|酸度([[硫酸]]の質量換算)
|0.049
|align="left"|g/100mL
|0.49
|align="left"|g/L
|align="left"|H2SO4
|98.08
|2
|- align="right"
|align="left"|酸度([[ギ酸]]の質量換算)
|0.046
|align="left"|g/100mL
|0.46
|align="left"|g/L
|align="left"|CH2O2
|46.03
|1
|- align="right"
|align="left"|酸度([[酢酸]]の質量換算)
|0.060
|align="left"|g/100mL
|0.60
|align="left"|g/L
|align="left"|C2H4O2
|60.05
|1
|- align="right"
|align="left"|酸度([[乳酸]]の質量換算)
|0.090
|align="left"|g/100mL
|0.90
|align="left"|g/L
|align="left"|C3H6O3
|90.08
|1
|- align="right"
|align="left"|酸度([[コハク酸]]の質量換算)
|0.059
|align="left"|g/100mL
|0.59
|align="left"|g/L
|align="left"|C4H6O4
|118.09
|2
|- align="right"
|align="left"|酸度([[リンゴ酸]]の質量換算)
|0.067
|align="left"|g/100mL
|0.67
|align="left"|g/L
|align="left"|C4H6O5
|134.09
|2
|- align="right"
|align="left"|酸度([[酒石酸]]の質量換算)
|0.075
|align="left"|g/100mL
|0.75
|align="left"|g/L
|align="left"|C4H6O6
|150.09
|2
|- align="right"
|align="left"|酸度([[クエン酸]]の質量換算)
|0.064
|align="left"|g/100mL
|0.64
|align="left"|g/L
|align="left"|C6H8O7
|192.12
|3
|- align="right"
|align="left"|酸度([[炭酸カルシウム]]の質量換算)
|0.050
|align="left"|g/100mL
|0.50
|align="left"|g/L
|align="left"|CaCO3
|100.087
|2
|}

さらに、「%」「w/v%」という単位記号で表記されていることがある。「w/v%」は g/100mLの俗称<ref name="METI_MeasAct">{{Cite web|url=https://www.meti.go.jp/policy/economy/hyojun/techno_infra/11_images/2-3.pdf|title=法定計量単位 (3)SI単位のある量の非SI単位(表3)|accessdate=2020-07-28|website=経済産業省|language=ja}} 「5 濃度」に質量百分率と体積百分率はあるが、質量対体積の百分率はない(認められていない)。</ref>。「w/w%」あるいは「質量パーセント」とあれば単位としては適切だが、算出するためには水溶液の[[密度]]を把握して体積から質量へ換算する必要がある。単に「%」だけでは、何を現しているのかわからない。

==食品==
酸は食品にさまざまな影響を与えるため、pHや酸度が計測される。
* 製造上の必要性: 発酵や発色の制御、腐敗その他の変質の予防。
* 腐敗の結果: (腐敗の予防とは逆に)酸度の上昇は腐敗進行の目安となる。
* 味、におい: 酸度と酸性の強さ(pH)はいずれも[[酸味]]の目安とされる指標のひとつだが、酸味は酸の種類および他の味覚物質([[甘味]])の存在によって変わるため、酸度やpHから単純にはわからない。ほかに酸味の指標としては[[官能検査|官能試験]]による'''[[酸味度]]'''がある。

===測定方法===
;中和滴定法(定量式)
;中和滴定法(定量式)
:試料液(測定対象となる液体)を[[ビュレット]]などで[[アルカリ]]溶液を用いて[[中和]]し、中和に必要なアルカリ溶液の分量にて酸度を求める方法。[[日本農林規格]]JASの酸度測定法では、0.1 mol/L[[水酸化ナトリウム]]標準液をアルカリ溶液として使用している。
:試料液(測定対象となる液体)を[[ビュレット]]などで[[アルカリ]]溶液を用いて[[中和]]し、中和に必要なアルカリ溶液の分量にて酸度を求める方法。[[日本農林規格]](JAS){{r|JAS|group="JAS"}}の酸度測定法では、0.1 mol/L[[水酸化ナトリウム]]標準液をアルカリ溶液として使用している。
;中和滴定法(電量式)
;中和滴定法(電量式)
:試料液をアルカリ溶液を用いて中和し、中和に必要なアルカリ溶液の分量にて酸度を求める方法。前者との違いは、アルカリ溶液を[[電気分解]]を用いて生成することにある。この方法では、測定に必要とされる試料液が微量(100 &micro;L程度)で済むという利点がある。
:試料液をアルカリ溶液を用いて中和し、中和に必要なアルカリ溶液の分量にて酸度を求める方法。定量式との違いは、アルカリ溶液を[[電気分解]]を用いて生成することにある。この方法では、測定に必要とされる試料液が微量(100 &micro;L程度)で済むという利点がある。


揮発性酸度の測定器は'''揮発性酸度測定装置'''と呼ばれる。
====揮発性酸度の測定====
;IFFJP分析法
;IFFJP分析法
:試料液を[[水蒸気蒸留]]して揮発性酸を分離、水酸化ナトリウムで滴定をすることで、[[酢酸]]の相当量する方法
:[[日本農林規格]](JAS){{r|JAS|group="JAS"}}では試料液を[[水蒸気蒸留]]して[[揮発性酸]]を分離、水酸化ナトリウムで滴定した結果を、[[酢酸]]の相当量に換算する。

====機械測定====
酸度の測定器は'''酸度計'''、揮発性酸度の測定器は'''揮発性酸度測定装置'''と呼ばれる。

===食酢===
日本農林規格(JAS)で「[[醸造酢]]」の酸度は酢酸重量換算(%)で表記され、JAS規格準拠をうたうためには酸度4.0%''以上''と[[規制]]している(品目により規制値は異なる。上限値規制はない){{r|JAS|group="JAS"}}。「[[合成酢]]」にはJAS規格はない。[[食品表示基準]]({{as of|2020}})に酸度の表示義務がある<ref name="FLR_食酢">{{Cite web|url=https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=427M60000002010#516|title=食品表示基準 別表十九「食酢」|accessdate=2020-07-29|date=2020-03-27|website=e-Gov|pages=別表十九|language=ja}}</ref>。

===牛乳===
[[牛乳]]等では、酸度の上昇は腐敗が進行していることの目安となる。[[乳及び乳製品の成分規格等に関する省令]](2019時点)で滴定酸度の測定方法および乳酸換算重量濃度(g/100g)への換算法を規定。たとえば牛乳(製品)は乳酸重量パーセント濃度換算で0.18%''以下''と規制している(細かい条件によって規制値は異なる)<ref name="DairyOrdinance">{{Cite web|url=https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=326M50000100052#240|title=乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(昭和二十六年厚生省令第五十二号)|author=厚生労働省|origyear=1946|year=2020|accessdate=2020-07-28|website=e-Gov}} (別表 二-(二)-(1)牛乳-1 成分規格 酸度(乳酸として)。別表 二-(七)-(1)-5 乳及び乳製品の酸度の測定法。</ref>。
===果物===
[[果物]]の[[甘さ]]を示す指標として[[糖度]]があるが、糖度が高くても酸度も高ければそれほど甘くは感じない。そのため、果物の甘さを数値で示す際には糖度と酸度を併記する方法が好まれる{{要出典|date=2020-07}}。

日本農林規格(JAS)({{as of|2020}})には青果物の規格(酸度測定方法や表示単位含む)はない{{r|JAS|group="JAS"}}。<!-- [[国際標準]]ISO 750<ref>{{Cite book|title=ISO 750:1998 Fruit and vegetable products — Determination of titratable acidity|publisher=[[ISO]]|url=https://www.iso.org/standard/22569.html|edition=1998|url-access=subscription}}</ref>でも果実及び野菜の酸度の測定方法が規定されている。-->一般に品種によって換算する酸の種類は異なる。たとえば[[リンゴ]]について、日本産4品種の[[遊離酸]]酸度のリンゴ酸重量換算値で0.16~0.66%という測定例がある<ref>{{Cite journal|和書|journal=食品総合研究所研究報告|year=1981|title=果実類の糖および酸含量と嗜好に関する研究(1) – リンゴについて|last=飯野|first=久栄|month=03|url=https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010230370|issue=38|pages=62–66|publisher=農林省食品総合研究所|language=ja|format=pdf|accessdate=2020-08-01|last2=大和田|first2=隆夫|last3=小沢|first3=百合子|last4=山下|first4=市二}} [https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010230370.pdf pdf]</ref>。

===果汁飲料===
''果実飲料の日本農林規格''({{as of|2020}})では、品目によって酸度規定有無も換算酸酒類も異なる。例えば
* オレンジジュースは酸度無規定{{r|JAS|group="JAS"|page=果実飲料}}。
* レモンジュース(ストレート)の酸度は無水クエン酸重量換算4.5%''以上''{{r|JAS|group="JAS"|page=果実飲料}}。
* リンゴジュース(ストレート)は、揮発性酸度は酢酸換算0.4g/L''以下''、それ以外の酸度規定はない{{r|JAS|group="JAS"|page=果実飲料}}。
リンゴジュースだけは「りんごストレートピュアジュース」という別規格もあり、酸度の規格はリンゴ酸重量換算0.25%以上、揮発性酸度規定はなし{{r|JAS|group="JAS"|page=りんごストレートピュアジュース}}となっており、「リンゴジュース(ストレート)」規格とは酸の種類も表記単位も全く異なる。

===酒類===
日本では''[[国税庁所定分析法]]''<ref name="JNTA_LiquorMeasure">{{Cite web|url=https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/sonota/070622/01.htm|title=国税庁所定分析法(訓令)|year=不明|accessdate=2020-07-28|website=国税庁|language=ja}} (資料に作成日、版の記載欠如)</ref>で酸度の測定方法が規定されている。どの品目でも試料10mLを0.1mol/L水酸化ナトリウムで中和滴定してその数値を酸度(mmol/100mL)とみなすのはほぼ共通だが、質量換算値は別々の品目同士で比較できない。質量換算する酸の種類が品目ごとに異なるためである。酸度を[[食品表示|表示]]する義務はない。もし表示する場合に、どちらの単位(mmol/100mLか、換算酸g/100mLか)とすべきかは指定されていない。

====日本酒====
''国税庁所定分析法''({{as of|2020}})清酒の項{{r|"JNTA_LiquorMeasure"|page=3章.清酒 3-5}}では、総酸の酸度(単位説明欠如。水酸化ナトリウム mmol/100mL相当)と、コハク酸換算法 A*0.059 (g/100mL)が併記されている。ほかに酢酸、亜硫酸の酸度あるいは濃度の測定方法が規定されている。
商品包装の[[食品表示|表示]]にある酸度の値で、単位も測定方法も記載されていないものは比較不可能である。業界団体による酸度表示の意味説明もない<ref>{{Cite web|url=http://www.japansake.or.jp/sake/know/index.html|title=知る日本の酒|accessdate=2020-08-01|website=日本酒造組合中央会}} ([http://www.japansake.or.jp/sake/know/what/04.html 日本酒FAQ],[http://www.japansake.or.jp/sake/learn/kiso.html 日本酒基礎講座]に「酸度」の意味・単位説明なし)</ref>。国税庁による''全国市販酒類調査結果(平成30年度調査分)''<ref name="JTA_liquorMarket2018">{{Cite web|url=https://www.nta.go.jp/taxes/sake/shiori-gaikyo/seibun/2019/pdf/001.pdf|title=全国市販酒類調査結果 平成30年度調査分(令和2年3月)|accessdate=2020-08-02|year=2018|website=国税庁|language=ja}}
* p16 表8.清酒の成分; p33 表10.果実酒(国内製造酒)の成分; 表11.果実酒(輸入酒)の成分
* 他年度分は[https://www.nta.go.jp/taxes/sake/shiori-gaikyo/seibun/06.htm 全国市販酒類調査の結果について(各年度一覧)]</ref>
は清酒の酸度の銘柄平均値を1.14 – 1.44(区分による)と報告しているが、単位が記載されていない。日本酒ではないが、韓国製清酒「[[清河 (酒)]]」は酸度4.0との報告がある
<ref name="jouzou_1991_519">{{Cite journal|和書
|author=井出敏博
|title=韓国現在酒事情II 日々新たなる変貌
|url=https://doi.org/10.6013/jbrewsocjapan1988.86.512
|year=1991
|journal=日本醸造協会誌
|volume=86
|issue=7
|pages=512–520
|publisher=日本醸造協会
|doi=10.6013/jbrewsocjapan1988.86.512
|ref=harv}}</ref>が、単位が不明。

清酒の味の指標としては、酸度と他の計測値を組み合わせて一定の計算式から算出される「[[日本酒#甘辛度|甘辛度]]」「[[日本酒#濃淡度|濃淡度]]」というのもある。

====ワイン====
[[ワイン]]中の[[ワインの酸|酸]]は、味のほかに[[賞味期限|保存寿命]]や色にも影響するため、酸度は重要な指標である{{r|"BeelmanGallander_wine"|page=2}}。(ちなみに英語では[[ワイン]]の酸味や酸の味をあらわす言葉は"tartness"、"sourness"、"acidic taste"など複数ある{{r|"BeelmanGallander_wine"|page=3–4}}。)

「酸度」や"acidity"の定義は各国で異なる。「総酸」等の用語の範囲(亜硫酸は含むのか否か等)も共通とは限らない。米国の一例では、滴定酸度を酒石酸質量換算(g/100mL)を"%"表記(換算法不記載)し{{r|"BeelmanGallander_wine"|page=4}}、同じ酸度値であっても酸の種類によって酸味は違うとする一方、テーブルワインでは0.55 – 0.85%程度が最適との文献も紹介している{{r|"BeelmanGallander_wine"|page=4}}。

ワイン用語での「揮発性酸」とはギ酸、酢酸、[[酪酸]]のような[[脂肪酸]]のことで、味にも影響するが、むしろ腐敗の指標とされている<ref name="Yokotsuka1989_2">{{Cite journal|和書|journal=調理科学|year=1989|title=ワインの味とにおい(2)|volume=22|issue=2|pages=94–101|last=横塚|first=弘毅|url=https://www.jstage.jst.go.jp/article/cookeryscience1968/22/2/22_94/_pdf/-char/ja|publisher=日本調理科学会|language=ja|format=pdf|DOI=10.11402/cookeryscience1968.22.2_94}} (p15(p97)揮発酸の定義; p14(p96)表6 赤ワイン試作品の総酸測定例:酒石酸換算0.50 – 0.76%)</ref>。[[不快臭]]の一因とされることもある<ref name="Yokotsuka1989_1">{{Cite journal|和書|journal=調理科学|year=1989|title=ワインの味とにおい(1)|volume=22|issue=1|pages=29–36|last=横塚|first=弘毅|url=https://www.jstage.jst.go.jp/article/cookeryscience1968/22/1/22_29/_pdf/-char/ja|publisher=日本調理科学会|language=ja|format=pdf|DOI=10.11402/cookeryscience1968.22.1_29}} (p35(p35) 3)オフ・フレーバーの項; なお、p31表1,表2で酢酸濃度値が揮発酸値より大きい例があるが、揮発酸の換算方法が不記載のため矛盾の原因は不明)</ref>。

日本の''国税庁所定分析法''({{as of|2020}})果実酒の項{{r|"JNTA_LiquorMeasure"}}では、総酸の酸度(水酸化ナトリウムmmol/100mL相当)と、酒石酸質量換算法 A*0.075 (g/100mL)を規定。いっぽう[[揮発酸]](ここでは[[水蒸気蒸留]]で留液に入っている酸のこと)の'''揮発酸度'''は、水酸化ナトリウムmmol/100mL相当と酢酸質量換算法 A*0.060 (g/100mL)が併記されている。結局「酸度」は4種類あることになる。ほかに個別の酸として酢酸、[[ソルビン酸]]、[[亜硫酸]]の濃度の測定方法が規定されている。国税庁による''全国市販酒類調査結果(平成30年度調査分)''<ref name="JTA_liquorMarket2018" />では果実酒(ぶどう酒とは限らない)の酸度銘柄平均値を7.70 – 8.26(区分による)と報告しているが、単位が記載されておらず、''国税庁所定分析法''で規定された酒石酸質量換算g/100mLにもとづく他の測定例<ref name="Yokotsuka1989_2" />と比べて数値が一桁以上も大きい。

学術分野では、''国税庁所定分析法''と同様に総酸:酒石酸質量換算(g/100mL)の場合<ref name="Yokotsuka1989_2" />や総酸:酒石酸質量換算(g/L)の場合<ref name="Yokotsuka1989_1" />があり、同じ対象物でも数値が10倍異なる。揮発酸も同様に換算単位が複数種類ありえる。

==水質==
さまざまな目的から、[[水質]]の一項目として酸度(酸の濃度)およびアルカリ度(アルカリの濃度)が測定される。

===河川水質===
酸度の高い水は金属を腐食する<ref name="mlit_river" />ことから、酸度を測定する。無機酸、有機酸とも含めた滴定酸度である<ref name="mlit_river">{{Cite web|url=https://www.mlit.go.jp/river/shishin_guideline/kasen/suishitsu/houhou.html|title=河川水質試験方法(案)(平成21年3月 国土交通省水質連絡会)|accessdate=2020-07-23|author=国土交通省水質連絡会|year=2009|month=03|website=国土交通省|language=ja}}の中の[https://www.mlit.go.jp/river/shishin_guideline/kasen/suishitsu/pdf/s08.pdf 6/9 (pp279–341) (PDFファイル2.81MB) pp311–314 「52.酸度」] JIS K0102:2008 工場排水試験方法を参考にしており、JISで言う「アルカリ消費量」は酸度のことであるとしている。</ref>。水酸化ナトリウムによる滴定酸度を[[炭酸カルシウム]] mg/Lに換算する。

===工業===
[[JIS]]''工業用水試験方法''、''工場排水試験方法''<ref name="JIS_K010x">{{Cite web|title=JIS検索|url=https://www.jisc.go.jp/app/jis/general/GnrJISSearch.html|accessdate=2020-07-23|website=日本産業標準調査会}}
* JIS K0101:1998 工場用水試験方法 – JIS規格番号 "K0101"で検索。規格書内 p32 14.アルカリ消費量。(酸消費量はp30 13章)
* JIS K0102:2016 工場排水試験方法 – JIS規格番号 "K0102"で検索。規格書内 p35 16.アルカリ消費量。(酸消費量はp33 15章)
</ref>は「酸度」という用語は使っていないが「'''{{anchor|アルカリ消費量}}'''」の試験方法を規定している。無機酸、有機酸とも含めた滴定中和によって測定し、[[中和滴定#終点|終点pH]]を数段階規定している。また、総酸度と遊離酸のみの酸度の二種類を用意している。
表記単位は、水酸化ナトリウムmmol/L、および炭酸カルシウムmg/L換算、の2種類である。

なお、アルカリの濃度を示す「'''{{anchor|酸消費量}}'''」(塩酸で滴定)でも、質量換算は炭酸カルシウムmg/L換算としている。<!-- アルカリの濃度測定はJIS K 0400-15-10 ''水質―アルカリ度の測定―第1部:全及び混合アルカリ度の測定''にも規定されている。-->

==土壌==
[[土壌]]管理では「酸度」は水素イオン濃度(の指標 pH)、酸の濃度は「滴定酸度」、というふうに用語を使い分ける場合がある。また、土壌管理特有の酸度(酸の濃度)として'''交換酸度y1'''('''置換酸度''')および'''加水酸度'''という概念がある<ref>{{Cite web|url=https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/hozen_type/h_sehi_kizyun/nii01.html|title=新潟県における土づくりのすすめ方|accessdate=2020-08-01|author=新潟県農林水産部|year=2005|website=農林水産省|language=ja}} [https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/hozen_type/h_sehi_kizyun/pdf/ntuti16.pdf 4 土壌改良のすすめ方 3 化学性の改善] p71 (1)酸性の改良 (イ)酸度(Y1)</ref>。交換酸度y1は試料[[乾風土]]100gに1mo/L塩化カリウム水溶液250mL加えて振り放置した後の上澄みの半分('''125mL''')だけを、0.1ml/L水酸化ナトリウム水溶液で中和滴定したときの水酸化ナトリウム水溶液mL数である<ref name="Daikuhara1911" />。「全酸度S」はy1および同試料液の残りから繰り返し抽出試験したy2~ynから算出する<ref name="Daikuhara1911">{{Cite journal|和書|journal=農事試驗場報告|year=1911|title=土壌酸性の原因及性質並に酸性土壌の分布に関する研究|last=大工原|first=銀太郎|author-link=大工原銀太郎|month=01|url=https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010826166|issue=37|pages=1–141|publisher=[[農業・食品産業技術総合研究機構|農商務省農事試驗場]]|language=ja|format=pdf|last2=阪本|first2=義房}} p66 『其二 酸性珪酸塩類に基因する酸度定量法(塩化加里法)』</ref>。

==生理学==
===体内の電解質===
[[体液]]の[[電解質#生理学上の電解質|電解質]]の「酸度」という用語の意味はは人によって異なり、酸性の強さ(pH)<ref name="Nakanishi_腎機能">{{Cite journal|和書|title=腎機能と生理|journal=体外循環技術|year=1979|volume=5|last=中西|first=祥子|month=9|url=https://www.jstage.jst.go.jp/article/jject1975/5/2/5_2_74/_pdf/-char/ja|pages=74–81|publisher=日本体外循環技術医学会|language=ja|format=pdf|DOI=10.7130/hokkaidoshakai.5.74|last2=杉野|first2=信博}}</ref>
の場合と酸のミリ[[規定濃度|当量濃度]](mEq/L)の場合がある。[[腎臓|腎生理学]]では、「滴定酸」あるいは「滴定酸度」は[[アンモニウムイオン]]を除外した酸の濃度である<ref name="SendaiOH_腎臓">{{Cite web|url=http://www.openhp.or.jp/staffs/manual/pdf/so_01.pdf|title=酸塩基平衡 第1章 酸塩基平衡|page=11|accessdate=2020-07-31|last=Koizumi|first=Y.|date=2019-04-08|website=[[仙台オープン病院]]|language=ja}} ([http://www.openhp.or.jp/staffs/manual/ 研修医講義一覧])</ref>。

===胃液===
[[胃酸]]の酸性の強さはpHであらわすが、[[胃酸#分泌|胃酸の分泌]]量を把握するために酸度も指標として使われる<ref name="Segawa1994_胃液">{{Cite journal|和書|journal=日本消化器病学会雑誌|publisher=[[日本消化器病学会]]|year=1994|title=実測値に基づいたヒト胃液のpHと滴定酸度の関係|volume=91|last=瀬川|first=昂生|issue=4|pages=849–853|language=ja|url=https://www.jstage.jst.go.jp/article/nisshoshi1964/91/4/91_4_849/_pdf/-char/ja|format=pdf|DOI=10.11405/nisshoshi1964.91.849|last2=有沢|first2=富康|last3=丹羽|first3=康正|last4=加藤|first4=忠|last5=塚本|first5=純久|last6=後藤|first6=秀実|last7=早川|first7=哲夫|last8=中澤|first8=三郎}}</ref>。ミリ[[規定濃度|当量濃度]](mEq/L)表記(ここでは水酸化ナトリウムのモル濃度mmol/Lと同値)が一般的である<ref name="Segawa1994_胃液" />。

==歯科==
飲料による[[酸蝕症]]では、飲料のpHのみならず滴定酸度とも相関がある<ref name="Hughes2000">{{Cite journal|title=(Abstract) Effects of pH and concentration of citric, malic and lactic acids on enamel, in vitro|journal=Journal of Dentistry|url=https://doi.org/10.1016/S0300-5712(99)00060-3|last=Hughes|first=J. A.|volume=82|last2=West|first2=N. X.|publisher=Elsevier|issue=2|doi=10.1016/S0300-5712(99)00060-3|year=2000|page=Abstract|language=en|last3=Parker|first3=D. M.|last4=van den Braak|first4=M.H.|last5=Addy|first5=M.|url-access=subscription}}</ref>
。単位の例: 飲料10mLの中和に要する4 mol/L水酸化ナトリウム水溶液の体積(μL)<ref name="Sato2007_う蝕">{{Cite journal|和書|journal=口腔衛生学会雑誌|year=2007|title=市販飲料のう蝕誘発性リスク|volume=57|last=砂糖|first=節子|url=https://www.jstage.jst.go.jp/article/jdh/57/2/57_KJ00004579644/_pdf/-char/ja|issue=2|pages=117–125|language=ja|format=pdf|DOI=10.5834/jdh.57.2_117}} p118: 中和に要するアルカリ量の測定</ref>。


==出典==
{{節スタブ}}
<references group="JAS">
<ref name="JAS" group="JAS">{{Cite web|title=JAS一覧|url=https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/kikaku_itiran2.html#nousan|website=農林水産省|accessdate=2020-07-29}}
* 酸度測定方法は各個別規格内に記載。
* 食用生鮮青果物のJAS規格はない。
* [https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/attach/pdf/kikaku_itiran2-353.pdf 20 醸造酢(JAS 0801)(2019版)] (試料体積から質量の導出方法不記載)
* [https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/attach/pdf/kikaku_itiran2-265.pdf 26 果実飲料の日本農林規格(JAS番号なし)(令和元年6月27日農林水産省告示第475号)] (第25条(測定方法) p15に酸度の測定方法、p18に揮発性酸度の測定方法あり)
* [https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/attach/pdf/kikaku_itiran2-274.pdf 27 りんごストレートピュアジュースの日本農林規格 (JAS番号なし)(令和元年6月27日農林水産省告示第475号)]
</ref>
</references>
{{reflist}}


==関連項目==
==関連項目==
*[[度]]
*[[規定度]]: 酸度の単位
**[[酸#酸の塩基度|酸の塩基度]]
*[[酸価]]: 油脂の遊離脂肪酸の濃度にもとづく指標
*[[日本酒#アミノ酸度]]: 「アミノ酸」の濃度(「アミノ」の酸度ではない)。
*[[緩衝液]]: 酸度が変化してもpHが変化しない例
*[[糖度]]: 混合物を一つの指標にまとめるという考え方に似たところがある


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2020年8月2日 (日) 09:45時点における版

工業分野で酸度(さんど、: acidity)とは、対象に含まれる濃度のことである[1]。同様にアルカリの濃度はアルカリ度ということがある。

水溶液の酸性の強さとは別の概念である。酸性の強さとは水素イオンの濃度のことで、酸の一部が水中で解離した結果である(水素イオン濃度から算出されるpHで表わす)。それに対して酸度はその水溶液中にある酸という化学物質自体の濃度であって、その酸が今どのくらい解離しているか否かは関係ない。

また、酸の種類ごとの「酸の強さ」(「硫酸強酸である」等)の指標である酸性度定数)とも全く別物である。しかし、人によっては酸度(酸の濃度)のことを「酸性度」[1]と言うこともあり、いっぽう「酸性度」はpH[2]を指す場合もあって、これらの語はまぎらわしい。 さらに、化学分野では「酸度」という単語は全く別の定義があり、「酸の濃度」という意味はない[3]。 英語の"acidity"という単語も色々な意味があって同様にまぎらわしい。

酸の濃度

ひとくちに「酸度」(酸の濃度)と言っても、その対象範囲と単位が分野毎、国ごと、さらには品目ごとに異なる。同じ対象物でも、異なる規格で測定した値同士は比較できない。特に「換算」という慣習により、さらに比較しにくくなっている。

滴定酸度

中和滴定法で測定される酸度の値を滴定酸度(てきていさんど、英: titratable acidity (en:titratable acidity) (TA。総酸度もTAと略されることがあるので注意))という。規格類の酸度は、この滴定酸度の値で規定されることが多い。 一般に中和滴定では総酸度が測定される。特定成分だけの酸度を測定するためには追加の作業が必要である。

総酸度

溶液中にはいろいろな酸が混じっていることがある(例えば、無機酸:塩酸、硫酸、亜硫酸、炭酸; 有機酸:酢酸、クエン酸、酒石酸)。 その溶液中のすべての種類の酸全体を総酸、その酸度を総酸度(そうさんど、英: total acidity (en:total acidity) (TA。滴定酸度もTAと略されることがあるので注意))ということがある。特定の○○酸成分だけの酸度は「(溶液中の)○○酸の酸度」というふうにいう。「すべての種類の酸」の定義も分野によって違い、中和滴定で測定される酸度のことだったり、単純な中和滴定だけでは検出されない酸も含めた全ての酸のことだったりする。

換算

酸は、種類によって同一量の水素イオンを出せる酸の質量が異なる。したがって異なる種類の酸同士の化学的性質は質量では比較できないし、各々の質量を合計したのでは化学的には意味がない。そこで、ある水溶液に含まれている各種の酸を一個の「酸度」値にまとめるのに換算が必要になるが、いくつかの方法がある。例:

  1. 酒類を水酸化ナトリウム水溶液で中和滴定して得た酸度(水酸化ナトリウムのモル濃度 (mmol/100mL)で表記)。例: 酸度A=19.3 (mmol/100mL)
  2. 清酒業界ではコハク酸の質量に換算することがある。酸度(コハク酸の質量に換算) S=A*0.059 (g/100mL)。例: S=19.3*0.059=1.14 (g/100mL)。おおまかには、「もしこの酒の中の酸が出せる全水素イオンを、全てコハク酸が出したと仮定した場合には、コハク酸何g分に相当するか」という意味である。
  3. ワイン業界では、酒石酸の質量に換算することがある。酸度(酒石酸の質量に換算(英: acidity expressed as tartrate[4])) T=A*0.075 (g/100mL)。例: S=19.3*0.075=1.45 (g/100mL)。

つまり、同じ測定物でもAとSの数値は約17倍違い、SとTは約1.3倍違う。別々の物質として換算された値同士は比較できない。単位や換算物質が省略された数値も比較できない。

酸度の換算
酸度 参考(換算先の酸)
呼称 単位 単位 組成式 分子量式量 酸の価数
試料10mLを中和するのに要した0.1 mol/L水酸化ナトリウム水溶液の量 1.0 mL 1.0 mL
試料10mLを中和するのに要した水酸化ナトリウムの量 0.1 mmol 0.1 mmol
酸度(水酸化ナトリウムモル濃度換算) 1.0 mmol/100mL 10.0 mmol/L
酸度(塩酸の質量換算) 0.036 g/100mL 0.36 g/L HCl 36.46 1
酸度(硫酸の質量換算) 0.049 g/100mL 0.49 g/L H2SO4 98.08 2
酸度(ギ酸の質量換算) 0.046 g/100mL 0.46 g/L CH2O2 46.03 1
酸度(酢酸の質量換算) 0.060 g/100mL 0.60 g/L C2H4O2 60.05 1
酸度(乳酸の質量換算) 0.090 g/100mL 0.90 g/L C3H6O3 90.08 1
酸度(コハク酸の質量換算) 0.059 g/100mL 0.59 g/L C4H6O4 118.09 2
酸度(リンゴ酸の質量換算) 0.067 g/100mL 0.67 g/L C4H6O5 134.09 2
酸度(酒石酸の質量換算) 0.075 g/100mL 0.75 g/L C4H6O6 150.09 2
酸度(クエン酸の質量換算) 0.064 g/100mL 0.64 g/L C6H8O7 192.12 3
酸度(炭酸カルシウムの質量換算) 0.050 g/100mL 0.50 g/L CaCO3 100.087 2

さらに、「%」「w/v%」という単位記号で表記されていることがある。「w/v%」は g/100mLの俗称[5]。「w/w%」あるいは「質量パーセント」とあれば単位としては適切だが、算出するためには水溶液の密度を把握して体積から質量へ換算する必要がある。単に「%」だけでは、何を現しているのかわからない。

食品

酸は食品にさまざまな影響を与えるため、pHや酸度が計測される。

  • 製造上の必要性: 発酵や発色の制御、腐敗その他の変質の予防。
  • 腐敗の結果: (腐敗の予防とは逆に)酸度の上昇は腐敗進行の目安となる。
  • 味、におい: 酸度と酸性の強さ(pH)はいずれも酸味の目安とされる指標のひとつだが、酸味は酸の種類および他の味覚物質(甘味)の存在によって変わるため、酸度やpHから単純にはわからない。ほかに酸味の指標としては官能試験による酸味度がある。

測定方法

中和滴定法(定量式)
試料液(測定対象となる液体)をビュレットなどでアルカリ溶液を用いて中和し、中和に必要なアルカリ溶液の分量にて酸度を求める方法。日本農林規格(JAS)[JAS 1]の酸度測定法では、0.1 mol/L水酸化ナトリウム標準液をアルカリ溶液として使用している。
中和滴定法(電量式)
試料液をアルカリ溶液を用いて中和し、中和に必要なアルカリ溶液の分量にて酸度を求める方法。定量式との違いは、アルカリ溶液を電気分解を用いて生成することにある。この方法では、測定に必要とされる試料液が微量(100 µL程度)で済むという利点がある。

揮発性酸度の測定

IFFJP分析法
日本農林規格(JAS)[JAS 1]では試料液を水蒸気蒸留して揮発性酸を分離、水酸化ナトリウムで滴定した結果を、酢酸の相当量に換算する。

機械測定

酸度の測定器は酸度計、揮発性酸度の測定器は揮発性酸度測定装置と呼ばれる。

食酢

日本農林規格(JAS)で「醸造酢」の酸度は酢酸重量換算(%)で表記され、JAS規格準拠をうたうためには酸度4.0%以上規制している(品目により規制値は異なる。上限値規制はない)[JAS 1]。「合成酢」にはJAS規格はない。食品表示基準(2020年現在)に酸度の表示義務がある[6]

牛乳

牛乳等では、酸度の上昇は腐敗が進行していることの目安となる。乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(2019時点)で滴定酸度の測定方法および乳酸換算重量濃度(g/100g)への換算法を規定。たとえば牛乳(製品)は乳酸重量パーセント濃度換算で0.18%以下と規制している(細かい条件によって規制値は異なる)[7]

果物

果物甘さを示す指標として糖度があるが、糖度が高くても酸度も高ければそれほど甘くは感じない。そのため、果物の甘さを数値で示す際には糖度と酸度を併記する方法が好まれる[要出典]

日本農林規格(JAS)(2020年現在)には青果物の規格(酸度測定方法や表示単位含む)はない[JAS 1]。一般に品種によって換算する酸の種類は異なる。たとえばリンゴについて、日本産4品種の遊離酸酸度のリンゴ酸重量換算値で0.16~0.66%という測定例がある[8]

果汁飲料

果実飲料の日本農林規格(2020年現在)では、品目によって酸度規定有無も換算酸酒類も異なる。例えば

  • オレンジジュースは酸度無規定[JAS 1]:果実飲料
  • レモンジュース(ストレート)の酸度は無水クエン酸重量換算4.5%以上[JAS 1]:果実飲料
  • リンゴジュース(ストレート)は、揮発性酸度は酢酸換算0.4g/L以下、それ以外の酸度規定はない[JAS 1]:果実飲料

リンゴジュースだけは「りんごストレートピュアジュース」という別規格もあり、酸度の規格はリンゴ酸重量換算0.25%以上、揮発性酸度規定はなし[JAS 1]:りんごストレートピュアジュースとなっており、「リンゴジュース(ストレート)」規格とは酸の種類も表記単位も全く異なる。

酒類

日本では国税庁所定分析法[9]で酸度の測定方法が規定されている。どの品目でも試料10mLを0.1mol/L水酸化ナトリウムで中和滴定してその数値を酸度(mmol/100mL)とみなすのはほぼ共通だが、質量換算値は別々の品目同士で比較できない。質量換算する酸の種類が品目ごとに異なるためである。酸度を表示する義務はない。もし表示する場合に、どちらの単位(mmol/100mLか、換算酸g/100mLか)とすべきかは指定されていない。

日本酒

国税庁所定分析法(2020年現在)清酒の項[9]:3章.清酒 3-5では、総酸の酸度(単位説明欠如。水酸化ナトリウム mmol/100mL相当)と、コハク酸換算法 A*0.059 (g/100mL)が併記されている。ほかに酢酸、亜硫酸の酸度あるいは濃度の測定方法が規定されている。 商品包装の表示にある酸度の値で、単位も測定方法も記載されていないものは比較不可能である。業界団体による酸度表示の意味説明もない[10]。国税庁による全国市販酒類調査結果(平成30年度調査分)[11] は清酒の酸度の銘柄平均値を1.14 – 1.44(区分による)と報告しているが、単位が記載されていない。日本酒ではないが、韓国製清酒「清河 (酒)」は酸度4.0との報告がある [12]が、単位が不明。

清酒の味の指標としては、酸度と他の計測値を組み合わせて一定の計算式から算出される「甘辛度」「濃淡度」というのもある。

ワイン

ワイン中のは、味のほかに保存寿命や色にも影響するため、酸度は重要な指標である[4]:2。(ちなみに英語ではワインの酸味や酸の味をあらわす言葉は"tartness"、"sourness"、"acidic taste"など複数ある[4]:3–4。)

「酸度」や"acidity"の定義は各国で異なる。「総酸」等の用語の範囲(亜硫酸は含むのか否か等)も共通とは限らない。米国の一例では、滴定酸度を酒石酸質量換算(g/100mL)を"%"表記(換算法不記載)し[4]:4、同じ酸度値であっても酸の種類によって酸味は違うとする一方、テーブルワインでは0.55 – 0.85%程度が最適との文献も紹介している[4]:4

ワイン用語での「揮発性酸」とはギ酸、酢酸、酪酸のような脂肪酸のことで、味にも影響するが、むしろ腐敗の指標とされている[13]不快臭の一因とされることもある[14]

日本の国税庁所定分析法(2020年現在)果実酒の項[9]では、総酸の酸度(水酸化ナトリウムmmol/100mL相当)と、酒石酸質量換算法 A*0.075 (g/100mL)を規定。いっぽう揮発酸(ここでは水蒸気蒸留で留液に入っている酸のこと)の揮発酸度は、水酸化ナトリウムmmol/100mL相当と酢酸質量換算法 A*0.060 (g/100mL)が併記されている。結局「酸度」は4種類あることになる。ほかに個別の酸として酢酸、ソルビン酸亜硫酸の濃度の測定方法が規定されている。国税庁による全国市販酒類調査結果(平成30年度調査分)[11]では果実酒(ぶどう酒とは限らない)の酸度銘柄平均値を7.70 – 8.26(区分による)と報告しているが、単位が記載されておらず、国税庁所定分析法で規定された酒石酸質量換算g/100mLにもとづく他の測定例[13]と比べて数値が一桁以上も大きい。

学術分野では、国税庁所定分析法と同様に総酸:酒石酸質量換算(g/100mL)の場合[13]や総酸:酒石酸質量換算(g/L)の場合[14]があり、同じ対象物でも数値が10倍異なる。揮発酸も同様に換算単位が複数種類ありえる。

水質

さまざまな目的から、水質の一項目として酸度(酸の濃度)およびアルカリ度(アルカリの濃度)が測定される。

河川水質

酸度の高い水は金属を腐食する[15]ことから、酸度を測定する。無機酸、有機酸とも含めた滴定酸度である[15]。水酸化ナトリウムによる滴定酸度を炭酸カルシウム mg/Lに換算する。

工業

JIS工業用水試験方法工場排水試験方法[16]は「酸度」という用語は使っていないが「アルカリ消費量」の試験方法を規定している。無機酸、有機酸とも含めた滴定中和によって測定し、終点pHを数段階規定している。また、総酸度と遊離酸のみの酸度の二種類を用意している。 表記単位は、水酸化ナトリウムmmol/L、および炭酸カルシウムmg/L換算、の2種類である。

なお、アルカリの濃度を示す「酸消費量」(塩酸で滴定)でも、質量換算は炭酸カルシウムmg/L換算としている。

土壌

土壌管理では「酸度」は水素イオン濃度(の指標 pH)、酸の濃度は「滴定酸度」、というふうに用語を使い分ける場合がある。また、土壌管理特有の酸度(酸の濃度)として交換酸度y1置換酸度)および加水酸度という概念がある[17]。交換酸度y1は試料乾風土100gに1mo/L塩化カリウム水溶液250mL加えて振り放置した後の上澄みの半分(125mL)だけを、0.1ml/L水酸化ナトリウム水溶液で中和滴定したときの水酸化ナトリウム水溶液mL数である[18]。「全酸度S」はy1および同試料液の残りから繰り返し抽出試験したy2~ynから算出する[18]

生理学

体内の電解質

体液電解質の「酸度」という用語の意味はは人によって異なり、酸性の強さ(pH)[19] の場合と酸のミリ当量濃度(mEq/L)の場合がある。腎生理学では、「滴定酸」あるいは「滴定酸度」はアンモニウムイオンを除外した酸の濃度である[20]

胃液

胃酸の酸性の強さはpHであらわすが、胃酸の分泌量を把握するために酸度も指標として使われる[21]。ミリ当量濃度(mEq/L)表記(ここでは水酸化ナトリウムのモル濃度mmol/Lと同値)が一般的である[21]

歯科

飲料による酸蝕症では、飲料のpHのみならず滴定酸度とも相関がある[22] 。単位の例: 飲料10mLの中和に要する4 mol/L水酸化ナトリウム水溶液の体積(μL)[23]

出典

  1. ^ a b c d e f g h JAS一覧”. 農林水産省. 2020年7月29日閲覧。
  1. ^ a b 「酸度(2)」(出典:三省堂 大辞林 第三版)”. weblio辞典. 2020年7月25日閲覧。
  2. ^ 「酸性度)」(出典:三省堂 大辞林 第三版)”. weblio辞典. 2020年7月28日閲覧。
  3. ^ 「酸度」『岩波理化学辞典』(第3版増補版)岩波書店、1981年、528頁。  (1)塩基分子中の水酸基数、(2)酸性度(水素イオン指数)の別称。(「酸の濃度」という意味は記載されていない)
  4. ^ a b c d e 用例: Beelman, R. B.; Gallander, J. F. (1979). “II. Acidic components of grapes and wines” (英語). Wine Deacidification. Advances in Food Research. 25. London: Academic Press. p. 3. https://books.google.co.jp/books?id=kRn1-hiDZwgC&lpg=PA3&pg=PA3#v=onepage&q&f=false 2020年7月28日閲覧。 
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関連項目

  • 規定度: 酸度の単位
  • 酸価: 油脂の遊離脂肪酸の濃度にもとづく指標
  • 日本酒#アミノ酸度: 「アミノ酸」の濃度(「アミノ」の酸度ではない)。
  • 緩衝液: 酸度が変化してもpHが変化しない例
  • 糖度: 混合物を一つの指標にまとめるという考え方に似たところがある