茶草場農法
茶草場農法(ちゃぐさばのうほう 英: Traditional tea-grass integrated system)とは、秋から冬にかけて茶園周辺の採草地「茶草場」で刈り取った草をチャノキの根元や畝間に敷く伝統農法のこと。2013年5月30日、国連食糧農業機関(FAO)は、世界的に重要な地域として「静岡の伝統的な茶草場農法」を世界重要農業遺産システム(Globally Important Agricultural Heritage System; GIAHS、通称 世界農業遺産)に認定した[1][2]。茶草場では多様な動物・植物の持続的な生存が期待される。
概要
[編集]ここでは、掛川、菊川、島田、牧之原各市と川根本町の4市1町の代表的な茶草場農法について記述する。
4市1町の茶草場面積は計297haと推計され、茶生産により維持される茶草場は、絶滅危惧種などが多く生育する貴重な半自然草地であることが明らかになりつつある。
東海地方の茶産地では、良質茶の栽培を目的として茶園にススキの敷草を施す農法が伝統的に行われており、茶草場における在来植物の多様性には、土地改変や管理履歴等の歴史性が強く影響を及ぼしていることが分かっている[3]。茶園の敷草としては、ススキの他、ササ等が使われ、これらを定期的に刈り取ることにより、キキョウやノウルシ、カワラナデシコ、ツリガネニンジン、ササユリなどの絶滅危惧種や希少野生動植物種が、「茶草場」としての採草地で多様な動物・植物と共に生存可能であると考えられている。
茶草場農法を川根本町では、昔から「カッポシ(刈り干し)[4]」などと呼び、行ってきた[5]。
また、菊川市・牧之原市は茶を市の木に[6][7]、掛川市はキキョウを市章のモチーフに用い、市の花にも制定している[8]。
確認されている絶滅危惧種および希少種
[編集]植物種
[編集]- フジタイゲキ:絶滅危惧II類(VU)
- キキョウ:絶滅危惧II類(VU)
- キンラン:絶滅危惧II類(VU)
- フジバカマ:絶滅危惧II類(VU)
- ノジトラノオ:絶滅危惧II類(VU)
- ノウルシ:準絶滅危惧種(NT)
地域指定希少動植物種
[編集]植物種
[編集]動物種
[編集]- カケガワフキバッタ:静岡県準絶滅危惧種(NT)、掛川市指定希少野生動植物種
対象地域とその面積
[編集]自治体 | 地区 | 面積 |
---|---|---|
掛川市 | 大野/東山地区 | 131ha |
菊川市 | 富田/倉沢地区 | 92ha |
島田市 | 大代/神谷城地区 | 42ha |
牧之原市 | 東萩間地区 | 22ha |
川根本町 | 久保尾地区 | 10ha |
合計 | 297ha |
モデルに選ばれた掛川市東山地区の茶園と茶草場の面積比は約100:65である[9]。5市町推進協議会の諮問機関「認証制度検討委員会」では、茶園の総経営面積に対する茶草場面積の割合や、茶草の投入期間を定め、茶草場農法ブランドの確立に努めている(例:50%、3年以上)[10][11]。
日本国内でのこの農法への取り組み
[編集]- 静岡県
- ほぼ全域で実施している。静岡茶などの産地として知られる。
- 鹿児島県
- ほぼ全域で実施している。鹿児島茶の産地として知られる。
- 三重県
- 1980~90年代まで実施していた。伊勢茶の産地として知られる。
- 京都府
- 1980~90年代まで実施していた。宇治茶の産地として知られる。
- 福岡県
- 1980~90年代半ば迄実施していた。八女茶の産地として知られる。
- 神奈川県
- 一部の農家で現在も実施している。
- 徳島県
- 一部の農家で現在も実施している。
- 沖縄県
- 一部の農家で現在も実施している[12]。
脚注
[編集]- ^ “「静岡の茶草場」を世界農業遺産に認定”. 中日新聞. (2013年5月30日) 2013年5月30日閲覧。
- ^ 同日、阿蘇草原の持続的農業(Managing Aso Grasslands for Sustainable Agriculture )と国東半島・宇佐の農林水産循環システム(Kunisaki Peninsula Usa Integrated Forestry, Agriculture and Fisheries System )も同様に世界重要農業遺産システムに認定された。
- ^ “茶草場として成立する半自然草地の多様性と維持機構の解明(21510250) 科研 基盤研究(C) 2009~2011年度”. 2014年6月3日閲覧。
- ^ 松田民俗研究所編『井川雑穀文化調査報告書』井川雑穀文化調査委員会、2004年3月。
- ^ “世界農業遺産に「静岡の茶草場(ちゃぐさば)」が認定されました”. 川根本町ホームページ (2013年5月30日). 2013年7月29日閲覧。
- ^ “市の木・鳥・花”. 菊川市ホームページ. 2014年6月3日閲覧。
- ^ “牧之原市の花と木が決まりました”. 牧之原市ホームページ. 2014年6月3日閲覧。
- ^ “掛川市の市章・花・木・鳥”. 掛川市ホームページ. 2014年6月3日閲覧。
- ^ 稲垣栄洋、楠本良延 (2012年9月27日). “静岡の茶生産が守る貴重な植物”. Our World - 国連大学ウェブマガジン. 2014年6月3日閲覧。
- ^ “「静岡の茶草場農法」認証制度骨子決まる” (2013年9月4日). 2014年6月3日閲覧。
- ^ “静岡の茶草場農法実践者認定制度”. 島田市ホームページ. 2014年6月3日閲覧。
- ^ 楠本良延 (2010年11月17日). “農業が育むもう一つの自然「茶草場の生物多様性」”. 農業環境技術研究所研究成果発表会. 農業環境技術研究所. p. 29. 2014年6月3日閲覧。
参考文献
[編集]- “Traditional Tea-Grass Integrated System in Shizuoka (Local name:Chagusaba)”. Food and Agriculture Organization - GIAHS "CHAGUSABA in Shizuoka" (2017年). 2017年10月23日閲覧。
- “茶生産のために維持される茶草場は貴重な二次的自然の宝庫です”, 農業環境技術研究所研究成果情報 (農業環境技術研究所) (平成21年度(2009)第26集) 2013年7月29日閲覧。
関連項目
[編集]- 国連食糧農業機関(FAO)
- 世界重要農業遺産システム(GIAHS、ジアス)
- 生物の多様性に関する条約(Convention on Biological Diversity; CBD)
- 絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律
- 生物多様性
- 潜在自然植生
外部リンク
[編集]- CHA938 世界農業遺産のお茶文化
- “世界農業遺産 静岡の茶草場(しずおかのちゃぐさば)”. 掛川市観光協会. 2014年6月3日閲覧。
- “日本のレッドデータ 検索システム”. 2014年6月3日閲覧。
- “静岡の茶生産が守る貴重な植物”. 2014年6月3日閲覧。
- “掛川市自然環境の保全に関する条例および指定希少野生動植物種の指定”. 掛川市ホームページ (2013年5月31日). 2013年7月5日閲覧。
- “静岡県版レッドリスト”. 2014年6月3日閲覧。
- 静岡の茶草場農法(ちゃぐさば)公式サイト|世界農業遺産