「旧約聖書続編」の版間の差分

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==概説==
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成立時の[[キリスト教]]は[[七十人訳聖書]]と呼ばれる[[ギリシャ語]]訳の旧約聖書を自分たちの旧約聖書としてきた。この聖書は[[ユダヤ人]]が持っている[[ヘブル語]]の[[聖書]]に含まれない文書(あるいは文書の一部)をいくつか含んでいたが、当時のキリスト教はそれらの文書も含めて「聖書」であるとしてきた。[[ヒエロニムス]]のように含まれる文書の範囲が異なることを強調し、ヘブル語の聖書に含まれる文書のみを聖書とすべきだとする動きもあったのであるが、それによってヘブル語聖書に無い諸文書を「[[第二正典]]」としてヘブル語聖書にある正典とは一応区別しようとするような動きはあったものの、聖書自体から排除されることは無かったため、[[カトリック]]や[[正教会]]などでは現在でもヘブル語聖書に無いいくつかの文書を聖書の中に入れている。しかし[[マルティン・ルター]]は聖書を[[ドイツ語]]に翻訳するにあたり、それまで使われていた[[ラテン語]]の聖書[[ウルガタ]]からではなくヘブル語原典から直接翻訳したためヘブル語聖書に含まれる文書のみを内容とした聖書ができあがった。この「ヘブル語聖書に含まれる文書のみを内容とした聖書」はその後多くの[[プロテスタント]]諸派に受け継がれることになった。
成立時の[[キリスト教]]は[[七十人訳聖書]]と呼ばれる[[ギリシャ語]]訳の旧約聖書を自分たちの旧約聖書としてきた。この聖書は[[ユダヤ人]]が持っている[[ヘブル語]]の[[聖書]]に含まれない文書(あるいは文書の一部)をいくつか含んでいたが、当時のキリスト教はそれらの文書も含めて「聖書」であるとしてきた。[[ヒエロニムス]]のように含まれる文書の範囲が異なることを強調し、ヘブル語の聖書に含まれる文書のみを聖書とすべきだとする動きもあったのであるが、それによってヘブル語聖書に無い諸文書を「[[第二正典]]」としてヘブル語聖書にある正典とは一応区別しようとするような動きはあったものの、聖書自体から排除されることは無かったため、[[カトリック]]や[[正教会]]などでは現在でもヘブル語聖書に無いいくつかの文書を聖書の中に入れている。
しかし[[マルティン・ルター]]は聖書を[[ドイツ語]]に翻訳するにあたり、それまで使われていた[[ラテン語]]の聖書[[ウルガタ]]からではなくヘブル語原典から直接翻訳したためヘブル語聖書に含まれる文書のみを内容とした聖書ができあがった。この「ヘブル語聖書に含まれる文書のみを内容とした聖書」はその後多くの[[プロテスタント]]諸派に受け継がれることになった。


このように、長年含まれる文書の範囲の異なる聖書を用いてきたカトリック教会とプロテスタントであるが、[[エキュメニズム]]の流れに沿って世界各国で共同して聖書の翻訳に取り組むことになった時、正典の範囲の異なる部分をどう取り扱うかが問題になった。いろいろな話し合いがもたれた結果、1968年にプロテスタントの[[聖書協会]]世界連盟と[[ローマ]]の[[教皇庁]]キリスト教一致推進事務局とが共同で公にした「聖書の共同翻訳のための標準原則」において、
このように、長年含まれる文書の範囲の異なる聖書を用いてきたカトリック教会とプロテスタントであるが、[[エキュメニズム]]の流れに沿って世界各国で共同して聖書の翻訳に取り組むことになった時、正典の範囲の異なる部分をどう取り扱うかが問題になった。いろいろな話し合いがもたれた結果、1968年にプロテスタントの[[聖書協会]]世界連盟と[[ローマ]]の[[教皇庁]]キリスト教一致推進事務局とが共同で公にした「聖書の共同翻訳のための標準原則」において、
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*『[[トビト記]]』
*『[[トビト記]]』
*『[[ユディト記]]』
*『[[ユディト記]]』
*『[[エステル記]](ギリシャ語)』
*『[[エステル記]](ギリシャ語)』 - 正典のエステル記にない6ヶ所の付加部分([[エステル記補遺]])がある。
*:正典のエステル記にない6ヶ所の付加部分([[エステル記補遺]])がある。
*『[[マカバイ記]]1』
*『[[マカバイ記]]1』
*『マカバイ記2』
*『マカバイ記2』
*『[[知恵の書]]』
*『[[知恵の書]]』(ソロモンの知恵とも)
*:ソロモンの知恵とも呼ばれる。
*『[[シラ書]]』(ベ・シラの知恵、集会の書とも
*『[[シラ書]]』
*:ベン・シラの知恵、集会の書とも呼ばれる。
*『[[バルク書]]』
*『[[バルク書]]』
*『[[エレミヤの手紙]]』
*『[[エレミヤの手紙]]』 - バルク書第6章にあたる。
*『[[ダニエル書補遺]]』 - 正典の[[ダニエル書]]に無い『アザルヤの祈りと3人の若者の賛歌』、『スザンナ』、『ベルと竜』を加える。
*:バルク書第6章にあたる。
*『[[ダニエル書補遺]]』
*:正典の[[ダニエル書]]に無い『アザルヤの祈りと3人の若者の賛歌』、『スザンナ』、『ベルと竜』を加える。

*『[[第1エズラ書|エズラ記 (ギリシャ語)]]』
*『[[第1エズラ書|エズラ記 (ギリシャ語)]]』
*『[[第4エズラ記|エズラ記 (ラテン語)]]』
*『[[第4エズラ記|エズラ記 (ラテン語)]]』
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==参考文献==
==参考文献==
*「[[新共同訳聖書]]」
*新共同訳聖書
*「聖書諸文書の順序と数 特に現代の印刷聖書において」B.シュナイダー 聖書翻訳研究 25号([[日本聖書協会]]、1991年5月
*B.シュナイダー 「聖書諸文書の順序と数 特に現代の印刷聖書において」聖書翻訳研究25号日本聖書協会、1991年5月
*旧約聖書続編を読む」榊原康夫著(1999年4月30日、聖恵[[授産所]]出版部ISBN 4-88077-103-1
*榊原康夫 『旧約聖書続編を読む』 聖恵授産所出版部、1999年4月30日、ISBN 4-88077-103-1
*旧約聖書続編講義 ヘレニズム・ローマ時代のユダヤ文書を読み解く」秦剛平著(リトン、1999年11月ISBN 4-947668-39-3
*秦剛平 『旧約聖書続編講義 ヘレニズム・ローマ時代のユダヤ文書を読み解く』 リトン、1999年11月ISBN 4-947668-39-3


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2008年10月14日 (火) 12:12時点における版

旧約聖書続編(きゅうやくせいしょぞくへん)とは、カトリックプロテスタントの聖書共同翻訳事業においては旧約聖書新約聖書の間に配置される様に取り決められた、一群の文書である。この原則に従った日本語訳聖書には新共同訳聖書(旧約聖書続編付き)がある。

概説

成立時のキリスト教七十人訳聖書と呼ばれるギリシャ語訳の旧約聖書を自分たちの旧約聖書としてきた。この聖書はユダヤ人が持っているヘブル語聖書に含まれない文書(あるいは文書の一部)をいくつか含んでいたが、当時のキリスト教はそれらの文書も含めて「聖書」であるとしてきた。ヒエロニムスのように含まれる文書の範囲が異なることを強調し、ヘブル語の聖書に含まれる文書のみを聖書とすべきだとする動きもあったのであるが、それによってヘブル語聖書に無い諸文書を「第二正典」としてヘブル語聖書にある正典とは一応区別しようとするような動きはあったものの、聖書自体から排除されることは無かったため、カトリック正教会などでは現在でもヘブル語聖書に無いいくつかの文書を聖書の中に入れている。

しかし、マルティン・ルターは聖書をドイツ語に翻訳するにあたり、それまで使われていたラテン語の聖書ウルガタからではなくヘブル語原典から直接翻訳したため、ヘブル語聖書に含まれる文書のみを内容とした聖書ができあがった。この「ヘブル語聖書に含まれる文書のみを内容とした聖書」はその後多くのプロテスタント諸派に受け継がれることになった。

このように、長年含まれる文書の範囲の異なる聖書を用いてきたカトリック教会とプロテスタントであるが、エキュメニズムの流れに沿って世界各国で共同して聖書の翻訳に取り組むことになった時、正典の範囲の異なる部分をどう取り扱うかが問題になった。いろいろな話し合いがもたれた結果、1968年にプロテスタントの聖書協会世界連盟とローマ教皇庁キリスト教一致推進事務局とが共同で公にした「聖書の共同翻訳のための標準原則」において、

  • ヘブル語にある部分のみを旧約聖書とする。
  • ヘブル語に無いがいくつかの教派は正典としている部分をまとめ、「旧約聖書続編」として旧約聖書と新約聖書の間に置く。

ことに定められた。このようにして生まれたのが旧約聖書続編である。

内容

旧約聖書続編には以下の文書が含まれる。これはカトリックが第二正典として扱う範囲よりも広く、聖公会がアポクリファとして扱う範囲と同じである。正教会などで正典とされているいくつかの文書は含まれていない。

含まれなかった文書

正教会などいくつかの教派で正典とされているにもかかわらず旧約聖書続編に入らなかった文書も存在する。

  • 詩編第151編
  • マカバイ記3
  • マカバイ記4

などがこれに該当する。

参考文献

  • 『新共同訳聖書』
  • B.シュナイダー 「聖書諸文書の順序と数 特に現代の印刷聖書において」『聖書翻訳研究』25号、日本聖書協会、1991年5月。
  • 榊原康夫 『旧約聖書続編を読む』 聖恵授産所出版部、1999年4月30日、ISBN 4-88077-103-1
  • 秦剛平 『旧約聖書続編講義 ヘレニズム・ローマ時代のユダヤ文書を読み解く』 リトン、1999年11月、ISBN 4-947668-39-3