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ロルフィング

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

ロルフィング英語:Rolfing)とは、アメリカ生化学者アイダ・ロルフ英語版が創始したボディーワークである。ロルフがこのワークにつけた名称はストラクチュラル・インテグレーションStructural Integration 構造の統合)であったが、創始者の名に因んで、ロルフィングの愛称で呼ばれるようになった。ロルフィングは正確には形容詞であり、正式名称は、ロルフィングストラクチュラル・インテグレーション。アメリカのロルフ・インスティテュートによって公式認定された施術者であるロルファーが提供する。

概要

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ハタ・ヨーガオステオパシーアレクサンダー・テクニークなどに基礎をおいているが、ロルフは自らの療法を既存の療法と区別し、独自性を主張した[1]

人間の身体は、結合組織のネットワーク(骨、軟骨靭帯、筋膜など)によって基本的な構造の枠組みが作られており、特に動きを意識せずに生活していると、知らぬ間に偏った動きになり、結合組織のネットワークが偏ったまま固まると考える。[要出典]ロルフィングでは、そのような偏りを調整することで身体のバランスを回復することを目指す。

バランスのとれた身体とは、重力と調和した身体であるとされる。頭頂、耳、肩、肋骨、骨盤、脚のパーツが垂直に並び、重力が身体の中心を通る姿勢を参考としているが、各パーツ同士が繋がり、連携のとれた動きが引き出されていることが重要であると考える。[要出典]

ロルフィング技法の特徴のひとつは、筋膜へのアプローチが中心となっていることである。筋肉や骨よりも、それらを包んでいる筋膜をほぐすことが身体の調整に効果的であるとしている。ロルフは筋膜を身体構造の中心という意味で「構造の器官」と呼んだ。

ロルファーは一般的には筋膜に圧をかけて伸ばすような独特のテクニックを用いるが、ロルファーによっては、触れているだけのような軽いタッチを用いる者や、ロルフ・ムーブメントとよばれる動きのエクササイズを中心に行う者もいる。

誕生

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ロルフはバーナード大学卒業直後にオステオパシー医を訪ねた際に、微細身英語版(非物質的身体)のエネルギーの概念を初めて知り、影響を受けた[2]。オステオパシー医学は動物磁気療法やその他のメタフィジック(形而上学的)な治療システムから発展したもので、人体に流れる霊的エネルギーの概念を持っている[2]。オステオパシー療法は当初、この霊的なエネルギーの自由な流れを妨げる解剖学的な障害を取り除くように設計された[2]

ロルフの「ボディワーク」に対する理解に最も影響を与えたのは、「全能のオーム」と呼ばれたヨーガ行者・オカルティストピエール・バーナード英語版であり、ヨーガ身体論における、脊柱に沿って位置するエネルギーセンターであるチャクラ、ヨーガのエクササイズ、タントラについて、彼から初めて学んだ[2]。1940年に、手を痛めた音楽教師にヨーガの指導を主とした最初の施術を行った[3]

宗教学者のジェフリー・クリパル英語版は、若いロルフはバーナードのタントラ・ヨーガ(性ヨーガ英語版)に深く影響を受け、彼の教えを独自のシステムに拡張し、彼の秘教的メタフィジック(神秘思想)と彼女が以前に受けたオステオパシー療法、カイロプラクティックの訓練を統合したと指摘している[2]

ロルフは最初の施術について、「秩序を失っている部分が見えたので、そこに秩序をもたらした」と語っており、日本ロルフィング協会は、「後に直接指導された生徒たちの証言からも、ロルフ博士は(目に見えない)身体の様子が『見える』人だった」ようだと述べている[3]。彼女は重度の身体障害を持つクライアントに対応するようになってから、より曖昧な領域に踏み込んでいった[1]。症状の解消より、全身のバランスや統合を目指しており、バランスの取れた人間には何が起こるかといった、人間の進化の可能性に興味を持っていたようである[3]。身体の活力を回復させるために深部組織を操作することに注目し、深部マッサージを用いて一種の宇宙的神秘主義を生み出した[2]。生徒の一人は、彼女は基本的に「人々を調和のとれた霊的意識に導くこと」に関心を持っていたと語っており、ロルフの見解では、それは身体の各セグメントが垂直に整列していることと一致する[2]。1950年代にオステオパシーやカイロプラクティックの療法家たちに自身の技法を教えるようになったが、テクニック自体ではなく、その背後にある人間観を伝えたいと考えていた[3]

ロルフの仕事が一般に広まるまでは時間がかかり、開業した25年以上の間に何人かの弟子をとり、オステオパシーやカイロプラクティックの関係者の興味を引いたが、知名度は限定的だった[1]。ロルフィングは1950年代までに、少数の忠実な支持者がいるボディワークの一分野として確立された[2]

アメリカでマッサージ、代替療法、身体ベースの心理療法、アジアのタントリズムに対する熱狂が高まる中、ロルフは心臓病を患い胸の痛みに苦しんでいた70歳の精神科医フレデリック・パールズに施術して支持を得た[1][2]。パールズに施術するために、彼が活動していたエサレン協会を定期的に訪問するようになったが、ここはヒューマンポテンシャル運動ニューエイジの中心的な成長センターで、彼女の身体ベースのセラピーのビジョンの普及に最適な場所であり、ロルフィングはエサレン協会を西部の発信地として、ヒューマンポテンシャル運動の流行に乗って広まった[1][2][3]

ベーシック・コースの内容について

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ベーシックのロルフィングシリーズは全10回のセッションより成る。日本ロルフィング協会によると、生徒たちはロルフと同じように身体の様子を見ることができず、ロルフがそれを教えることは難しかったため、多くの人の身体に適用可能な施術の手順として「10回シリーズのレシピ」が考案され、生徒たちはこれを習い実践することを通して学ぶシステムになっている[3]

  • 第1セッション 深い呼吸を楽にできるようにする。後に続く変化への準備となる。
  • 第2セッション 大地にしっかり立つ足を作る。足裏の機能的なアーチを引き出す。
  • 第3セッション 体側ラインの確立。前後の空間的広がりを引き出す。
  • 第4セッション 骨盤内構造の調整。ミッドラインの確立。
  • 第5セッション 腹部・胸部のスペースを拡げる。内臓空間の解放。
  • 第6セッション 背骨・仙骨を自由にする。体軸構造の確立。
  • 第7セッション 頭部・頸部のバランスを取る。
  • 第8セッション 上半身或いは下半身の繋がりと統合。静的バランスの確立。
  • 第9セッション 下半身或いは上半身の繋がりと統合。動的バランスの確立。
  • 第10セッション 全身の水平性の確立と統合。

1〜3セッションは身体の表層部の開放、4〜7セッションは身体の深層部の開放、8〜10セッションは統合として分類される。

名称について(ロルフィング)

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ロルフィングとは創始者の名前に因んで名づけられた愛称であったが、1979年、ロルフ・インスティテュートによって商標登録された。以来、ロルフィング(Rolfing)は、同所で訓練され、認定を受けた者ロルファー(Rolfer)のみが使用できる登録商標になっている。日本で商標登録されたのは、2007年(平成19年)9月21日 (【登録番号】第5078881号)。

アイダ・ロルフのワークを継承する教育機関は複数存在する。近年、米国ではストラクチュラル・インテグレーションの団体が加盟するIASI(International Association of Structural Integrators)が発足され、団体間の交流が進んでいる。

出典

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  1. ^ a b c d e アンダーソン 1998, pp. 126–128.
  2. ^ a b c d e f g h i j Fuller 2014.
  3. ^ a b c d e f 創始者アイダ・ロルフと歴史”. 日本ロルフィング協会. 2024年7月10日閲覧。

参考文献

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  • W・T・アンダーソン『エスリンとアメリカの覚醒 人間の可能性への挑戦』伊東博 訳、誠信書房、1998年。 
  • Robert C. Fuller. “5  Sexuality and Religious Passion: The Somatics of Spiritual Transformation(セクシュアリティと宗教的熱情:霊的変容の身体性)”. Spirituality in the Flesh: Bodily Sources of Religious Experiences(肉体における霊性:宗教的体験の肉体的源泉). Oxford University Press. pp. 99–130. doi:10.1093/acprof:oso/9780195369175.003.0005 

関連項目

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外部リンク

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