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バーチャルバンド

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バーチャル・バンド (またはバーチャル・グループカートゥーン・バンドカートゥーン・グループ、英:Virtual_band) とは音楽活動において、メンバーが生身の人間ではなくアニメーションキャラクターによって構成された音楽グループである。

解説

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人間のミュージシャンやプロデューサーが音楽を録音・演奏し、アルバムやビデオ・クリップやステージ・パフォーマンスの視覚的要素などのバーチャル・バンドに関連するメディアではアニメーション化したキャラクターがフィーチャーされる。

多くの場合、バーチャル・バンドのメンバーが歌の作曲者や演奏者としてクレジットされる。ライブ・パフォーマンスはより複雑で、ショーの視覚的要素と聴覚的要素の完璧な同期が必要となる。

音源化されたバンドには、アーチーズデスクロック英語版、フリーン・イン・グリーン (Freen in Green)、スケルトン・スタッフ (Skeleton Staff)やミストゥーラ (Mistula)などの様々なバンドが居る。それぞれのグループは求める効果を得るために異なるアニメーション技術や録音技術を用いるが、一番一般的な技術はコンピュータアニメーションセルアニメ、そしてボーカルのミキシングと操作である。

最近この用語は、メンバーが同じ場所にいなくて済むようインターネットを使ってコラボレーションする音楽グループ英語版にも使われる。

バーチャル・グループのメンバー

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バーチャル・グループのメンバーはアニメーションのキャラクターであり、他の架空のキャラクターと同じく、自身の人格や声や経歴やプレイ・スタイルが設定される。例えば、アルビンはチップマンクスの「フロント・マンク」(front-munk)でイタズラ好きとされている。スケルトン・スタッフのギタリスト、スタントン (Stanton)はパーティー好きの劣等生で、フリーン・イン・グリーンのベーシスト、スパーキー (Sparky)は怠け者で自己中心的な自惚れ屋、ゴリラズのマードック英語版は悪魔の指を持つベーシストである。

キャラクターに使われるアニメーションの手法は様々である。アーチーズやゴリラズやフリーン・イン・グリーンやスケルトン・スタッフやアルビンとチップマンクスなどのグループは手書きのキャラクターで、メディアではセルアニメや技法を使用する。クレイジー・フロッグやジュジュ・アイボールズ (JuJu Eyeballs)や元気ロケッツやザ・ボッツ (The Bots)はコンピューターを使ってアニメーションを制作している。ミストゥーラやミルグロム (Milgrom)はストップモーション・アニメーションを使っている。

人形劇をアニメーションの一種とみなす者もいる[1]。この見方では、エレクトリック・メイヘムやフェルトワース (Feltworth)もバーチャル・バンドということになる。

製作

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スタジオで

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音楽のレコーディングは、人間のミュージシャンやアーティストによって行われ、 バーチャル・アーティストの元となる。バーチャル・アーティストのVOCALOID初音ミクのように、歌唱が機械やシンセサイザー・アプリケーションによって行われる場合もある。これは通常のスタジオ内録音プロセス(詳細は録音を参照)を使って行われる。

チップマンクスが有名だがいくつかの例では、望むボーカル・エフェクトを得るためや実際の歌手の声と似せないために、声の操作が行われる。この操作は、ボーカル・トラックの再生速度を速めたり遅めたりといった調整や、シンセサイザーを通す(この過程はボコーディングという)ことによっておこなわれる。

作曲や製作のクレジットには、バーチャルバンドと関わった人間の作曲者やアーティストどちらも使われうる。

ステージで

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2つの方法のうちどちらかがライブ・パフォーマンスに利用できる。1つ目は全てのセットをアニメ化したもので、聴衆とのインタラクションはほんの少しかあるいはまったくなく、パフォーマンスも同じである。この方法の落とし穴は、コンサートに欠かせない聴衆とのインタラクションがないことである。これは聴衆の反応が予測できる短いパフォーマンスに適している。

2つ目はもっと複雑で、多くの反応やインタラクションを許容できるという点で1つ目の方法と異なっている。つまり、様々なアニメのシークエンスを再生できるよう準備し、異なる反応に合わせてセリフを合わせる。

両方の場合で、 セリフや楽器とアニメの動きを同期するために、徹底的なリハーサルが必要となる。事前に録音した音楽や言葉を使うことで省略することができるが、現実の「ライブ」体験を弱めることになる。

(バーチャルではないアーティストやグループも、似たような技術をコンサートに利用することがある。例えば、DJシャドウは自身の In Tune and On Time ツアーで、事前にアニメ化したシークエンスを用意し、彼がセットを演奏する間後ろの巨大スクリーンで上映した。また大量のツアー前の計画と同期のリハーサルが事前に必要だった[1]

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おそらくバーチャル・バンドによる最も複雑なライブ・パフォーマンスは、リスボンMTVヨーロッパ・ミュージック・アワード第48回グラミー賞でのゴリラズのパフォーマンスであろう。このグループはコンピューターで生成した3Dイメージと19世紀のペッパーズ・ゴースト技術を組み合わせて、バンド・メンバーの生き生きとしたホログラムを作った。当初は、この技術を使ったゴリラズのワールド・ツアーも計画されていた。

バーチャル・バンドの歴史

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初期の歴史

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「バーチャル・バンド」という用語は2000年、ゴリラズのブレイクにより一般的になった。しかしバーチャル・バンドというコンセプトは1958年、アルビンとチップマンクスのクリエイターのロス・バグダサリアン英語版が自分の声を早回しにして「チップマンク・ボイス」を作ったのが最初である。当時まだこの用語は発明されていなかったが、アルビンとチップマンクスは最初に現れたバーチャル・バンドであった。中心になる「フロント・マンク」アルビンと2人の兄弟のサイモンとセオドア、そして彼らのマネージャー・父のデイビット・セビルと彼らの声は、ロス・バグダサリアンによって作られた。彼は自身の声の録音を早回しにして特徴的な音源を作った。この方法で彼は1959年度のグラミー賞で製作・技術部門の2部門を受賞した。

チップマンクスの成功は他のグループを刺激し、ナッティ・スクワーレルズ英語版がランク入りした。バグダサリアンが創造したスキャット歌唱による彼らは、「Uh-Oh」でアメリカのトップ40入りを果たした。しかし彼らの成功は短かった。

テレビからのバーチャル・バンド

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アーチーズは、世界規模のポップ・チャートに現れた最初のバーチャル・バンドだった。

この間、『ドラドラ子猫とチャカチャカ娘』や『マペット・ショー』のような他のテレビ番組がフォーマットの一部としてバンドを受け入れ始めた。こうした番組に登場したグループには一般のポピュラー・ソングとしてレコードを発売するものもあった。しかし番組の放送が終わると「解散」してしまうバンドもあった。

アーチーズがフィルメーションによって制作され大流行した後、ハンナ・バーベラは『ドラドラ子猫とチャカチャカ娘』や『カッタヌーガ・キャッツ英語版』や『スーパースリー』や『やったぜムキムキ大作戦』や『わんぱくジョーズ』などのロック・バンドの冒険のアニメ番組をいくつか制作し始めた。

バーチャル・バンドはテレビに出演し続けた。チップマンクスは1990年代のほとんどの期間を通し、自身のテレビ番組に出演していた。アダルトスイムの番組『メタロカリプス英語版』はグループ「デスクロック英語版」をフィーチャーしている。

リバイバル

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1980年代、ハズブロが制作したTVアニメシリーズ『ジェム英語版』は、2つの敵バンドとエピソード毎の新曲ビデオをフィーチャーした。

1990年代初頭、チップマンクスは現代風にアレンジされ、それぞれの楽器を演奏した。彼らは新しい番組『アルビンとチップマンクス英語版』に添って、カバーのCDをリリースした。

2000年のイギリスのゴリラズの登場により、この単語がメディアに露出され有名になった。ブラーデーモン・アルバーンタンク・ガールジェイミー・ヒューレットによって結成され、デルトロン3030英語版ダン・ジ・オートメーター英語版によってプロデュースされたこのグループは、バーチャル・バンドを音楽の前線に再びもたらした。彼らの歌は世界中の多くのランキングでトップ20にランク入りし、最も成功したバーチャル・バンドとして『ギネス世界記録』に認定された[2]。このバンドは5枚のスタジオ・アルバムと、2枚のB面アルバムと2枚のEPをリリースした。

有名なグループ・パフォーマー

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脚注

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注釈

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^ 例えば、漫画家でアニメーターのPeter Viskaは、自著 The Animation Book (ISBN 0-86896-958-3)でこの形式のアニメに2ページを割いている。

出典

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  1. ^ 詳しくはen:Live! In Tune and On Time DVDのDJシャドウのツアー前のインタビュー参照。
  2. ^ Guinness World Records

関連項目

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