キマダラカメムシ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
キマダラカメムシ
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
: 昆虫綱 Insecta
上目 : Condylognatha
: カメムシ目 Hemiptera
亜目 : カメムシ亜目 Heteroptera
: カメムシ科 Pentatomidae
亜科 : カメムシ亜科 Pentatominae
: Halyini[1]
: Erthesina
: キマダラカメムシ E. fullo
学名
Erthesina fullo
(Thunberg1783)[2]

キマダラカメムシ学名: Erthesina fullo)は、カメムシ目カメムシ科昆虫カメムシの一種。

形態[編集]

成虫の体長は20-23mm。国内に生息するカメムシ亜科最大種である。体格に性差は殆ど無い。『大型の美しいカメムシ』であり、幼虫も体色に『変化があって美しい』と評される[3]

頭部は複眼より前方の吻が長く、面長な様相である。触角は黒褐色だが先端第1節の根元に白い帯がある。前胸側縁は棘状にとがる。体色は艶の無い黒褐色に、前胸背板から前翅に淡黄色の細かい斑点が密生し、また、同じく淡黄色の線条が頭部〜前胸背板の正中線上に走り、頭部背面の縁取りも同じ色である。腹部も節ごとに黒褐色と淡黄色が繰り返される縞模様を呈し、背面のたたまれた前翅、後翅の両側面に、その模様が露出する。

幼虫の体色は黒褐色をしていない。若齢幼虫は淡褐色に黒と朱の横縞模様が背面全体に並び、老熟幼虫は粉を吹いたような暗い灰色に、規則的なオレンジ色の星が並ぶ。

生態[編集]

分布[編集]

日本九州沖縄本島石垣島)、台湾中国東洋区[2]。ただし後述のように日本での分布域は広がりつつある。

食性[編集]

食草サクラカキノキ[4]フジニセアカシアクワエノキウメが確認され、カキに関してはその果実(渋柿)からも盛んに吸汁し、またリンゴの果実も飼育下で代用食となる[5]

生息環境[編集]

市街地、都市部の街路樹、庭木などで普通にみられ、食草も広範にわたる。幼虫、成虫ともに4-11月に出現、活動する。産卵場所となる樹木はソメイヨシノシダレザクラが知られている。

成虫越冬する[6]

人間との関係[編集]

近年になり広範囲で確認されるようになっているが、生態系や農作物への具体的影響はまだ定かでない。強烈な臭害で知られるクサギカメムシに似てさらに大型だが、本種も臭いとも、臭くないとも証言が一致しない。

侵入経路[編集]

本種は台湾から東南アジアを原産地とする外来生物である。日本国内には長崎県出島から侵入し[5]、その後各地に分布を拡げたとみられている

本種は江戸時代に来日し、日本の生物を研究したことで知られるツンベルクによって長崎の出島で採集された標本を元に、彼自身が新種記載したものである[7][8]。ちなみに記載は1783年で、採集は1770年代と考えられる[9]。つまりタイプ産地は日本の長崎である。

原記載には長崎出島では極めて普通、との記述もあった由で、ところがその後、150年にわたって再発見がなかった。それが150年後の1934年頃に長崎市を中心とした県内各地で採集されるようになった。1935年にはその生活史に関する報告がなされている[10]。その状況は石井他編(1950)の『本種は九州長崎地方にのみ産し』という記述に反映されている[11]

その後次第にその分布域を広げ始め、安永他(1993)では長崎、福岡、佐賀県がその範囲としてあげられている。愛知県では2011年に最初に発見され、2016年の段階では名古屋市の街路樹のハナミズキで多数観察されるようになっている[7]。東京で最初に発見されたのはこれを遡って2008年のことであり、石川他編(2012)の段階ではその分布域は九州、本州の中国地方、近畿地方と、それに愛知県、東京都となっている。他に沖縄と石垣島が?付きとなっており、分布域は更に拡大してゆくだろうとの推測が記されている[12]

日本本土のものは台湾や東南アジアのものより中国のものに近い。他方、石垣島でも採集されており、こちらは台湾からの移入によると考えられる[9]


脚注[編集]

  1. ^ Erthesina”. 2012年8月21日閲覧。
  2. ^ a b 日本産昆虫学名和名辞書(DJI)”. 昆虫学データベース KONCHU. 九州大学大学院農学研究院昆虫学教室. 2012年8月17日閲覧。
  3. ^ 引用共に川沢、川村(1975),p.127
  4. ^ 昆虫の図鑑』 191頁掲載の食樹。
  5. ^ a b 生駒正和「キマダラカメムシ到着」『インセクタリゥム』1991年11月号(東京動物園協会)33頁掲載の知見。
  6. ^ 日本の昆虫1400 1』 298頁。
  7. ^ a b 内藤(2016),p.79
  8. ^ Thunberg, Carl Peter、Casström, Samuel Niklas、Ekelund, Johannes M.、Engström, Carl P.、Noréus, Jean、Lagus, Anders Johan、Lundahl, David、Akrel, Fredrik ほか『Dissertatio entomologica novas insectorum species, sistens : cuius partem primam [-sextam : Cons. Exper. Facult. Med. Upsal., publice ventilandam exhibent]』Apud Joh. Edman、Upsaliae、1783年、42-43頁https://www.biodiversitylibrary.org/item/45275 
  9. ^ a b 安永他(1993),p.221
  10. ^ 川沢、川村(1975),p.127
  11. ^ 石井他編(1950),p.191
  12. ^ 石川他編(2012),p.484

参考文献[編集]

  • 福田晴夫ほか『昆虫の図鑑 採集と標本の作り方 : 野山の宝石たち』(増補改訂版)南方新社、2009年、191頁。ISBN 978-4-86124-168-0 
  • 槐真史編 編『日本の昆虫1400 1 チョウ・バッタ・セミ』伊丹市昆虫館監修、文一総合出版〈ポケット図鑑〉、2013年、298頁。ISBN 978-4-8299-8302-7 
  • 石井悌他編『日本昆蟲圖鑑』1950年、北隆館
  • 内藤通孝「名古屋東山周辺の昆虫相 III.半翅(カメムシ)目 (1)カメムシ科、ツノカメムシ科など」(2016年)、『椙山女学園大学研究論文集』第47号(自然科学編)、p.77-88
  • 安永智秀他『日本原色カメムシ図鑑』1993年、全国農村教育協会
  • 石川忠他編『日本原色カメムシ図鑑 第3巻』2012年、全国農村教育協会
  • 川沢哲夫、川村満『原色図鑑 カメムシ百種』1975年、全国農村教育協会

関連項目[編集]

外部リンク[編集]