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カワラナデシコ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
カワラナデシコ
カワラナデシコ の花
分類
: 植物界 Plantae
: 被子植物門 Magnoliophyta
: 双子葉植物綱 Magnoliopsida
亜綱 : ナデシコ亜綱 Caryophyllidae
: ナデシコ目 Caryophyllales
: ナデシコ科 Caryophyllaceae
: ナデシコ属 Dianthus
: エゾカワラナデシコ
D. superbus
変種 : カワラナデシコ
var. longicalycinus
学名
Dianthus superbus L.
var. longicalycinus (Maxim.) Williams
和名
カワラナデシコ

カワラナデシコ(河原撫子、Dianthus superbus L. var. longicalycinus (Maxim.) F.N.Williams[1])とは、ナデシコ科ナデシコ属多年草秋の七草の1つであるナデシコ(撫子)は本(変)種のことを指す。別名(異名)はナデシコ、ヤマトナデシコ。

名称

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和名カワラナデシコは、河原に生えて、可憐な花を「撫子(なでしこ)」と言うことに由来する[2]。本種は、日本で一般にナデシコと呼んでいる植物で、別名でヤマトナデシコ(大和撫子)ともよんでいる[2]

分布・生育地

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日本では本州以西の四国九州に広く分布するほか[3]沖縄諸島久米島渡名喜島)に少数が自生する。日本国外では朝鮮中国台湾に分布する。主に日当たりの良い草原河原に生育するが[4]、路傍や山地の斜面、海岸の砂浜等でも生育する。

日本では、自生地の開発や園芸用の採集、動物による食害、外来種の影響等で減少している地域もある。また、カワラナデシコは草原等の開けた環境を好む種であり、そのような環境が遷移の進行に伴い、日当たりの悪い陰的な環境に変化すると生育に適さなくなる。これは自然現象ではあるが、昔は、草原や山地、河原等の環境は人の手により草刈や枝打ち等され、里山的な利用が行われてきた。これで、日当たりの良い開けた環境が継続してきたという背景がある。近年の人間の生活習慣の変化で、このような「人為的なかく乱」が行われなくなると、カワラナデシコに代表される人間と密接な関係のある普通種が、その自生地や個体数を減少させてしまう結果となりうる。

特徴

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多年草で、高さ30 - 80センチメートル (cm) [4]は根から叢生し、節が膨らむ[3]。茎の基部は地面に伏せることもある[3]対生[3]、葉身は線形から線状披針形で長さ4 - 7 cm、先端は鋭く尖り、基部は茎を抱きこみ、無毛で、葉柄は無い。茎葉ともに白みを帯びた緑色である[3]

花期は夏から秋にかけて(7 - 10月ころ)[3][4]。上方でまばらに枝分かれした茎の頂端に、淡紅色のを数個つける[3][4]。花は、直径4 - 5 cm、がく片は3 - 4 cm、(ほう)は3 - 4対ある。は細長い筒状で、基部に対生するが密着してつく[3]花弁は5枚で、基部は細くなり萼筒中に入り、また先のほうは広がり、糸状に細裂している[3]雄蕊は10本、雌蕊花柱2本。色は、淡紅色が一般的だが、白色も多い。また、淡紅色と白色が混ざっている個体もある。栽培していると白色のものが淡紅色に変化したりもする。

花が終わると円柱状の果実となり、先端が4裂して黒色の種子が出る[3]

栽培

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多年生であるが、春蒔きして発芽した後は、冬越しして翌年に花を咲かせる[3]挿し芽は容易で、充実した測芽を切り取って挿す[3]。高温と多湿を嫌い、冷涼な環境と日照、通風がある環境が望ましい[3]

利用

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秋の七草の1つであることから分かるように観賞価値を認められた。栽培も行われ、特に江戸時代には変わり花の栽培が盛んで、古典園芸植物の一つともなっていたが、現在ではほとんど見られなくなり、わずかに伊勢ナデシコと呼ばれる一群などが維持されている。また、他のダイアンサス(ナデシコ)類の交配材料にも用いられる[5]

薬用としても利用されており、開花期の全草を瞿麦(くばく)、種子を乾燥したものを瞿麦子(くばくし)と称する[6]利尿作用や通経作用、消炎作用がある[3][7]。民間では、種子1日量8グラムを水400 で半量になるまで煎じ、3回に分けて服用する用法が知られている[3]。ただし、妊婦への服用は禁忌とされている[8]

近縁種

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日本には、ナデシコ属 (Dianthus) に属する種が本変種のほかに生育する(ナデシコ#ナデシコ属を参照)。

本種カワラナデシコ (D. superbus var. longicalycinus) の基変種は、エゾカワラナデシコD. superbus var. superbus[10]、蝦夷河原撫子)であり、北海道及び本州中部地方以北及びユーラシア大陸に分布する。本変種との相違点は、がく片の長さが2 - 3 cmとやや短く、が2対である[11]。また、タカネナデシコD. superbus var. speciosus[12]、高嶺撫子)が、同じく北海道及び本州中部地方以北及びユーラシア大陸高山帯に分布しており、相違点は苞が2対で、草丈が低く10~30cm程度である[11]。このように地域による変異が大きい種である。さらに、沖縄諸島久米島渡名喜島)の集団は、別変種とする説もある。

保護上の位置づけ

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生育地である下記の地方公共団体が作成したレッドデータブックに掲載されている。

意匠

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脚注

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  1. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-) YList:カワラナデシコ 2011年8月20日閲覧。
  2. ^ a b 大嶋敏昭監修 2002, p. 299.
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m n o 馬場篤 1996, p. 84.
  4. ^ a b c d 大嶋敏昭監修 2002, p. 298.
  5. ^ 八代 (2002)、p.171
  6. ^ 『薬用植物学』 (1999)、p.104
  7. ^ 『薬用植物学』 (1999)、p. 104
  8. ^ 馬場篤 1996, p. 85.
  9. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-) YList:イセナデシコ 2011年8月15日閲覧。
  10. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-) YList:エゾカワラナデシコ 2011年8月20日閲覧。
  11. ^ a b 『日本の野生植物』 (1999)、p. 41
  12. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-) YList:タカネナデシコ 2011年8月20日閲覧。
  13. ^ 普通切手、慶弔切手一覧”. 公益財団法人日本郵趣協会. 2014年4月1日閲覧。Archived 2014-04-07 at the Wayback Machine. (ただし、発売開始の出典とはならない。)
  14. ^ 新料額の普通切手及び郵便葉書等の発行等(2 販売を終了する普通切手・郵便葉書等の内容)”. 日本郵便株式会社 (2013年12月6日). 2022年6月9日閲覧。
  15. ^ 別紙3 販売を終了する普通切手の意匠等”. 日本郵便株式会社. 2022年6月9日閲覧。

参考文献

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  • 大嶋敏昭監修『花色でひける山野草・高山植物』成美堂出版〈ポケット図鑑〉、2002年5月20日、298-299頁。ISBN 4-415-01906-4 
  • 沖縄県文化環境部自然保護課編 『改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物(菌類編・植物編)-レッドデータおきなわ-』、2006年。
  • 鹿児島県環境生活部環境保護課編 『鹿児島県の絶滅のおそれのある野生動植物-鹿児島県レッドデータブック植物編-』 財団法人鹿児島県環境技術協会、2003年。
  • 埼玉県環境部みどり自然課編 『埼玉県レッドデータブック植物編2005』、2005。
  • 佐竹義輔大井次三郎北村四郎 他『日本の野生植物 草本II離弁花類』平凡社、1999年。ISBN 4-582-53502-X 
  • 多和田真淳監修・池原直樹著 『沖縄植物野外活用図鑑 第7巻 シダ植物~まめ科』 新星図書出版、1989年。
  • 野呂征男、水野瑞夫、木村孟淳『薬用植物学』(改訂第5版)南江堂、1999年。ISBN 4-524-40163-6 
  • 馬場篤『薬草500種-栽培から効用まで』大貫茂(写真)、誠文堂新光社、1996年9月27日、84頁。ISBN 4-416-49618-4 
  • 八代嘉昭 「カワラナデシコ(ナデシコ)」 著、農山漁村文化協会 編『カーネーション(ダイアンサス)』 9巻(初版)、農山漁村文化協会〈花卉園芸第百科〉、2002年、171頁。ISBN 4-540-01209-6 

外部リンク

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