硬度 (水)
硬度 (こうど 英語: (Water) Hardness) は、水に微量含まれるカルシウム (Ca) 塩やマグネシウム (Mg) 塩(あるいは同じことだがCaイオンやMgイオン)の質量をある方法で表現したもの。
本質的には質量濃度(質量 ÷ 体積)だが、1種類の塩に換算して質量濃度(質量 ÷ 体積)で表される。
種類
単に硬度といえば、通常は総硬度のことである。
- 総硬度:各種塩の総硬度。
- 一時硬度:炭酸塩(炭酸カルシウムと炭酸マグネシウム)の濃度。煮沸すると沈殿するので「一時」という。
- 永久硬度:硫酸塩(硫酸カルシウムと硫酸マグネシウム)や塩化物(塩化カルシウムと塩化マグネシウム)の濃度。煮沸では取り除けないので「永久」という。
- カルシウム硬度:カルシウム塩の濃度。
- マグネシウム硬度:マグネシウム塩の濃度。
つまり、
- 総硬度 = 一時硬度 + 永久硬度 = カルシウム硬度 + マグネシウム硬度
である。
なお、炭酸塩や硫酸塩が水に溶けると、実際は倍のモル数の炭酸水素塩や硫酸水素塩となるが、炭酸塩や硫酸塩が溶けていると説明することが多い。以下でもそのようにする。
計算法
日本では戦前はドイツ硬度が広く用いられていたが、戦後はアメリカ硬度を用いることが多い。
名称 | 記号 | 質量/体積 | SI (kg/m3) | 塩 | 換算 | 種類 |
---|---|---|---|---|---|---|
アメリカ硬度 | mg/L, ppm | mg/L | 0.001 | Ca塩とMg塩 | CaCO3 | 総硬度 |
ドイツ硬度 | °dH | mg/100cm3 | 0.01 | Ca塩とMg塩 | CaO | |
フランス硬度 | °f | mg/100cm3 | 0.01 | CaCO3 | - | Ca一時硬度 |
イギリス硬度(クラーク度) | °E | gr/gal | 0.0142537675 | CaCO3 | - |
例えばアメリカ硬度では、水中のカルシウム塩とマグネシウム塩の濃度(総硬度)を炭酸カルシウムに換算した値を、mg/L ( = g/m3) を単位として表す。
アメリカ硬度は特別の単位記号がなく、水溶液のw/v濃度を表す一般的な単位であるmg/Lやppmが使われる。
例
炭酸カルシウムが100 mg/L 溶けた水の硬度は、次のとおりである。
- アメリカ硬度 = 100 × ÷ 1 = 100
- ドイツ硬度 = 100 × ÷ 10 = 5.603
- フランス硬度 = 100 ÷ 10 = 10
- イギリス硬度 = 100 ÷ 14.254 = 7.016
炭酸カルシウムと炭酸マグネシウムが100 mg/L ずつ溶けた水の硬度は、次のとおりである。
- アメリカ硬度 = {100 × + 100 × } ÷ 1 = 218.699
- ドイツ硬度 = {100 × + 100 ×} ÷ 10 = 12.253
- フランス硬度 = 100 ÷ 10 = 10
- イギリス硬度 = 100 ÷ 14.254 = 7.016
塩の量の換算
アメリカ硬度では、カルシウム塩・マグネシウム塩の量を炭酸カルシウム (CaCO3) の量に換算する[1]。それぞれの原子量はCa=40、Mg=24.3、分子量はCaCO3=100なので、カルシウム濃度・マグネシウム濃度からの計算は以下のようになる。
- 硬度 (mg/L) ≒ カルシウム濃度 (mg/L)×2.5 + マグネシウム濃度 (mg/L)×4.1
ドイツ硬度も同様だが、酸化カルシウム (CaO) の量に換算する[1]。
水の分類
硬度の値によって、硬水や軟水という名称で呼ばれる。世界保健機関 (WHO) の基準ではアメリカ硬度に従い以下の通り[2][3]
- 軟水:0 - 60未満
- 中程度の軟水(中硬水):60 - 120未満
- 硬水:120 - 180未満
- 非常な硬水:180以上
河川が比較的短い日本では、水が岩や土に接触する時間が短くミネラルの溶出が少ないため、軟水が多い[1]。ただし、沖縄県のサンゴ礁が隆起した地形の地域や、山口県の秋吉台のようなカルスト台地や鍾乳洞のある地域では、炭酸カルシウムが溶解しており硬水が多い。日本では水道法に基づいて定められた水道水質基準(水質基準に関する省令(平成15年5月30日厚生労働省令第101号))において[4]、硬度(カルシウム、マグネシウム等)の基準値が300mg/L以下と定められている[5]。厚生省が設置した「おいしい水研究会」は1984年に「おいしい水」の要件のひとつとして硬度が10 - 100mg/Lであることを挙げており[3]、水質管理上留意すべき項目を定めた水質管理目標設定項目でも硬度の目標値を0 - 100mg/Lとしている[5][6][7]。沖縄県や山口県等の水道水の硬度が高い地域では、硬度を低減するために硬度低減化施設が設けられていることがある[8][9][10]。
一方、石灰岩が多いヨーロッパでは、河川や地下水にミネラルが溶出しやすいため、ほとんどが硬水である[1]。フランスの有名なミネラルウォーターであるエビアン(Evian) 、ヴィッテル(Vittel) 、ペリエ(Perrier) の硬度はいずれも300以上、コントレックス(Contrex) に至っては1,468に達する。しかしボルヴィック(Volvic) のような軟水も少ないながら存在する。
軟水は赤ちゃんのミルク作り、お茶やだし汁などに適している。硬水はミネラルウォーターの名の通り、ミネラル分の補給、また灰汁(あく)を析出しやすいため、昆布のグルタミン酸や鰹節のイノシン酸の抽出を阻害するので和食には適さず、灰汁の出る料理に適している。酒造では醸造過程で硬水を使用するとミネラルが酵母の働きを活発にしてアルコール発酵すなわち糖の分解が速く進むので硬水で造れば醗酵の進んだ辛口の酒になり、逆に軟水を使用するとミネラルが少ないため酵母の働きが低調になり発酵がなかなか進まないので醗酵の緩い甘口の酒に仕上がる。醤油の醸造には軟水の方が適する[11]。
また、硬水は石鹸の泡立ちを抑えてしまう。特にアルカリ性の石鹸は成分が結合・凝固して増粘するため、すすぎで非常に苦労する。
また、中硬水は中軟水とも表記される場合がある。
脚注
- ^ a b c d “その14水の硬度ってなぁに?”. 千葉県 (2019年7月29日). 2019年8月8日閲覧。
- ^ “その2水質には硬水と軟水があるけど「水道水」はどっち?”. 千葉県 (201). 2019年8月8日閲覧。
- ^ a b “水源・水質 水質に関するトピック トピック第2回 水の硬度”. 東京都 水道局. 2019年8月8日閲覧。
- ^ “水道水質基準について”. 厚生労働省. 2019年8月8日閲覧。
- ^ a b “水質基準項目と基準値(51項目)”. 厚生労働省. 2019年8月8日閲覧。
- ^ “水源・水質 水質に関するトピック トピック第2回 水の硬度”. 東京都 水道局. 2019年8月8日閲覧。
- ^ “水源・水質 水質に関するトピック トピック第17回 おいしい水”. 東京都 水道局. 2019年8月8日閲覧。
- ^ “美祢市、美東簡易水道を軟水化 処理施設の完成祝う”. 山口新聞. (2017年3月29日)
- ^ “「硬度低減化」機能停止/平良袖山”. 宮古毎日新聞. (2019年7月27日)
- ^ “硬度低減化施設が復旧/市上下水道部”. 宮古毎日新聞. (2019年7月28日)
- ^ 龍野の醤油について
関連項目
外部リンク
- 水の硬度計算 - 高精度計算サイト(カシオ計算機)
- Q&A集 - Q-7)硬度とはどのような概念なのですか(一般社団法人日本ミネラルウォーター協会)
- 食品健康影響評価の結果の通知について 清涼飲料水評価書(カルシウム・マグネシウム等(硬度)) 食品安全委員会、厚生労働省