ビジ語 (中国)

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ビジ語
北土家語
Bretsa
発音 IPA: /bi̥dʒisa/
話される国 中国
地域 主に湖南省湘西トゥチャ族ミャオ族自治州及び隣接地区
話者数 10万以上(2011年)
言語系統
公的地位
公用語 なし
統制機関 なし
言語コード
ISO 639-2 sit
ISO 639-3 tji
消滅危険度評価
Severely endangered (Moseley 2010)
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ビジ語[1](ビジ語:Bretsa 中国語: 北土家語(畢基語))は、チベット・ビルマ語派に属する屈折語の特性を持つ膠着語である。200年前まではほとんどのトゥチャ族(自称: Bretma(ビジ人)・Bretriks(ビジ族)など、800万以上の人口を持ち、中国で8番目に多い民族である。)の母語であったが、現在ビジ語を話せる人口はトゥチャ族全体の1%あまりだけだ。研究者楊再彪の2011年の調査によると、ビジ語は今34の、200ほどの行政村、500以上の村落で使われている。UNESCOに重大な危機に瀕する言語と識別されている。

方言

具体的な数は未だに解明されていないが、ビジ語には方言がある。この数百年のビジ語の衰退により、違う社会階層を持つ一つの高度な言語社会から、町・村ごとの独立の階層性の弱い話者集団の話している言語になったビジ語は、たくさんの地域変異が生じていると推定できる。しかし、方言の数についての調査は行われていないため、詳しい数は未だに解明されていない。以下言及した方言はいくつかの調査が行われた村それぞれの言葉を指し、正式な方言区分ではない。

音声

ビジ語は違う方言において、母音・子音の数の差が大きい。

母音

  • ラシドン方言は最も単純化され、口母音は5個、鼻母音は3個ある。
    • i、e、u、o、ɑ、ĩ、ẽ、ɑ̃
  • バジ方言には口母音は7個、活用だけに現れる母音は2個、鼻母音は4個ある。
    • i、e、a、ɨ、u、ɤ、o、(ɪ、ʊ)、ɐ̃、ĩ、ɘ̃、õ[2]
  • 仙仁方言には口母音は9個、鼻母音は7個ある。[3]
    • i、e、ɛ、ɯ、ə、a、u、o、ɔ、ĩ、ẽ、ɛ̃、ə̃、ã、ũ、õ
  • 小ルンゼ方言には口母音は7個、鼻母音は2個ある。[4]
    • i、e、a、ɯ、ə、u、o、ẽ、ã
  • ツビ方言には口母音は12個、鼻母音は5個ある。
    • i、e、ɛ、y、ø、œ、ɨ、ə、a、u、o、ɔ、õ、ə̃、ɛ̃、ʌ̃、ɑ̃

二重、三重母音

  • ラシドン方言には12個ある。
    • ei、əu、ɑi、ɑu、ie、iɑ、iəu、iɑu、uei、uɑi、iɑ̃、uɑ̃
  • バジ方言には12個ある。
    • ai、ao、ia、iao、eu、ua、uai、ui、ɨi、ɤu、iɐ̃、uɐ̃
  • 仙仁方言には14個ある。
    • ie、iɛ、iə、ia、iɔ、ei、əu、ui、uɛ、ua、iɛ̃、iã、uɛ̃、uã
  • 小ルンゼ方言には17個ある。
    • ie、ia、iə、iu、io、ei、ai、au、ɯe、əu、ui、ue、ua、uə、uo、iau、iəu
  • ツビ方言には二重母音がない。

子音

  • ラシドン方言には18個ある。
    • m、pʰ、p、n、tʰ、t、s、tsʰ、ts、ɲ、ɕ、ʑ、tɕʰ、tɕ、ŋ、kʰ、k、x
  • バジ方言には23個ある。
    • m、pʰ、p、ɸ、β、n、tʰ、t、s、z、tsʰ、ts、l、ɲ、ɕ、j、tɕʰ、tɕ、ŋ、kʰ、k、x、ɣ
  • 仙仁方言には26個ある。
    • m、p、b、w、n、t、d、s、z、ts、dz、l、ɲ、ʂ、ʐ、ʈʂ、ɖʐ、ɕ、ʑ、tɕ、dʑ、ŋ、k、ɡ、x、ʁ
  • 小ルンゼ方言には27個ある。
    • m、pʰ、p、b、w、n、tʰ、t、d、s、z、tsʰ、ts、dz、l、ɲ、ɕ、j、tɕʰ、tɕ、dʑ、ŋ、kʰ、k、ɡ、x、ɣ
  • ツビ方言には34個ある。
    • m、pʰ、p、b、f、v、n、tʰ、t、d、s、z、tsʰ、ts、dz、l、ʃ、ʒ、tʃʰ、tʃ、dʒ、ɲ、ɕ、ʑ、tɕʰ、tɕ、dʑ、ŋ、kʰ、k、ɡ、x、ɣ、ʁ。

バジ方言の音素[x]は、[a, e, o]などの前では無声軟口蓋摩擦音[x]である(無声声門摩擦音[h]の場合もある)が、[i]などの前では無声硬口蓋摩擦音[ç]、[u]などの前では[xɸ]となる。[5]

二重子音語頭と子音語尾

  • ラシドン方言には二重子音語頭がなく、子音語尾はnとŋの2個ある。
  • バジ方言にはmb、nd、ndz、ɲdʑ、ŋɡの5つの二重子音語頭があり、子音語尾はzの1個がある。
  • 仙仁方言にはmb、nd、ndz、ndʐ、ɲdʑ、ŋɡ、mɹ、pɹ、bɹ、ŋɹ、kɹ、ɡɹ、xɹ、ʁɹの14個の二重子音語頭があり、子音語尾はɹの1個がある。
  • 小ルンゼ方言には二重子音語頭がなく、子音語尾はɹ、nとŋの3個がある。
  • ツビ方言には摩擦音+主要子音のような二重子音語頭と、摩擦音の語尾がある。

声調とアクセント

ビジ語には、高低アクセントに極めて近い声調のようなものがある。単音節の自立語は意味区分の役割を果たす声調を持っているが、二音節以上になると(単音節の語に接辞、付属語がつく時も含む)、アクセントに変わる。また、付属語は声調を持っていなく、前の言葉あるいは文全体でアクセントを決める。複合語を作る時も、一つの語の中に何回も上げ下げはしない。中国語などの声調言語のような曲折の声調は存在しない。

語彙

ビジ語は開音節が優勢の言語である。[6] 話言葉においては、語末の鼻音はよく前の母音と合併し、鼻音化した母音になる一方、摩擦音や破擦音の後ろにつくiとuのような母音を消すことが頻繁なため、逆に閉音節が増える。

ビジ語の名詞・代名詞は単数・複数があり、疑問代名詞も単数・複数の形を持っている。敬意を表す時、複数を使う。指示語は一般にn/k系の近称、h系の中称、a系の遠称、ch/g/kh系の不定称からなる。

現代の語彙の多くは中国語から借用している。近代においてはキリスト教の宣教師との交流があったため、少し英語フランス語からの語彙もある。

文法

ビジ語はSOV型の膠着語であるが、屈折語の特徴も強い(例えば、例文の「持っていく」という動詞「atani」、その「ani」は同時に未来時制、遠心方向、直説法を表している)。

形容詞は級、時などを持ち、動詞はなどを持つうえ、副詞は極めて少ない。それらの活用はほぼ接尾辞で表すが、接頭辞接合辞貫通接辞もある。

名詞の格は一般的に助詞で表すが、屈折的な変化で表すこともある(例:家tsʰo‐家に/家でtsʰu;又は 手dʒɛ‐手に/手でdʒoなど)。代名詞の格は屈折である。

例文:

ŋa petɕĩ kʰu tsʰɨ tʰuna ako ɲe poɲi po ɕipa ʑe lapʰi atani.(ラシドン方言)
ŋa petɕĩ kʰu tsʰɨ tʰula ako ɲie poli po sɿpa ze (na) lapʰi ata:li. (バジ方言)
ŋa bɛdʑĩ kʰu aʁəla xodili ɛ akʰɛ o ɕiba laxo napʰi dzadzɔ. (仙仁方言)
ŋə petɕʌ̃ kʰu ⁿtsʰɨ kɨtʰula adʒo ge bɛ bɔ ʃipa dzəpa la(pʰi) taxtʰi. (ツビ方言)
私が 北京 で 勉強している 友 の 子供 に 服 美しい (を) 一(着) 持っていく。

上の文のように、日本語とよく似た骨格が見られるが、形容詞「美しい」の位置は少し異なる。ビジ語の形容詞は名詞の後につくことが多いが、前に置くこともできる。[7]

表記

ビジ語にはもともと文字を持たず、土司時代では漢字でビジ語の音を記述するものをティマ(トゥチャ族伝統宗教における神職)たちの間で使われていた。改土帰流後はだんだん使い辞められた。

1980年代、中国政府の指示で学者によりローマ字を使う新しいビジ語の表記法を開発したが、全然広まっていない。その代わりに、一部のトゥチャ族学者は漢字、チベット文字、仮名、ハングルなど様々な文字を参照し、いろんなビジ語文字を発明したが、同じく広まれていない。[8]

脚注

  1. ^ 中国図書館分類法・中国少数民族語言
  2. ^ 田徳生、『民族語文』1982年4月。
  3. ^ 戴慶厦、田静『仙仁土家語研究』2015年12月。
  4. ^ 楊再彪『湖南西部四種瀕危語言調査』1982年4月。
  5. ^ 蔵緬語編写組、『蔵緬語語音和語彙』、中国社会科学出版社、1991年1月。
  6. ^ 蔵緬語編写組、『蔵緬語語音和語彙』、中国社会科学出版社、1991年1月。
  7. ^ 蔵緬語編写組、『蔵緬語語音和語彙』、中国社会科学出版社、1991年1月。
  8. ^ 新しい文字表記のビジ語による日本語歌のカバーバーション