態
文法範疇 |
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典型的には形態統語的な範疇 |
典型的には形態意味的な範疇 |
形態意味的な範疇 |
態(たい)またはヴォイス (英: voice) は、伝統的な文法において、動詞の形を変える文法範疇の一つで、動詞の表す行為を行為者の側から見るか、行為の対象の側から見るかに従って区別するものである[1]。動詞の活用における屈折 (語形変化)カテゴリの一つ[2]。言語学ではdiathesisとも呼ばれる[3]。
言語学においては、どのような現象を態と見なすかについて一致した見解がない[4]。態の典型的な例としては、能動態と受動態があるが、このほかにも、自発、使役、逆行態、願望、可能、中間態、逆受動態、適用態などが態として扱われる[4]。
かつて古典語の文法ではvoiceを「相」と訳しているものが多かったが、現代ではvoiceの訳としては態をあて、相はアスペクトにあてるのが一般的である。
日本語における態[編集]
能動態[編集]
動作の主体に視点が置かれており、動詞の語幹に「れる・られる」や「せる・させる」が付かない、無標で表される。
受動態[編集]
動作の受け手に視点が置かれており、動詞の語幹に「れる・られる」がつく。受け手には助詞「が」が使われ、主体には「に」「によって」といった助詞がつく。
日本語では動作の直接的な受け手(能動文の「を」で表される動作対象や、「に」で表される授与の相手)以外に、動作が行われることによって間接的に影響を受けるものにも視点が置かれる。これを間接受け身といい、持ち主の受け身と迷惑の受け身がある。例えば、「雨に降られた」と言えば、雨が降ることで、私が迷惑を被ったということを表している。
使役態[編集]
出来事を実現させようとする人物(使役主)に視点が置かれる表現、動詞の語幹に「せる・させる」がつくことで表現される。使役主には「が」を使い、動作主には「に」または「を」が使われる。「を」を使う方が使役主から動作主への強制力が強い。
使役受動態[編集]
使役主・動作主がいる場合に、動作主に視点が置かれ、動作が使役主の強制で行われることを表す。「せられる」が動詞の語幹につくことによって表される。動作主には「が」、使役主には「に」が使われる。「親は子供におもちゃを買わされた」
自発態・可能態・尊敬態[編集]
また、自発態、可能態や尊敬態を認める説もある。これらは
- 助動詞「(ら)れる」で表現できる(その他、可能動詞、尊敬動詞など)
- 「私にはそう思われる」「彼は納豆が食べられない」というように、主体を「に」で、目的語を「が」で(受動態に似た形式)表す
といった共通点がある。
使役自発態、使役可能態、使役尊敬態もある。
交互態[編集]
複数の主語が互いに行為をしあうことを表す文を「交互態」とすることもある。交互態は補助動詞(もしくは動詞語尾)の「あう」(殴りあう、認めあうなど)で示される。
英語の態[編集]
英語の態には能動態と受動態がある。
受動態は能動文の目的語を主語にしたものであり、"be動詞+過去分詞"の構文で示され、動作主は前置詞"by"で示される。
授与動詞の受動態では、能動文の直接・間接目的語の一方が主語になり、もう一方はそのまま残ることになる(間接目的語は省略することも)。また日本語の使役態や持ち主の受け身に相当する表現は、補助動詞(make, let; have など)を用いて能動態で表される。
英語にはまた、能動態の形を取ってはいるが、動作の意味上の主語を省略し、手段・道具を主語に持ってくる言い方がよく用いられる(古代ギリシア語などでは中動態により同じようなことが表現される):
- "The casserole cooked in the oven." 「カセロール(なべ)を使ってオーブンで料理した」
出典[編集]
- ^ Klaiman 1991: 3.
- ^ Middle English Dictionary, voice n. , 6.Gram., University of Michigan.
- ^ Allan, Rutger (2013). "Diathesis/Voice (Morphology of)". Encyclopedia of Ancient Greek Language and Linguistics. doi:10.1163/2214-448X_eagll_COM_00000099。
- ^ a b Shibatani 2006.
参考文献[編集]
- Middle English Dictionary, voice n. - 6.Gram., University of Michigan.
- Fox, Barbara and Pau J. Hopper (eds.) (1994) Voice: form and function. Amsterdam: John Benjamin.
- Klaiman, M. H. (1991) Grammatical voice. Cambridge: Cambridge University Press.
- 生越直樹・木村英樹・鷲尾龍一(編)(2008)『ヴォイスの対照研究:東アジア諸語からの視点』くろしお出版.
- Shibatani, Masayoshi (1985) Passives and related constructions: a prototype analysis. Language 61: 821-848.
- Shibatani, Masayoshi (2006) On the conceptual framework for voice phenomena. Linguistics 44(2): 217-269.
- Shibatani, Masayoshi (ed.) (1988) Passive and Voice. Amsterdam/Philadelphia: John Benjamin.
- Tsunoda, Tasaku and Taro Kageyama (eds.) (2006) Voice and grammatical relations: in honor of Masayoshi Shibatani. Amsterdam: John Benjamin.
外部リンク[編集]
- 堀田隆一「hellog~英語史ブログ #1520. なぜ受動態の「態」が voice なのか」2013-06-25