証拠性 (言語学)
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文法範疇 |
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形態意味的な範疇 |
証拠性(しょうこせい、evidentiality[1])とは、ある発言の情報源がどのようなものかということによって語のかたちを変える文法範疇である[2]。
概要[編集]
例えばコロンビアのバウペス県で話されているタリアナ語では、実際に見たこと、音を聞いてわかったこと、目に見える証拠から推量したこと、すでに知っていることから推量したこと、人から聞いたことはそれぞれ情報源が異なるので、異なる動詞のかたちで表現される[3]。
法(ムード:特定の文法形式で示される場合)もしくはモダリティ(必ずしも文法形式によらない表現の場合)に含まれる。言語によって、副詞句や特殊な動詞で表現される場合や、動詞などの文法的形態・形式で表現される場合、またその明示が義務的である場合・ない場合がある。
現代日本語の例を挙げれば、他者からの情報に基づく伝聞「(する)そうだ」、感覚的情報に基づく様態「(し)そうだ」(未来あるいは直接確認できないことを表現する)、何らかの情報に基づく推定「らしい」「ようだ」のように、助動詞で表される区別がこれに当たる。これらは文法的形式で標示されるので「法」に当たる。
また「何でも」「どうも」などの副詞や、「~によると」など証拠を直接示す形式でも表現できる。
古語の過去を表す助動詞で、直接経験などに基づく確定的過去を表す「き」と、それ以外の(現在から見た)過去あるいは詠嘆を表す「けり」の区別も、証拠性の表現である。
このように証拠性を標示する言語は世界に広く見られ、日本語よりさらに細かく数種類に分類する言語もある。しかし英語などの西欧語ではこのような文法形式による証拠性表現は乏しく、副詞句やlook、seemなどの感覚を表現する動詞などによって表現される。
推量や可能性、蓋然性を示す「だろう」「かもしれない」「にちがいない」などについては、証拠の種類ではなく蓋然性の程度を示す形式であり、証拠性とは分ける考えが一般的である。英語でもこれらについてはwould、might、mustなどの法助動詞による一般的表現形式がある。
脚注[編集]
参考文献[編集]
- Aikhenvald, Alexandra Y. (2006) Evidentiality. New York: Oxford University Press.
- 亀井孝・河野六郎・千野栄一 編 (1996)「実相」『言語学大辞典:第6巻 術語編』657.