テロップ

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テロップ(英語:Telop)は、プロジェクタの一種で、アメリカ合衆国のGray Research & Development Company[1]CBS1949年に実用化したテレビ放送用の静止画送出装置(オペーク装置)の商標。「テレビジョン・オペーク・プロジェクター」(Television Opaque Projector = テレビ用不透明式投影機)の略[1]。「オペーク」とも。

テレビカメラ収録の映像素材を用いずに図像を全画面的に表示するための手段として、単純な情報を簡便に送出する際に重用された。のちにはこの装置とキーイング処理技術を組み合わせた字幕等の透過合成表示(スーパーインポーズ)が可能になり、字幕表示の主力技術となった。1970年代から1990年代にかけて、コンピュータによる画像処理技術が進歩したため、ほとんど用いられなくなった。

このように、「テロップ」という語は「字幕合成に用いられる静止画表示装置」の呼称であったものが、日本の放送業界では、全画面表示の静止画自体や、この技術を応用した字幕表示技術、そしてその字幕自体を指す一般名詞に転じた(例→[2][3][4])。オペーク装置が用いられなくなった時代となっても、ニュースメディアを中心に、特に字幕合成を意味する語として「テロップ」を用いる例がみられる[5][6]。資料の時代、媒体、文脈によって、「テロップ」が全画面表示の静止画を指すのか、それとも字幕を指すのかの区別に注意が必要である。

この項目ではGray社以外の開発によるオペーク装置についての説明も含む。

概要

機構

縦10センチメートル、横12.5センチメートル、厚さ0.2から0.3ミリメートル[1]の、不透明な素材(紙など)でできた、「オペークカード」「テロップカード」「紙焼きテロップ」などと呼ばれる専用のカードに、文字や図像を記入し、装置に装填する。装置は撮影したカードを映像信号に変換して、全画面的に出力する。当初はエピスコープの原理とブラウン管および光電管を用いた走査を組み合わせた機構で図像を造影していたが、のちに放送用カメラ同様固体撮像素子を用いた機構に改良された[1]

カードは用途によって、手書きで作成される場合も、写真植字機電算写植含む)、和文タイプライターワードプロセッサなどで印刷出力される場合もあった。スーパーインポーズ用のカードは、白地に黒文字または黒地に白文字の1色で作成された。テロップ制作会社出身の小説家・燃え殻はカードの費用について「1枚2,000くらいかかっていた」と証言している[7]

多くのオペーク装置は、「キャタピラー」と呼ばれる鎖状に連結された2本以上のフォルダーを持つカード装填装置と、スクロールによる字幕表示のために、専用のロールを縦方向および横方向に送る機能を持つ「ロールストリップ」という巻き取り装置[1]から成った。キャタピラーにカードを入れ、複数の送像装置を交互に切り替えながら送出することで、複数のカードを差し替えつつ、順に放送することができた。後者の装置・技術および素材自体のことを「ロールテロップ」と呼んだ[8]

用途

  • 「テロップカード」のトリキリによる情報の表示
    • 各種のフィラー - 放送事故対応(「しばらくお待ちください」の表示)、局名告知
    • タイトルロゴ等の図像表示(タイトルカード、エンドカード)
    • 提供クレジット
    • インサート素材用の写真・イラストなど
    • 各種の報道 - スポットニュース、気象情報、選挙速報など[1]
    • コマーシャルメッセージ(カードCM・スライドCM)[1] - 「静止画CM」とも。多くは生の送出ではなく、あらかじめフィルムないしVTRに録画された。
  • スーパーインポーズ
    • タイトルロゴ等の図像表示
    • 字幕スーパー - 提供クレジット、スタッフロール、ニュース速報、時刻表示など

備考

  • テロップカードの差し替えは手作業で行われたため、カードの装填方向・装填順の間違いや、誤混入による放送事故がたびたび起きた。
    • 1987年昭和62年)12月5日放送の『ゴールデン洋画劇場 Mr.Boo!インベーダー作戦』の提供クレジット入れ替え表示において、番組後半のスポンサーロゴを上下逆さまに送出する事故が発生した[9]
    • 年月日や時刻は不明だが(少なくとも1969年(昭和44年)から1981年(昭和56年)の間のいずれか)、ある地方局のスタッフの証言によれば、静止画CM送出用のオペーク装置にゴキブリが侵入し、映画番組の本編明け、そのシルエットが大写しになって放送されたことがあったという[10]

電子テロップ

編集のコンピュータ化(ノンリニア編集)が進み、この種の表現には「キャラクタージェネレータ」や映像編集ソフトによるコンピュータグラフィックスを用いた「電子テロップ(電子フリップ)」が使われるようになった。

番組制作システム過渡期には、放送局内の「電子タイトルシステム」により放送用デジタルファイルとしてのトリキリが仕上げられたのち、5.25インチMOディスクなどに収録されて納品され、ファイル送出装置を介し他の字幕スーパー等とともに送出順に並べ替えられ、副調整室(サブ)のスイッチャー卓から呼び出して使用されるのが一般的であった。

のちに、ディスク等を介さず、デジタルデータのままLANにてサブまで送ることができるようになった。

脚注

  1. ^ a b c d e f g テロップ』 - コトバンク
  2. ^ 月刊みなさまの声 2020年3月 NHK。毎月「誤記・誤読などの指摘への対応」を掲載しているが、字幕スーパーの呼称を「テロップ」で統一。
  3. ^ 『なう』『IPPON』日置祐貴氏、めちゃイケから「夢にも思わなかった」ダウンタウンへ - テレビ屋の声(39) マイナビニュース2019年令和元年)11月29日。日置祐貴(フジテレビ)の発言「テロップの色はなんでここが赤なのか黄色なのかも説明できなきゃいけない」。字幕の意味で使用。
  4. ^ 『激レアさん』舟橋政宏氏、若林&弘中アナが見せた「とんでもない名勝負」 - テレビ屋の声(40) マイナビニュース、2019年(令和元年)12月14日。舟橋政宏(テレビ朝日)の発言「『セグロセキレイ』という鳥の名前を『セグロセキエイ』と間違えてテロップを出してしまった」。字幕の意味で使用。
  5. ^ ニュース動画を自動作成 博報堂DYMPが新聞社向け 日本経済新聞2020年(令和2年)1月28日。「記事に関連する写真や映像をアップすると、AIが写真や映像にテロップがついた『ストーリー性のある1本の動画にまとめる』(同社)という」。字幕の意味で使用。
  6. ^ NHK浅野里香アナ、柿くへば「鐘が鳴るよ♪ 法隆寺」 サンケイスポーツ、2020年(令和2年)4月12日。「頭を抱えると『頑張れ! 浅野アナ』のテロップが流れた」。字幕の意味で使用。
  7. ^ 美術制作会社&小説家・燃え殻氏、テレビは「“大ネタ"を提供する大事なもの」 - テレビ屋の声(36) マイナビニュース、2019年(令和元年)8月6日
  8. ^ ロールテロップ』 - コトバンク
  9. ^ ゴールデン洋画劇場 放送事故(1987年) - YouTube - 有志による当時のビデオ録画の引用。
  10. ^ 松谷みよ子編『現代民話考 8 ラジオ・テレビ局の笑いと怪談』(ちくま文庫2003年(平成15年))pp.352-353 - 典拠は晩聲社『放送レポート』84号(1987年1月号)p.9

関連項目