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連続の方程式

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2022年12月20日 (火) 15:47; Family27390 (会話 | 投稿記録) による版(日時は個人設定で未設定ならUTC

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連続の方程式(れんぞくのほうていしき、: equation of continuity、連続方程式、連続の式、連続式などとも言う)は物理学で一般的に適用できる方程式で、「原因もなく物質が突然現れたり消えたりすることはない」という自然な考え方を表す。

保存則と密接に関わっている。

狭義

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狭義には、流体力学における質量保存則

(ρは密度v流れ速度t時間である。∇はナブラを参照。)

あるいは、この式を非圧縮性流体に適用した

を指す。

広義

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広義には、スカラー物理量 q についての保存則

(ρ:q の密度、jq流束

あるいは、更に一般化して、q輸送方程式(一般の保存則)

(σ:q湧き出し密度)

を指すこともある。

広義の連続の方程式の導出

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領域 Ω における物理量 q の総量 M の時間変化を q の生成と流出と合わせて図示したもの。代表点のみの軌跡を記している。青い点の個数はΩにおけるq の総量 M (t ) を表す。ピンクの点の個数は湧き出し Δt S を、黄色の点は流れだす流量 Δt J を表す。図より


が成り立つ事がわかる。

広義の連続の式をフラックス形式あるいは一般の保存則という[1]q をあるスカラー物理量、Ωを固定された有界積分領域、∂ΩをΩの境界である閉曲面とする。

q についての連続の式は、

領域 Ω における q の単位時間あたりの増加量 と 境界 ∂Ω における q の単位時間あたりの流出量流量J とのは、 領域Ωにおける q の単位時間あたりの湧き出し量 S等しい

と表現できる。

ここで q は連続的に分布する量であり、上述の量はすべて何らかの「密度量」で表現できなければいけない。そこで、q の密度 ρ、q の流束 jq の湧き出し密度 σ を導入すると、

と表せる。ここで、dS は、境界 ∂Ω 上の微小素片における外向きの面積ベクトルであり、第2式は流束と面積ベクトルとの積の総和が境界を通って流れ出す q の流量であることを表している。

これにより連続の式は

となる。

ガウスの定理を使って第2項を体積積分で書き換え、第1項の時間微分と体積積分を交換すると

となるので、微分形

が得られる。

特に、湧き出しがないときの連続の式

保存形、あるいは、q保存則の微分形と呼ぶ。

流体における連続の式

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質量保存則

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速度が v で表される流れを考える。ρを質量密度、j を質量の流束とする。流れ、すなわち、移流あるいは対流は速度 v での物質の移動であるので、流束は

となる[2]

質量保存則から連続の式は

となる。

輸送定理による導出

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速度が v で表される流れにおける連続の方程式は、質量保存則とレイノルズの輸送定理を用いても導ける[1]

ここで、実質微分であり、Ω(t ) は流れと共に移動する任意の積分領域とする。1番目の等式は質量保存則を、2番目の等式はレイノルズの輸送定理を表している。

これより、

が成立する。

この式は、実質微分の定義

と公式

を使って、

と等価であることがわかる。

非圧縮性流体についての連続の方程式

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連続の方程式

に対して、非圧縮性流体の性質(密度が一定であること)を付加すると、非圧縮性流体における連続の式が導き出される。密度が一定というのは、空間的に一様という意味ではなく、変形していく領域内で一定という意味である[2]。つまり、 となるので、ρ≠ 0 であることから、

を得る。この式を非圧縮性条件ともいう。

この条件を満たす流れにおいて、流れていく流体要素の体積は不変である。

電磁気学における連続の方程式

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電荷保存則

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電磁気学における連続の式とは電荷の保存則の微分形である[3]。ρ を電荷密度j電流密度とすれば、連続の式は

となる。

変位電流

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マクスウェルの方程式において、電荷の保存則を満たすためにオリジナルのアンペールの式

変位電流を導入する必要があった。修正されたアンペールの式

において、両辺に発散 ∇· を作用させると、左辺はゼロとなるので、

となり、ガウスの式

を代入することで連続の式が得られる。

四元電流

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電荷の保存則を表す連続の式は四元電流を使うことで、ローレンツ共変でコンパクトな形にすることができる。四元電流 Jμ (μ= 0, 1, 2, 3) を

と表す。ここで c光速である。微分演算子

を定義すると、連続の式は

と表現できる。ただし、添字におけるアインシュタインの規約を採用した。

量子力学

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量子力学における連続の式は確率の保存則を表す[4]

Ψ(r , t ) を規格化された波動関数とする。確率密度 ρ、確率流束 j

と定義すると、シュレディンガー方程式

を用いて、確率に対する連続の式

が得られる。

連続の式の導出

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シュレディンガー方程式とその複素共役の式

それぞれに Ψ* , Ψ をそれぞれ掛けて2式の差を取ると

更に

となり、連続の式

ただし、

が得られる。

拡散方程式 

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ブラウン運動などのミクロスケール由来の現象による物質の質量輸送現象を考える[5]。このとき、経験則であるフィックの法則(フィックの第一法則)により流束は

と密度の勾配で与えられる。係数 κ は拡散係数と呼ばれ、次元 をもつ。拡散係数が定数の時、連続の式から拡散方程式

が得られる。

脚注

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出典

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  1. ^ a b 中村育雄『流体解析ハンドブック』(初)共立出版、1998年3月20日。ISBN 4320081188 
  2. ^ a b 巽友正『新物理学シリーズ21 流体力学』培風館、1995年9月。ISBN 456302421X 
  3. ^ 砂川重信『理論電磁気学』(3版)紀伊國屋書店、1999年9月。ISBN 4314008547 
  4. ^ メシア 著、小出昭一郎、田村二郎 訳『量子力学1』(1版)東京図書、1971年6月15日。ISBN 4489012438 
  5. ^ 戸田 盛和; 斎藤 信彦; 久保 亮五; 橋爪 夏樹『岩波講座 現代物理学の基礎 統計物理学』(新装)岩波書店、2011年11月26日。ISBN 4000298054