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窒化ガリウム

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
窒化ガリウム
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識別情報
CAS登録番号 25617-97-4 チェック
PubChem LW9640000 = LW9640000
ChemSpider 105057 チェック
UNII 1R9CC3P9VL チェック
特性
化学式 GaN
モル質量 83.730 g/mol[1]
外観 黄色の粉末
密度 6.1 g/cm3[1]
融点

> 1600 °C[1][4]

への溶解度 不溶[5]
バンドギャップ 3.4 eV (300 K, direct)
電子移動度 1500 cm2/(V·s) (300 K)[2]
熱伝導率 1.3 W/(cm·K) (300 K)[3]
屈折率 (nD) 2.429
構造
結晶構造 ウルツ鉱
空間群 C6v4-P63mc
格子定数 (a, b, c) a = 318.6 pm Å
配位構造 四面体
熱化学
標準生成熱 ΔfHo −110.2 kJ/mol[7]
危険性
安全データシート(外部リンク) Sigma-Aldrich Co., Gallium nitride. Retrieved on 18 February 2024.
GHSピクトグラム 急性毒性(低毒性)
GHSシグナルワード 警告(WARNING)
Hフレーズ H317
Pフレーズ P261, P272, P280, P302+352, P321, P333+313, P501
NFPA 704
0
2
 
引火点 不燃性
関連する物質
その他の陰イオン リン化ガリウム
ヒ化ガリウム
アンチモン化ガリウム
その他の陽イオン 窒化ホウ素
窒化アルミニウム
窒化インジウム
関連物質 ヒ化アルミニウムガリウム
ヒ化インジウムガリウム
窒化アルミニウムガリウム
窒化インジウムガリウム
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。
青色発光ダイオード
窒化ガリウム (GaN) を使用したUSB PD充電器

窒化ガリウム(ちっかガリウム、GaN)はガリウム窒化物であり、青色発光ダイオード(青色LED)の材料として知られる半導体である[8]。また、近年ではパワー半導体レーダーへの応用も期待されている。ガリウムナイトライド (gallium nitride) とも呼ばれる。

物理的性質

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結晶構造ウルツ鉱構造閃亜鉛鉱構造の2種類を取りうるが、前者がエネルギー的に安定であり、よく使われている。ウルツ鉱構造の格子定数は、a軸が 3.18 Å、c軸が 5.17 Å である。

バンドギャップは室温において約 3.4 eV で、波長では約 365 nm に相当し、紫外領域の光源となる。微量のインジウム (In) を加えて InGaN 結晶にすることで紫色、青色の光源として用いることができる。発光ダイオードによる光の三原色のひとつとして交通信号機ディスプレイに用いられる。

GaN は他の半導体と比較して、

  1. 熱伝導率が大きく放熱性に優れている
  2. 高温での動作が可能
  3. 電子の飽和速度が大きい
  4. 絶縁破壊電圧が高い

などの優位性から半導体デバイスとしての応用が大いに期待されている。

電子デバイスへの応用は、AlGaN/GaNのヘテロ構造を利用した高周波デバイスが先行している。これは、GaNの持つピエゾ効果によりヘテロ界面に発生する高密度の二次元電子ガスを利用できるためである。 また、高い絶縁破壊耐圧を持つことから、損失の低いパワーデバイスを実現できると考えられる。

化学的性質

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窒化ガリウムは化学的には非常に安定した物質であり、一般的な酸(塩酸硫酸硝酸など)や塩基には溶けないが、紫外線を照射することで強アルカリには溶解する。

半導体の製造工程におけるエッチングの際には反応性イオンエッチング (reactive ion etching, RIE) によるドライエッチングを行う。

歴史

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1980年代前半はセレン化亜鉛 (ZnSe) と GaN が青色系発光ダイオードの材料の候補であった。このうちGaNは、格子定数と熱膨張係数が GaN に近い基板が存在しなかったこともあり、良質な結晶が得られなかったため、大きな研究進捗は得られなかった[8]。多くの研究者、研究機関は ZnSe を用いて青緑色発光ダイオード作製を目指した。世界の研究者からはZnSeを用いた青緑色半導体レーザも報告されたが、寿命が短く製品化には至らなかった。また炭化ケイ素を使用する系もあったが、実用化には至らなかった[8]

1986年、天野浩がサファイア基板に緩衝層を導入し、GaNの単結晶薄膜を得ることに成功した[8]

1989年、赤崎勇と天野はMgドーピングと電子線照射によりp型の窒化ガリウムを得て、pn接合の青色発光ダイオードを実現した[8]。ただし、GaNは紫外発光であり青色化する必要があった。また電子線照射は実験的には良いが量産化には向かないという課題もあった。

1992年、中村修二らは水素中の熱処理でp型窒化ガリウムが得られることを発見した[8]。その後、InGaNを使用することで青色化された。

2014年、青色発光ダイオードの発明により、赤崎、天野、中村の3名にノーベル物理学賞が授与された[8]

関連項目

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参考文献

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  1. ^ a b c Haynes, William M., ed (2011). 化学と物理のCRCハンドブック英語版 (92nd ed.). CRC Press. p. 4.64. ISBN 1439855110 
  2. ^ Johan Strydom; Michael de Rooij; David Reusch; Alex Lidow (2019). GaN Transistors for efficient power conversion (3 ed.). California, USA: Wiley. p. 3. ISBN 978-1-119-59442-0 
  3. ^ Mion, Christian (2005). "Investigation of the Thermal Properties of Gallium Nitride Using the Three Omega Technique", Thesis, North Carolina State University.
  4. ^ Harafuji, Kenji; Tsuchiya, Taku; Kawamura, Katsuyuki (2004). “Molecular dynamics simulation for evaluating melting point of wurtzite-type GaN crystal”. Journal of Applied Physics 96 (5): 2501. Bibcode2004JAP....96.2501H. doi:10.1063/1.1772878. 
  5. ^ Foster, Corey M.; Collazo, Ramon; Sitar, Zlatko; Ivanisevic, Albena (2013). “abstract NCSU study: Aqueous Stability of Ga- and N-Polar Gallium Nitride”. Langmuir 29 (1): 216–220. doi:10.1021/la304039n. PMID 23227805. 
  6. ^ Bougrov V., Levinshtein M.E., Rumyantsev S.L., Zubrilov A., in Properties of Advanced Semiconductor Materials GaN, AlN, InN, BN, SiC, SiGe. Eds. Levinshtein M.E., Rumyantsev S.L., Shur M.S., John Wiley & Sons, Inc., New York, 2001, 1–30
  7. ^ Haynes, William M., ed (2011). 化学と物理のCRCハンドブック英語版 (92nd ed.). CRC Press. p. 5.12. ISBN 1439855110 
  8. ^ a b c d e f g 竹田美和「青色発光ダイオードの実現とノーベル賞」『化学と教育』第67巻第8号、日本化学会、2019年、362-367頁、doi:10.20665/kakyoshi.67.8_362