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:: 審理は、原則として書面等によって行われる([[s:行政不服審査法#29|第29条]]による弁明書、[[s:行政不服審査法#30|第30条]]による反論書や意見書、[[s:行政不服審査法#32|第32条]]による証拠書類や証拠物、[[s:行政不服審査法#33|第33条]]による物件等)。これは迅速で簡易、かつ着実な処理を行うためであり、'''書面審査主義'''と言われる。
:: 審理は、原則として書面等によって行われる([[s:行政不服審査法#29|第29条]]による弁明書、[[s:行政不服審査法#30|第30条]]による反論書や意見書、[[s:行政不服審査法#32|第32条]]による証拠書類や証拠物、[[s:行政不服審査法#33|第33条]]による物件等)。これは迅速で簡易、かつ着実な処理を行うためであり、'''書面審査主義'''と言われる。
:: 一方で、申立てがあったときは、審査請求人又は参考人は'''口頭での意見陳述'''([[s:行政不服審査法#33|第33条]])を行うことができ、原則その機会が与えなければならないとされている。
:: 一方で、申立てがあったときは、審査請求人又は参考人は'''口頭での意見陳述'''([[s:行政不服審査法#33|第33条]])を行うことができ、原則その機会が与えなければならないとされている。
 
::'''職権主義'''
::'''職権主義'''
:: 審理を主宰する審理員は職権によって証拠調べを行う。つまり、審査請求人や参考人、処分庁の主張しない理由等も独自に調査した上で審理を行うことができる。これは'''職権主義'''といわれ、証拠調べは職権主義に則り、審理員の職権によって行われる。ここでいう「証拠調べ」とは、'''物件の提出要求'''([[s:行政不服審査法#33|第33条]])、'''参考人の陳述や鑑定'''([[s:行政不服審査法#34|第34条]]、[[s:行政不服審査法#35|第35条]])、'''検証'''([[s:行政不服審査法#36|第36条]])、'''質問'''([[s:行政不服審査法#37|第37条]])を指し、職権によって行われる証拠調べのことを'''職権証拠調べ'''という。迅速・簡易かつ着実な手続のために有効と考えられる手段である。
:: 審理を主宰する審理員は職権によって証拠調べを行う。つまり、審査請求人や参考人、処分庁の主張しない理由等も独自に調査した上で審理を行うことができる。これは'''職権主義'''といわれ、証拠調べは職権主義に則り、審理員の職権によって行われる。ここでいう「証拠調べ」とは、'''物件の提出要求'''([[s:行政不服審査法#33|第33条]])、'''参考人の陳述や鑑定'''([[s:行政不服審査法#34|第34条]]、[[s:行政不服審査法#35|第35条]])、'''検証'''([[s:行政不服審査法#36|第36条]])、'''質問'''([[s:行政不服審査法#37|第37条]])を指し、職権によって行われる証拠調べのことを'''職権証拠調べ'''という。迅速・簡易かつ着実な手続のために有効と考えられる手段である。
:: 旧法時代はこの職権による審理の主導権を審査庁が保持していたことで、恣意的かつ処分庁側に有利であって、審査請求人等には不利な審理構造となっているとの批判も考えられたが、改正法では審理の主宰者として審理員が置かれ、かつ審理員には審査請求の事件に関する処分や不作為に関与した職員らは一切関与できない等という除斥事由が設けられた他、その審理員の職責を相当高めたことにより、公正、公平かつ責任ある審理の実現できるよう抜本的な改正が図られたといえる(無論、これで完璧かどうかという保障はなく、さらなる制度としての検証は必要と認められる)。
:: 旧法時代はこの職権による審理の主導権を審査庁が保持していたことで、恣意的かつ処分庁側に有利であって、審査請求人等には不利な審理構造となっているとの批判も考えられたが、改正法では審理の主宰者として審理員が置かれ、かつ審理員には審査請求の事件に関する処分や不作為に関与した職員らは一切関与できない等という除斥事由が設けられた他、その審理員の職責を相当高めたことにより、公正、公平かつ責任ある審理の実現できるよう抜本的な改正が図られたといえる(無論、これで完璧かどうかという保障はなく、さらなる制度としての検証は必要と認められる)。

::'''当事者主義'''
::'''当事者主義'''
:: 行審法は'''当事者主義'''的構造をも大幅に採用している。この点は旧法時代から続いている。
:: 行審法は'''当事者主義'''的構造をも大幅に採用している。この点は旧法時代から続いている。
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:[[s:行政不服審査法#40|第40条]](審理員による執行停止の意見書の提出)
:[[s:行政不服審査法#40|第40条]](審理員による執行停止の意見書の提出)
:: 審理員は、必要があると認める場合には、審査庁に対し、執行停止をすべき旨の意見書を提出することができる。
:: 審理員は、必要があると認める場合には、審査庁に対し、執行停止をすべき旨の意見書を提出することができる。
:[[s:行政不服審査法#41|第41条]]((審理手続の終結)
:: 審理員は、必要な審理を終えたと認めるときは、審理手続を終結するものとする(第1項)。
:: このほか、審理員は、以下のいずれかに該当するときは、審理手続を終結することができる(第2項)。
::#次のイからホに応じて、審理員が該当する審理関係人に対し相当の期間内に該当する書類等を提出するよう求めたにもかかわらず提出されない場合において、更に一定の期間を示して、提出を求めたにもかかわらず、当該提出期間内に当該物件が提出されなかったとき。
    イ 処分庁等 弁明書 ([[s:行政不服審査法#29|第29条]]第2項)
    ロ 審査請求人 反論書 ([[s:行政不服審査法#30|第30条]]第1項)
    ハ 参考人 反論書 ([[s:行政不服審査法#30|第30条]]第2項後段)
    二 審査請求人又は参考人 証拠書類若しくは証拠物 処分庁等 当該処分の理由となる事実を証する書類その他の物件 ([[s:行政不服審査法#32|第32条]]第3項)
    ホ 書類その他の物件の所持人 書類その他の物件 ([[s:行政不服審査法#33|第33条]])
::#申立人が、正当な理由なく、口頭意見陳述に出頭しないとき。
:: 審理員が審理手続を終結したときは、速やかに、審理関係人に対し、審理手続を終結した旨並びに審理員意見書 ([[s:行政不服審査法#42|第42条]]第1項)及び事件記録(審査請求書、弁明書その他審査請求に係る事件に関する書類その他の物件のうち政令で定めるものをいう。[[s:行政不服審査法#42|第42条]]第2項)及び([[s:行政不服審査法#43|第43条]]第2項)において同じ。)を審査庁に提出する予定時期を通知するものとする。当該予定時期を変更したときも、同様とする(第3項)。
:[[s:行政不服審査法#42|第42条]](審理員意見書)
:: 審理員は、審理手続を終結したときは、遅滞なく、審査庁がすべき裁決に関する意見書(以下「審理員意見書」という。)を作成しなければならない(第1項)。
:: 審理員は、審理員意見書を作成したときは、速やかに、これを事件記録とともに、審査庁に提出しなければならない。

==== 行政不服審査会等への諮問 ====
:[[s:行政不服審査法#43|第43条]]
:: 審査庁は、審理員意見書の提出を受けたときは、次の各号のいずれかに該当する場合を除き、審査庁が主任の大臣又は宮内庁長官若しくは内閣府設置法第49条第1項若しくは第2項若しくは国家行政組織法第3条第2項に規定する庁の長である場合にあっては行政不服審査会に、審査庁が地方公共団体の長(地方公共団体の組合にあっては、長、管理者又は理事会)である場合にあっては第81条第1項又は第2項の機関に、それぞれ諮問しなければならない。
::#審査請求に係る処分をしようとするときに他の法律又は政令(条例に基づく処分については、条例)に第9条第1項各号に掲げる機関若しくは地方公共団体の議会又はこれらの機関に類するものとして政令で定めるもの(以下「審議会等」という。)の議を経るべき旨又は経ることができる旨の定めがあり、かつ、当該議を経て当該処分がされた場合
::#裁決をしようとするときに他の法律又は政令(条例に基づく処分については、条例)に第9条第1項各号に掲げる機関若しくは地方公共団体の議会又はこれらの機関に類するものとして政令で定めるものの議を経るべき旨又は経ることができる旨の定めがあり、かつ、当該議を経て裁決をしようとする場合
::#第46条第3項又は第49条第4項の規定により審議会等の議を経て裁決をしようとする場合
::#審査請求人から、行政不服審査会又は第81条第1項若しくは第2項の機関(以下「行政不服審査会等」という。)への諮問を希望しない旨の申出がされている場合(参加人から、行政不服審査会等に諮問しないことについて反対する旨の申出がされている場合を除く。)
::#審査請求が、行政不服審査会等によって、国民の権利利益及び行政の運営に対する影響の程度その他当該事件の性質を勘案して、諮問を要しないものと認められたものである場合
::#審査請求が不適法であり、却下する場合
::#第46条第1項の規定により審査請求に係る処分(法令に基づく申請を却下し、又は棄却する処分及び事実上の行為を除く。)の全部を取り消し、又は第47条第1号若しくは第2号の規定により審査請求に係る事実上の行為の全部を撤廃すべき旨を命じ、若しくは撤廃することとする場合(当該処分の全部を取り消すこと又は当該事実上の行為の全部を撤廃すべき旨を命じ、若しくは撤廃することについて反対する旨の意見書が提出されている場合及び口頭意見陳述においてその旨の意見が述べられている場合を除く。)
::#第46条第2項各号又は第49条第3項各号に定める措置(法令に基づく申請の全部を認容すべき旨を命じ、又は認容するものに限る。)をとることとする場合(当該申請の全部を認容することについて反対する旨の意見書が提出されている場合及び口頭意見陳述においてその旨の意見が述べられている場合を除く。)
:: 行政不服審査会等への諮問は、審理員意見書及び事件記録の写しを添えてしなければならない(第2項)。
:: 行政不服審査会等への諮問をした審査庁は、審理関係人(処分庁等が審査庁である場合にあっては、審査請求人及び参加人)に対し、当該諮問をした旨を通知するとともに、審理員意見書の写しを送付しなければならない(第3項)。



審査請求、再審査請求の審理は、申立人による申立ての取下げか、審査庁による'''[[裁決]]'''によって終了する。
裁決とは、審査請求または再審査請求に対する裁断行為である。 
 裁決・決定には、その内容に応じて却下、棄却、認容の3つに分類される。認容の裁決の際、審査請求人の不利益に当該処分を変更することはできない、とする'''不利益変更禁止の原則'''がある([[s:行政不服審査法#48|第48条]])。




=== 手続の終了 ===
審査請求などの不服申立ての審理は、申立人による申立ての取下げか、審査庁による'''[[裁決]]'''または'''決定'''によって終了する。
裁決とは、審査請求または再審査請求に対する裁断行為をいい([[s:行政不服審査法#40|第40条]])、。 
裁決・決定には、その内容に応じて却下、棄却、認容の3つに分類される。請求人、申立人の不利益に当該処分を変更することはできない、とする'''不利益変更禁止の原則'''がある([[s:行政不服審査法#40|第40条]]第5項、[[s:行政不服審査法#470|第47条]]第3項)。


==== 裁決 ====
==== 裁決 ====

2018年1月16日 (火) 16:32時点における版

行政不服審査法
日本国政府国章(準)
日本の法令
通称・略称 行審法、行服法
法令番号 平成26年法律第68号
種類 行政法
効力 現行法
成立 2014年6月6日
公布 2014年6月13日
施行 2016年4月1日
主な内容 行政不服申立の一般法
関連法令 行政事件訴訟法行政手続法行政機関の保有する情報の公開に関する法律
条文リンク 総務省法令データ提供システム
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  行政不服審査法(ぎょうせいふふくしんさほう、平成26年6月13日法律第68号)は、事後における救済制度としての行政不服申立についての一般法1条)として制定された日本法律である。行政法における行政救済法の一つに分類され、行審法と略される。

概要

 行政不服申立てとは、国民が行政機関に対して紛争の解決を求める法的な争訟手続である。つまり、「行政庁の公権力の行使」(処分)に対し、私人が「行政機関」に対して不服を申立てることを指す。この場合、私人は裁判所ではなく行政機関を相手として事後的救済を求める争訟を提起することになる。

 なお、行政機関によるものでなく司法上の救済(行政訴訟)については行政事件訴訟法がその一般法として制定されている。行政不服審査法、行政事件訴訟法は、いずれも事後の救済制度であるが、事前の救済制度として行政手続法がある。

 行政不服審査法の前身は、1890年に制定された訴願法(明治23年法律第105号)である。訴願法は、「租税及手数料ノ賦課ニ関スル事件、租税滞納処分ニ関スル事件、営業免許ノ拒否又ハ取消ニ関スル事件」等、列記主義の原則により不服申立てのできる場合を限定的に規定していたこともあり、この法律によって十分な救済が図られる内容とは言い難かった。

 また、日本国憲法第76条2項後段は行政機関が終審を行うことを禁止しているが、反対解釈すれば前審を禁じてはおらず、裁判所法3条2項も行政機関が裁判所の前審として審判を行うことを認めている。このことから、行政不服審査法は不服申立てのできる場合を限定するのではなくできない場合を例外規定として設け、その他の処分・不作為についてすべて不服申立てができるとする一般概括主義の原則により構成されている。その他、訴願法と行政不服審査法を比較すると、当事者の手続的な権利の充実という面で大きな進展がみられる。

全面改正

 1962年(昭和37年)制定の行政不服審査法(以下「旧法」という。)制定以来、長らく実質的な改正はなかったが、2014年(平成26年)に現行法を抜本的に改正した行政不服審査法(平成26年6月13日法律第68号)が公布され、2016年(平成28年)4月1日に施行された(平成27年11月26日政令第390号)[1]

 これ以前、第169回国会(2008年)において、不服申立て手続の審査請求への原則的一本化、再審査請求の廃止、審理員による審査請求の手続、行政不服審査会等による諮問手続の設置、審査請求期間の3か月への延長などを内容とする全部改正法案が、内閣より提出されたが、2度の継続審査とされた後、第171回国会(2009年)において衆議院解散(7月21日)されたため審議未了により廃案となった。

 その後、再審査請求は維持するが、原則、審査請求及び再審査請求を経なければ出訴できないという二重前置をやめ、再審査請求手続を経なくても取消訴訟を提起することができる等の変更が加わった[2]ものが2014年に成立した改正法である。

 主な改正点

 旧法と比較して改善された点は、主なものとして次のとおり。  

(1)審査請求への原則一元化

 旧法での基本的な不服申立類型は、審査請求、異議申立ての2種類であった。審査請求を経るか、異議申立てを経るかは原則、該当する処分に関して処分庁に対する上級行政庁があるかないかにより区別されていたものの、異議申立ては審査請求と比較して簡略な手続きであり、かつ処分庁自らが決定庁となり決定を下すような状況となることが大半となり、自ら下した処分を自ら過ちであると認めた上で処分庁が処分を取り消すかまたは変更するようなことが異議申立者にとっては容易に期待できない面があった。

 このため、異議申立てについては、適正手続の保障の観点から問題が残った。

 さらに上級行政庁が偶然存在するか否かにより、手続保障に差異が生じることや、本来異議申立てとなるべきものを不服申立者が単純に勘違いして審査請求としてしまったり、逆に審査請求となるべきものを誤って異議申立てとしてしまったりしたために、その補正の結果、申立て可能な期間を経過してしまい、結局不服申立てができなくなるのを招きやすい等という問題も残った。

 これらの問題を克服し、適正手続の保障・促進の観点から、審査請求への一本化が図られた。  

(2)再調査の請求

 処分庁以外の行政庁に審査請求ができる場合において、処分庁が簡易な手続で迅速に見直しを図る手法として再調査の請求の制度が導入されたただし、この再調査の請求は、個別法等法律が特に定める場合に限ってできることとされ、かつ原則、再調査の請求の間は別途審査請求はできないこととされている。    ただし、この再調査の請求は、個別法等法律が特に定める場合に限ってできることとされ、かつ原則、再調査の請求の間は別途審査請求はできないこととされている。  

(3)審理員制度

 適正手続・公正性の担保の観点から、審査請求の審理手続を主宰する者として審理員制度が置かれた。旧法では、審査請求に対する審理を原処分に関与した職員が主宰することもあり得たが、改正法では原処分に関与した者等が審理の主宰者となることが禁じられ、審理員等-審査請求人-処分庁等という三角関係による審理構造が確保されることとなった。 

(4)行政不服審査会、不服審査機関等への諮問制度

 適正手続・公正性の担保の観点から、第三者機関として、国においては行政不服審査会等が総務省に設置されることとなり、地方公共団体においても相当する機関を設けることとされた。その上で審理員による審理の後、原則としてこれら機関への諮問が義務付けられることとなった。  

(5)審査請求期間の延長

 旧法では原則、不服申立ては処分のあったことを知った日の翌日から起算して「60日」以内にしなければならないとされていたが、改正法により「3か月」に延長された。

(6)標準審査期間制度

 審査庁となるべき処分庁は、審査請求が事務所に到達してから裁決までの間に通常要すべき標準的な期間(標準審査期間)を定める旨の努力義務規定があらたに設けられた。さらに、その期間を定めときは、当該審査庁となるべき行政庁及び関係処分庁(後述参照)の事務所において、備付けその他の適当な方法により公にしておかなければならないとされた。

行政事件訴訟との比較

 行政不服審査は、行政事件訴訟と共に法定の争訟手続である。行政権の行使の違法性をめぐる紛争を解決して、国民の権利利益の救済を目的とする手続きである点で、行政不服審査と行政訴訟は共通している。

 他方、相違点として、不服審査では行政機関自身が争訟の裁断を行うのに対し、行政事件訴訟では裁判所が中立的で公平な第三者として紛争の裁断を行う。不服審査では手続が簡易迅速であると共に、処分の妥当性をも争えるのに対し、行政事件訴訟では手続きの対審性を保障し、当事者に口頭弁論を通して立証・反論の機会を保証する慎重な手続きを踏む。ただし、情報公開法18条は、開示請求決定に対する不服申立ては情報公開・個人情報保護審査会に諮問しなければならないとし、審査の透明性を高めて公平性を確保する。

行政手続法との比較

 行政不服審査は、行政庁による公権力の行使に対する事後の救済手続きに関する制度であるのに対して、行政手続法による手続きは、事前の救済手続きに関する制度である。

 一方で、改正法により導入された審理員の制度は、行政手続法における聴聞の主宰者の制度を参考にして設けられた制度であり、該当する処分や不作為等一連の行為に関与した者以外による審理を徹底させ、審査の透明性、公平性がより高められた点において行政手続法と類似している。また、同様にあらたに導入された標準審査期間も、行政手続法における標準処理期間と類似している。

内容

 行政不服審査法の目的は、「行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し、国民が簡易迅速かつ公正な手続の下で広く行政庁に対する不服申立てをすることができるための制度を定めることにより、国民の権利利益の救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保すること」にある(1条)。

不服申立ての概観

対象

 不服申立ての対象としては、行政庁による処分(その他公権力の行使にあたる行為も含む)の他、行政庁が法令に基づく申請に対して期間内に応答しない不作為もあたる。しかし、「処分」の具体的な内容は法によって規定されているわけではなく、解釈によって定まる。一般に、「処分」の概念は行政行為とほぼ一致するといわれている。この処分概念を巡っては従来から行政事件訴訟法における処分性論でも同様の論争が続いている。不服申立ての対象となる。

 行政不服審査法は申立ての対象となる処分や不作為を原則として限定していない。このような規定の仕方を一般概括主義または概括主義という。これに対して申立てのできる処分等を条文で列記したものに限定する方法を列記主義という。旧法が制定される以前において行政不服申立ての一般法であった訴願法はこの列記主義を採用していた。

 概括主義の例外として不服申立てができない事項は、7条1項各号に挙げられているもののほか、行政事件訴訟法や独占禁止法など他の法令により規定されたものがある。行政不服申立てにおける一般法である本法は、特別法は一般法に優先するという法原則により地方自治法公職選挙法土地収用法などが独自に定める不服申立て制度には適用されない(1条)。また、行政不服審査法に基づく処分も原則対象外とされている。

種類等

 行政庁の処分に対する不服申立ては審査請求によって行われる。行政庁に不服がある場合か、行政庁に不作為がある場合かは問わない(第2条、第3条)。

 なお、審査請求とは別に再審査請求があるが、これは法律に定めがある場合に限りできるものであり、かつ審査請求の裁決を経た後に限られる。

(旧法下では、例えば、行政庁の不作為に関する不服申立ては、申立てをする者が異議申立てと審査請求のどちらによるかを自由に選択できた(旧法第7条)(自由選択主義)。旧法下では、処分に対する不服申立てであっても上級行政庁がない場合や法律によって異議申立てをすべきと規定されている場合には審査請求はできなかった。後者のように異議申立てが可能である場合にはまず異議申立てをし、それでも紛争が解決しない場合にのみ審査請求が可能であるという構成が採られていた。これは異議申立前置主義と呼ばれていた(旧法第20条)。旧法下では異議申立てと審査請求は、一つの処分についてはどちらか一方の不服申し立てしか出来ないのが原則とされ、これは相互独立主義と呼ばれていた。)

 処分をした行政庁のことを処分庁といい、不作為が問題とされる行政庁を不作為庁という(4条1号)。

 また、法律の定めがあれば再調査の請求もできるが、 これは処分に不服がありかつ審査請求を処分庁以外の行政庁にできる場合に限られ、請求先は処分庁となる。さらに、すでに審査請求をしたときは、この限りではない(5条)。

第2条(処分についての審査請求)
 行政庁の処分に不服がある者は、第4条にて定められた審査請求すべき行政庁に対し、審査請求をすることができる。このとき、第5条による再調査の請求を行っているときは原則その決定を経た後に審査請求をすることができる。
第3条(不作為についての審査請求)
 法令に基づき行政庁に対して処分についての申請をした者は、当該申請から相当の期間が経過したにもかかわらず不作為がある場合には、当該不作為についての審査請求をすることができる。
第4条(審査請求をすべき行政庁)
 審査請求をすべき行政庁は、法律又は(条例に基づく処分については、条例)に特別の定めがある場合を除くほか、次のとおりとなる。
  1. 処分庁等(処分庁又は不作為庁。以下同じ。)に上級行政庁がない場合又は処分庁等が主任の大臣若しくは宮内庁長官若しくは内閣府設置法(平成11年法律第89号)第49条第1項若しくは第2項若しくは国家行政組織法(昭和23年法律第120号)第3条第2項に規定する庁の長である場合  当該処分庁等
  2. 宮内庁長官又は内閣府設置法第49条第1項若しくは第2項若しくは国家行政組織法第3条第2項に規定する庁の長が処分庁等の上級行政庁である場合  宮内庁長官又は当該庁の長
  3. 主任の大臣が処分庁等の上級行政庁である場合(1、2の場合を除く。) 当該主任の大臣
  4. 1~3以外の場合 当該処分庁等の最上級行政庁
第5条(再調査の請求)
 処分庁以外の行政庁に対して審査請求をすることができる場合において、法律に再調査の請求ができる旨の定めがあるときは、当該処分に不服がある者は、処分庁に対して再調査の請求ができる。ただし、当該処分についてすでに審査請求をしたときは、この限りでない。
 再調査の請求をしたときは、当該再調査の請求についての決定を経た後でなければ、審査請求をすることができない。ただし、再調査の請求をした日(不備を補正すべきことを命じられた場合にあっては、当該不備を補正した日)の翌日から起算し3月を経過しても処分庁がその決定をしない場合や、決定を経ないことにつき正当な理由がある場合は、審査請求が可能となる。
第6条(再審査請求)
 行政庁の処分につき法律に再審査請求をすることができる旨の定めがある場合には、当該処分についての審査請求の裁決に不服がある者は、再審査請求をすることができる。
 再審査請求は、原裁決(再審査請求をすることができる処分についての審査請求の裁決)又は当該処分を対象として、該当の法律に定める行政庁に対してすることとなる。

 以上のこととは別に、適用除外として不服申立てのできない処分が定められている(第7条)。ただし、これら対象となる処分についても、別途特別に法令にて当該処分又は不作為の性質に応じた不服申立ての制度を設けられられることを妨げないとされ(第8条)、仮に立法化されれば不服申立の途が開かれることとなる。

第7条(適用除外)
 以下の処分及びその不作為については、第2条及び第3条の規定は適用除外、つまり審査請求ができない。
  1. 国会の両院若しくは一院又は議会の議決によつて行われる処分
  2. 裁判所若しくは裁判官の裁判により又は裁判の執行として行われる処分
  3. 国会の両院若しくは一院若しくは議会の議決を経て、又はこれらの同意若しくは承認を得たうえで行われるべきものとされている処分
  4. 検査官会議で決すべきものとされている処分
  5. 当事者間の法律関係を確認し、又は形成する処分で、法令の規定により当該処分に関する訴えにおいてその法律関係の当事者の一方を被告とすべきものと定められているもの
  6. 刑事事件に関する法令に基づき、検察官検察事務官又司法警察職員が行う処分
  7. 国税又は地方税の犯則事件に関する法令(他の法令において準用する場合を含む。)に基づき、国税庁長官、国税局長、税務署長、収税官吏、税関長、税関職員又は徴税吏員(他の法令の規定に基づき、これらの職員の職務を行う者を含む。)が行う処分
  8. 学校、講習所、訓練所又は研修所において、教育、講習、訓練又は研修の目的を達成するために、学生、生徒、児童若しくは幼児若しくはこれらの保護者、講習生、訓練生又は研修生に対して行われる処分
  9. 刑務所少年刑務所拘置所少年院少年鑑別所又は婦人補導院において、収容の目的を達成するために、被収容者に対して行われる処分
  10. 外国人出入国又は帰化に関する処分
  11. 専ら人の学識技能に関する試験又は検定の結果についての処分
  12. この法律に基づく処分(第5章第1節第1款の規定に基づく処分を除く。)
 国の機関又は地方公共団体その他の公共団体若しくはその機関に対する処分で、これらの機関又は団体がその固有の資格において当該処分の相手方となるもの及びその不作為については、行政不服審査法そのものの適用がない(第2項) 。
第8条(特別の不服申立ての制度)
 第7条の規定により審査請求をすることができないとされる処分又は不作為につき、別に法令で当該処分又は不作為の性質に応じた不服申立ての制度を設けることについては、行政不服審査法は制約を設けていない。

審理員及び審理関係人

第9条(審理員)
 審理員は審査請求に関する審理手続の主宰者である。
 審査庁(審査請求がされた行政庁。あとで引継ぎを受けた行政庁を含む。)は、審査庁に所属する職員(第17条に規定する名簿を作成した場合にあっては、当該名簿に記載されている者)のうちから審理員を指名するとともに、その旨審査請求人及び処分庁等(審査庁以外の処分庁等に限る。)に通知しなければならない。ただし、以下の行政機関が審査庁である場合、条例に基づく処分について条例に特別の定めがある場合又は当該審査請求を却下する場合は、その必要はないとされている。
  1. 内閣府の外局である委員会、その委員会で国務大臣がその長に充てられているときにおいて特別に設けられた委員会、国家行政組織法第3条第2項に基づく委員会
  2. 内閣府の宇宙政策委員会、特別の法律又は政令により設置された審議会等(具体的には、民間資金等活用事業推進委員会、日本医療研究開発機構審議会、食品安全委員会、子ども子育て会議、休眠預金等活用審議会、公文書管理委員会、障害者政策委員会、成年後見制度利用促進委員会、原子力委員会、選挙制度審議会、衆議院議員選挙区画定審議会、国会等移転審議会、公益認定等委員会、再就職等監視委員会、退職手当審査会、消費者委員会 等)、1の委員会や庁に設けられる審議会等又は国家行政組織法第8条に基づく審議会等
  3. 普通地方公共団体における教育委員会、選挙管理委員会、人事委員会(人事委員会を置かない普通地方公共団体においては、公平委員会)、監査委員、都道府県における公安委員会、労働委員会、収用委員会、海区漁業調整委員会、内水面漁場管理委員会、市町村における農業委員会、固定資産評価審査委員会又は地方自治法第138条の4第3項に基づき設置された自治紛争処理委員、審査会、審議会、調査会その他の調停、審査、諮問又は調査のための機関
 審理員には、以下の者はなることができない(除斥事由)。
  1. 審査請求に係る処分若しくは当該処分に係る再調査の請求についての決定に関与した者、審査請求に係る不作為に係る処分に関与し、若しくは関与することとなる者
  2. 審査請求人本人、配偶者、四親等内の親族又は同居の親族、審査請求人の代理人
  3. 過去審査請求人の配偶者や四親等内の親族又は同居の家族であったり、代理人であったりした者
  4. 審査請求人の後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人又は補助監督人
  5. 利害関係人
 審査庁が上記1~3の機関である場合又は特別の定めがある場合においては、別表第1の上欄に掲げる規定の適用については、これらの規定中同表の中欄に掲げる字句は、それぞれ同表の下欄に掲げる字句に読み替えるものとし、第17条、第40条、第42条及び第50条第2項の規定は、適用しない。
 審査庁は、必要があると認めるときは、その職員(審理員の除斥事由(ただし、上記1~3の行政機関の構成員にあっては、当該処分や再調査の請求に対する決定、不作為に関与した者についてはここからは除外。)に該当しない者に限る。)に、審査請求人若しくは参加人の意見の陳述を聴かせ、参考人の陳述を聴かせ、検証をさせ、審理関係人に対する質問をさせ、若しくは審理手続の申立てに関する意見の聴取を行わせることができる。
第10条法人でない社団又は財団の不服申立て)
 法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるものは、その名で審査請求をすることができる。
第11条(総代)
 行政に関する紛争は当事者が多数となることも多い。そこで審査請求人が多数の場合には、3名以内の総代を互選することができる。共同審査請求人が総代を互選しない場合において、必要と判断されれば審理員が総代の互選を命じることができる。総代は、各自、他の共同審査請求人のために、審査請求の取下げを除き、当該審査請求に関する一切の行為をすることができる。総代が選任されたときは、共同審査請求人は、総代を通じてのみ当該審査請求の行為をすることができる。
 共同審査請求人に対する行政庁の通知その他の行為は、2人以上の総代が選任されている場合でも、1人の総代に対してすれば足りる。
 共同審査請求人は、必要があると認める場合には、総代を解任できる。
第12条(代理人による審査請求)
 審査請求は代理人によって行うこともできる。
 代理人は、各自、審査請求人のために、当該審査請求に関する一切の行為をすることができる。ただし、審査請求の取下げは、特別の委任を受けた場合に限り、することができる。
第13条(参加人)
 利害関係人(審査請求人以外の者であって審査請求に係る処分又は不作為に係る処分の根拠となる法令に照らし当該処分につき利害関係を有するものと認められる者をいう。)は、審理員の許可を得て、当該審査請求に参加することができる。
 審理員は、必要があると認める場合には、利害関係人に対し、当該審査請求に参加することを求めることができる。
 その参加は代理人でも可能。代理人は各自、参加人のために、参加に関する一切の行為をすることができる。ただし、参加の取下げは、特別の委任を受けた場合に限り、することができる。
第14条(行政庁が裁決をする権限を有しなくなった場合の措置)
 審査請求を受けた行政庁が審査請求後に法令の改廃により裁決をする権限を有しなくなったときは、審査請求書、審査請求録取書及び関係書類その他の物件を新たに裁決をする権限を有することとなった行 政庁に引き継がなければならない。この場合、引継ぎを受けた行政庁は、速やかに、その旨を審査請求人及び参加人に通知しなければならない。)
第15条(審理手続の承継) 
 審査請求人が死亡したときは、相続人その他法令により審査請求の目的である処分に係る権利を承継した者は、審査請求人の地位を承継する。法人や社団、財団に関して、合併又は分割(審査請求の目的で ある処分に係る権利を承継させるものに限る。)があったときは、合併後に存続する法人等やあらたに設立された法人等、分割により当該権利を承継した法人は、審査請求人の地位を承継する(第1項、第2項)。
 権利を承継した者は、書面でその旨を審査庁に届け出なければならない。その届出書には、死亡若しくは分割による権利の承継又は合併の事実を証する書面を添付しなければならない(第3項)。
 権利の承継の場合、承継の旨の届出がされるまでの間において、死亡者や合併前の法人等、分割をした法人に宛てになされた通知が権利を承継した者に到達したときは、当該通知は、権利を承継した者に対する通知としての効力を持つ(第4項)。
 審査請求人の死亡による権利の承継の場合、審査請求人の地位を承継した相続人らが2人以上あるときは、その1人に対する通知その他の行為は、全員に対してされたものとみなされる(第5項)。
 審査請求の目的である処分に係る権利を譲り受けた者は、審査庁の許可を得て、審査請求人の地位を承継することができる(第6項)。 
第16条(標準審理期間)
 審査庁となるべき行政庁は、審査請求がその事務所に到達してする裁決をするまでに通常要すべき標準的な期間を定めるよう努めるとともに、これを定めたときは、その行政庁及び関係処分庁(対象の処分の権限を有する行政庁で審査庁となるべき行政庁以外の行政庁)の事務所において、備付けその他の適当な方法により公にしておかなければならない。
第17条(審理員となるべき者の名簿)
 審査庁となるべき行政庁は、審理員となるべき者の名簿を作成するよう努めるとともに、名簿を作成したときは、その事務所及び関係処分庁の事務所における備付けその他の適当な方法により公にしておかなければならない。

手続

 再審査請求の手続については第62条以下に規定があるが、審査請求の規定が概ね準用されている。あらたに設けられた再調査の請求に関する手続は第54条以下に規定がある。各制度特有の手続についてはその都度説明を加える。なお、これらの手続によっても紛争が解決しない場合には行政事件訴訟法に基づいて訴訟を提起し、司法審査(裁判所による裁判)を受けることができる。

審査請求の手続

 国民が行政機関を相手として救済を求めるために不服申立て手続きを発意(争訟を提起)しても、これを行政機関が受理しなければ救済手続きは実質的に開始されない。よって、不服申立てを不受理として門前払いすることは許されず、たとえ不適法な申立であっても処分庁または審査庁はこれを受理し、不服申立ての手続きを行わなければならない。このような処分庁または審査庁の不服申立ての受理・手続き開始義務の根拠は、次の点にある。

  • 法の趣旨
    行政不服審査法の法律の趣旨は、「国民に対して広く行政庁に対する不服申立てのみちを開くことによつて、簡易迅速な手続による国民の権利利益の救済を図る」ことを主要な目的としており、不服申立てを不受理とする処分を行うことは法律の趣旨に反する。
  • 手続開始義務を前提とした制度
    審査請求及び再審査請求に対する裁決には、それぞれ「法定の期間経過後にされたものであるとき、その他不適法であるとき」は、これを却下する旨の規定(第45条第1項、第66条)があり、たとえ法定の期間経過後にされ審査請求等て、その他不適法であ審査請求等てであったとしても、これを受理したうえで審理し、却下の決定・裁決をすることとされている。 
第18条(審査請求期間)
 審査請求は、処分があったことを知った日の翌日から起算して3ヶ月以内、その前に再調査の請求を行っていた場合は当該再調査の請求に対する決定を知った日の翌日から起算して1ヶ月以内にしなければならない(第1項)。
 審査請求は、処分があった日(当該処分について再調査の請求を行っていた場合は当該再調査の請求に対する決定の日)の翌日から起算して1年を経過したときは、正当な理由がない限りできない(第2項)。
 審査請求書を郵便又は一般信書便事業者若しく特定信書便事業者による信書便で提出した場合において、その送付に要した日数は、審査請求期間の計算には算入されない(第3項)。
 処分がその名宛人に個別に通知される場合においては、「処分があったことを知った日」とは、その者が処分があったことを現実に知った日のことをいい、処分があったことを知り得たというだけでは足りない、とするのが判例である。
 処分が個別の通知ではなく告示をもって多数の関係権利者等に告示される場合においては、「処分があったことを知った日」とは処分の効力を受ける者が現実に処分の存在を知った日ではなく、告示があった日をいう、とするのが判例である。
第19条(審査請求書の提出)
 審査請求は、原則審査請求書を提出してしなければならない(他の法律(条例に基づく処分については、条例)に口頭ですることができる旨の定めがある場合を除く。第1項)。
 処分についての審査請求書における記載事項は以下のとおり(第2項)。
  1. 審査請求人の氏名又は名称及び住所又は居所
  2. 審査請求に係る処分の内容
  3. 審査請求に係る処分(当該処分について再調査の請求についての決定を経たときは、当該決定)があったことを知った年月日
  4. 審査請求の趣旨及び理由
  5. 処分庁の教示の有無及びその内容
  6. 審査請求の年月日
 不作為についての審査請求書における記載事項は以下のとおり(第3項)。
  1. 審査請求人の氏名又は名称及び住所又は居所
  2. 当該不作為に係る処分についての申請の内容及び年月日
  3. 審査請求の年月日
 なお、審査請求人が法人その他の社団若しくは財団である場合、総代を互選した場合又は代理人によって審査請求をする場合には、審査請求書には、さらにその代表者若しくは管理人、総代又は代理人の氏名及び住所又は居所を記載しなければならない(第4項)。
 処分についての審査請求書には、上記の事項の他、次の場合においては、それぞれの事項を記載しなければならない(第5項)。
  1. 再調査の請求日(請求に不備があった場合にはその補正をした日)の翌日から起算して3月を経ても決定がないまま審査請求をする場合 再調査の請求をした年月日
  2. 再調査の請求の決定を経ないで審査請求をすることに正当な理由がある場合 その決定を経ないことについての正当な理由
  3. 審査請求期間の経過後において審査請求をする場合 審査請求をすることについての正当な理由
第20条(口頭による審査請求)
 口頭で審査請求をする場合には、第19条第2項から第5項までに規定する事項を陳述しなければならない。この場合において、陳述を受けた行政庁は、その陳述の内容を録取し、これを陳述人に読み聞かせて 誤りのないことを確認し、陳述人に押印させなければならない。
     地方自治法206条
     地方自治法238条の7(行政財産を使用する権利に関する処分についての不服申立て)
第21条(処分庁等を経由する審査請求)
 審査請求をすべき行政庁が処分庁等と異なる場合における審査請求は、処分庁等を経由してすることができる。この場合、審査請求人は、処分庁等に審査請求書を提出し、又は処分庁等に対し第19条第2項から第5項までに規定する事項を陳述するものとする(第1項)。
 この場合、処分庁等は、直ちに、審査請求書又は審査請求録(第20条後段の規定により陳述の内容を録取した書面)を審査庁となるべき行政庁に送付しなければならない(第2項)。
 この場合における審査請求期間の計算については、処分庁に審査請求書を提出し、又は処分庁に対し当該事項を陳述した時に、処分についての審査請求があったものとみなす(第3項)。
第22条(誤った教示をした場合の救済)
 審査請求ができる処分につき、処分庁が誤って審査請求をすべき行政庁でない行政庁を審査請求をすべき行政庁として教示した場合にその教示された行政庁に書面で審査請求がされたときは、当該行政庁は、速やかに、審査請求書を処分庁又は審査庁となるべき行政庁に送付し、かつ、その旨を審査請求人に通知しなければならない(第1項)。
 誤った教示により処分庁に審査請求書が送付されたときは、処分庁は、速やかに、これを審査庁となるべき行政庁に送付し、かつ、その旨を審査請求人に通知しなければならない(第2項)。
 審査請求ができる処分で再調査の請求ができない処分につき、処分庁が誤って再調査の請求ができる旨を教示した場合において、当該処分庁に再調査の請求がされたときは、処分庁は、速やかに、再調査の請求書又は再調査の請求録取書を審査庁となるべき行政庁に送付し、かつ、その旨を再調査の請求人に通知しなければならない(第3項)。
 再調査の請求ができる処分につき、処分庁が誤って審査請求をすることができる旨を教示しなかった場合において、当該処分庁に再調査の請求がされた場合であって、再調査の請求人から申立てがあったときは、処分庁は、速やかに、再調査の請求書又は再調査の請求録取書及び関係書類その他の物件を審査庁となるべき行政庁に送付しなければならない。この場合、その送付を受けた行政庁は、速やかに、その旨を再調査の請求人及びり当該再調査の請のに参人者に通知しなければならない(第4項)。
 審査請求書又は再調査の請求書若しくは再調査の請求録取書が審査庁となるべき行政庁に送付されたときは、初めから審査庁となるべき行政庁に審査請求がされたものとみなされる(第5項)。
第23条(審査請求書の補正)
 審査請求書がその提出方法や記載事項を定めた第19条の規定に違反する場合には、審査庁は、相当の期間を定め、その期間内に不備を補正すべきことを命じなければならない。
 本条は、再審査請求について第66条において準用されている。
 補正命令の趣旨は審査請求について、それが不適法であっても補正ができるときは、その補正を命じなければならないところにある。換言すれば、たとえ不適法な審査請求であっても、これを受理したうえで補正することができるものであるときは、その補正を命じることを審査庁に義務付けている。
 行政庁は申立てがあった場合には何らかの応答をすべき義務を負う。申立てが要件を満たさない場合には却下し、要件を満たした適法な申立てについては審理し、裁決・決定を行う。これを要件審理という。
 具体的には、行政庁による処分または不作為が存在するか、当該審査請求は当事者能力と当事者適格のある者が、その審査請求を処理する権限のある行政庁に対して、審査請求期間内に行われたものであるか、の確認である。補正を命ぜずに申立てを却下したのなら、その却下裁決は違法となり、結果、取り消されるべき瑕疵を帯びる。
 審査請求には一定の請求期間が定められている(第18条)。これを徒過した場合、もはや審査請求が不可能となる(行政行為の不可争力を参照)。
第24条(審理手続を経ないでする却下裁決)
 補正を命じられたにもかかわらず、審査請求人が期間内に不備を補正しないときは、審査庁は、行政不服審査法に定める審理手続を経ないで、裁決で、当該審査請求を却下することができる(第1項)。審査請求が不適法であって補正ができないことが明らかなときも、同様となる(第2項)。
第25条(執行停止)
 審査請求は、処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない(第1項)。
 処分庁の上級行政庁又は処分庁である審査庁は、必要な場合には、審査請求人の申立てにより又は職権で、処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止その他の措置(「執行停止」)をとることができる(第2項)。
 処分庁の上級行政庁又は処分庁のいずれでもない審査庁は、必要な場合には、審査請求人の申立てにより、処分庁の意見を聴取した上、執行停止をすることができる。ただし、処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止以外の措置をとることはできない(第3項)。
 上記審査請求人の申立てがあった場合において、処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる重大な損害を避けるために緊急の必要があると認めるときは、審査庁は、執行停止をしなければならない。ただし、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、又は本案について理由がないとみえるときは、この限りでない。
 審査庁は、上記の重大な損害を生ずるか否かの判断に当たっては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとする(第5項)。
 処分の効力の停止は、処分の効力の停止以外の措置によって目的を達することができるときは、することができない(第6項)。
 執行停止の申立てがあったとき、又は審理員から執行停止をすべき旨の意見書が提出されたときは、審査庁は、速やかに、執行停止をするかどうかを決定しなければならない(第7項)。
第26条(執行停止の取消し)
 執行停止後、執行停止が公共の福祉に重大な影響を及ぼすことが明らかとなったとき、その他事情が変更したときは、審査庁は、その執行停止を取り消すことができる。
第27条(審査請求の取下げ)
 審査請求人は、裁決があるまでは、いつでも審査請求を取り下げることができる(第1項)。審査請求の取下げは、書面でしなければならない(第2項)。

審理

審理原則
書面審理主義
 審理は、原則として書面等によって行われる(第29条による弁明書、第30条による反論書や意見書、第32条による証拠書類や証拠物、第33条による物件等)。これは迅速で簡易、かつ着実な処理を行うためであり、書面審査主義と言われる。
 一方で、申立てがあったときは、審査請求人又は参考人は口頭での意見陳述第33条)を行うことができ、原則その機会が与えなければならないとされている。
職権主義
 審理を主宰する審理員は職権によって証拠調べを行う。つまり、審査請求人や参考人、処分庁の主張しない理由等も独自に調査した上で審理を行うことができる。これは職権主義といわれ、証拠調べは職権主義に則り、審理員の職権によって行われる。ここでいう「証拠調べ」とは、物件の提出要求第33条)、参考人の陳述や鑑定第34条第35条)、検証第36条)、質問第37条)を指し、職権によって行われる証拠調べのことを職権証拠調べという。迅速・簡易かつ着実な手続のために有効と考えられる手段である。
 旧法時代はこの職権による審理の主導権を審査庁が保持していたことで、恣意的かつ処分庁側に有利であって、審査請求人等には不利な審理構造となっているとの批判も考えられたが、改正法では審理の主宰者として審理員が置かれ、かつ審理員には審査請求の事件に関する処分や不作為に関与した職員らは一切関与できない等という除斥事由が設けられた他、その審理員の職責を相当高めたことにより、公正、公平かつ責任ある審理の実現できるよう抜本的な改正が図られたといえる(無論、これで完璧かどうかという保障はなく、さらなる制度としての検証は必要と認められる)。
当事者主義
 行審法は当事者主義的構造をも大幅に採用している。この点は旧法時代から続いている。
 具体的には、審査請求人や参加人は口頭で意見を述べる機会を与えるよう審査庁に請求することができるとした第33条の規定や審査請求人および参加人からの証拠提出権や証拠調べに立ち会う権利、提出された物権の閲覧請求権などが認められていること等ある(以上上記記載と一部重複)。
第28条(審理手続の計画的進行)
 審査請求人、参加人及び処分庁等(以下「審理関係人」という。)並びに審理員は、簡易迅速かつ公正な審理の実現のため、審理において、相互に協力するとともに、審理手続の計画的な進行を図らなければならない。
第29条(弁明書の提出)
 審理員は、審査庁から指名されたときは、直ちに、審査請求書又は審査請求録取書の写しを処分庁等に送付しなければならない。ただし、処分庁等が審査庁である場合には、この限りでない(第1項)。
 審理員は、相当の期間を定めて、処分庁等に対し、弁明書の提出を求めるものとする(第2項)。
 処分庁等は、弁明書に、以下の区分に応じ、それぞれの事項を記載しなければならない(第3項)。
  1. 処分についての審査請求に対する弁明書 処分の内容及び理由
  2. 不作為についての審査請求に対する弁明書 処分をしていない理由並びに予定される処分の時期、内容及び理由
 処分庁が次の書面を保有する場合には、処分についての審査請求に対する弁明書にこれを添付するものとされる(第4項)。
  1. 行政手続法(平成5年法律第88号)第24条第1項の調書及び同条第3項の報告書
  2. 行政手続法第29条第1項に規定する弁明書
 審理員は、処分庁等から弁明書の提出があったときは、弁明書を審査請求人及び参加人に送付しなければならない(第5項)。
第30条(反論書等の提出)
 審査請求人は、送付された弁明書への記載事項に対する反論を記載した書面(「反論書」)を提出することができる。この場合、審理員が反論書を提出すべき相当の期間を定めたときは、その期間内にこれを提出しなければならない(第1項)。
 参加人は、審査請求に係る事件に関する意見を記載した書面(第40条及び第42条第1項を除き、以下「意見書」という。)を提出できる。この場合、審理員が、意見書を提出すべき相当の期間を定めたときは、その期間内にこれを提出しなければならない(第2項)。
 審理員は、審査請求人から反論書の提出があったときはこれを参加人及び処分庁等に、参加人から意見書の提出があったときはこれを審査請求人及び処分庁等に、それぞれ送付しなければならない(第3項)。
第31条(口頭意見陳述)
 審査請求人又は参加人の申立てがあった場合には、審理員は、その申立人に口頭で審査請求に係る事件に関する意見を述べる機会を与えなければならない。ただし、当該申立人の所在その他の事情により当該意見を述べる機会を与えることが困難であると認められる場合には、この限りでないとされている(第1項)。
 口頭での意見陳述は、審理員が期日及び場所を指定し、全ての審理関係人を招集してさせるものとする(第2項)。
 口頭での意見陳述において、申立人は、審理員の許可を得て、補佐人とともに出頭することができる(第3項)。
 口頭での意見陳述において、審理員は、申立人のする陳述が事件に関係のない事項にわたる場合その他相当でない場合には、これを制限することができる(第4項)。
 口頭での意見陳述に際し、申立人は、審理員の許可を得て、審査請求に係る事件に関し、処分庁等に対して、質問を発することができる(第5項)。
第32条(証拠書類等の提出)
 審査請求人又は参加人は、証拠書類又は証拠物を提出することができる(第1項)。
 処分庁等は、当該処分の理由となる事実を証する書類その他の物件を提出することができる(第2項)。
 審理員が、証拠書類若しくは証拠物又は書類その他の物件を提出すべき相当の期間を定めたときは、その期間内にこれを提出しなければならない(第3項)。
第33条(物件の提出要求)
 審理員は、審査請求人若しくは参加人の申立てにより又は職権で、書類その他の物件の所持人に対し、相当の期間を定めて、その物件の提出を求めることができる。この場合において、審理員は、その提出された物件を留め置くことができる。
第34条(参考人の陳述及び鑑定の要求)
 審理員は、審査請求人若しくは参加人の申立てにより又は職権で、適当と認める者に、参考人としてその知っている事実の陳述を求め、又は鑑定を求めることができる。
第35条(検証)
 審理員は、審査請求人若しくは参加人の申立てにより又は職権で、必要な場所につき、検証をすることができる(第1項)。申立てにより検証をしようとするときは、審理員はあらかじめ、その日時及び場所を当該申立てをした者に通知し、これに立ち会う機会を与えなければならない(第2項)。
第36条(審理関係人への質問)
 審理員は、審査請求人若しくは参加人の申立てにより又は職権で、審査請求に係る事件に関し、審理関係人に質問することができる。
第37条(審理手続の計画的遂行)
 審理員は、審査請求に係る事件について、審理事項が多数又は錯綜しているなど事件が複雑であることその他の事情により、迅速かつ公正な審理を行うため、上記の審理手続を計画的に遂行する必要があると認める場合には、期日及び場所を指定して、審理関係人を招集し、あらかじめ、これらの審理手続の申立てに関する意見の聴取を行うことができる(第1項)。
 審理員は、審理関係人が遠隔の地に居住している場合その他相当と認める場合には、審理員及び審理関係人が音声の送受信により通話をすることができる方法によって、審理手続の申立てに関する意見の聴取を行うことができる(第2項)。
 審理員は、これら意見の聴取を行ったときは、遅滞なく、上記の審理手続の期日及び場所並びに審理手続の終結の予定時期を決定し、これらを審理関係人に通知するものとする。当該予定時期を変更したときも、同様とする(第3項)。
第38条(審査請求人等による提出書類等の閲覧等)
 審査請求人又は参加人は、審理手続の終結までの間、審理員に対し、提出書類等(第29条第4項各号に掲げる書面又は第32条第1項若しくは第2項若しくは第33条の規定により提出された書類その他の物件をいう。次項において同じ。)の閲覧(電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)にあっては、記録された事項を審査庁が定める方法により表示したものの閲覧)又は当該書面若しくは当該書類の写し若しくは当該電磁的記録に記録された事項を記載した書面の交付を求めることができる。この場合において、審理員は、第三者の利益を害するおそれがあると認めるとき、その他正当な理由があるときでなければ、その閲覧又は交付を拒むことができない(第1項)。
 審理員は、上記の閲覧をさせ、又は書面等の交付をしようとするときは、当該閲覧又は交付に係る提出書類等の提出人の意見を聴かなければならない。ただし、審理員が、その必要がないと認めるときは、この限りでない(第2項)。
 審理員は、上記の閲覧について、日時及び場所を指定することができる(第3項)。
 書類等の交付を受ける審査請求人又は参加人は、実費の範囲内において政令で定める額の手数料を納めなければならない(第4項)。
 審理員は、経済的困難その他特別の理由があると認めるときは、政令で定めるところにより、手数料を減額し、又は免除することができる(第5条)。
 地方公共団体(都道府県、市町村及び特別区、地方公共団体の組合に限る。以下同じ。)に所属する行政庁が審査庁である場合における手数料の納付、減額、免除については、条例で定める。国又は地方公共団体に所属しない行政庁が審査庁である場合における手数料の納付、減額、免除については、審査庁が定める(第6項)。
第39条(審理手続の併合又は分離)
 審理員は、必要があると認める場合には、数個の審査請求に係る審理手続を併合し、又は併合された数個の審査請求に係る審理手続を分離することができる。
第40条(審理員による執行停止の意見書の提出)
 審理員は、必要があると認める場合には、審査庁に対し、執行停止をすべき旨の意見書を提出することができる。
第41条((審理手続の終結)
 審理員は、必要な審理を終えたと認めるときは、審理手続を終結するものとする(第1項)。
 このほか、審理員は、以下のいずれかに該当するときは、審理手続を終結することができる(第2項)。
  1. 次のイからホに応じて、審理員が該当する審理関係人に対し相当の期間内に該当する書類等を提出するよう求めたにもかかわらず提出されない場合において、更に一定の期間を示して、提出を求めたにもかかわらず、当該提出期間内に当該物件が提出されなかったとき。

    イ 処分庁等 弁明書 (第29条第2項)     ロ 審査請求人 反論書 (第30条第1項)     ハ 参考人 反論書 (第30条第2項後段)     二 審査請求人又は参考人 証拠書類若しくは証拠物 処分庁等 当該処分の理由となる事実を証する書類その他の物件 (第32条第3項)     ホ 書類その他の物件の所持人 書類その他の物件 (第33条

  1. 申立人が、正当な理由なく、口頭意見陳述に出頭しないとき。
 審理員が審理手続を終結したときは、速やかに、審理関係人に対し、審理手続を終結した旨並びに審理員意見書 (第42条第1項)及び事件記録(審査請求書、弁明書その他審査請求に係る事件に関する書類その他の物件のうち政令で定めるものをいう。第42条第2項)及び(第43条第2項)において同じ。)を審査庁に提出する予定時期を通知するものとする。当該予定時期を変更したときも、同様とする(第3項)。
第42条(審理員意見書)
 審理員は、審理手続を終結したときは、遅滞なく、審査庁がすべき裁決に関する意見書(以下「審理員意見書」という。)を作成しなければならない(第1項)。
 審理員は、審理員意見書を作成したときは、速やかに、これを事件記録とともに、審査庁に提出しなければならない。

行政不服審査会等への諮問

第43条
 審査庁は、審理員意見書の提出を受けたときは、次の各号のいずれかに該当する場合を除き、審査庁が主任の大臣又は宮内庁長官若しくは内閣府設置法第49条第1項若しくは第2項若しくは国家行政組織法第3条第2項に規定する庁の長である場合にあっては行政不服審査会に、審査庁が地方公共団体の長(地方公共団体の組合にあっては、長、管理者又は理事会)である場合にあっては第81条第1項又は第2項の機関に、それぞれ諮問しなければならない。
  1. 審査請求に係る処分をしようとするときに他の法律又は政令(条例に基づく処分については、条例)に第9条第1項各号に掲げる機関若しくは地方公共団体の議会又はこれらの機関に類するものとして政令で定めるもの(以下「審議会等」という。)の議を経るべき旨又は経ることができる旨の定めがあり、かつ、当該議を経て当該処分がされた場合
  2. 裁決をしようとするときに他の法律又は政令(条例に基づく処分については、条例)に第9条第1項各号に掲げる機関若しくは地方公共団体の議会又はこれらの機関に類するものとして政令で定めるものの議を経るべき旨又は経ることができる旨の定めがあり、かつ、当該議を経て裁決をしようとする場合
  3. 第46条第3項又は第49条第4項の規定により審議会等の議を経て裁決をしようとする場合
  4. 審査請求人から、行政不服審査会又は第81条第1項若しくは第2項の機関(以下「行政不服審査会等」という。)への諮問を希望しない旨の申出がされている場合(参加人から、行政不服審査会等に諮問しないことについて反対する旨の申出がされている場合を除く。)
  5. 審査請求が、行政不服審査会等によって、国民の権利利益及び行政の運営に対する影響の程度その他当該事件の性質を勘案して、諮問を要しないものと認められたものである場合
  6. 審査請求が不適法であり、却下する場合
  7. 第46条第1項の規定により審査請求に係る処分(法令に基づく申請を却下し、又は棄却する処分及び事実上の行為を除く。)の全部を取り消し、又は第47条第1号若しくは第2号の規定により審査請求に係る事実上の行為の全部を撤廃すべき旨を命じ、若しくは撤廃することとする場合(当該処分の全部を取り消すこと又は当該事実上の行為の全部を撤廃すべき旨を命じ、若しくは撤廃することについて反対する旨の意見書が提出されている場合及び口頭意見陳述においてその旨の意見が述べられている場合を除く。)
  8. 第46条第2項各号又は第49条第3項各号に定める措置(法令に基づく申請の全部を認容すべき旨を命じ、又は認容するものに限る。)をとることとする場合(当該申請の全部を認容することについて反対する旨の意見書が提出されている場合及び口頭意見陳述においてその旨の意見が述べられている場合を除く。)
 行政不服審査会等への諮問は、審理員意見書及び事件記録の写しを添えてしなければならない(第2項)。
 行政不服審査会等への諮問をした審査庁は、審理関係人(処分庁等が審査庁である場合にあっては、審査請求人及び参加人)に対し、当該諮問をした旨を通知するとともに、審理員意見書の写しを送付しなければならない(第3項)。


審査請求、再審査請求の審理は、申立人による申立ての取下げか、審査庁による裁決によって終了する。
裁決とは、審査請求または再審査請求に対する裁断行為である。 

 裁決・決定には、その内容に応じて却下、棄却、認容の3つに分類される。認容の裁決の際、審査請求人の不利益に当該処分を変更することはできない、とする不利益変更禁止の原則がある(第48条)。


裁決

裁決はその実効性を確保するため、他の行政機関に対する拘束力をもつ(第43条)。また、裁決を職権によって変更することはできない。これは伝統的に行政行為の不可変更力と言われてきたものである。

  • 第40条(裁決)
  • 第41条(裁決の方式)
    1. 裁決は、書面で行ない、かつ、理由を附し、審査庁がこれに記名押印をしなければならない。
    2. 審査庁は、再審査請求をすることができる裁決をする場合には、裁決書に再審査請求をすることができる旨並びに再審査庁及び再審査請求期間を記載して、これを教示しなければならない。
却下・棄却

却下は、審査請求要件を満たさず、不適法であった場合に行われる。つまり要件審理の段階で裁断されるので、申審査請求容については審理されない。これに対して棄却は、不服審査請求を審理したものの申立てを認めるべき理由がない場合に行われる。

ただし、審査請求で言主張正しいと判断しつつも、それを棄却する場合がある。これを事情裁決という(第40条第6項)。つまり、処分が違法又は不当ではあるが、これを取り消し又は撤廃することによって公の利益に著しい障害を生ずる場合には、諸般の事情を考慮して請求を棄却することができるのである。ただしこの場合、審査庁は裁決で当該処分が違法又は不当であることを宣言しなければならない。

認容

審査請求にあると認められる場合を認容という。その対象が処分についてのものか、事実行為についてのものか、不作為についてのものかに応じて規定が設けられている。処分についての審査請求が認容された場合、審査庁は裁決によって処分の全部または一部を取り消し、さらには審査請求人のために処分の内容を変更する。事実行為に対する審査請求の場合、その全部または一部を撤廃すべきことを命じ、裁決によってそのことを宣言する (40条3項)。

不作為に対する審査請求が認容された場合、審査庁は不作為庁に対して何らかの行為をすべきことを命じ、そのことを宣言する(第51条 3項)。「何らかの行為をすべきことを命ずる」とはいうものの、その内容については争いがある。一つは不作為庁に事務処理促進を命じるにとどまるとする説であり、もう一つはそれだけでなく特定の処分をすべき旨を命じることもできるとする説である。

再審査請求が認容された場合は審査請求が認容された場合とほぼ同様であるが、再審査請求を却下・棄却した裁決に違法や不当の瑕疵があっても従来までの処分に瑕疵がない限り、それが維持される(第55条、裁決)。公示は、掲示日の翌日から起算して2週間が経過した時に裁決書の謄本の送付があったとみなす(第42条、裁決の効力発生)。

決定

異議申立てが認容された場合にも、同様に異議申立ての対象が処分であるか、事実行為であるか、不作為であるかに応じて異なった規定がある。その内容は審査請求の場合とほぼ同様である(第47条第3項、第4項)が、不作為については異なった扱いがなされている。つまり不作為に対する異議申立てにおいては、申立てのあった日の翌日から起算して20日以内に不作為庁は申請に対する何らかの行為をするか、書面で不作為の理由を示さなければならない(第50条第2項)。こうした制度が設けられたのは不作為庁がすぐさま判断を提示すべきという趣旨からである。よって「何らかの行為」は申請を拒否するという判断であってもよいが、例えば「検討の上、あらためて連絡する」といったように判断を先延ばしにする行為はここでいう「何らかの行為」には含まれない。

事実行為を除く処分についての異議申立てが理由があるときは、処分庁は、決定で、当該処分の全部若しくは一部を取り消し、又はこれを変更する(第47条 3項)。

異議申立て (改正後は審査請求に一元化され、異議申立ては廃止)

  • 審査請求に関する規定の準用(第48条
    • 第14条(審査請求期間)1項本文を除く
    • 第15条(審査請求書の記載事項)3項を除く
    • 第16条(口頭による審査請求)
    • 第19条(誤つた教示をした場合の救済)
    • 第21条(補正)
    • 第24条(参加人)
    • 第25条(審理の方式)
    • 第26条(証拠書類等の提出)
    • 第27条(参考人の陳述及び鑑定の要求)
    • 第28条(物件の提出要求)
    • 第29条(検証)
    • 第30条(審査請求人又は参加人の審尋)
    • 第31条(職員による審理手続)
    • 第32条(他の法令に基づく調査権との関係)
    • 第34条(執行停止)3項を除く
    • 第35条(執行停止の取消し)
    • 第36条(手続の併合又は分離)
    • 第37条(手続の承継)
    • 第38条(審査庁が裁決をする権限を有しなくなつた場合の措置)
    • 第39条(審査請求の取下げ)
    • 第40条(裁決)6項
    • 第41条(裁決の方式)2項を除く
    • 第42条(裁決の効力発生)
    • 第44条(証拠書類等の返還)
  • 決定
    処分庁は、審査請求をすることもできる処分に係る異議申立てについて決定をする場合には、異議申立人が当該処分につきすでに審査請求をしている場合を除き、決定書に、当該処分につき審査請求をすることができる旨並びに審査庁及び審査請求期間を記載して、これを教示しなければならない(第47条5項)。

不作為についての不服申立て

不作為についての不服申立ては、不作為状態が継続している限り認められ、期間の制限はない。

  • 第7条(不作為についての不服申立て)
    行政庁の不作為については、当該不作為に係る処分その他の行為を申請した者は、異議申立て又は当該不作為庁の直近上級行政庁に対する審査請求のいずれかをすることができる(自由選択主義)。
    不作為庁が主任の大臣又は宮内庁長官若しくは外局若しくはこれに置かれる庁の長であるときは、異議申立てのみできる。
  • 第50条(不作為庁の決定その他の措置)
    不作為についての異議申立てが、不適法であり却下する以外は、申立てのあった日の翌日から起算して20日以内に行為をするか、理由を示さなければならない。
  • 第51条(審査庁の裁決)
    不作為についての審査請求が理由があるときは、審査庁は、当該不作為庁に対しすみやかに申請に対するなんらかの行為をすべきことを命ずるとともに、裁決で、その旨を宣言する。
  • 第52条(処分についての審査請求に関する規定の準用)

再審査請求

  • 第8条(再審査請求)
    例外的な制度であり、審査請求の裁決を経たけれどもその裁決についてなお不服がある場合に行われる不服申立てである。再審査請求は本条第1項に掲げられた事由がある場合にのみ行うことができるという列記主義を採用している。
    具体的には
    1. 法律・条例に再審査請求をすることができる旨の定めがあるとき。
    2. 審査請求をすることができる処分につき、その処分をする権限を有する行政庁(原権限庁)がその権限を他に委任した場合において、委任を受けた行政庁がその委任に基づいてした処分に係る審査請求につき、原権限庁が審査庁として裁決をしたとき。
    列記主義を採用した理由としては、審査請求の裁決に不服があるのならば重ねて行政に判断を求めるのではなく、裁判を提起して司法審査を受けるべきとの考えがある。再審査請求の対象は審査請求の裁決に限らず、原処分についても対象とすることができる。
  • 第53条(再審査請求期間)
    再審査請求期間は、審査請求についての裁決があったことを知った日の翌日から起算して30日以内にしなければならない。
  • 第54条(裁決書の送付要求)
    再審査庁は、再審査請求を受理したときは、審査庁に対し、審査請求についての裁決書の送付を求めることができる。
  • 第55条(裁決)
    審査請求を却下し又は棄却した裁決が違法又は不当である場合においても、当該裁決に係る処分が違法又は不当でないときは、再審査庁は、当該再審査請求を棄却する。
  • 第56条(審査請求に関する規定の準用)

教示

行政不服審査法において特徴的な制度が教示である。これは行政庁が処分をする際に、不服申立てができる場合には、その処分を受ける相手方に対して、不服申立てをする手続を教えなければならないという制度である。

この制度が設けられた趣旨は国民の権利利益の救済を実質的に保障することであり、それは行政不服審査法の目的でもある。確かに不服申立ての制度は行政不服審査法を通読すれば(少なくとも申立てが可能であるということは)誰でも分かることである。しかしそうした行為を一般市民に要求するのではなく、行政の側から積極的に行政不服審査法の制度活用を国民に呼びかけるのがこの教示制度であり、行政不服審査法の目的をよく表している。

  • 第18条(誤つた教示をした場合の救済)
    審査請求をすることができる処分につき、処分庁が誤って審査庁でない行政庁を審査庁として教示した場合、処分庁が誤って異議申立てをすることができる旨を教示した場合において、その教示された行政庁に書面で審査請求・異議申立てがされたときは、当該行政庁は、すみやかに、審査請求書の正本及び副本を処分庁又は審査庁に送付し、かつ、その旨を審査請求人に通知しなければならない。審査請求書の正本又は異議申立書若しくは異議申立録取書が審査庁に送付されたときは、はじめから審査庁に審査請求がされたものとみなす。
  • 第19条(誤つた教示をした場合の救済)
    行政庁が誤って、法定期間よりも長い期間を教示したために、法定期間を徒過して不服申立てが行われた場合は、当該不服申立ては法定期間内にされたものとみなされる。
  • 第20条(異議申立ての前置)
  • 第46条(誤つた教示をした場合の救済)
  • 第41条2項(裁決の方式)
    審査庁は、再審査請求をすることができる裁決をする場合には、裁決書に再審査請求をすることができる旨並びに再審査庁及び再審査請求期間を記載して、これを教示しなければならない。
  • 第57条(審査庁等の教示)
    処分の相手方に対し、不服申立てをすることができるということ、申立てをすべき行政庁、申立期間を原則として書面によって通知すべきとされている。また、利害関係人から、教示を求められたときは、教示しなければならないが、処分を口頭でする場合は、教示する必要はない(1項)。
    地方公共団体その他の公共団体に対する処分で、当該公共団体がその固有の資格において処分の相手方となるものについては、適用しない(4項)。これらの団体は、不服申立てに関する専門的な知識を持っているのが当然だからである。
  • 第58条(教示をしなかつた場合の不服申立て)
    教示が行われなかった場合、処分を受けた当事者が、例えば審査請求をすべき審査庁ではなく当該処分を行った処分庁に審査請求をしてくるといった事態も考えられる。本来ならば不適法な不服申立てであるとして却下裁決がなされるところだが、そのような申立てが行われてしまった責任は教示すべき義務を怠った行政庁にある。よってこの場合には不服申立てを受けた行政庁はその不服申立書を適法な審査庁へ送付しなければならない。

脚注

関連項目

外部リンク