「兼用工作物」の版間の差分

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
削除された内容 追加された内容
法律の羅列になっていたため、参考文献を基に全面改稿
タグ: サイズの大幅な増減
(同じ利用者による、間の1版が非表示)
1行目: 1行目:
{{Law}}
{{出典の明記|date=2015年11月25日 (水) 13:17 (UTC)}}


'''兼用工作物'''(けんようこうさくぶつ)とは、[[道路]]や[[河川]]といった[[公物|公共用物]]のうち、本来の効用を果たすと同時に、公共の用に供する他の工作物または施設(総称して「他の工作物」という。)としての効用を兼ねる、物理的に一体不可分の工作物または施設をいう。
'''兼用工作物'''(けんようこうさくぶつ)とは、
[[浄水場]]上の[[公園]]、[[道路]]と[[堤防]]や[[河川]]を[[横断]]する道路[[橋梁]]と河川の[[護岸]]、道路と[[地下駐車場]]や[[鉄道]]の[[踏切施設]]や[[軌道施設]]、[[駅前広場]]から、[[瀬戸大橋]]のような[[鉄道橋]]と[[道路橋]]の併用橋梁、別管理者同士での[[多目的]]な[[ダム]]、[[札幌市北3条広場]]のような地上[[広場]]が[[街路]]([[北3条通]])の一部を広場化で一体化、
といった公共の用に供する複数の[[工作物]]や[[施設]]などが、相互に効用を兼ねる場合での当該施設及び工作物。


== 概要 ==
[[河川法]]第17条では兼用工作物に関し、[[河川管理施設]]と河川管理施設以外の施設又は工作物とが相互に効用を兼ねる場合において、[[河川管理者]]及び河川管理施設以外の施設又は工作物の[[管理者]]は、[[協議]]して別に管理の方法を定め、当該河川管理施設及び他の工作物の工事、維持又は操作を行なうことができるとし、第2項で河川管理者は、前項の規定による協議に基づき、他の工作物の管理者が河川管理施設の工事、維持又は操作を行なう場合において、[[国土交通省令]]で定めるところにより、その旨を[[公示]]しなければならないとしている。例示として、多目的ダムの場合について、解説は[[多目的ダム#兼用工作物]]を参照。
道路や河川といった公共用物は、それぞれ[[道路法]]や[[河川法]]といった公物法により、それぞれの定義や管理方法が定められている。しかし、[[街路]]と一体となった[[公園#都市公園(営造物公園)|都市公園]]や、河川管理施設である[[堤防]]上に設けられる道路などは、別々に管理することでかえって効率が悪くなることや、互いの根拠法に基づく管理権限が衝突してしまうおそれがある。


このため、各々の工作物としての効用を果たし、かつ一体不可分な範囲について兼用工作物と定めることにより{{Refnest|group="注釈"|従って、前述した堤防と道路の例では、重複している部分のみ兼用工作物となる。必ずしも堤防全体または道路全体が兼用工作物になる訳ではない<ref name="Road142">[[#Road 2017|道路法令研究会(2017)]]142ページ</ref>。}}、管理方法や費用負担を双方の管理者が協議して決定できるものとした。
[[海岸法]]では第15条で兼用工作物の[[工事]]の[[施行]]についての定めがあり、[[海岸管理者]]は、その管理する[[海岸保全施設]]が道路、[[水門]]、[[物揚場]]その他の施設又は工作物の効用を兼ねるときは、該当工作物の管理者との協議によりその者に当該海岸保全施設に関する工事を施行させ、又は当該海岸保全施設を維持させることができるとしている。また第30条で海岸管理者の管理する海岸保全施設が他の工作物の効用を兼ねるときは、当該海岸保全施設の管理に要する費用の負担については、海岸管理者と当該他の工作物の管理者とが協議して定めるものとするとしている。


== 協議の対象 ==
[[都市公園法]]では第5条で、[[都市公園]]と河川、道路、[[下水道]]その他の施設又は工作物とが相互に効用を兼ねる場合に、当該都市公園の[[公園管理者]]及び兼用相手の他施設又は工作物の管理者とは、当該都市公園及び他の工作物の管理については、第2条の3(都市公園の管理)の規定にかかわらず、協議して別にその管理の方法を定めることができるとしている。ただし、他の工作物の管理者が[[私人]]である場合、都市公園について都市公園に関する工事及び維持以外の管理を行わせることができないとし、第2項では河川法と同様、前項の規定により協議が成立した場合においては、当該都市公園の公園管理者は、成立した協議の内容を公示しなければならないとしている。
全ての公共用物が他の工作物との兼用工作物になれるものではなく、逆に公共用物に対して全ての他の工作物が兼用工作物になれるものではない。協議の内容や手続きについても、各法令でまちまちである。兼用工作物の設置は、必ずしも当初から計画されていたものである必要はない。例えば道路の場合、道路として設置されたものが後に他の工作物の効用を兼ねることになっても、逆に他の工作物として設置されたものが道路の効用も果たすことになっても、あるいは当初から両方の効用を兼ねることを目的に設置されたものであってもよいと解されている<ref name="Road142" />{{Refnest|group="注釈"|下水道法の解釈においても同様<ref name="Sewer266">[[#Sewer 2016|下水道法令研究会(2016)]]266ページ</ref>。}}。


兼用工作物の管理協定は、主となる工作物の管理者と他の工作物の管理者との間で協議した上で締結されるが、両者は対等な立場の管理者として協議を行うこととされている。ただし、各法律によって協議の対象となる行為が異なるため、協議によっても他の工作物の管理者が行えない行為もある。締結された管理協定はその内容を[[官報]]などで公示することが定められている場合がある{{Refnest|group="注釈"|例えば、道路の場合は官報等で公示すべきものと解され<ref>[[#Road 2017|道路法令研究会(2017)]]148ページ</ref>、河川の場合は官報等で公示することが法令で定められているが<ref>河川法施行規則第8条</ref>、津波防護施設の場合は都道府県の公報への掲載のほかインターネットの利用も例示されている<ref>津波防災地域づくりに関する法律施行規則第19条</ref>。}}。
また近年創設された[[立体都市公園制度]]では、主に公共施設との兼用を想定した兼用工作物としてみており、公園と相手施設同士が相互に効用を兼ねない場合には制度が適用できないこととなっている。


他の工作物の管理者が私人であっても設置目的が公の目的をもって設置されたものであれば認められる場合がある。例えば、道路法では道路と[[鉄道橋]]とが兼用工作物になることを認めているが、[[私鉄]]の鉄道橋であっても対象となる{{Refnest|group="注釈"|この場合の私人とは、行政権限を行使することが不適当であると考えられるすべての者を指し、逆に、私人に該当しない者とは、国または地方公共団体のように、道路管理者が行使するような権限に類似した行政権限を行使することが他法令で定められている者に限定すると解されている<ref name="S290202">昭和29年2月2日付け建設省道発第23号道路局長通達</ref>。}}。ただし、私人が行使することが不適当とみなされるような権限は、各法令によって制限される。
[[道路法]]では第20条で、兼用工作物の管理について規定している。道路が他の工作物としての性格を有するものである場合、他の工作物としての管理も行われることになる。第1項の規定からこのため、兼用工作物を実際に管理する場合において、両者の調整を図るため、兼用工作物の管理については[[道路管理者]]と他の工作物の管理者とが協議してその管理の方法を定めることができることとし、当該別の工作物の管理者が兼用工作物となった道路を管理するとき、法第20条第1項では、法第13条第1項及び第3項並びに第15条から第17条の規定にかかわらず、管理の方法を定めることができるとされている。


== 個別の法律による規定 ==
道路法第20条は任意規定であって、条文は兼用工作物の適切な管理を図るため、やむを得ない場合を除き協議することを望んでいるのであるが、道路管理者は、もし法第20条の規定による兼用工作物の管理の方法についての協議がない場合でも、他の工作物の管理者に当該兼用工作物に係る道路に関する工事を施行させ、又は道路の維持をさせることが適当であるとき、法第21条の規定により、他の工作物の管理者に当該工事の施行又は維持を命令することができる。
以下、各法律によって定められている兼用工作物の例を挙げる。なお、順序は各根拠法の規定の制定順による。


=== 港湾・漁港 ===
協議の対象となる道路の管理は、道路の新設・改築・維持・修繕等の事実行為に限らず、占用許可、工事施行、費用負担の命令、監督処分の発動等の行政権限の行使についても行うことができるが、法第20条第1項ただし書で、都市公園法と同様に、工作物の管理者が私人である場合においては、道路に関する工事及び維持以外の管理を行わせることはできないこととされている他、[[国道]]の新設又は改築について、全国的な幹線道路網を形成するものであることから、道路管理者において直接行うことが適当との考え方に基づき、本条の協議の対象から除外されている。
港湾の整備や運営に関する法律として[[港湾法]]があるが、[[1950年]]([[昭和]]25年)の制定時には兼用工作物に関する規定が存在していなかった。[[1951年]][[6月4日]]の港湾法改正において、「他の工作物と効用を兼ねる港湾施設」に関する規定が追加された{{Refnest|group="注釈"|港湾法には「兼用工作物」という名称は出てこないが、「他の工作物と効用を兼ねる港湾施設」が兼用工作物と同義と言える。}}。兼用工作物となる港湾施設の港湾工事(港湾施設の建設のほか、改良、維持または復旧の工事なども含む<ref>港湾法第2条第7項。</ref>)の施行および費用の負担について、港湾管理者と他の工作物の管理者とが協議して定めることとされている<ref>港湾法第43条の2。</ref>。


また、漁港の維持管理に関する法律として[[漁港漁場整備法]]があるが、これも旧漁港法が当初制定された1950年には兼用工作物に関する規定が存在していなかった。1951年[[12月17日]]の漁港法改正において「他の工作物と効用を兼ねる漁港施設」に関する規定が追加され{{Refnest|group="注釈"|旧漁港法および漁港漁場整備法とも「兼用工作物」という名称は出てこないが、「他の工作物と効用を兼ねる漁港施設」が兼用工作物と同義と言える。}}、[[2002年]]([[平成]]14年)[[4月1日]]に改称された漁港漁場整備法においても同様の規定が引き継がれている。漁港施設である堤防または護岸が道路と効用を兼ねる場合などが想定されている<ref name="Harbor168">[[#Harbor 2008|漁港漁場整備法規研究会(2008)]]168ページ</ref>。兼用工作物となる漁港施設に係る特定漁港漁場整備事業は、その費用の負担について、特定漁港漁場整備事業の施行者と他の工作物の管理者とが協議して定めることとされている{{Refnest|group="注釈"|港湾法と異なり工事の施行については協議対象とされていないことから、他の工作物の管理者は工事が行えない。}}<ref>漁港漁場整備法第20条の3。</ref>。
道路法施行令第5条において、道路の区域を公示する権限、道路台帳を調製・保管する権限等は他の工作物の管理者に代行させることができないこととされている。このため、これらの権限を協議の対象とすることはできない。
道路法施行令第6条では、協議の結果他の工作物管理者が代行することとなった道路管理者の権限のうち道路の区域の決定・変更の権限や占用の許可の権限等の諸権限を当該他の工作物の管理者が行った場合においては、遅滞なくその旨を道路管理者に通知しなければならないこととされている。


=== 道路 ===
道路法第20条第2項では[[国土交通大臣]]が道路管理者として他の工作物の管理者と兼用工作物の管理の方法について協議した場合に当該協議が成立しないとき、国土交通大臣は当該他の工作物について所轄権限を有する大臣と協議するとしている。こうして、できるだけ当該兼用工作物の管理に係る協議を成立させることを実際の運用において望ましいという趣旨から規定が設けられている。
道路との兼用工作物になりうる他の工作物として、道路法では、堤防、[[護岸]]、[[ダム]]、鉄道または軌道用の橋、[[踏切|踏切道]]、[[駅前広場]]その他公共の用に供する工作物または施設が挙げられている<ref>道路法第20条第1項。</ref>。


協議の対象には、道路に関する工事(新設、改築または修繕に関する工事。ただし国道の新設または改築を除く{{Refnest|group="注釈"|国道の新設または改築は、全国的な幹線道路網を形成するものであることから、道路管理者において直接行うことが適当との考え方に基づくもの<ref>[[#Road 2017|道路法令研究会(2017)]]143ページ</ref>。}}。)および維持といった事実行為のほか、[[道路占用許可]]などの行政権限の行使も含まれている。ただし、他の工作物の管理者が私人である場合には、道路に関する工事(新設、改築または修繕に関する工事)および維持以外の管理を行うことはできない。また、[[道路区域]]の公示ならびに道路台帳の調整および保管などの権限は、協議の対象から外されている<ref>道路法第27条第4項および道路法施行令第5条各号。</ref>ほか、道路区域の決定もしくは変更または道路占用許可などの権限を行使したときは、道路管理者に遅滞なく通知しなければならない<ref>道路法第27条第4項および道路法施行令第6条第5項。</ref>。費用の負担についても協議の対象とされている<ref>道路法第55条。</ref>。これらの協議が成立した場合、当該道路の管理者は協議の内容を公示しなければならない<ref>道路法第20条第6項</ref>。道路区域内に設置された他の工作物は、兼用工作物としての協議が成立した時点(協議があったものとみなされる場合を含む)で、道路法第32条の道路占用許可があったものとみなして差支えないとされている<ref>昭和27年12月5日付運輸事務次官・建設事務次官通達。</ref><ref>[[#Road 2017|道路法令研究会(2017)]]144ページ</ref>。
また、道路法第20条第3項では、国土交通大臣以外の道路管理者と他の工作物の管理者との間で兼用工作物の管理の方法について協議が成立しない場合にも、兼用工作物の性格からできるだけ当該協議を成立させることが望ましいため、国土交通大臣及び他の工作物に関する主務大臣又は都道府県知事に対する裁定を申請することができるとされている。


また、道路法では、他の工作物の管理者との間で管理に関する協議が成立しない場合についても、規定が置かれている。道路管理者が国土交通大臣の場合は、国道交通大臣が他の工作物の主務大臣と協議することができ、道路管理者が国土交通大臣以外の場合は、国土交通大臣などに裁定を申請することができる。これらの規定も、他の法令に見られない特殊な規定と言える{{Refnest|group="注釈"|例えば、港湾法の解説図書では「当事者間の協議がまとまらなかった場合の調整規定も道路法と異なり存しない」と例示されている<ref>[[#Port 2018|多賀谷(2018)]]288-289ページ</ref>ほか、下水道法の解説図書でも、下水道法に裁定の規定はないが、道路との兼用工作物については道路法の規定に基づく申請が可能であることが紹介されている<ref name="Sewer266" />。}}。
道路法第20条第4項では、兼用工作物の管理方法について、国土交通大臣及び他の工作物に関する主務大臣又は都道府県知事が裁定を行う場合には、法第7条第6項を準用し、これにより国土交通大臣及び他の工作物に関する主務大臣又は都道府県知事は裁定に当たって、当該道路の道路管理者及び他の工作物の管理者の意見を聴かなければならないことされ、これらの管理者の意見は十分尊重すること、当該道路の道路管理者が意見を提出しようとするときは、指定区間外の国道にあっては、道路管理者であり管理費用の負担者である都道府県の議会に諮問しなければならず、その他の道路にあっては、その道路管理者であり管理費用の負担者である地方公共団体の議会の議決を経なければならないとして、地方公共団体の意見を十分反映させることとされている。


このほか、管理に関する協議がない場合でも、他の工作物の管理者に当該道路の道路に関する工事または維持をさせることが適当であると認められるときは、道路管理者が他の工作物の管理者に工事または維持を命令することができる<ref>道路法第21条</ref>。かつては、他の工作物が河川の附属物であった場合には、この規定に基づく命令ではなく、旧河川法に基づく工事として行うこととされていたが<ref>[[1964年|昭和39年]]の改正前の道路法第21条第2項</ref>、旧河川法の廃止に際し削除されている。
道路法法第20条第5項は、同条第2項の規定による協議が成立した場合又は第3項の申請に基づき裁定がなされた場合には当該兼用工作物に係る道路管理者と他の工作物の管理者との間の協議が成立したものとみなされ、道路管理者及び他の工作物の管理者は、当該協議又は裁定に拘束され、それに従って当該兼用工作物を管理しなければならないこととされている。


堤防との兼用工作物に関しては、管理協定の雛形や協定締結に伴って必要となる手続きが定められており、準則協定と呼ばれている<ref>昭和47年6月19日付建設省河川局長・道路局長通達</ref>。また、道路と鉄道が交差する場合には協議すべき内容や方法について別途道路法第31条が設けられているため、同条に基づく協議が一般的ではあるが、兼用工作物としての協議を排除するものではない<ref>[[#Road 2017|道路法令研究会(2017)]]238ページ</ref>。
兼用工作物の費用の負担については、道路法第55条で費用負担に関する協議に関する規定が置かれている。管理は費用の負担とは切り離しえないため、実際に兼用工作物の管理方法について協議するとき、その費用の負担についてもあわせて協議している。

== 関連項目 ==
特殊な例として[[高速道路]]の[[サービスエリア]]の第二駐車場を都市公園の駐車場と兼用させる[[ハイウェイオアシス]]がある{{Refnest|group="注釈"|[[高速自動車国道]]の場合は、道路法第20条に基づく兼用工作物ではなく、道路法の特別法である高速自動車国道法の第8条に基づく兼用工作物となる。}}{{Refnest|group="注釈"|厳密に言えば、「隣接する都市公園の駐車場が、高速道路の第二駐車場を兼ねるもの」がハイウェイオアシスであるが<ref>{{Cite web |url=https://www.hido.or.jp/study/files/pdf/application_06_1.pdf |title=道路関連施設整備支援に関する調査研究 |format=PDF |publisher=一般財団法人 道路新産業開発機構 |accessdate=2019-01-06}}</ref>、実態としては「隣接する施設に徒歩等でアクセスできる施設」を総称してハイウェイオアシスと呼ばれていることが多い。}}。
* [[構造物#複合構造物]]

=== 都市公園 ===
[[1956年]](昭和31年)に制定された[[都市公園法]]には、兼用工作物に関する規定が存在していなかったが、[[1976年]][[5月25日]]の都市公園法改正において追加された。都市公園との兼用工作物になりうる他の工作物として、河川、道路、[[下水道]]その他の施設又は工作物が挙げられている<ref>都市公園法第5条の10第1項。</ref>。

兼用工作物となる都市公園および他の工作物の管理については、公園管理者と他の工作物の管理者とが協議して定めることができる。費用の負担についても協議の対象とされている。ただし、他の工作物の管理者が私人である場合は、都市公園に関する工事及び維持以外の管理を行わせることができない。また、都市公園の台帳の作成および保管などの権限は、協議の対象から外されている<ref>都市公園法第5条の10第1項および都市公園法施行令第10条の2各号。</ref>ほか、占用の許可や公園一体建物に関する協定の締結といった権限を行使したときは公園管理者に遅滞なく通知しなければならない<ref>都市公園法第5条の10第1項および都市公園法施行令第11条各号。</ref>。協議が成立した場合、公園管理者は協議の内容を公示しなければならない<ref>都市公園法第5条の10第2項。</ref>。

=== 空港 ===
1956年に制定された旧空港整備法および[[2008年]]の改正により名称変更された後の[[空港法]]において、兼用工作物の規定がある。空港のうち[[日本の空港#拠点空港|拠点空港]]および[[日本の空港#地方管理空港|地方管理空港]]の施設が他の工作物と効用を兼ねるときは、工事の施行、維持および費用の負担について、空港を設置・管理する者と他の工作物の管理者とが協議して定めることとされている<ref>空港法第11条。</ref>。

=== 海岸保全施設・津波防護施設 ===
[[海岸法]]に定める海岸保全施設(堤防、[[突堤]]、護岸、[[胸壁]]、離岸堤、[[砂浜]]その他海水の侵入又は海水による侵食を防止するための施設)および[[津波防災地域づくりに関する法律]]に定める津波防護施設([[盛土|盛土構造物]]、護岸、胸壁および[[閘門]])について、兼用工作物の規定がある。海岸法では、海岸保全施設が道路、[[水門]]または[[岸壁|物揚場]]などと効用を兼ねるときは、協議により海岸保全施設に関する工事または施設の維持をさせることができる<ref>海岸法第15条。</ref>。また、津波防災地域づくりに関する法律では、津波防護施設が津波防護施設以外の施設又は工作物と効用を兼ねるときは、津波防護施設管理者及び他の施設等の管理者は、協議により津波防護施設の工事、維持または操作を行うことができる<ref>津波防災地域づくりに関する法律第30条。</ref>。費用については、海岸法および津波防災地域づくりに関する法律とも、当該施設の管理に要する費用の負担を協議して定めることとされている。

津波防護施設は、もともと発生頻度が極めて低い最大クラスの[[津波]](L2)が、海岸保全施設などを乗り越えて内陸部に浸入するような場合に、浸水域の拡大を防止するために内陸部に設ける施設であることから<ref name="Tsunami61">[[#Tsunami 2014|津波防災地域づくりに関する法律研究会(2014)]]61ページ</ref>、後背地の状況などを踏まえ、道路や鉄道等の施設を活用できる場合には、これらの施設を活用して小規模盛土や閘門を設置するなど、効率的に整備し、一体的に管理することが適当とされている<ref name="Tsunami65">[[#Tsunami 2014|津波防災地域づくりに関する法律研究会(2014)]]65ページ</ref>。

=== 下水道 ===
[[下水道|公共下水道]]の施設が道路、堤防その他の公共の用に供する施設又は工作物の効用を兼ねるときは、協議により公共下水道の施設に関する工事または施設の維持をさせることができる<ref>下水道法第15条。</ref>。具体的な例としては、公共下水道の排水施設が道路の側溝としての機能を果たしている場合や、公共下水道の排水渠の擁壁が河川の堤防を利用したものである場合、[[下水処理場|終末処理場]]の上部を覆蓋して都市公園として利用する場合などが想定されている<ref name="Sewer265">[[#Sewer 2016|下水道法令研究会(2016)]]265ページ</ref>。また、協議の対象は、公共下水道の施設の築造、改築および修繕等の工事または清掃その他の維持に限られ、下水道使用料の徴収や行為制限に伴う許可等の法律行為は含まれない<ref name="Sewer265" />。費用については、当該施設の管理に要する費用の負担を協議して定めることとされている。

=== 地すべり防止施設 ===
地すべり防止区域内にある排水施設、擁壁またはダムなどの地すべり防止施設が、[[砂防法]]による砂防設備、[[森林法]]による保安施設事業に係る施設または[[灌漑|かんがい排水施設]]などと効用を兼ねるときは、協議により地すべり防止施設に関する工事または施設の維持をさせることができる<ref>地すべり等防止法第13条</ref>。これは、地すべり防止施設を管理する都道府県知事が、自ら工事などを行うよりも、他の工作物の管理者に工事などを行わせることが便宜な場合が多いためである<ref>[[#Landslide 1958|若江(1958)]]28ページ</ref>。費用については、当該施設の管理に要する費用の負担を協議して定めることとされている。

また、ぼた山崩壊防止区域におけるぼた山崩壊防止施設についても、地すべり等防止法の兼用工作物に関する規定が準用される<ref>地すべり等防止法第45条</ref>。

=== 河川 ===
{{See also|多目的ダム#兼用工作物 }}
ダムや[[堰]]、水門、堤防といった河川管理施設と相互に効用を兼ねる他の工作物の管理者は、協議により工事、維持または操作を行うことができるとされている<ref>河川法第17条。</ref>。具体的な例として、堤防または水門と道路が効用を兼ねる場合や、[[床止め]]と農業用の取水堰とが効用を兼ねる場合などがある<ref name="River105">[[#River 2006|河川法研究会(2006)]]105ページ</ref>。また、河川管理施設の一つであるダムのうち、[[電力会社]]など河川管理者以外の事業者も加わって管理される[[多目的ダム]]は、この兼用工作物として協議・管理がなされている。費用については、当該施設の管理に要する費用の負担を協議して定めることとされている。

道路法に基づく兼用工作物とは異なり、他の工作物の管理者が行うことができる行為は、事実行為のみに限られているのが特徴である<ref name="River106">[[#River 2006|河川法研究会(2006)]]106ページ</ref>。また、他の工作物の管理者に法律行為の権限を与えることができないことからもわかるように、兼用工作物に関する協議は河川法上の許可に代わるものではない。したがって、兼用工作物であっても河川区域内に施設または工作物を設置することに変わりはないので、河川法第24条および第26条に基づく占用許可や工作物新築許可等の手続きが必要となる<ref name="River106" />。

== 各法律の定め ==
{| class="wikitable"
|+ 各法令による兼用工作物関係の規定
! !! 根拠法 !! 兼用工作物となる公共公物と、<br />{{Underline|他の工作物(下線)}}取れの組み合わせの例 !! 公示の要否 !! 私人の制限の有無
|-
! 港湾
| 港湾法 || (例示なし) || 不要 || 無
|-
! 漁港
| 漁港漁場整備法 || 堤防又は護岸と{{Underline|道路}}<ref name="Harbor168" /> || 不要 || 無
|-
! 道路
| 道路法 || 道路と{{Underline|堤防、護岸、ダム、鉄道又は軌道用の橋、踏切道、駅前広場その他公共の用に供する工作物又は施設}} || 協議の内容を公示 || 行政権限を行使することが不適当であると考えられる者<ref name="S290202" />は、道路の新設、改築又は修繕に関する工事及び維持以外の管理を行うことができない
|-
! 都市公園
| 都市公園法 || 都市公園と{{Underline|河川、道路、下水道その他の施設又は工作物}} || 協議の内容を公示 || 都市公園に関する工事及び維持以外の管理を行うことができない
|-
! 空港
| 空港法 || (例示なし) || 不要 || 無
|-
! 海岸保全施設
| 海岸法 || 海岸保全施設と{{Underline|道路、水門、物揚場その他の施設又は工作物}} || 不要 || 無
|-
! 津波防護施設
| 津波防災地域づくりに関する法律 || 津波による浸水を防止する機能を有する盛土構造物、護岸、胸壁及び閘門と{{Underline|道路、鉄道等の施設}}<ref name="Tsunami61" /><ref name="Tsunami65" /> || 協議の内容を公示 || 無
|-
! 下水道
| 下水道法 || 公共下水道の排水施設と{{Underline|道路の側溝}}、公共下水道の排水渠の擁壁と{{Underline|河川の堤防}}、終末処理場の上部の覆蓋と{{Underline|都市公園}}<ref name="Sewer265" /> || 不要 || 無
|-
! 地すべり防止施設
| 地すべり等防止法 || 地すべり防止施設と{{Underline|砂防設備、保安施設事業に係る施設、かんがい排水施設その他の施設又は工作物}} || 不要 || 無
|-
! 河川
| 河川法 || 堤防または水門と{{Underline|道路}}、床止めと{{Underline|農業用の取水堰}}<ref name="River105" /> || 協議の内容を公示 || 無
|}


== 脚注 ==
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{Reflist|group="注釈"}}
=== 出典 ===
{{Reflist|2}}

== 参考文献 ==
* {{Anchor|Landslide 1958|}}若江則忠、1958年10月15日『地すべり等防止法の解説と運用』林野共済会
* {{Anchor|River 2006|}}河川法研究会、2006年10月20日『改訂版 逐条解説 河川法解説』大成出版社、ISBN 978-4-8028-8122-7
* {{Anchor|Harbor 2008|}}漁港漁場整備法規研究会、2008年4月『漁港漁場整備法逐条解説 平成20年度版』全国漁港漁場協会、NCID BA7082849X
* {{Anchor|Tsunami 2014|}}津波防災地域づくりに関する法律研究会、2014年4月28日『津波防災地域づくりに関する法律の解説』大成出版社、ISBN 978-4-8028-3136-9
* {{Anchor|Sewer 2016|}}下水道法令研究会、2016年5月10日『逐条解説 下水道法 第四次改定版』ぎょうせい、ISBN 978-4-324-10120-9
* {{Anchor|Road 2017|}}道路法令研究会、2017年9月25日『改定5版 道路法解説』大成出版社、ISBN 978-4-8028-3233-5
* {{Anchor|Port 2018|}}多賀谷一照、2018年9月20日『詳解 逐条解説 港湾法 三訂版』第一法規、ISBN 978-4-474-06461-4

{{デフォルトソート:けんようこうさくふつ}}
{{デフォルトソート:けんようこうさくふつ}}
[[Category:工作物]]
[[Category:工作物]]
[[Category:インフラストラクチャー]]
[[Category:都市計画]]
[[Category:港湾施設]]
[[Category:漁港]]
[[Category:道路]]
[[Category:公園]]
[[Category:空港]]
[[Category:護岸]]
[[Category:防災施設]]
[[Category:下水道施設]]
[[Category:砂防]]
[[Category:河川構造物]]

2019年8月17日 (土) 12:51時点における版

兼用工作物(けんようこうさくぶつ)とは、道路河川といった公共用物のうち、本来の効用を果たすと同時に、公共の用に供する他の工作物または施設(総称して「他の工作物」という。)としての効用を兼ねる、物理的に一体不可分の工作物または施設をいう。

概要

道路や河川といった公共用物は、それぞれ道路法河川法といった公物法により、それぞれの定義や管理方法が定められている。しかし、街路と一体となった都市公園や、河川管理施設である堤防上に設けられる道路などは、別々に管理することでかえって効率が悪くなることや、互いの根拠法に基づく管理権限が衝突してしまうおそれがある。

このため、各々の工作物としての効用を果たし、かつ一体不可分な範囲について兼用工作物と定めることにより[注釈 1]、管理方法や費用負担を双方の管理者が協議して決定できるものとした。

協議の対象

全ての公共用物が他の工作物との兼用工作物になれるものではなく、逆に公共用物に対して全ての他の工作物が兼用工作物になれるものではない。協議の内容や手続きについても、各法令でまちまちである。兼用工作物の設置は、必ずしも当初から計画されていたものである必要はない。例えば道路の場合、道路として設置されたものが後に他の工作物の効用を兼ねることになっても、逆に他の工作物として設置されたものが道路の効用も果たすことになっても、あるいは当初から両方の効用を兼ねることを目的に設置されたものであってもよいと解されている[1][注釈 2]

兼用工作物の管理協定は、主となる工作物の管理者と他の工作物の管理者との間で協議した上で締結されるが、両者は対等な立場の管理者として協議を行うこととされている。ただし、各法律によって協議の対象となる行為が異なるため、協議によっても他の工作物の管理者が行えない行為もある。締結された管理協定はその内容を官報などで公示することが定められている場合がある[注釈 3]

他の工作物の管理者が私人であっても設置目的が公の目的をもって設置されたものであれば認められる場合がある。例えば、道路法では道路と鉄道橋とが兼用工作物になることを認めているが、私鉄の鉄道橋であっても対象となる[注釈 4]。ただし、私人が行使することが不適当とみなされるような権限は、各法令によって制限される。

個別の法律による規定

以下、各法律によって定められている兼用工作物の例を挙げる。なお、順序は各根拠法の規定の制定順による。

港湾・漁港

港湾の整備や運営に関する法律として港湾法があるが、1950年昭和25年)の制定時には兼用工作物に関する規定が存在していなかった。1951年6月4日の港湾法改正において、「他の工作物と効用を兼ねる港湾施設」に関する規定が追加された[注釈 5]。兼用工作物となる港湾施設の港湾工事(港湾施設の建設のほか、改良、維持または復旧の工事なども含む[7])の施行および費用の負担について、港湾管理者と他の工作物の管理者とが協議して定めることとされている[8]

また、漁港の維持管理に関する法律として漁港漁場整備法があるが、これも旧漁港法が当初制定された1950年には兼用工作物に関する規定が存在していなかった。1951年12月17日の漁港法改正において「他の工作物と効用を兼ねる漁港施設」に関する規定が追加され[注釈 6]2002年平成14年)4月1日に改称された漁港漁場整備法においても同様の規定が引き継がれている。漁港施設である堤防または護岸が道路と効用を兼ねる場合などが想定されている[9]。兼用工作物となる漁港施設に係る特定漁港漁場整備事業は、その費用の負担について、特定漁港漁場整備事業の施行者と他の工作物の管理者とが協議して定めることとされている[注釈 7][10]

道路

道路との兼用工作物になりうる他の工作物として、道路法では、堤防、護岸ダム、鉄道または軌道用の橋、踏切道駅前広場その他公共の用に供する工作物または施設が挙げられている[11]

協議の対象には、道路に関する工事(新設、改築または修繕に関する工事。ただし国道の新設または改築を除く[注釈 8]。)および維持といった事実行為のほか、道路占用許可などの行政権限の行使も含まれている。ただし、他の工作物の管理者が私人である場合には、道路に関する工事(新設、改築または修繕に関する工事)および維持以外の管理を行うことはできない。また、道路区域の公示ならびに道路台帳の調整および保管などの権限は、協議の対象から外されている[13]ほか、道路区域の決定もしくは変更または道路占用許可などの権限を行使したときは、道路管理者に遅滞なく通知しなければならない[14]。費用の負担についても協議の対象とされている[15]。これらの協議が成立した場合、当該道路の管理者は協議の内容を公示しなければならない[16]。道路区域内に設置された他の工作物は、兼用工作物としての協議が成立した時点(協議があったものとみなされる場合を含む)で、道路法第32条の道路占用許可があったものとみなして差支えないとされている[17][18]

また、道路法では、他の工作物の管理者との間で管理に関する協議が成立しない場合についても、規定が置かれている。道路管理者が国土交通大臣の場合は、国道交通大臣が他の工作物の主務大臣と協議することができ、道路管理者が国土交通大臣以外の場合は、国土交通大臣などに裁定を申請することができる。これらの規定も、他の法令に見られない特殊な規定と言える[注釈 9]

このほか、管理に関する協議がない場合でも、他の工作物の管理者に当該道路の道路に関する工事または維持をさせることが適当であると認められるときは、道路管理者が他の工作物の管理者に工事または維持を命令することができる[20]。かつては、他の工作物が河川の附属物であった場合には、この規定に基づく命令ではなく、旧河川法に基づく工事として行うこととされていたが[21]、旧河川法の廃止に際し削除されている。

堤防との兼用工作物に関しては、管理協定の雛形や協定締結に伴って必要となる手続きが定められており、準則協定と呼ばれている[22]。また、道路と鉄道が交差する場合には協議すべき内容や方法について別途道路法第31条が設けられているため、同条に基づく協議が一般的ではあるが、兼用工作物としての協議を排除するものではない[23]

特殊な例として高速道路サービスエリアの第二駐車場を都市公園の駐車場と兼用させるハイウェイオアシスがある[注釈 10][注釈 11]

都市公園

1956年(昭和31年)に制定された都市公園法には、兼用工作物に関する規定が存在していなかったが、1976年5月25日の都市公園法改正において追加された。都市公園との兼用工作物になりうる他の工作物として、河川、道路、下水道その他の施設又は工作物が挙げられている[25]

兼用工作物となる都市公園および他の工作物の管理については、公園管理者と他の工作物の管理者とが協議して定めることができる。費用の負担についても協議の対象とされている。ただし、他の工作物の管理者が私人である場合は、都市公園に関する工事及び維持以外の管理を行わせることができない。また、都市公園の台帳の作成および保管などの権限は、協議の対象から外されている[26]ほか、占用の許可や公園一体建物に関する協定の締結といった権限を行使したときは公園管理者に遅滞なく通知しなければならない[27]。協議が成立した場合、公園管理者は協議の内容を公示しなければならない[28]

空港

1956年に制定された旧空港整備法および2008年の改正により名称変更された後の空港法において、兼用工作物の規定がある。空港のうち拠点空港および地方管理空港の施設が他の工作物と効用を兼ねるときは、工事の施行、維持および費用の負担について、空港を設置・管理する者と他の工作物の管理者とが協議して定めることとされている[29]

海岸保全施設・津波防護施設

海岸法に定める海岸保全施設(堤防、突堤、護岸、胸壁、離岸堤、砂浜その他海水の侵入又は海水による侵食を防止するための施設)および津波防災地域づくりに関する法律に定める津波防護施設(盛土構造物、護岸、胸壁および閘門)について、兼用工作物の規定がある。海岸法では、海岸保全施設が道路、水門または物揚場などと効用を兼ねるときは、協議により海岸保全施設に関する工事または施設の維持をさせることができる[30]。また、津波防災地域づくりに関する法律では、津波防護施設が津波防護施設以外の施設又は工作物と効用を兼ねるときは、津波防護施設管理者及び他の施設等の管理者は、協議により津波防護施設の工事、維持または操作を行うことができる[31]。費用については、海岸法および津波防災地域づくりに関する法律とも、当該施設の管理に要する費用の負担を協議して定めることとされている。

津波防護施設は、もともと発生頻度が極めて低い最大クラスの津波(L2)が、海岸保全施設などを乗り越えて内陸部に浸入するような場合に、浸水域の拡大を防止するために内陸部に設ける施設であることから[32]、後背地の状況などを踏まえ、道路や鉄道等の施設を活用できる場合には、これらの施設を活用して小規模盛土や閘門を設置するなど、効率的に整備し、一体的に管理することが適当とされている[33]

下水道

公共下水道の施設が道路、堤防その他の公共の用に供する施設又は工作物の効用を兼ねるときは、協議により公共下水道の施設に関する工事または施設の維持をさせることができる[34]。具体的な例としては、公共下水道の排水施設が道路の側溝としての機能を果たしている場合や、公共下水道の排水渠の擁壁が河川の堤防を利用したものである場合、終末処理場の上部を覆蓋して都市公園として利用する場合などが想定されている[35]。また、協議の対象は、公共下水道の施設の築造、改築および修繕等の工事または清掃その他の維持に限られ、下水道使用料の徴収や行為制限に伴う許可等の法律行為は含まれない[35]。費用については、当該施設の管理に要する費用の負担を協議して定めることとされている。

地すべり防止施設

地すべり防止区域内にある排水施設、擁壁またはダムなどの地すべり防止施設が、砂防法による砂防設備、森林法による保安施設事業に係る施設またはかんがい排水施設などと効用を兼ねるときは、協議により地すべり防止施設に関する工事または施設の維持をさせることができる[36]。これは、地すべり防止施設を管理する都道府県知事が、自ら工事などを行うよりも、他の工作物の管理者に工事などを行わせることが便宜な場合が多いためである[37]。費用については、当該施設の管理に要する費用の負担を協議して定めることとされている。

また、ぼた山崩壊防止区域におけるぼた山崩壊防止施設についても、地すべり等防止法の兼用工作物に関する規定が準用される[38]

河川

ダムや、水門、堤防といった河川管理施設と相互に効用を兼ねる他の工作物の管理者は、協議により工事、維持または操作を行うことができるとされている[39]。具体的な例として、堤防または水門と道路が効用を兼ねる場合や、床止めと農業用の取水堰とが効用を兼ねる場合などがある[40]。また、河川管理施設の一つであるダムのうち、電力会社など河川管理者以外の事業者も加わって管理される多目的ダムは、この兼用工作物として協議・管理がなされている。費用については、当該施設の管理に要する費用の負担を協議して定めることとされている。

道路法に基づく兼用工作物とは異なり、他の工作物の管理者が行うことができる行為は、事実行為のみに限られているのが特徴である[41]。また、他の工作物の管理者に法律行為の権限を与えることができないことからもわかるように、兼用工作物に関する協議は河川法上の許可に代わるものではない。したがって、兼用工作物であっても河川区域内に施設または工作物を設置することに変わりはないので、河川法第24条および第26条に基づく占用許可や工作物新築許可等の手続きが必要となる[41]

各法律の定め

各法令による兼用工作物関係の規定
根拠法 兼用工作物となる公共公物と、
他の工作物(下線)取れの組み合わせの例
公示の要否 私人の制限の有無
港湾 港湾法 (例示なし) 不要
漁港 漁港漁場整備法 堤防又は護岸と道路[9] 不要
道路 道路法 道路と堤防、護岸、ダム、鉄道又は軌道用の橋、踏切道、駅前広場その他公共の用に供する工作物又は施設 協議の内容を公示 行政権限を行使することが不適当であると考えられる者[6]は、道路の新設、改築又は修繕に関する工事及び維持以外の管理を行うことができない
都市公園 都市公園法 都市公園と河川、道路、下水道その他の施設又は工作物 協議の内容を公示 都市公園に関する工事及び維持以外の管理を行うことができない
空港 空港法 (例示なし) 不要
海岸保全施設 海岸法 海岸保全施設と道路、水門、物揚場その他の施設又は工作物 不要
津波防護施設 津波防災地域づくりに関する法律 津波による浸水を防止する機能を有する盛土構造物、護岸、胸壁及び閘門と道路、鉄道等の施設[32][33] 協議の内容を公示
下水道 下水道法 公共下水道の排水施設と道路の側溝、公共下水道の排水渠の擁壁と河川の堤防、終末処理場の上部の覆蓋と都市公園[35] 不要
地すべり防止施設 地すべり等防止法 地すべり防止施設と砂防設備、保安施設事業に係る施設、かんがい排水施設その他の施設又は工作物 不要
河川 河川法 堤防または水門と道路、床止めと農業用の取水堰[40] 協議の内容を公示

脚注

注釈

  1. ^ 従って、前述した堤防と道路の例では、重複している部分のみ兼用工作物となる。必ずしも堤防全体または道路全体が兼用工作物になる訳ではない[1]
  2. ^ 下水道法の解釈においても同様[2]
  3. ^ 例えば、道路の場合は官報等で公示すべきものと解され[3]、河川の場合は官報等で公示することが法令で定められているが[4]、津波防護施設の場合は都道府県の公報への掲載のほかインターネットの利用も例示されている[5]
  4. ^ この場合の私人とは、行政権限を行使することが不適当であると考えられるすべての者を指し、逆に、私人に該当しない者とは、国または地方公共団体のように、道路管理者が行使するような権限に類似した行政権限を行使することが他法令で定められている者に限定すると解されている[6]
  5. ^ 港湾法には「兼用工作物」という名称は出てこないが、「他の工作物と効用を兼ねる港湾施設」が兼用工作物と同義と言える。
  6. ^ 旧漁港法および漁港漁場整備法とも「兼用工作物」という名称は出てこないが、「他の工作物と効用を兼ねる漁港施設」が兼用工作物と同義と言える。
  7. ^ 港湾法と異なり工事の施行については協議対象とされていないことから、他の工作物の管理者は工事が行えない。
  8. ^ 国道の新設または改築は、全国的な幹線道路網を形成するものであることから、道路管理者において直接行うことが適当との考え方に基づくもの[12]
  9. ^ 例えば、港湾法の解説図書では「当事者間の協議がまとまらなかった場合の調整規定も道路法と異なり存しない」と例示されている[19]ほか、下水道法の解説図書でも、下水道法に裁定の規定はないが、道路との兼用工作物については道路法の規定に基づく申請が可能であることが紹介されている[2]
  10. ^ 高速自動車国道の場合は、道路法第20条に基づく兼用工作物ではなく、道路法の特別法である高速自動車国道法の第8条に基づく兼用工作物となる。
  11. ^ 厳密に言えば、「隣接する都市公園の駐車場が、高速道路の第二駐車場を兼ねるもの」がハイウェイオアシスであるが[24]、実態としては「隣接する施設に徒歩等でアクセスできる施設」を総称してハイウェイオアシスと呼ばれていることが多い。

出典

  1. ^ a b 道路法令研究会(2017)142ページ
  2. ^ a b 下水道法令研究会(2016)266ページ
  3. ^ 道路法令研究会(2017)148ページ
  4. ^ 河川法施行規則第8条
  5. ^ 津波防災地域づくりに関する法律施行規則第19条
  6. ^ a b 昭和29年2月2日付け建設省道発第23号道路局長通達
  7. ^ 港湾法第2条第7項。
  8. ^ 港湾法第43条の2。
  9. ^ a b 漁港漁場整備法規研究会(2008)168ページ
  10. ^ 漁港漁場整備法第20条の3。
  11. ^ 道路法第20条第1項。
  12. ^ 道路法令研究会(2017)143ページ
  13. ^ 道路法第27条第4項および道路法施行令第5条各号。
  14. ^ 道路法第27条第4項および道路法施行令第6条第5項。
  15. ^ 道路法第55条。
  16. ^ 道路法第20条第6項
  17. ^ 昭和27年12月5日付運輸事務次官・建設事務次官通達。
  18. ^ 道路法令研究会(2017)144ページ
  19. ^ 多賀谷(2018)288-289ページ
  20. ^ 道路法第21条
  21. ^ 昭和39年の改正前の道路法第21条第2項
  22. ^ 昭和47年6月19日付建設省河川局長・道路局長通達
  23. ^ 道路法令研究会(2017)238ページ
  24. ^ 道路関連施設整備支援に関する調査研究” (PDF). 一般財団法人 道路新産業開発機構. 2019年1月6日閲覧。
  25. ^ 都市公園法第5条の10第1項。
  26. ^ 都市公園法第5条の10第1項および都市公園法施行令第10条の2各号。
  27. ^ 都市公園法第5条の10第1項および都市公園法施行令第11条各号。
  28. ^ 都市公園法第5条の10第2項。
  29. ^ 空港法第11条。
  30. ^ 海岸法第15条。
  31. ^ 津波防災地域づくりに関する法律第30条。
  32. ^ a b 津波防災地域づくりに関する法律研究会(2014)61ページ
  33. ^ a b 津波防災地域づくりに関する法律研究会(2014)65ページ
  34. ^ 下水道法第15条。
  35. ^ a b c 下水道法令研究会(2016)265ページ
  36. ^ 地すべり等防止法第13条
  37. ^ 若江(1958)28ページ
  38. ^ 地すべり等防止法第45条
  39. ^ 河川法第17条。
  40. ^ a b 河川法研究会(2006)105ページ
  41. ^ a b 河川法研究会(2006)106ページ

参考文献

  • 若江則忠、1958年10月15日『地すべり等防止法の解説と運用』林野共済会
  • 河川法研究会、2006年10月20日『改訂版 逐条解説 河川法解説』大成出版社、ISBN 978-4-8028-8122-7
  • 漁港漁場整備法規研究会、2008年4月『漁港漁場整備法逐条解説 平成20年度版』全国漁港漁場協会、NCID BA7082849X
  • 津波防災地域づくりに関する法律研究会、2014年4月28日『津波防災地域づくりに関する法律の解説』大成出版社、ISBN 978-4-8028-3136-9
  • 下水道法令研究会、2016年5月10日『逐条解説 下水道法 第四次改定版』ぎょうせい、ISBN 978-4-324-10120-9
  • 道路法令研究会、2017年9月25日『改定5版 道路法解説』大成出版社、ISBN 978-4-8028-3233-5
  • 多賀谷一照、2018年9月20日『詳解 逐条解説 港湾法 三訂版』第一法規、ISBN 978-4-474-06461-4