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「調律」の版間の差分

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2005年8月18日 (木) 05:44時点における版

調律とは、楽器が発する音のピッチを演奏の目的に適うように調整することである。したがって複数の楽器間のピッチを一致させることも、ひとつの楽器の複数の発音部分を調和させることも調律である。いずれにしても基準となるひとつのピッチを決定するプロセスがはじめに必要であり、クラリネットのように発音部分がひとつしかない楽器では、このプロセス自体が調律である。またピッチとは関係なく、英語の tune up が音程を合わせるという意味と調整するという意味があることから、楽器を正常に使用できる状態、ないしは使いやすい状態に調整することを指してチューニングということもある。

調律には大きく分けて 2 つのステップがある。第一は、上述のとおり、演奏に先立って楽器のピッチを合わせる過程である。第二は、演奏中に自分以外の奏者や歌手が出す音程と自分の楽器が出す音程を合わせる過程である。一般的に調律とは第 1 のステップを指すことが多い。

「ひとつの楽器の複数の発音部分を調和させること」を音律調整という。また、特に弦楽器における調律を調弦と呼ぶことがある。

演奏に先立ち楽器が調律されているのに、なぜ演奏中に絶えず調律するのかというと、次のような理由がある。第一に、管楽器は、原理的に平均律を出すことが不可能であるため。第二に、和音を純正律で響かせるため。第三に、演奏中に合奏体全体の音程が上ずってきたり下がってきたりすることがしばしば起こるので、それに対応させるため。ただし、ピアノやシロフォンなどのように、一度調律されると演奏中に音程を変えられない楽器には、この過程は存在しない。

第一の理由では、平均律で演奏することは音楽的に必ずしも適切とは限らないが、ユニゾンでメロディを演奏するときには平均律かそれに近い音律で演奏するのがふさわしいことがある。特に管楽器は、その種類によってピッチが高くなりがちな音や低くなりがちな音がある。たとえば、ある楽器ではロの音が低くなりがちであるというように。このように、異なったピッチの特性をもつ管楽器同士がひとつのメロディを演奏する場合、そのままでは他の楽器と微妙にピッチがずれてしまう。優秀な奏者は自分の楽器のピッチのくせを知っていて、他の楽器と音程がぴたりと合うように、演奏中に絶えず調律を行うものである。

第二の理由では、和音を濁りなく演奏するためには、平均律とは違った音程の取り方をする必要がある。たとえばドミソの和音では、ドに対してミをやや低く、ソをわずかに高く演奏する必要がある。管楽器や弦楽器では、演奏中にピッチを変えることができるので(楽器や音によりその程度に制約があるが)、可能な限り純正に響くように演奏中に音程を調整する。

第三の理由では、長時間演奏しているうちに、たとえば弦楽器ではだんだんと音が低くなっていき、管楽器ではだんだんと高くなっていく傾向がある。これは、弦がゆるんできたり、管が温まってきたりするためである。これにより、合奏体全体の音程が上ずったり下がったりする。全部の楽器がまったく同じように音程が変わっていけばあまり問題はないのであるが、たとえば同じ管楽器でもオーボエよりトランペットの方が音程の上ずりが大きい。まして弦楽器と管楽器とが合奏する場合は音程のずれ方が反対であるため、絶えず相手の音を聴いて、ずれた音程にならないように演奏中に絶えず調律する必要がある。

  • 演奏に先立った調律:日常的な調律は、巻の抜き差しによって行う。イ音または変ロ音で基準音を出し、その音に合わせるのが普通である。
  • 演奏に先立った調律:歌口(口を付けるところ)に近い部分のジョイント部分で、管の抜き差しを行う。それ以外にもジョイント部分がある楽器では、適宜そのジョイント部分でも管の抜き差しを行う。
  • 演奏中の調律:歌口をくわえる圧力や、替え指で行う。リコーダーのような楽器では、替え指を使ったり、息の強さを変えたり、シェーディングといって音穴(トーン・ホール)を中途半端に塞いだり、スライド・フィンガリングといって音穴から指をずらして隙間を空けたりしてピッチをコントロールする。
  • 演奏に先立った調律:巻の途中にU字型のスライド式の二重抜き差し管があるのが普通である。
  • 演奏中の調律:唇の力の入れ具合や、替え指で行う。トランペットのようにバルブのスライドの長さを指で変えられる楽器ではそれも使う。

ピッチとイントネーション

ここでは、音の高さのことをすべてピッチという語を用いて説明してきたが、管楽器においてピッチとイントネーションとでは意味が違う。ピッチとは、物理的に管が震動する周波数のことである。たとえば、クラリネットで A の指使いをしたとき、物理学的に共鳴する周波数が 440Hz であれば、これが A の指使いにおけるピッチである。奏者が正しく演奏したときには 440Hz の音が響く。しかし、唄口をくわえる強さを加減したり、息の強さを変えたりすることで、物理的な共振周波数よりも強引に高いまたは低い周波数で振動させることができる。このようにして変えられた周波数で演奏されたとき、その高さの音をイントネーションという。

ピアノやシロフォンなどにはピッチはあるが、イントネーションはない。

ヴァイオリン属の楽器やギターの調弦

  • 演奏に先立った調律
    糸巻きを回すことによって弦の張力を変化させ、開放弦の音高を変える。普通、最初にイ音で基準音を出し、ヴァイオリンヴィオラチェロではイ音の高さの弦をそれに合わせる。次に、5度調弦(隣接する弦同士の音程が完全5度である)であるので、隣接する弦を同時に弾き、高い弦の第2倍音と低い弦の第3倍音のうなりを用いて順次隣接する弦を調弦する。ただし、チェロではそれらの倍音をハーモニクス(フラジオレット)を使って出し、同音同士で調弦することも行われる。コントラバスでは多くの場合、最初に第2弦の第3倍音を基準音のイ音と合わせる。順次隣接する弦を調弦するが、4度調弦であるので、高い弦の第3倍音のフラジオレットと低い弦の第4倍音のフラジオレットを出して調弦する。ギターでも同様であるが、4度調弦であるものの途中に長3度が含まれることが異なる。フラジオレットを用いるのが普通であるが、フレットを使って調弦することや、調子笛(ピッチパイプ)と呼ばれる、各弦の音高を出す笛を用いることも特に初心者の間では行われる。エレクトリックギターではチューナーまたは調律メーターと呼ばれる電子機器を用いるのが一般的である。また、エレクトリックギターでは12フレットを押弦して弾いた音と、12フレットハーモニクス音(または開放弦を弾いた音)が同じ音程の音(開放弦の場合はオクターブ違いの同音程)になるようにサドルを前後方向に調整する、オクターブ調律という作業も必要となる。但し、この作業は広義での調律の一種ではあるが、各弦間の音程の調整ではないので調弦とは言えない。
  • 演奏中の調律
    弦を押さえる指の位置をわずかにずらして行うが、開放弦の音は演奏中に調律しようがない。ギターのようにフレットがある楽器でも、優れた奏者は演奏中に音程を微妙に変化させて調律することができる。
  • 外部リンク*[1]ギターについて

西洋音楽の打楽器の調律

太鼓の調律

音程を持たない太鼓の調律

  • 演奏に先立った調律:大太鼓、小太鼓などの太鼓には、リムに複数の調律ねじが付いていて、これを回すと皮にかかる張力が大きくなったり小さくなったりする。太鼓は明確な音程を持つ楽器ではないが、よく響く音程というのは存在する。皮にかかる張力が弱すぎるとたるんだ音になり、強すぎると皮を傷める。皮の中心を挟んで 180 度離れた調律ねじを対として扱い、360 度どの角度からも均一な張力がかかるようにし、皮にかかる張力が強すぎず、よく響く音程に調節する。

ティンパニは明確な音程を持つ太鼓である。

  • 演奏に先立った調律:リムに複数の調律ねじが付いていて、これを回すと皮にかかる張力が大きくなったり小さくなったりする。このことによって音程が変化する。皮の中心を挟んで 180 度離れた調律ねじを対として扱い、360 度どの角度からも均一な張力がかかるように調律する。
  • 演奏中の調律:ペダル・ティンパニであれば、演奏中にペダルを上下させることで音程を変えることができる。また、ペダルはグリッサンド奏法に使用することもできる。ハンドル・ティンパニでは、同様の作業をハンドルを回すことで行う。

木琴鉄琴の調律

シロフォンマリンバなどの木琴、ビブラフォングロッケンシュピールなどの鉄琴は、楽器の製造過程ですでに調律されている。通常、奏者や調律師によって、演奏に先立って調律されることはない。ただし、楽器を破損したり、出荷時の調律が狂っていたりする場合は、リペアに出すことで再調律することができる。

ピアノの調律

ピアノでは、低音域を除き、各音に3弦ずつ使われている。調律の前に、フェルトで、3本のうちの2本の弦を押さえて響かないようにする。最初に中央ハの上のイ音を音叉を用いて合わせる。以後、中央のオクターブについて、うなりを用いて音を合わせる。十二平均律に合わせるため、うなりをなくすのではなく、規定のうなりの数になるようにする。次に、中央のオクターブの音からオクターブ関係を用いて、すべての音について音を合わせる。最後に、フェルトを入れ替えたりはずしたりしながら、3本の弦が同じ高さになるまで調律する。ピアノの調律は非常に専門的な技巧を必要とする。(一般的にピアノの)調律を専門的に行う職業、またはそれに従事する者を調律師という。

雅楽の音取り

雅楽では、音取り(ねとり)と呼び、短い楽曲のような形式で行う。

筝の音取り

については、現在は調律笛で基本となる音(主に一絃)を調律し、その音を基準に調律(平調子であれば一絃に五・十絃を合わせる)する。

関連項目

参考リンク