森林法共有林事件

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最高裁判所判例
事件名 共有物分割等
事件番号 昭和59(オ)805
1987年(昭和62年)4月22日
判例集 民集第41巻3号408頁
裁判要旨

一 森林法一八六条本文は、憲法二九条二項に違反する。
二 民法二五八条により共有物の現物分割をする場合には、その一態様として、持分の価格を超える現物を取得する共有者に当該超過分の対価を支払わせて過不足を調整することも許される。
三 数か所に分かれて存在する多数の共有不動産について、民法二五八条により現物分割をする場合には、これらを一括して分割の対象とし、分割後のそれぞれの不動産を各共有者の単独所有とすることも許される。

四 多数の者が共有する物を民法二五八条により現物分割する場合には、分割請求者の持分の限度で現物を分割し、その余は他の者の共有として残す方法によることも許される。
大法廷
裁判長 矢口洪一
陪席裁判官 牧圭次安岡滿彦角田禮次郎島谷六郎長島敦高島益郎藤島昭大内恒夫香川保一坂上壽夫佐藤哲郎林藤之輔
意見
多数意見 矢口洪一、牧圭次、安岡滿彦、角田禮次郎、島谷六郎、長島敦、藤島昭、坂上壽夫、佐藤哲郎、林藤之輔
意見 大内恒夫、高島益郎
反対意見 香川保一
参照法条
憲法29条1項,憲法29条2項,民法256条1項,民法258条,森林法186条
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森林法共有林事件(しんりんほうきょうゆうりんじけん)とは共有林分割制限を規定する森林法の規定が日本国憲法第29条に違反するかが争われた裁判[1]

概要[編集]

静岡県に住むある兄弟は1947年に父親から4つの山林を生前贈与され、2分の1ずつの共有の登記を行った[2]。しかし、1965年に兄が弟の了解なしに山林内の立木を伐採して売ったことから二人が対立した[2]。弟は信頼関係が崩れたとして、兄に対して山林の2分の1を分割すること等を求めたが拒否された[2]。そのため、弟は山林の分割等を要求して裁判を起こした[2]

民法第256条では共有物分割自由の原則を規定しているが、当時の森林法第186条で持分価額で過半数がない共有者の分割請求権を否定する規定が存在した[3]。そのため、この事件の兄弟のように持ち分が半分ずつの共有者は分割できなかった[3]。その結果、下級審では兄に伐採の利益の半分約715万円の支払いを命じたものの、分割請求については「兄が分割に反対しており、森林法第186条が規定する過半数の賛成がない」として弟の分割請求を棄却した[4][5]

弟は山林の分割を認めない森林法第186条の規定について、日本国憲法第29条の財産権を侵害するとして最高裁判所に上告した[6]

1987年4月22日に最高裁は財産権規制の合憲性の判断基準について、「立法の規制目的が公共の福祉に合致しないことが明らかである場合」又は「規制目的が公共の福祉に合致しても、規制手段が目的達成の手段として必要性または合理性に欠けていることが明らかで、立法府の判断が合理的裁量の範囲を超える場合」は規制立法が憲法第29条第2項に反するとして効力を否定するとした[7]。森林法第186条の立法目的は「森林の細分化を防いで森林経営を安定の図り、ひいては森林の生産力を増やすことなどで国民経済の発展に資する」とした上で、「持分価額が等しい2名の共有者間で、共有物の管理などをめぐって紛争が生じた場合、各共有者は適法に管理することができず、ひいては森林の荒廃をまねく」「森林法は森林の分割を絶対的に禁じているわけではない。共有者の協議による分割、あるいは持分価額過半数の共有者の請求による分割などは許している。にも関わらず、持分価額2分の1以下の共有者の分割だけを許さないことに強い社会的必要性は見いだせない」として森林法第186条の規定を日本国憲法第29条に違反する違憲判決を出して高裁に差し戻した[8]。この大法廷判決は矢口洪一長官を含めた12人による多数意見であった[9]。大内恒夫と高島益郎は違憲の結論は同じであるが理由づけが異なる意見を出し、香川保一は規制内容は不合理ではあるとは言えないとして合憲とする反対意見を出した[9]

1997年10月8日に東京高裁で和解が成立し、弟の勝訴が確定した[1][10]

最高裁の判決を受けて、1987年5月に国会で共有林分割請求制限規定を削除する森林法改正案が成立した。

脚注[編集]

  1. ^ a b 高橋和之・長谷部恭男・石川健治「憲法判例百選Ⅰ 第5版」(有斐閣)212頁
  2. ^ a b c d 山田隆司「最高裁の違憲判決」(光文社新書)147頁
  3. ^ a b 山田隆司「最高裁の違憲判決」(光文社新書)148頁
  4. ^ 山本裕司「最高裁物語(下)」(講談社a文庫)355・356頁
  5. ^ 京都産業大学判例集
  6. ^ 山本裕司「最高裁物語(下)」(講談社a文庫)356頁
  7. ^ 山田隆司「最高裁の違憲判決」(光文社新書)150頁
  8. ^ 山田隆司「最高裁の違憲判決」(光文社新書)150・151頁
  9. ^ a b 山田隆司「最高裁の違憲判決」(光文社新書)152頁
  10. ^ 山本裕司「最高裁物語(下)」(講談社a文庫)357頁

関連項目[編集]