妊娠ストール

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ナビゲーションに移動 検索に移動
現代の養豚施設で使用される妊娠ストール

妊娠ストール: gestation crate )とは、子取り用の母を妊娠期間中(約114日間)に単頭飼育する個別の檻のことである。

糞尿を処理しやすいよう排泄を定位置でさせる、スペースの削減という理由から個々の飼育スペースは母豚のサイズと同程度(60cm(幅)180㎝(奥行き)ほど)で転回ができないようになっている。頭部に餌桶(あるいは自動給餌機)と飲水設備が設置され、尻部の床はすのこ状になっており糞尿が下に落ちる仕組みになっている。

母豚は分娩が近づくと分娩ストールに移動させられ、子豚が離乳すると次の種付けが行われて再び妊娠ストールに戻される。

歴史[編集]

動物行動学者で動物福祉施設の開発者でもあるテンプル・グランディンによると、妊娠ストールの使用が拡がったのは、豚の屋内飼育が行われるようになり自動給餌機が設置されるようになった1980年代だという。現代では豚が餌を食べたかどうかを管理するために豚に取り付ける管理の容易な小型発信機と、餌を食べた豚のスムーズな移動が可能な自動給餌システムが存在するが、当時はそのような精度の高いものがまだ開発途中であった。そのためグループ飼育した個々の豚の給餌管理が困難であったことから豚を一頭一頭別々の豚房に閉じ込めて給餌するという妊娠ストールが業界に広がっていったという[1]

動物愛護上の問題[編集]

柵を齧む母豚

妊娠ストール飼育される母豚は、主に前面を囲う柵を恒常的にくわえて齧る「柵かじり」や、口の中にものが入っていないのに咀嚼し続ける「偽咀嚼」、水を必要以上に飲み続ける「多飲行動」といった異常行動を発現させる[2]

欧州委員会の科学獣医審議会は、妊娠ストールの研究すべてで反復的な「ステレオタイプ」の行動が見出されたと報告している[3]

妊娠ストール飼育の母豚にはさまざまな健康問題が見られることが知られている。これらの中には、尿路感染症、呼吸器疾患[4]、皮膚病変[5]、骨密度の低下[6]、筋肉の健康状態の悪化[6]、心臓血管の問題[7]、足の怪我[8]、関節の損傷[9]などが含まれている。妊娠ストールにおける心臓血管の健康状態の悪さや骨密度の問題、筋肉の健康状態の悪さはすべて運動の欠如に起因する[6][7]

諸外国における妊娠ストールの廃止状況[編集]

欧州連合は理事会指令「豚保護のための最低基準(COUNCIL DIRECTIVE 2008/120/EC of 18 December 2008 - laying down minimum standards for the protection of pigs)」において2013年1月1日から妊娠ストールを禁止した。アメリカではフロリダ,メイン,ロードアイランド,オレゴン, アリゾナ,カリフォルニア,コロラド,ミシガンが妊娠ストールの廃止を決定した[10]

また諸外国では60以上の多国籍企業が妊娠ストールの廃止を宣言している[11]

日本における妊娠ストール使用状況[編集]

日本の妊娠ストール

日本養豚業において一般的に使用されている。 2014年時点で、日本の養豚業における使用率は88.6%[12]である。

2018年3月時点で法的な規制はない。

脚注[編集]

[ヘルプ]
  1. ^ テンプル・グランディン、キャサリン・ジョンソン 『動物が幸せを感じるとき: 新しい動物行動学でわかるアニマル・マインド』 中尾ゆかり訳、NHK出版、2011年12月、初版。ISBN 9784140815151NCID BB08088979 (原題:Animals Make Us Human: creating the best life for animals
  2. ^ 佐藤衆介 『アニマルウェルフェア-動物の幸せについての科学と論理』 東京大学出版会、2005年6月、初版。ISBN 9784130730501NCID BA72286591
  3. ^ SVC (Scientific Veterinary Committee) (1997). The welfare of intensively kept pigs. Commission of the European Communities, Directorate-General for Agriculture, Brussels. https://ec.europa.eu/food/sites/food/files/animals/docs/aw_arch_1997_intensively_kept_pigs_en.pdf
  4. ^ Tillon JP and Madec F. 1984 "Diseases affecting confined sows: data from epidemiological observations" https://www.researchgate.net/publication/16708998_Diseases_affecting_confined_sows_Data_from_epidemiological_observations Annales de Recherches Vétérinaires (Annals of Veterinary Research) 15(2):195-9. "An HSUS Report: Welfare Issues with Gestation Crates for Pregnant Sows" http://animalstudiesrepository.org/hsus_reps_impacts_on_animals/25/ Humane Society of the United States.
  5. ^ Broom DM, Mendl MT, Zanella AJ. 1995. A comparison of the welfare of sows in different housing conditions. Animal Science 61:369-85.
  6. ^ a b c Marchant JN and Broom DM. 1996. Effects of dry sow housing conditions on muscle weight and bone strength. Animal Science 62:105-13.
  7. ^ a b Commission of the European Communities. 2001. COM(2001) 20 final 2001/0021 (CNS) Communication from the Commission to the Council and the European Parliament on the welfare of intensively kept pigs in particularly taking into account the welfare of sows reared in varying degrees of confinement and in groups. Proposal for a Council Directive amending Directive 91/630/EEC laying down minimum standards for the protection of pigs.
  8. ^ Kornegay ET, Bryant KL, and Notter DR. 1990. Toe lesion development in gilts and sows housed in confinement as influenced by toe size and toe location. Applied Agricultural Research 5(4):327-34.
  9. ^ Fredeen HT and Sather AP. 1978. Joint damage in pigs reared under confinement. Canadian Journal of Animal Science, 58:759-73.
  10. ^ http://www.onegreenplanet.org/animalsandnature/states-that-have-banned-cruel-gestation-crates-for-pigs/9 States That Have Banned Cruel Gestation Crates for Pigs
  11. ^ Gestation Crate Elimination Policies - CrateFreeFuture.com
  12. ^ 2014年畜産技術協会「飼養実態アンケート調査報告書」 http://jlta.lin.gr.jp/report/animalwelfare/index.html http://jlta.lin.gr.jp/report/animalwelfare/index.html

関連項目[編集]

外部リンク[編集]