天体写真

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オリオン大星雲の天体写真

天体写真(てんたいしゃしん、英:astrophotography )とは、天体惑星衛星恒星彗星星座星雲星団など)を撮影した写真のこと。天文写真と呼ばれることもある。

概要[編集]

固定撮影法による星景写真 (アメリカ ユタ州

肉眼と撮影との異差[編集]

肉眼と撮影では、光を感じる色(波長)の幅広さと、光を溜めておける時間が異なる。

一般に天体写真は被写体が暗いので、シャッター速度を遅く、すなわち露光時間を長くして撮影することが多い。星の光は、肉眼では瞬間的にやってくる点として知覚されるだけなのに対し、写真では露光時間を長くとることで長時間の情報を記録できる。また、複数の撮像を比較明合成や平均合成するなどして、肉眼では識別することが出来ないほど暗い対象を撮影したり、時間の流れを感じる映像などを撮影することも可能となる。

また、肉眼では識別する事の出来ない赤外方向である、宇宙に多いHα線に対し淡くしか捉えられないが、フィルムCCDCMOSなどでは比較的にフラットな感度となる。従って、情報量が増えた分、天体写真と実際に目で見た星や星雲とは、色や形が違ったものとなる。

撮影対象と撮影手法[編集]

カメラを固定して撮影する場合、長時間の露光では地球の自転や天体の動きが線として蓄積的に現れる結果となる。このため、星を点像として写し撮るためには、地球の自転による天体の動きを追尾する必要がある。一方この場合地上の風景は当然固定されているため、地上風景はずれていくことになる。こうしてカメラの動きを星の動きに合わせるか、地上の固定を考慮した動きにするかがて映像に違いが出てくことになる。

星野写真

主に複数の星々のみで地上風景を除外または主しない撮影を星野写真という。撮影方法はガイド撮影と固定撮影がそれぞれの意図によって使用される。

星景写真[編集]

星と風景を合わせて撮影した写真である。もともと星屋写真の分野であるが、カメラ感度の向上と共に、地上などの風景と星々を合わせた撮影が用意になってきた他ため星景写真と分類する事が増えてきた。撮影方法は、地上を固定させるため、主に固定方式がされるが、地上のブレが気にならない程度の短時間にガイド撮影することもある。

ガイド撮影(追尾撮影)[編集]

星の動きに合わせて動かす撮影方法をガイド撮影(追尾撮影)という。一般には、撮影機を赤道儀式架台という専用の架台に設置し、円周方向の中心軸を北軸または南軸に合わせて、撮影する。天球は地上に対して1時間に15度程度移動するため、この動きに沿って動かす必要がある。近年ではモータードライブ付き赤道儀式架台によって自動追尾することが一般的である。また一部例外としてPENTAXのアストロトレーサーの用に、撮影センサーを稼働させることで、短時間ながらもカメラのみで自動追尾するような機種もある。ガイド撮影の際には、記録する映像の倍率が大きくなればなるほど光量が減り、動きの誤差が拡大されるので、赤道儀式架台は倍率に見合った頑丈さと精度が要求される。

固定撮影[編集]

撮影機を地上や経緯台式架台などに固定して行う撮影方法を固定撮影という。赤道儀などの個別の機材が必要でないため手軽に撮影できる手法である。固定撮影の際は、天体は地球の自転運動により見かけ上動く(日周運動)ため、長時間の露出をすると同心円状の光跡として写る。地上の風景を考え効果的に写せば優れた天体写真となる。また、月や動きの速い彗星の動きに合わせて望遠鏡を長時間追尾し撮影すると、対象でない天体は固定撮影のように軌跡が写る。

ガイド撮影法による星野写真

補助機材の導入[編集]

天体写真はカメラ単体で撮影される場合と、集光力分解能を上げる目的で、望遠鏡などの機器を用いて拡大して撮影される場合がある。カメラ用のレンズの代わりに望遠鏡などの対物レンズを使った撮影方法を直焦撮影法、対物レンズと感光部の中間に接眼レンズを入れる撮影方法を拡大撮影法という。カメラの標準のレンズが取り外せないコンパクトカメラコンパクトデジカメ携帯電話など移動体端末の場合には、望遠鏡の接眼レンズまたはマルチモノピュラーに映った像をそのまま撮影する簡易撮影法(コリメート法)が採用される。

フィルム撮影から電子技術を用いた天体撮影へ[編集]

フィルム写真が主流であった時代には、天体写真の撮影は一枚の撮影に数時間という膨大な時間がかかることも稀ではなかった。これはフィルム感度が低く短時間の撮影では十分な星像を得ることが出来ないことに起因するものだった。(例えばフィルム時代の初期では白昼の明るい環境で人物を撮影するにも数十分姿勢を支持する必要があった)。また、フィルム写真は相反則不軌という現象があり、長時間露出をすると感度がかなり落ちる。こうした問題点が、急速に改善されたのが電子観望やデジタルカメラなど電子的な撮影と画像合成の急速な進化である。

デジタルカメラの普及期となった2010年代以降のデジタルカメラでは撮影感度がフィルムと比較し非常に高感度となっており、比較的短時間で天体写真を撮ることができる。


逆に、長時間露出をすると画像にノイズが乗るため、短時間で露出を切り上げ、画像を合成する方法が一般的になっている。冷却CCDカメラを使用すれば長時間露出してもノイズが載らないため、微光天体の撮影に使用される。また、銀塩式(写真フィルム)の場合、水素増感等の増感現像処理も用いられる。

CCDカメラの場合、35mmフルサイズカメラに比べて撮像面積が狭く、小惑星や彗星、新星、超新星の探索に用いられるシュミット式望遠鏡等の広視野の光学系を持つ望遠鏡の場合、有効視野を充分に利用できないので複数のCCDをモザイク状に配置し後で画像処理で合成する手法が用いられる。

ガイド撮影法に関しては、星雲や星団等の微光天体の撮影においてはガイド星を目印に赤道儀によるピリオディックモーション等によりずれないようにガイドする。10年くらい前からミード等から販売されるCCDカメラで自動的にガイドする装置も普及しつつある。また、国立天文台ハワイ観測所すばる望遠鏡やミードLX200シリーズのように経緯台式架台でもイメージローテーターを使用して天体写真の撮影に用いられる。

また、ノイズができるだけ乗らないようにカメラやCCDを冷却する方法も模索されている。Hα線をより写すことができるように、デジタルカメラのCCDの前に必ずついている赤外線カットフィルター[注釈 1]を、メーカー保証外になるにもかかわらず外す人やそれを代行する業者もある。

動画から補正された土星の映像

月や惑星の天体写真では、ビデオカメラなどで動画形式で保存して、そこから写真を作り上げる方法が確立されつつある。高倍率で月や惑星を見ると、大気のゆがみで映像はどうしても揺らぐ。この揺らぎのまま動画で記録し、コンピュータ上で処理することによって、ゆがみが少ない映像を選択したり、ゆがみを補正したりして、優れた天体写真を作ることができる。最終的には「熟練した人のスケッチ」に相当する映像処理を実現できるとも言われる。この手法の場合、後でコンピュータ処理をするため、高価で精密な赤道儀式架台を必ずしも必要としない。安価な経緯台式架台で惑星写真を撮る人もいる。

流星観測の場合はカメラのレンズの前に回転するプロペラのような回転シャッターを置くことによって断続する流星の飛跡から移動速度を記録する事ができる。

Hubble 01.jpg

天体写真には、科学的な研究目的で撮影されるものと、趣味などで撮影されるものがある。専門の「天体写真家」はあまり存在しない。例えば天文台などで天体写真を撮影する場合があるが、それはあくまでも研究の補助であり、撮影自体を仕事としている者はほとんどいない。天体写真を撮影する者の多くはアマチュア写真家である。

一般に現代の天文学はきわめて多額の資金を必要とし、その成果はアマチュアには手の届かないものとなっている。しかし、上記にあげた天体写真に関する最近の様々な技術の工夫はアマチュアの手によるものが多い。現在はフィルムカメラからデジタルカメラへの急速な移行期にあり、デジタルカメラも技術革新が著しい。天体写真の分野も現在種々の工夫が試みられ、また、天体写真を撮る機材や画像を処理するプログラムも高度化しており、天文雑誌に載る天体写真のレベルも昔に比べてかなり向上している。

また、一般の写真雑誌でも、殆どが固定撮影ではあるが天体写真を取り入れた写真が増加している。これも、デジタルカメラによって天体写真を撮ることが容易になってきたということが原因であると思われる。

画像処理[編集]

1980年代には増感処理やサバチェ効果等、写真的手法による画像処理が行われたが、1990年代に入り、パソコンが普及するとフィルムスキャナーで取り込んだ画像をPhotoshop等のデジタル画像処理ソフトで画像処理する手法が普及し始めた。やがて、電子的な手法で撮像した画像をそのまま電子媒体を介して画像処理する手法が定着する。インタラクティブアストロノミーではその手法が紹介された。

遠隔操作[編集]

1980年代から一部の愛好家の間で実験的に進められてきたが、1990年代以降、インターネットの普及により昼間でも地球の裏側の夜の地域の望遠鏡を遠隔操作して電子カメラで画像を転送する試みが一部の公開天文台や愛好家の間で行われている。

代表的な天体写真家[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 人間の眼は赤外線を感じず、CCDは感じるため、同様の感度特性としカラーバランスを自然にするために赤外線を通さないフィルター。

出典[編集]

[脚注の使い方]

参考文献[編集]