吉川武彦

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吉川 武彦(きっかわ たけひこ、1935年10月30日 - 2015年3月21日[1])は、日本の医学者精神科医金沢市出身[2]。1961年千葉大学医学部医学科卒。1966年同大学院医学研究科神経精神医学専攻修了(医学博士、論文の題は「ロールシャッハテストによる不安の研究 : 特に不安の顕在化と潜在化をめぐる精神力動について」[3])。

また、日本泳法委員として日本泳法の普及、発展に尽力[4]。古式泳法の水府流太田派 桐游倶楽部の免許皆伝[5]

経歴[編集]

学生時代には安保闘争に参加、1960年6月15日のデモでは国会へ詰めかける。この時、先頭に立っていた樺美智子が倒れ込むところを間近に目撃、混乱のなかから樺美智子を引きずり出して救護所へ運び込んだ。 この学生運動の経験から、国家権力は「外」から変えられないならば、国家権力の懐に飛び込み「内」から変えようと決心した。と、同氏は近年の談話で回顧した。

長野県立駒ヶ根病院(現:長野県立こころの医療センター駒ヶ根)医長をはじめとし、琉球大学教育学部 教授(1975年)、東京都立中部総合精神保健福祉センター 部長(1985年)、国立精神・神経センター(現:国立精神・神経医療研究センター)精神保健研究所 部長(1988年)、国立精神・神経センター 武蔵病院リハビリテーション 部長(1995年)、国立精神・神経センター 精神保健研究所 所長(1997年)、国立精神・神経センター 精神保健研究所 名誉所長(2001年)、中部学院大学大学院人間福祉学研究科 教授(2001年) 、中部学院大学 名誉教授、清泉女学院大学清泉女学院短期大学 学長(2012年)を勤めた。

生涯にわたり、精神障がい者の社会復帰とその家族の支援にあたるとともに、「心を豊かにする」をテーマに婦女子の教育に努めた。

2012年、瑞宝中綬章受章[6]

2013年、赴任先の長野市で生涯学習を視野に私塾・吉川塾(きっかわじゅく、代表者は山田雅之)を立ちあげ、長野清泉女学院中学校・高等学校で講座「医学的人間学」(1講座90分間、全15回)を試験的に開催。本講座は、翌年度には同校により課外講座として正式採用・開設され、多くの中学・高等学校の女学生が聴講した。

清泉女学院大学・清泉女学院短期大学 学長として、将来的には医学部ならびに看護学部(2019年4月1日開設の現看護学部看護学科)の新設に尽力した。

また、およそ50年間にわたり自殺についての研究をおこない、2009年7月に著書『自殺防止 支え合う関係を創り出すことから』(サイエンス社刊)を世に出す。自殺の研究と併せて、教職員のメンタルケアに注目・研究をおこなう。2014年1月には文部科学省 教職員のメンタルヘルス対策会議の座長に就任した。

なお、清泉女学院大学・清泉女学院短期大学の学長に就任後、中部学院大学での経験と実績をもとに高等教育コンソーシアムに取り組み、高等教育コンソーシアム信州の設立に尽力する。

一方、厚生労働省 脳死下での臓器提供に係る検証会議の委員にあって「脳死臓器移植については、その決断をしたドナー家族の苦悩が永く続くことから、慎重であるべし」と医師としての意見を貫いた。

2015年(平成27年)3月21日、東京都内の病院で心不全により逝去。享年79歳。10日に妻と52回目の結婚記念日を笑顔で穏やかに過ごしてからのことであった。叙従四位[7]

著書[編集]

単著[編集]

  • 『こころの健康学』(大修館書店、健康科学ライブラリー5) 1984.9 ISBN 9784469163551
  • 『心の健康&心の病い』(NOVA出版) 1986.5 ISBN 9784930914330
  • 『高齢化社会 - 病院・家族・地域ぐるみの看護』(ユリシス・出版部、ハートフルケアシリーズ) 1989.3 ISBN 9784896961027
  • 『痴呆性老人 - 看護と介護を考える』(ユリシス・出版部、ハートフルケアシリーズ) 1989.11 ISBN 9784896961034
  • 『こころの健やかさとは - 思春期を考える』(ユリシス・出版部) 1992.7 ISBN 9784896968026
  • 『こころを育む - 思春期を考える』(ユリシス・出版部) 1992.7 ISBN 9784896968019
  • 『こころの手紙 - 悩むあなたと医師との往復書簡』(法研) 1992.8 ISBN 9784879540065
  • 『精神障害をめぐって - メンタルヘルスはいまなぜ必要か』(中央法規出版) 1992.12 ISBN 9784805810491
  • 『精神保健マニュアル』(南山堂) 1993.1 ISBN 9784525381332
  • 『こころが危ない - 失われゆく母性への標』(関西看護出版) 1993.9 ISBN 9784906438112
  • 『地域精神保健活動入門』(金剛出版) 1994.3 ISBN 9784906438112
  • 『途中下車症候群 - “時代”に圧し潰された若者たちの不気味なメッセージ』(太陽企画出版) 1994.9 ISBN 9784884662356
  • 『ケアのための患者理解(ケアハンドブック)』(関西看護出版) 1995.1 ISBN 9784906438143
  • 『いい子に育てたい - 親の願い・子の願い・教師の願い』(関西看護出版) 1995.5 ISBN 9784906438204
  • 『翼をもった青年たち - わたしたちは旅に出た』(大揚社) 1996.1 ISBN 9784795243613
  • 『これからの地域精神保健 - 病院看護と地域看護の連携を求めて』(医学書院) 1996.4 ISBN 9784260348966
  • 『ゆううつ症候群 - こころが風邪をひいたとき』(法研) 1996.11 ISBN 9784879541628
  • 『こころの危機管理 -“いざ”というときのために』(関西看護出版) 1997.6 ISBN 9784906438259
  • 『いま、こころの育ちが危ない』(毎日新聞社) 1998.6 ISBN 978462031222-4
  • 『管理職のためのこころの健康法』(ぎょうせい) 1998.8 ISBN 9784324054802
  • 『「こころの病い」事始め』(明石書店) 1998.9 ISBN 9784750310763
  • 『人はなぜ心を病むのか - 迷路の中の「子ども」たち』(太陽企画出版) 1998.10 ISBN 9784884663056
  • 『高齢化社会 - 病院・家族・地域ぐるみの看護』第2版(ユリシス・出版部、ハートフルケアシリーズ) 1999.4 ISBN 9784896961058
  • 『「居心地のよいこころ」をつくる本 - 頑張り屋さんの気持ちをラクにするヒント』(大和書房) 1999.12 ISBN 9784479790501
  • 『こころの薄墨 老いとボケ - その現実と介護の実際』(NOVA出版) 2000 ISBN 9784930914293
  • 『ことばにならないこころのS・O・S - 孤立する「子ども」「教師」のこころ』(少年写真新聞社) 2001.6 ISBN 9784879812650
  • 『「引きこもり」を考える - 子育て論の視点から』(日本放送出版協会) 2001.12 ISBN 9784140019306
  • 『患者理解総論』(関西看護出版) 2002.11 ISBN 9784906438570
  • 『こんな管理職はいらない』(関西看護出版) 2006.6 ISBN 9784906438792
  • 『実践・ロールシャッハ法 - 自分がよくわかる、人がよくわかる、臨床に役立つ』(関西看護出版) 2007.5 ISBN 9784906438945
  • 『精神科医吉川武彦&ドクターK ボケ介護日誌』(クオリティケア) 2008.6 ISBN 9784904363010
  • 『自殺防止 - 支え合う関係を創り出すことから』(サイエンス社、ライブラリ こころの危機 Q&A) 2009.7 ISBN 9784781912318

共著[編集]

論文[編集]

  • 「幻聴に対する認知療法的接近法(第1報) - 患者・家族向けの幻聴の治療のためのパンフレットの作成」(吉川武彦, 原田誠一, 岡崎祐士, 亀山知道、精神医学, 39(4), 363-370.) 1997
  • 「幻聴に対する認知療法的接近法(第2報) - 幻聴の治療のためのパンフレットの利用法とアンケート調査の結果」(吉川武彦, 原田誠一, 岡崎祐士, 亀山知道、精神医学, 39(5), 529-537.) 1997  

脚注[編集]

  1. ^ 吉川武彦氏が死去 精神保健研究所名誉所長”. 日本経済新聞社 (2015年3月27日). 2015年4月時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年4月8日閲覧。
  2. ^ 【訃報】吉川武彦氏(清泉女学院大学長)”. (株)産経デジタル (2015年3月27日). 2015年4月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年4月8日閲覧。
  3. ^ 博士論文書誌データベースによる
  4. ^ 日本泳法委員会からのお知らせ 第50回日本泳法大会記念式典”. 日本水泳連盟. 2015年4月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年4月10日閲覧。
  5. ^ 範士” (PDF). 日本水泳連盟. 2015年4月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年4月10日閲覧。
  6. ^ 『官報』号外98号、平成24年5月1日
  7. ^ 『官報』第6522号、2015年4月27日