ペルクナス
ペルクナス[1]またはペルクーナス[2] (Perkunas[3], リトアニア語: Perkūnas)とは、リトアニア神話で言及される神。ピクラス、パトリムパスと並び、主要な三つの神格の一つに数えられている[4]。
神話[編集]
スラヴ神話の雷神・ペルーンや、インド神話のパルジャニヤ、アルバニア神話のペレンディ、ヒッタイト神話のピルヴァといった神々と同じく、ペルクナスもまたその起源を印欧神話の雷神にたどることができる[5]。
ペルクナスは雷神であり、ギリシア神話のゼウスなどに相当する。とあるドイツの年代記では、「まさしくリトアニアのゼウスである」と言及されている[6]。また北欧神話の雷神トールのように、斧を武器としてしばしば悪と戦い、山羊に曳かれる2輪の車で移動する[7]。
ペルクナスは雷神の要素の他に、ヴァルカンに代表される鍛冶の神の特徴をも具備していた[8]。リトアニアの民間伝承の中では、ペルクナスが鍛冶の作業をしている姿が描かれることもあった[6]。
ペルクナスは、他の神々よりもワンランク上に置かれ、その他の神々を支配する、高尚で恐ろしい神格とみなされ[9]、激怒すると稲妻で黄金の樫の木でさえ真っ二つにするとされている[6]。月の神メヌオ (Mėnulis) が、ザウレ (Saulė) という妻がありながら、宵と明けの明星の女神であるアウスリネを愛した際には、ペルクナスはメヌオの体を切り裂いて罰したという[10]。
ペルクナスの地位について、A・ミエルジンスキーは、リトアニアのそれぞれの神格には格差の概念はなく、全ての神格は対等であるという見解を示し、ペルクナスが他の神々より格上であるという解釈を否定している[9]。
信仰[編集]
16世紀の初めに書かれたドイツの年代記には、ロムヴェ神殿に神の木とみなされていた樫の木があり、その洞にはペルクーナス(ペルクナス)の像が置かれ、その前で神を象徴する炎を絶やさず焚いていたと記されている[5]。
ペルクナスは地方、部族によって異なった呼称で呼ばれていた。ラトヴィア人には「ウェザイス」ないし「ウェザイス・デウス」と呼ばれていた。それぞれ、「老人」「年と食ったおやじ」という意味である。「天空で太鼓を鳴らす者」という俗名でも呼ばれていた[6]。
バルト地方では、雷はペルクナスの愚痴や独り言であると解釈されていた[6]。しかし、リトアニアの人々は、ペルクナスを「親しい神」と呼んでいる。これはリトアニアの古来からの宗教が、牧歌的、平和的な要素を有していたことの象徴と考えられている[11]。
出典[編集]
- ^ 『ロシアの神話』(「リトワニア神話」の章)で確認した表記。
- ^ 『神の文化史事典』(「ペルクーナス」の項)で確認した表記。
- ^ 『神の文化史事典』(「ペルクーナス」の項)で確認した綴り。
- ^ 『ロシアの神話』123、126頁(「リトワニアの神話」)。
- ^ a b 『神の文化史事典』480-481頁(「ペルクーナス」の項)。
- ^ a b c d e 『ロシアの神話』129頁(「リトワニアの神話」)。
- ^ 『ヨーロッパ異教史』278、280頁(「第9章 バルト諸国」)。
- ^ 『ロシアの神話』130頁(「リトワニアの神話」)。
- ^ a b 『ロシアの神話』131頁(「リトワニアの神話」)。
- ^ 『ヨーロッパ異教史』278頁(「第9章 バルト諸国」)。
- ^ 『ロシアの神話』130-131頁(「リトワニアの神話」)。
参考文献[編集]
- アレグザンスキー, G、ギラン, F「リトワニアの神話」『ロシアの神話』ギラン, フェリックス編、小海永二訳、青土社〈シリーズ 世界の神話〉、1993年10月、新版、pp. 93-143。ISBN 978-4-7917-5276-8。
- ジョーンズ, プルーデンス、ペニック, ナイジェル『ヨーロッパ異教史』山中朝晶訳、東京書籍、2005年8月。ISBN 978-4-487-79946-6。
- 中堀正洋「ペルクーナス」『神の文化史事典』松村一男、平藤喜久子、山田仁史編、白水社、2013年2月、pp. 480-481。ISBN 978-4-560-08265-2。
関連項目[編集]
- スタルムジェーの楢 - ペルクナスが祀られていたとされる、リトアニアの村にある木
- リトアニアの宗教#信奉されていた神々とそれにまつわる神話
- Perkwunos - インド・ヨーロッパ人の雷・オークの神として仮定されている存在。(英語)