プロトレプティコス

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プロトレプティコス古希: προτρεπτικός, : protrepticus)とは、古代ギリシア・ローマの書物のジャンル、またそのジャンルの書物に多い題名で、読者に何か(主に哲学信仰)を勧める書物を指す。例として、プラトンエウテュデモス』、アリストテレスプロトレプティコス』(邦題『哲学のすすめ』)、キケロホルテンシウス』、アレクサンドリアのクレメンスプロトレプティコス英語版』がある。

語義[編集]

古代ギリシア語の「プロトレプティコス」は、「プロトレプティコス・ロゴス」(説き勧めの議論・言葉)の略称であり、「プロ」(あるものの方へと、前に)と「トレプティコス」(向かわせる)からなる形容詞である[1]

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プロトレプティコスの祖は、プラトンエウテュデモス』、あるいはソクラテスの言行そのものとされる[2]クセノポンソクラテスの思い出』では、ソクラテスの言行をプロトレプティコスと形容している[3][4]

イアンブリコス『ピュタゴラス派[10]』全10巻(現存全4巻)の第2巻にあたる[11]。上記アリストテレスのものは本書に抜粋されて伝わる[11]。ほかにも古典期の無名ソフィストの著作や、現存するプラトン対話篇の抜粋も含む[11]

そのほか、ディオゲネス・ラエルティオスギリシア哲学者列伝』によれば、アンティステネスアリスティッポステオプラストスデメトリオスモニモスゼノンポセイドニオスクレアンテス英語版エピクロスの著作にプロトレプティコスがあった[2]

哲学以外の分野では、音楽カマイロン英語版の著作)、医学ガレノスの著作)、弁論術テミスティオスの著作)、体育ハリカルナッソスのディオニュシオスに言及される)にもあった[13]

脚注[編集]

  1. ^ 朴 2014, p. 144f.
  2. ^ a b c 國方 2018, p. 420-423.
  3. ^ 納富 2021, p. 473.
  4. ^ ソクラテスの思い出』1.2.2-4など
  5. ^ a b 朴 2014, p. 136.
  6. ^ a b 納富 2021, p. 482;485.
  7. ^ 廣川 2011, p. 142.
  8. ^ 小島 2017, p. 12f.
  9. ^ a b c 廣川 2016, p. 18.
  10. ^ 廣川 2011, p. 17.
  11. ^ a b c 納富 2021, p. 329.
  12. ^ 田中 2007.
  13. ^ 廣川 2011, p. 140.

参考文献[編集]

  • 國方栄二「哲学のすすめ(プロトレプティコス)」『新版アリストテレス全集 20 著作断片集 2』岩波書店、2018年。ISBN 9784000927901 
  • 小島和男アプレイウスにとっての哲学とは何か?」『学習院大学文学部研究年報』第64巻、2017年https://www.gakushuin.ac.jp/univ/let/top/publication/KE_64/KE_64_011.pdf 
  • 田中美知太郎プロトレプティコス」『田中美知太郎全集 第5巻』筑摩書房、1969年(原著1938年)https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2968522/109 
  • 田中美知太郎「哲学の究極において求められているもの プロトレプティコスを中心に」『哲学初歩』岩波書店〈岩波現代文庫〉、2007年(原著1950年)。ISBN 978-4006001698 
  • 納富信留『ギリシア哲学史』筑摩書房、2021年。ISBN 9784480847522 
  • 朴一功『エウテュデモス クレイトポン』京都大学学術出版会〈西洋古典叢書〉、2014年。ISBN 9784876984855 
  • 廣川洋一『アリストテレス「哲学のすすめ」』講談社〈講談社学術文庫〉、2011年。ISBN 9784062920353 
  • 廣川洋一『キケロ『ホルテンシウス』断片訳と構成案』岩波書店、2016年。ISBN 9784000611046 

関連項目[編集]