ピーター・グライムズ

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ピーター・グライムズ』(Peter Grimes作品33は、ベンジャミン・ブリテン作曲のオペラ作品。脚本はモンタギュー・スレイター(Montagu Slater)によるもので、ジョージ・クラブ(George Crabbe)の詩『町』(The Borough)の一節である「ピーター・グライムズ」が原作。

1945年7月7日ロンドンサドラーズ・ウェルズ劇場にて、レジナルド・グッドオール(Reginald Goodall)の指揮により初演された。この作品はブリテンのオペラとしては最初の大成功を収めた作品であり、現在もイギリス国内・国外を問わず広く演じられており、標準的なレパートリーのひとつと見なされている。加えて、作中の間奏曲6曲のうち5曲が独立した組曲『4つの海の間奏曲』作品33a、および『パッサカリア』作品33bに編曲され、しばしばオーケストラで演奏されている。

登場人物[編集]

人物
ピーター・グライムズ:漁師
エレン・オーフォード:寡婦、町の女性教師
おばさん:「イノシシ荘」の女将
姪1
姪2
ボルストロード:引退した商人の大将
セドリー夫人:不労所得生活者の寡婦
スワロー:弁護士
ネッド・キーン:薬屋、やぶ医者
ボブ・ボウルズ:漁師、メソジスト
ホレス・アダムス司祭:教区司祭
ホブソン:運び屋
ジョン:グライムズの徒弟
声域
テノール
ソプラノ
コントラルト
ソプラノ
ソプラノ
バリトン
メゾソプラノ
バス
バリトン
テノール
テノール
バス
無言
初演時の役者
ピーター・ピアーズ
ジョーン・クロス
エディス・コーツ
ブランチ・ターナー
ミニア・バウアー
ロデリック・ジョーンズ
ヴァレッタ・ヤコピ
オーウェン・ブラニガン
エドマンド・ドンリーヴァイ
モーガン・ジョーンズ
トム・カルバート
フランク・ヴォーン
レナード・トンプソン

制作[編集]

ブリテンと彼のパートナーであるピーター・ピアーズはクラブの詩を読み、それに打ちのめされた。彼らはその腕前を用いて物語を構築し、その過程においてグライムズのキャラクターは非常に複雑なものへと変わっていった。クラブの原作においては明確な悪漢であったのが、無慈悲な運命や社会の犠牲者へと変化したのである。どちらがより真実味を帯びているかの判断は聴衆にゆだねられている。当然の事ながらピアーズが意図的にピーター・グライムズ役となり、さらにはブリテンはジョーン・クロスに演じさせるためにエレン・オーフォードのキャラクターを作り上げたとされている。この作品は「同性愛の抑圧についての力強い寓意物語」と呼ばれた[1]が、ブリテン自身のこの作品の要約はより単純なもので、「社会がより残忍になれば、人もまたより残忍になる」というものであった。

当初の脚本においては、グライムズと少年達との関係は明らかに少年愛的なものであったが、ピアーズがスレイターを説得して、脚本から少年愛的な描写のほとんどをカットした。[2]このオペラはクーセヴィツキー音楽財団(Koussevitzky Music Foundation)の委託で制作され、ロシア出身のアメリカの指揮者セルゲイ・クーセヴィツキーの妻ナターリヤの追悼のために献呈された。

舞台[編集]

「町」(Borough):架空の村。クラブの故郷であり、後にブリテンの故郷ともなったイングランド東海岸の町オールドバラ(Aldeburgh)と似たところがある。時代は1830年頃。

楽器編成と演奏時間[編集]

通常の2管編成、全曲約2時間半(各60分、50分、40分)

あらすじ[編集]

プロローグ[編集]

漁師のピーター・グライムズは、彼の徒弟の死に関する裁判を受ける。町の人々は、明らかにグライムズが有罪であり、罰を受けるに値すると考えている。しかし検視官のスワロー氏は、少年の死は事故であると裁定する。証拠不十分ゆえだが、無罪の厳密な考証はなされず、スワロー氏は、グライムズに別の徒弟をとることの無いよう助言する。裁判が終わるとグライムズは、町の人々が自分に名誉回復の機会を与えようとしないのを見て憤慨し、女性教師のエレン・オーフォードが彼を慰める。

第1幕[編集]

「町」を構成する合唱隊が、自分たちの退屈な日々と、海や季節との関わりを歌う。グライムズは漁のためにどうしても助けが必要だと主張し、彼の友人である薬屋のネッド・キーンは、彼のために感化院から新しい徒弟を見つけ出す。その少年を呼んでこようと志願する人物は誰もいなかったが、やがてエレンがその役を買って出る。

その晩にエレンが酒場にいるグライムズの元へ新たな徒弟のジョンを連れてくると、町の人々の険悪な視線も意に介さず、彼はすぐに自分の丸太小屋へ出発する。グライムズの望みは金を稼いで町の人々を見返し、エレンと結婚することだった。

第2幕[編集]

日曜日の朝、町の住人のほとんどが教会に集まっているとき、エレンは徒弟のジョンと話している。彼女はジョンの首に打たれた傷があるのを見ておののく。彼女がグライムズを追求すると、彼は無愛想にそれは事故だったと言う。エレンの干渉にいらだったグライムズは、彼女を殴ってジョンとともに走り去る。このことはすぐに発覚する。最初にキーンとおばさん、そしてボブ・ボウルズが、さらには合唱隊全体が群衆化してグライムズの丸太小屋を調べに行くことになる。男たちが歩き去ると、エレン、おばさんと姪達が女性の男性に対する関わりを悲しげに歌う。

丸太小屋ではグライムズが、日頃は寡黙なジョンがエレンと「話した」ことを責め、亡くなったかつての徒弟の思い出に耽り、彼がのどの渇きによって死んだことを思い起こす。町の群衆が近づいてくるのを耳にすると彼はすぐ我に返り、海へ出る準備をする。彼はジョンに、注意して裏の崖からボートへ這い降りるように言うが、ジョンは滑落し、海中に没する。群衆が丸太小屋についたときにはグライムズは去っており、特に異常なものは見つからなかったため、彼らは解散する。

第3幕[編集]

町の夜。ダンスが行われている最中、セドリー夫人が権威者達にグライムズが人殺しだと納得させようとするが、うまくいかない。エレンとボルストロード大将は互いに秘密を明かす。グライムズは海で何日も過ごした後に帰還し、ボルストロードは海岸で波に洗われているジャージを発見したのである。エレンはそのジャージが、自分がジョンのために編んだものだと確認する。セドリー夫人はこの話を立ち聞きし、群衆を煽り立てる。「私たちを蔑む彼を私たちは倒す」と歌いながら、人々はグライムズを探しに出て行く。

グライムズを探す群衆の声がまだ聞こえている頃、グライムズが舞台上に姿を現し、狂おしく長いモノローグを歌う。エレンとボルストロードが彼を見つけ、年老いた大将はグライムズを勇気づけ、彼のボートが発見される前に、海に沈めるよう助言する。絶望と孤独に打ちのめされて立ち去るグライムズ。翌朝、町に新しい日が始まる。沿岸警備隊から、沖合で沈没するボートが遠目に目撃されたと報告がある。このことは、おばさんによって「ただのうわさ話の一つ」として忘れ去られる。

『4つの海の間奏曲』と『パッサカリア』[編集]

管弦楽のみで演奏され、オペラでの声楽のパート(一部に含まれている)は省かれている。なお、以下の他に第3幕第2場への間奏曲もあるが、独立した作品にはなっていない。

4つの海の間奏曲 作品33a[編集]

楽曲の構成と内容について、ブリテンの師フランク・ブリッジ交響組曲『海』(1911年)との類似性が指摘されている。

  • 第1曲『夜明け』(Dawn) 第1幕第1場への間奏曲
  • 第2曲『日曜の朝』(Sunday Morning) 第2幕第1場への間奏曲
  • 第3曲『月光』(Moonlight) 第3幕第1場への間奏曲
  • 第4曲『嵐』(Storm) 第1幕第2場への間奏曲

パッサカリア 作品33b[編集]

オペラの第2幕第2場への間奏曲である。

関連作品[編集]

The Scallop
  • 彫刻家マギ・ハンブリング(Maggi Hambling)が2003年にブリテンを記念してオールドバラの海岸に制作した彫刻「帆立貝」(The Scallop)には、『ピーター・グライムズ』作中の台詞 "I hear those voices that will not be drowned"(「私には決して溺れることのないそれらの声が聞こえる」)が刻まれている。

出典[編集]

  1. ^ Philip Brett and Elizabeth Wood, Lesbian and Gay Music
  2. ^ James Fenton, How Grimes became grim, The Guardian, July 3, 2004 [1]

外部リンク[編集]