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パフアダー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
パフアダー
保全状況評価[1]
LEAST CONCERN
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
Status iucn3.1 LC.svg
Status iucn3.1 LC.svg
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 爬虫綱 Reptilia
: 有鱗目 Squamata
亜目 : ヘビ亜目 Serpentes
: クサリヘビ科 Viperidae
亜科 : クサリヘビ亜科 Viperinae
: アフリカアダー属 Bitis
: パフアダー B. arietans
学名
Bitis arietans
(Merrem, 1820)
英名
Puff adder
  分布域[1]

パフアダー学名Bitis arietans)は、クサリヘビ科に分類されるヘビの一種。別名はパファダー。強力な毒を持ち、サバンナや草原に生息する。モロッコアラビア半島西部および、コンゴ盆地熱帯雨林を除いたサブサハラアフリカに分布する[2]。分布域が広く、人里近くにも出現し、気性も荒いため、アフリカで最も多くの死者を出しているヘビとなっている[3][4]。他のクサリヘビ科と同様に毒蛇であり、2亜種が知られている[5]

分類と名称

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1820年にドイツ博物学者であるブラシウス・メレム英語版によって記載された。種小名はラテン語の「arieto (激しい打撃)」に由来する[6]。タイプ産地は南アフリカ喜望峰である[7]。puff adder[3][8]、african puff adder[9][10]、common puff adder[11]などの英名がある。「Puff」は威嚇時の噴気音を示している[12]

下位分類

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本種には2亜種が知られている[5]

形態

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頭部

通常は全長約1.0mに達し、胴体は非常に太い。大型個体は全長190cm、体重6.0kgを超え、胴回りは40cmに達する。サウジアラビアの個体群は小型で、全長80cm以下の個体が多い。雄は雌よりも大型で、尾が比較的長い[3]

体色や模様は地域によって変異がある。頭頂部と眼の間には、明瞭な黒色の帯が入る。眼から上唇板にかけて、2本の黒色帯が斜めに入る。頭部の側面は黄白色で、暗色斑が散らばる。虹彩は金色から銀色がかった灰色である。背面の地色は薄黄色、薄茶色、橙色、赤褐色など様々である。背面には18-22本の暗褐色から黒色の帯が並ぶ。帯はV字型に近いことが多いが、U字型に近い場合もある。尾には2-6本の帯が入る。斑点の濃い個体は、全体的に茶色から黒っぽく見える。腹部は黄色から白色で、暗色の斑点が散らばる。幼蛇は頭部に金色の模様が入り、腹板の縁は桃色から赤色である[3][8]南アフリカイースト・ロンドンで発見された個体には、頭頂部から尾の先まで、細い淡黄色の縞模様が入っていた記録がある[3]東アフリカの高地や、南アフリカの西ケープ州の個体群では、雄の体色が鮮やかな黄色となる[8]

頭部は三角形というよりも丸く、首よりもかなり太い。吻端板は小さく、眼窩は10-16枚の鱗で覆われる。頭頂部の眼間板は7-11枚で、眼下板と上唇板は3-4枚の鱗で区切られる。上唇板は12-17枚、下唇板は13-17枚である。咽頭板は一対で、最初の3-4枚の下唇板は咽頭板に接する。上顎骨には2本の牙があり、両方とも機能することがある[3][8]。体鱗列は29-41列で、最も外側の列を除いて、強いキールが存在する。腹板は123-147枚、尾下板は14-38枚で、雌の尾下板は24枚以下である。肛板は1枚である[3]

パフアダーは一種の嗅覚隠蔽能力を持っており、訓練された犬やミーアキャット(どちらも嗅覚を頼りにする捕食者)にとって、パフアダーの発見を困難にすることが分かっている。この能力の正確な性質は不明だが、代謝率の低さや脱皮・排泄後の移動に関係しているのではないかと推測されている[13]

分布と生息地

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アフリカのヘビの中でも最も一般的で、広く分布している種の1つと考えられる[3]アラビア半島モロッコ南部、コンゴ盆地を除くサブサハラアフリカに広く分布する[12]。多様な環境に生息するが、砂漠熱帯雨林、熱帯の高山地帯では見られない。岩の多い草原で見られることが多い[14]西アフリカの沿岸部や、中央アフリカの熱帯雨林、北アフリカ地中海沿岸部には分布しない。アラビア半島では、ターイフの北まで見られる[8]オマーン南部のドファール特別行政区での記録もある[15]

生態と行動

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噴気

動きは鈍く、擬態によって身を守る。広い腹板を用いて、イモムシのように体を動かし、直線的に移動する。ただし興奮すると素早く蛇行して移動することがある[3][14]。基本的に夜行性だが、昼間に日光浴をすることもある[12]。基本的に地上性だが、遊泳や木登りもする。低木で日光浴を行い、高さ4.6mの樹上で発見された例もある[3]

危険を感じると、体を膨らませて大きな噴気音をあげ威嚇する[12]。体の前部をS字型に曲げ、丸まった防御姿勢をとる。ただし天敵から逃げて隠れる場合もある。防御姿勢をとると、前方及び側方に素早く攻撃することが出来る。攻撃後はすぐに防御姿勢に戻る。攻撃の際の衝撃は非常に強く、長い牙は非常に深く突き刺さるため、獲物は物理的な外傷だけで殺されることがよくある。牙は薄手の革も貫通できる[3][14]。体長の3分の1ほどの距離が攻撃の射程だが、幼蛇は全身を伸ばして攻撃する。獲物に咬みつき続けることは珍しく、普通は素早く獲物を放し、攻撃態勢に戻る[3]

摂餌と食性

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積極的に狩りを行うことは珍しく、待ち伏せによって獲物を捕らえる。ヤブネズミ属サバンナネズミ属タチチマウス属ミナミヤブカローネズミ属クマネズミ属サバクヨスジクサマウスミナミチビホオブクロネズミなどの齧歯類、小型のシカといった哺乳類鳥類トキイロヒキガエルなどの両生類トカゲヘビカメなどを捕食する[16]。尻尾や舌の先を動かして獲物を誘うルアリングを行う[17]

繁殖と成長

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雌はフェロモンを発して雄を呼び、雄はコンバットダンスによって争う。マリンディで7匹の雄が1匹の雌に集まった例がある[4]。産仔数は多く、50-60匹が生まれることは珍しくない。80匹以上を産んだ例もある。生まれたばかりの幼蛇の体長は12.5-17.5cmである[14]。東アフリカの大型個体は特に多くの子を産み、チェコの動物園でケニア産の雌が156匹の子を産んだ例がある。これはヘビの中でも最多である[4][8]。野生化でも147頭の子を産んだ記録がある[12]

毒性

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分布域が広く、一般的な種であり、毒が強く、牙は長い。また体が大きいため毒の量も多い。さらに道で日光浴をしていることがあり、人が近づいても逃げない。こうした要因により、アフリカ大陸で最も死者を出している毒蛇とされる[3][4][8]。毒性は細胞毒[18]。LD50は毒蛇の中でもかなり低く[3]、マウスにおいては静脈注射で0.4-2.0mg/kg、腹腔注射で0.9-3.7mg/kg、皮下注射で4.4-7.7mg/kgであった[19]。別の研究では、マウスに皮下注射した際のLD50は1.0-7.75mg/kgであった[3]。毒の注入量は180-750mgである[19]。毒の強さを考えると、100mgあれば成人男性が死亡する[12]

人間が咬まれると、局所的または全身に症状が現れる。出血が認められない場合と、出血や腫張が現れる場合がある。どちらの場合でも激しい痛みや圧痛が生じるが、後者の場合は壊死やコンパートメント症候群を生じる[20]。重症の場合は筋肉で出血や凝固が起こり、四肢を動かせなくなることもある。しかしこの症状は回復することが多い[3]。その他の症状としては、広い範囲の浮腫、ショック症状、傷跡からの出血、吐き気や嘔吐、皮下出血、急速な血疱の形成、リンパ節の腫れと痛みなどが挙げられる。咬傷部位から離れた腫張は、数日で収まる。低血圧に伴う衰弱、めまい、意識不明などの症状も現れることがある[3]。適切な治療が行われない場合、壊死が進行して皮膚や筋肉が剥離し、これは骨まで達することがある。その場合壊疽や二次感染が起こり、指や四肢を切断しなければならなくなる場合もある[3][4][8]

死亡率は低く、未治療の場合であっても15%未満である。この場合血液の減少と播種性血管内凝固症候群により、2-4日で死亡する。重症の場合は死亡率が52%となる[2][21]。不適切な治療や咬傷の放置によって死亡することが大半である[4][8]

飼育

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飼育下では丈夫だが、過食することがある。餌を与えすぎると、吐き戻すか死亡するという[10]。個体によっては気性が荒く、飼育下でも近づくと威嚇する場合がある[4]。ケージには土を敷き、バスキングライトと水入れを設置する。成体の場合は餌は月に一回で十分である。20年以上飼育された例もある[17]。日本では特定動物に指定されており、愛玩目的での新規飼育は出来ない[22]

参考文献

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  • 『原色ワイド図鑑3 動物』、学習研究社、1984年、146頁。
  • 『爬虫類・両生類800図鑑 第3版』、ピーシーズ、2002年、134頁。
  • 山田和久『爬虫・両生類ビジュアルガイド ヘビ』、誠文堂新光社、2005年、108頁。

出典

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  1. 1 2 Wagner, P.; Wilms, T.; Luiselli, L.; Penner, J.; Rödel, M.-O.; Els, J.; Al Johany, A.M.H.; Egan, D.M.; Beraduccii, J.; Howell, K.; Msuya, C.A.; Ngalason, W.; Turner, A.A.; Zassi-Boulou, A.-G.; Kusamba, C.; Chippaux, J.-P. (2021). Bitis arietans. IUCN Red List of Threatened Species (英語). 2021 e.T197461A2485974. doi:10.2305/IUCN.UK.2021-3.RLTS.T197461A2485974.en.
  2. 1 2 Venomous Snakes of the World. U.S. Navy Manuals. New York: Dover Publications Inc. (1991). ISBN 0-486-26629-X
  3. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 Mallow D; Ludwig D; Nilson G. (2003). True Vipers: Natural History and Toxinology of Old World Vipers. Malabar, Florida: Krieger Publishing Company. ISBN 0-89464-877-2.
  4. 1 2 3 4 5 6 7 8 Spawls S; Howell K; Drewes R; Ashe J. (2004). A Field Guide to the Reptiles of East Africa. London: A & C Black Publishers Ltd.. ISBN 0-7136-6817-2.
  5. 1 2 Bitis arietans (英語). Integrated Taxonomic Information System. 2026年2月20日閲覧.
  6. Chambers Murray Latin-English Dictionary (1976)
  7. McDiarmid RW, Campbell JA, Touré T. 1999. Snake Species of the World: A Taxonomic and Geographic Reference, Volume 1. Herpetologists' League. 511 pp. ISBN 1-893777-00-6 (series). ISBN 1-893777-01-4 (volume).
  8. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 Spawls S; Branch B. (1995). The Dangerous Snakes of Africa. Ralph Curtis Books. ISBN 0-88359-029-8
  9. Fichter GS. (1982). Venomous Snakes (A First Book). Franklin Watts. ISBN 0-531-04349-5.
  10. 1 2 Kauffeld C. (1969). Snakes: The Keeper and the Kept. Garden City, New York: Doubleday & Company, Inc.
  11. Bitis arietans”. Munich AntiVenom INdex. 2025年1月15日閲覧。
  12. 1 2 3 4 5 6 7 田原義太慶『毒ヘビ全書』グラフィック社、2020年2月25日、172-173頁。ISBN 978-4-7661-3313-4
  13. Miller, Ashadee Kay; Maritz, Bryan; McKay, Shannon; Glaudas, Xavier; Alexander, Graham J (2015-12-22). “An ambusher's arsenal: chemical crypsis in the puff adder (Bitis arietans)” (英語). Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences 282 (1821). doi:10.1098/r.
  14. 1 2 3 4 Mehrtens JM. 1987. Living Snakes of the World in Color. New York: Sterling Publishers. 480 pp. ISBN 0-8069-6460-X.
  15. Bitis arietans at the Reptarium.cz Reptile Database. Accessed 21 February 2026.
  16. Bitis arietans | Puff Adder”. Animal Diversity Web. 2026年2月21日閲覧。
  17. 1 2 中井穂瑞領『ヘビ大図鑑 ナミヘビ上科、他編:分類ほか改良品種と生態・飼育・繁殖を解説』川添宣広 写真・編、海老沼剛 和名監修、誠文堂新光社、2021年、291頁。
  18. Widgerow, A. D.; Ritz, M.; Song, C. (1994-01-01). “Load cycling closure of fasciotomies following puff adder bite” (英語). European Journal of Plastic Surgery 17 (1): 40–42. doi:10.1007/BF00176504. ISSN 1435-0130.
  19. 1 2 Brown JH. (1973). Charles C. Thomas. ed. Toxicology and Pharmacology of Venoms from Poisonous Snakes. Springfield, Illinois. ISBN 0-398-02808-7
  20. “Case report: Hyperbaric oxygen in the treatment of puff adder (Bitis arietans) bite”. Undersea & Hyperbaric Medicine 37 (6): 395–398. (2010). PMID 21226389. オリジナルの15 April 2013時点におけるアーカイブ。 2012年1月8日閲覧。.
  21. Davidson, Terence. IMMEDIATE FIRST AID”. University of California, San Diego. 2012年4月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年9月14日閲覧。
  22. 特定動物リスト [動物の愛護と適切な管理]”. 環境省. 2023年3月8日閲覧。

関連項目

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