ハマグリ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ナビゲーションに移動 検索に移動
ハマグリ
Meretrix lusoria.jpg
ハマグリの中型・小型個体。熊本県産。
保全状況評価
絶滅危惧II類 (VU)環境省レッドリスト
Status jenv VU.svg
分類
: 動物界 Animalia
: 軟体動物門 Mollusca
: 二枚貝綱 Bivalvia
亜綱 : 異歯亜綱 Heterodonta
: マルスダレガイ科 Veneridae
亜科 : ハマグリ亜科 Meretricinae
: ハマグリ属 Meretrix
: ハマグリ M. lusoria
学名
Meretrix lusoria (Roeding, 1798)
和名
ハマグリ
英名
Common orient clam

ハマグリ文蛤浜栗、鮚、Meretrix lusoria)は、マルスダレガイ上科英語版マルスダレガイ科に分類される二枚貝の1種である。食用として重要な貝類の一つである[注釈 1]日本俳句文化においては春の季語の一つ[1][2]

呼称[編集]

浜の、あるいは浜の礫から。「ハマグリ」という呼称は、生物学的には唯一の種 Meretrix lusoria を指す標準和名であるが、他にも色々な使われ方があるため、生物学や水産学関連の文書以外での「ハマグリ」「はまぐり」「蛤」などが何を指すのかが不明な場合も多く、注意が必要である[3]。古くは『常陸国風土記』に鹿島のハマグリの碁石が名産として記述されているが、これは外洋産のチョウセンハマグリのことである[要出典]

古くは一般的な二枚貝類の総称として「ハマグリ」が使われた。これは他の言語で二枚貝一般を指す単語、例えば英語clam などに通じる用法で、英和辞典clam の訳語として出ている「ハマグリ・蛤」もこれに相当する。したがって翻訳文の中で「ハマグリ」と訳されている貝は、実際には真のハマグリとは属はもとより科さえ異なる二枚貝であることも多い[要出典](下記 Clamの例も参照)。

和名構成の基幹ともなり、ベニハマグリバカガイ科)、ノミハマグリ(マルスダレガイ科[4]ノミハマグリ属)など、分類学的には縁のない別属や別科の二枚貝にも「○○ハマグリ」という標準和名のついた種も少なくない[要出典]

ハマグリ属Meretrix)の種はどれも外見が似ているため、水産市場や日常生活ではチョウセンハマグリシナハマグリを含め、ハマグリと総称・混称される[要出典]。なお、国内で流通するハマグリと呼ばれる貝で流通がもっとも多いのはチョウセンハマグリ[要出典](朝鮮蛤[5]、汀線蛤[6][7])である。

2000年頃以降に日本の市場で「白はまぐり」[注釈 2]「白蛤」などの名で売られるようになったものは、近縁の同科別属のホンビノスガイである[8]

特徴[編集]

長さ8cm、幅3.5cm、高さ6.5cmほどの丸みを帯びた三角形の貝殻を持つが、よく成長したものでは殻長が10cm以上になる場合もある。

本来の分布域は日本本土の東北地方以南の地域と、朝鮮半島の一部で、淡水の影響のある内湾の砂泥底に生息する。しかし日本では昭和後期に急激に減少し、少なくとも1980年代以降、干拓埋め立て、海岸の護岸工事などによって生息地の浅海域が破壊されたため、瀬戸内海西部の周防灘の一部、有明海の一部などの局地的な生息地を除くほとんどの産地で絶滅状態になった。

シナハマグリ (Meretrix petechialis) とは、殻の光沢の有無や斑紋、殻の形によって大まかに見分けることができる。すなわち光沢があり、斑紋が多様で、殻の後端(水管が出る方)がやや伸びるのがハマグリ、光沢乏しく、くすんだ灰色の地に胡麻斑が多く出て、殻の両端の伸び具合がほぼ同様ものがシナハマグリである。

撒かれたシナハマグリが在来のハマグリと交雑して遺伝子交雑を引き起こしている可能性が指摘されている。

漁業[編集]

明治期横浜の魚介店の立体写真。店先で大量のハマグリが売られている。地面には剥いた後の殻が見え、暖簾にも「蛤」の文字が読める。当時の東京湾はハマグリの一大産地であったが、昭和後期にはほぼ全滅してしまった。

主として熊本県産のものが流通しているが、ひな祭りなどハマグリを食べる時期を除けば、輸入品であるシナハマグリの流通量に比べるときわめて少量である[要出典]

日本国内で流通するハマグリ類の9割以上は中国韓国産のシナハマグリである。一方で、福岡県糸島市の加布里(かぶり)湾のように、禁漁期間・区域の設定、小さな貝は放流するといった規制により、ハマグリの資源保護と高級ブランド化に成功している地域もある[9]

千葉県レッドデータブック (2011) では、ハマグリは絶滅種 (EX) に指定されている[10]。これは、高度経済成長期に県内の干潟環境が大きく変化したためとされる[11]21世紀現在、千葉県沿岸では東京湾の浅瀬でハマグリが、九十九里浜の浅瀬などでチョウセンハマグリが漁獲されている[12]が、前者は養殖・蓄養された個体群か、放流個体由来と考えられている[10]

環境省レッドデータブックでは、2012年に新たに絶滅危惧II類に指定された[13]

食材として[編集]

日本人にとって非常に古くから親しまれてきた食材で、縄文時代からの出土事例がある。東京の中里貝塚から大量に出土したハマグリの貝殻を分析した北区飛鳥山博物館では、大きく育つまで待ってから採取する資源管理や、干し貝にして内陸へ供給していた可能性を指摘している[14]。『日本書紀』にも記述がある。成分にコハク酸を多く含み、独特の味、風味と旨みに富む。現代では吸い物クラムチャウダー鍋物の具、酒蒸し、焼き蛤、佃煮、土瓶蒸し、串焼き寿司など、幅広い料理で利用される。ビタミンB1を分解してしまう酵素アノイリナーゼを含むため、生食には向かない。

ハマグリは同一個体の貝殻同士でなければぴったりかみ合わない。そこで、結婚式でハマグリの吸い物が出されることも多い。また、「よい伴侶にめぐり合えるように」との願掛けからひな祭りにハマグリを潮汁などの料理にして食べる風習がある。

アサリシジミ等と比較して価格は高い傾向にあるため、一般的に日常で食べる機会は少ない魚介類である。

2019年 (令和元年) 5月17日ミシュランガイド愛知・岐阜・三重2019特別版に蛤料理を扱う店舗が掲載。

料理[編集]

パエリヤ炊き込みご飯など、和洋中華料理に用いられる。いずれの場合も十分な加熱処理で使用する。

ハマグリの酒蒸し
砂出ししたハマグリを、日本酒で蒸し煮にしたもの。醤油ニンニク等で調味することもある。
ハマグリの炭火焼き
炭火の上に網を置き、焼いて口を開いたら醤油や味醂などを垂らして食べる。
ハマグリのガソリン焼き
北朝鮮郷土料理に、屋外の調理で「ハマグリのガソリン焼き」というものがある(日本の俗称では「ハマガソ」と呼ぶことがある)[15]。生のハマグリにガソリンをふりかけて一気に焼き上げるという、生貝を蒸し焼きする調理の一種で、ガソリン臭さは無く美味であるという。なお、ガソリンの代わりにアルコールを使う調理もあり、こちらの方が調理としては上等なものとされる[16]

食用以外の利用[編集]

言葉[編集]

語源[編集]

浜辺に生息しており、形が栗の実に似ている、ことから「浜栗」の意味が定説とされている[17]。他には、石を意味する古語の「クリ」から「浜の石」を意味とする説がある[17]

ぐりはま[編集]

ぐりはまとは食い違っていることや、当てが外れることで、「はまぐり」の「はま」と「ぐり」を逆さにした俗語[18]で、倒語の一つ[19]。室町時代頃には使用されていた[18]。漢字は、「蛤」をそのまま180度回転させ、見た目を逆さまにしたものである[19]

ハマグリの貝殻は貝合わせという遊びにも使われるように、ペアになっている殻以外とはぴったりと形が合わないという性質を持っている。このことから、食い違って合わないことを「はまぐり」の倒語として「ぐりはま」という言葉が生まれた。後に訛って「ぐれはま」という言葉が使われるようになり、現代でも使用されている[18]

ぐれる[編集]

ぐれるとは不良になることで、前述の「ぐれはま」を略したものに名詞を動詞化する接尾語「る」をつけたもの[20]。不良行為・非行行為をするようになるという意味で江戸時代頃から使われるようになった[20]。元々は「不良」という意味を持っていないが、一説には「ぐれる」という行為が「親が望む子の姿から(当てが)外れた」ということから、動詞化する際に「不良」という意味をもったと言われている[20]

脚注[編集]

[脚注の使い方]

注釈[編集]

  1. ^ 新明解国語辞典』第3版、1981年、p948、には「食べる貝として、最も普通で、おいしい」と書いてある。
  2. ^ 商標「プリップリッ白はまぐりちゃん」第5104724号(2008年1月11日登録)の指定商品または指定役務は、ホンビノスガイとされる。

出典[編集]

  1. ^ 広辞苑』第5版 [要文献特定詳細情報][要ページ番号]
  2. ^ 『俳句歳時記 第4版』角川学芸出版、2008年、ISBN 978-4-04-621167-5 [要ページ番号]
  3. ^ 『旬の食材〔1〕 春の魚』 講談社編、講談社、2004年3月、ISBN 978-4-06-270131-0 [要ページ番号]
  4. ^ Mikkelsen, Paura M.; et al. (2006), “Phylogeny of Veneroidea (Mollusca: Bivalvia) based on morphology and molecules”, Zoological Journal of the Linnean Society 148 (3): 439–521, doi:10.1111/j.1096-3642.2006.00262.x, ISSN 00244082, OCLC 4651014879 
  5. ^ 武蔵石寿. “『目八譜』第一巻 (目次) 七.朝鮮蛤”. 国立国会図書館デジタルコレクション. 2020年11月18日閲覧。
  6. ^ 鹿島灘ハマグリ”. よかっぺ大洗. 大洗観光協会. 2011年1月8日閲覧。
  7. ^ 今が旬、鹿島灘ハマグリ”. jf-net. JF全漁連. 2011年1月8日閲覧。
  8. ^ ホンビノスガイ(チェリーストーン)”. おさかなギャラリー. マルハニチロ株式会社. 2015年7月9日閲覧。
  9. ^ 【食材ノート】国産ハマグリ 福岡で復活/漁獲規制が実を結ぶ『日経MJ』2019年2月25日(フード面)。
  10. ^ a b 千葉県 2011, p. 431.
  11. ^ 千葉県 2011, p. 419.
  12. ^ 全国のプライドフィッシュ>千葉県>千葉のハマグリ” (日本語). プライドフィッシュ. 全国漁業協同組合連合会. 2020年11月14日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年11月14日閲覧。
  13. ^ 第4次レッドリストの公表について(お知らせ)”. 報道発表資料. 環境省 (2012年8月28日). 2016年11月19日閲覧。
  14. ^ 【食フード歳時記】ハマグリ 磯の香りとエキスで春到来産経新聞』朝刊2019年2月24日(生活面)2019年3月2日閲覧。
  15. ^ 井上一希 (2020年8月31日). “北朝鮮名物「愛の不時着」にも登場したハマグリのガソリン焼きの魅力”. コリアワールドタイムズ. 2020年9月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年9月3日閲覧。
  16. ^ “ハマグリのガソリン焼き”. 朝鮮日報オンライン. (2001年10月17日). オリジナルの2007年6月24日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20070624175558/http://nk.chosun.com/section/section.html?ACT=detail&section_id=51&res_id=11672 2008年11月3日閲覧。 
  17. ^ a b ハマグリ・蛤(はまぐり)”. 語源由来辞典. ルックバイス. 2015年7月9日閲覧。
  18. ^ a b c ぐりはま(グリハマ)とは”. 『大辞林』第三版. 三省堂コトバンク. 2015年7月9日閲覧。
  19. ^ a b ぐりはま”. 日本語俗語辞書. ルックバイス. 2015年7月9日閲覧。
  20. ^ a b c ぐれる”. 日本語俗語辞書. ルックバイス. 2015年7月9日閲覧。

関連資料[編集]

参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]