ハッカーの良心

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ハッカーの良心(ハッカーのりょうしん、: The Conscience of a Hacker)は、1986年にWeb上に公開されたハッカーの行動原理・基本原則を表した短い文章。多くの影響を与えたとされる。「The Hacker Manifesto」あるいは「Hacker's Manifest」とも記述される事があるため、「ハッカー宣言」などと訳される事もあるが、様々なハッカーグループによる宣言は多数あり、同名の書籍もあり、紛らわしい事からハッカーの良心と訳される例が多い。

概要[編集]

1986年1月8日に記述された。英文2796文字(タイトルおよび飾り付けの記号含む)からなる短い文章で、逮捕直後に記述したと見られており、幾分に感情的あるいは情緒的・文学的表現が見られる事から「エッセイ」と記述される例もある。作者は1970年代から活動していたハッカーのロイド·ブランケンシップ英語版であり、彼はハッカーグループ「Extasyy Elite」と「Legion of Doom」のメンバーとされる[1]。この文章に強く影響を受けて、オランダアムステルダムでの世界ハッカー大会において「世界ハッカー宣言」が行われ、それに伴い「ハッカーの良心」も知られるようになった。このハッカーの良心に触発されて行われた世界ハッカー宣言は「どんなものであれ、情報を媒介するツール、ならびにシステムは全面的かつ包括的に無料であらねばならない」との内容であったと当時翻訳に携わった雑誌記者は伝える[2]。また、オープンソースやフリーソフト化の流れに大きく影響を与えたとされ、一部では盛んにプリントされ、ハッカーの標語としてTシャツなどに印刷したものが作られ、また、フイルムに多数引用されたと伝えられる[3]。なお、時代背景として、当時のネット接続料は極めて高く、個人負担するには家計圧迫度が高かった事が考えられる[4]

本文[編集]

以下、hacker-ethikに記載された英文[5]からの意訳。

これは、逮捕された直後の1986年1月8日に書かれた。

コンピュータ犯罪でティーンエイジャー逮捕、ハッカー預金改竄して逮捕… ちぇ、彼らはみな似ている。

しかしだ、少しの心理学とずっと昔のコンピュータ知識でハッカーの目から逃れられるのか? 一体何が彼を舌打ちさせて、何が彼を尖らせたのか、何が彼を形作ったのは考えたことはある? 私はハッカーだ、私の話をしよう… 私の話は学校からはじめよう…私は他の子供より賢く、奴らが私に言うことは退屈だった… 劣等生どもめ。奴らはみな似ている。

中学生か高校生のころだ。私は先生たちが15回、計算のやり方を説明するのを聞いていた。 私は理解したよ。 「いや先生、おれはやらなかった。頭の中で計算した……」 ちぇ。劣等生どもと先生は同じだよ。彼らは、みな似ている。

今、発見をした。コンピュータを見つけた。ちょっと待て、これは凄い。これは私の希望を叶える。 これが失敗するなら、それは私がこれを台無しにしたからだ。 これが私を好きじゃないからじゃない…… 又は、私に脅えているからじゃない…… 又は、傲っているからじゃない…… 又は、教えるのが好きじゃなくここから離れたいからじゃない…… ちぇ。これのやることは全部ゲームだよ。みな似ている。

そうしてそれは起こった・・・世界へのドアが開いたんだ・・・ まるでヘロインが中毒者の血管を通るかの様に、電話線を通って電子通信は送り出され、 無駄な日々からの逃げ場になっている…そこに掲示板があったんだ。

「これだ…これが私の居場所だ…」

みんなここにいる…一度も会ったことがなく、決して話したことのない人 二度と声を聞くことがないかも知れない…でも、私はお前らを知っている… ちぇ、また電話線を繋ぐ。彼らはみな似ている…

きっと私たちはみな似ているんだ…私はステーキに飢えていて、学校では離乳食しか貰えなかった 口にした肉が粗末でまずい事。 私は残酷に支配されて、冷たい人間に無視されていた。 少しの先生は、私たちをやる気ある生徒とみていたが、それは砂漠のたったの一滴。

今これが私たちの世界だ…電子の世界に入り、ボードの美しい世界。 不当な利得をむさぼる連中がいなければ、格安だっただろうサービスを それを、私たちは支払わずに使う

そして人は私たちを犯罪者と呼ぶ。

私たちは探している…そして他人は私たちを犯罪者と呼んでいる。 肌の色、国籍、信仰、そんなものに関わらず私たちは存在する…そして他人は私たちを犯罪者と呼ぶ。 人は原子爆弾を作り、人は戦争を行い、人は殺人、詐欺をし、私たちに嘘を言い、私たちにそれこそが善のためだと信じさせる、だが私たちは犯罪者だ。

そう、私は犯罪者。 私の罪は、好奇心の罪だ。 私の罪は、人を見た目で判断せず、何を喋り、何を考えるかで判断する罪だ。 私の罪は、人を出し抜く罪、決して人が許さない何かだ。

私はハッカーだ、そしてこれは私のマニフェストだ。 私は止められても、私たち全員は止められない…つまるところ、私たちはみな似てる。

関連項目[編集]

脚注[編集]

  1. ^ elfqrinによる作者への取材(英語)
  2. ^ 捕まる危険あるがハッカーが動く理由「そこに謎があるから」(SAPIO 2011年7月20日号/週刊ポストセブン)
  3. ^ Thomas, Douglas (2003). Hacker Culture. University of Minnesota Press. pp. xxiv. ISBN 978-0-8166-3346-3 
  4. ^ こんなに違う!今と昔のネット事情(R25)
  5. ^ The Conscience of a Hacker(文章紹介・英語)