ニボルマブ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ナビゲーションに移動 検索に移動
ニボルマブ?
モノクローナル抗体
種類 全長抗体
原料 ヒト
抗原 Programmed cell death 1
臨床データ
法的規制
  • 処方箋医薬品、劇薬、生物由来製品
識別
CAS番号
946414-94-4
ATCコード L01XC17 (WHO)
KEGG D10316
化学的データ
化学式 C6362H9862N1712O1995S42
分子量 143.6kDa
テンプレートを表示

ニボルマブ(Nivolumab)は、悪性黒色腫治療を目的とし、非小細胞肺癌などに適用拡大された分子標的治療薬の一つで、ヒト型抗ヒトPD-1モノクローナル抗体医薬品であり、当時の京都大学医学部における本庶佑の研究チームが開発に貢献した[1][2]。2014年7月製造販売が承認され[3]、2014年9月小野薬品工業から発売が開始された[4]。商品名オプジーボ[5]

概要[編集]

上皮性癌腫・非上皮性肉腫共に悪性腫瘍には、免疫系から逃れるための仕組みを持つ。悪性黒色腫と肺癌には、稀に自然治癒例が見られることがあり、免疫細胞により癌細胞が攻撃され、治癒することが示唆されていた。

癌細胞は細胞表面にPD-L1を発現しており、リンパ球であるT細胞のPD-1と結合して免疫細胞の攻撃を免れている[6]

ニボルマブは、癌細胞が免疫細胞から逃れるためのチェックポイント・シグナルPD-1を抑制する(だけでなく存在が示唆されている別な経路も利用する)ことにより癌細胞への攻撃を促進する[2][3]

抗癌剤の多くは、核酸代謝や蛋白合成、細胞シグナルを阻害することにより作用する。しかし、ニボルマブは免疫そのものに作用する。欧米の標準治療薬であるイピリムマブ(抗CTLA4抗体)とニボルマブを併用することで、腫瘍への客観的反応は53%に見られた[7]。同併用療法は2015年6月FDAで承認申請された[8]

適応症[編集]

日本国内承認済

  • 悪性黒色腫(日本:2014年7月、米国:2014年12月[9]、欧州:2015年6月[10]
  • 非小細胞肺癌(日本:2015年12月[11]、米国:2015年10月、欧州:2015年7月[12]・2016年4月[13]
  • 腎細胞癌(日本:2016年9月[14]、米国:2015年11月、欧州:2016年4月[15]
  • ホジキンリンパ腫(日本:2016年12月[16]
  • 頭頚部癌(日本:2017年3月[17]
  • 胃癌(日本:2017年9月[18]
  • 悪性胸膜中皮腫(日本:2018年8月[19]
  • 悪性黒色腫の術後補助療法(日本:2018年8月[19]

日本国外承認済

  • 移行上皮癌の尿路上皮癌(米国:2017年2月[20]
  • 小細胞肺癌(米国:2018年8月[21]
  • 食道癌
  • 肝細胞癌

副作用[編集]

治験では80%の患者で有害作用を含めた副作用が見られている。主な副作用は疲労・倦怠感(31%)、発疹(22%)、悪心・嘔吐(18%)、瘙痒症(15%)、食欲減退(12%)、下痢(11%)、発熱(9%)、甲状腺機能低下症(7%)である(発現率はインタビューフォームに記載されている3治験の通算)。

重大な副作用として、

が報告されている[23]

研究[編集]

再発または治療抵抗性ホジキンリンパ腫に対して、ニボルマブは87%の患者で効果が見られた[24]

業績[編集]

副交感神経系により悪性腫瘍を攻撃する新しいタイプの抗癌剤であり、イノベーションとして、サイエンスの2013年における「ブレイクスルー・オブ・ザ・イヤー」のトップを飾った[2]

特許使用料[編集]

特許使用料については、2006年に小野薬品工業と本庶佑が契約している。本庶佑は使用料の引き上げを要求し、小野薬品工業は引き上げを拒否。代わりに寄付を提案している[注釈 1][25]

価格[編集]

2014年、オプジーボの薬価は100mgで72万9849円に達し[26]、1年間使用すると3500万円になった[27]。この価格は、従来の抗癌剤と比べても高く、財政の大きな負担になると國頭英夫は主張した[27]。これを受ける形で厚生労働省は、定例の薬価改定を待たずに、オプジーボの薬価を下げるよう中央社会保険医療協議会(中医協)に提案した[28][29][30]。なお、100mg当たりイギリスでは約14万円、ドイツでは約20万円、アメリカでは約30万円となっている[31]

2016年、経済財政諮問会議で、世界における薬価と日本における薬価の乖離が菅義偉に指摘され、日本における薬価を50%以上下げることが適切であるとの意見が出されると一気に50%の薬価引き下げが了承された[32]

2017年、オプジーボの薬価は下げられたものの、販売量は急激に増えたため、年間の売上高は1003億円に達した[33]

2018年、皮膚癌だけでなく肺癌の治療にも使えることや、海外との価格差などを考慮し、4月から再度薬価引き下げが行われた。これにより100mg当たり27万8029円となった[34]

脚注[編集]

注釈[編集]

[ヘルプ]
  1. ^ 薬価引き下げも検討されている。

出典[編集]

[ヘルプ]
  1. ^ 脚光を浴びる新たな「がん免疫療法」:小野薬品のオプジーボ 京都大学・本庶研究室が開発をけん引
  2. ^ a b c “15年間諦めなかった小野薬品 がん消滅、新免疫薬”. 日本経済新聞. (2014年10月24日). http://www.nikkei.com/article/DGXMZO78790300T21C14A0X11000/ 2015年2月10日閲覧。 
  3. ^ a b “オプジーボ:新機序の悪性黒色腫治療薬”. 日経メディカル. (2014年7月18日). http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/series/drug/update/201407/537506.html 2015年2月10日閲覧。 
  4. ^ 小野薬品、ブリストル・マイヤーズ スクイブ、協和発酵キリン オプジーボ(一般名:ニボルマブ)とモガムリズマブとの進行期固形がんにおける腫瘍免疫療法に関する開発提携契約の締結について”. ブリストル・マイヤーズ スクイブ (2014年12月10日). 2016年6月28日閲覧。
  5. ^ がん免疫療法の新薬オプジーボ新規作用メカニズムを発見”. 京都大学 (2016年10月26日). 2018年1月8日閲覧。
  6. ^ 免疫を抑制するがん細胞との闘い”. がん治療新世代WEB. 2015年6月12日閲覧。
  7. ^ Wolchok JD, Kluger H, Callahan MK, Postow MA, Rizvi NA, Lesokhin AM et al. (2013). “Nivolumab plus ipilimumab in advanced melanoma.”. N Engl J Med 369 (2): 122-33. doi:10.1056/NEJMoa1302369. PMID 23724867. http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1302369. 
  8. ^ 【米BMS】オプジーボとイェルボイ、免疫療法薬併用では初申請‐未治療進行メラノーマ適応で”. 薬事日報 (2015年6月11日). 2015年6月12日閲覧。
  9. ^ 米FDA メラノーマ治療薬ニボルマブを承認” (2014年12月25日). 2014年12月25日閲覧。
  10. ^ 【米BMS】抗PD-1抗体「オプジーボ」、欧州承認を取得”. 薬事日報 (2015年6月25日). 2015年6月26日閲覧。
  11. ^ オプジーボ「一般名:ニボルマブ」切除不能な進行・再発の非小細胞肺がんに関する効能・効果に係る製造販売承認事項一部変更承認取得”. 小野薬品工業、ブリストル・マイヤーズ スクイブ (2015年12月17日). 2016年11月5日閲覧。
  12. ^ 欧州委員会がニボルマブ(Nivolumab BMS)を承認”. 小野薬品工業、ブリストル・マイヤーズ. 2016年11月5日閲覧。
  13. ^ 欧州委員会、オプジーボ(一般名:ニボルマブ)の治療歴を有する進行・再発の非扁平上皮非小細胞肺がんへの適応拡大を承認”. 小野薬品工業、ブリストル・マイヤーズ スクイブ. 2016年11月5日閲覧。
  14. ^ オプジーボ点滴静注(一般名:ニボルマブ)根治切除不能または転移性の腎細胞癌に対する国内製造販売承認事項一部変更承認取得”. 小野薬品工業、ブリストル・マイヤーズ スクイブ (2016年9月7日). 2016年11月5日閲覧。
  15. ^ 欧州委員会、オプジーボ(一般名:ニボルマブ)について 治療歴を有する進行期腎細胞がんの適応を承認”. 小野薬品工業、ブリストル・マイヤーズ スクイブ (2016年4月8日). 2016年11月5日閲覧。
  16. ^ オプジーボ®点滴静注(一般名:ニボルマブ)国内において再発又は難治性の古典的ホジキンリンパ腫に対する効能・効果の追加承認取得”. 小野薬品工業、ブリストル・マイヤーズ スクイブ (2016年12月9日). 2018年10月21日閲覧。
  17. ^ オプジーボ®点滴静注(一般名:ニボルマブ)再発又は遠隔転移を有する頭頸部がんに対する国内製造販売承認事項一部変更承認取得”. 小野薬品工業、ブリストル・マイヤーズ スクイブ (2017年3月24日). 2018年10月21日閲覧。
  18. ^ オプジーボ®点滴静注(一般名:ニボルマブ)がん化学療法後に増悪した治癒切除不能な進行・再発の胃がんに対する国内製造販売承認事項一部変更承認取得”. 小野薬品工業、ブリストル・マイヤーズ スクイブ (2017年9月22日). 2018年11月27日閲覧。
  19. ^ a b オプジーボ®(一般名:ニボルマブ)点滴静注の「悪性胸膜中皮腫」と「悪性黒色腫の術後補助療法」への適応拡大、「固定用量への用法・用量」の変更、およびオプジーボとヤーボイ®(一般名:イピリムマブ)点滴静注との併用療法における「腎細胞がん」への適応拡大に対する国内製造販売承認事項一部変更承認取得”. 小野薬品工業、ブリストル・マイヤーズ スクイブ (2018年8月21日). 2018年11月27日閲覧。
  20. ^ ブリストル・マイヤーズ スクイブ社は、オプジーボ®(一般名:ニボルマブ)について、膀胱癌における移行上皮癌の組織型である、治療歴を有する局所進行または転移性の尿路上皮癌の治療薬としてFDAの承認を取得”. 小野薬品工業、ブリストル・マイヤーズ スクイブ (2017年2月3日). 2018年10月23日閲覧。
  21. ^ オプジーボが、治療歴を有する小細胞肺癌の特定の患者に対するほぼ20年ぶりの新薬として米国食品医薬品局の承認を取得”. 小野薬品工業、ブリストル・マイヤーズ スクイブ (2018年8月20日). 2018年10月23日閲覧。
  22. ^ Suzuki S, et al. Nivolumab-related myasthenia gravis with myositis and myocarditis in Japan. Neurology. 2017 Aug 18., doi:10.1212/WNL.0000000000004359.
  23. ^ オプジーボ 製品基本情報 オプジーボ点滴静注20mg、オプジーボ点滴静注100mg、オプジーボ点滴静注240mg” (2019年3月). 2019年3月8日閲覧。
  24. ^ Ansell SM, Lesokhin AM, Borrello I, Halwani A, Scott EC, Gutierrez M et al. (2015). “PD-1 blockade with nivolumab in relapsed or refractory Hodgkin's lymphoma.”. N Engl J Med 372 (4): 311-9. doi:10.1056/NEJMoa1411087. PMC: 4348009. PMID 25482239. http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1411087. 
  25. ^ 小野薬品 ノーベル賞受賞の本庶氏の批判に対してゼロ回答”. 毎日新聞 (2019年5月22日). 2019年6月20日閲覧。
  26. ^ オプジーボ点滴静注(ニボルマブ(遺伝子組換え))薬価収載「2014年9月2日」”. ファーマシスタ(シナジーファルマ株式会社) (2014年8月28日). 2016年9月7日閲覧。
  27. ^ a b “コストを語らずにきた代償 “絶望”的状況を迎え,われわれはどう振る舞うべきか 國頭英夫氏(日本赤十字社医療センター化学療法科部長)に聞く”. 週刊医学界新聞 (医学書院). (2016年3月7日). http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA03165_01 2017年1月18日閲覧。 
  28. ^ “高額ながん治療薬「オプジーボ」の値下げを厚労省が提案”. 産経新聞 (産経新聞社). (2016年8月24日). http://www.sankei.com/life/news/160824/lif1608240029-n1.html 2016年9月7日閲覧。 
  29. ^ “オプジーボ値下げへ議論本格化 製薬業界は反発も”. 産経新聞 (産経新聞社). (2016年9月6日). http://www.sankei.com/life/news/160906/lif1609060027-n1.html 2016年9月7日閲覧。 
  30. ^ 中央社会保険医療協議会 薬価専門部会(第117回)議事次第, , 厚生労働省保険局医療課企画法令第二係 (厚生労働省), (2016年8月24日), http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000134405.html 2016年9月7日閲覧。 
  31. ^ “英国の5倍の高額薬価どうする? 話題の抗がん剤オプジーボ・・・日本製なのに”. J-CASTニュース. (2016年10月15日). http://www.j-cast.com/2016/10/15280691.html 2017年1月18日閲覧。 
  32. ^ “高額薬剤が一気に半額?!その背景は”. NHK WEB 特集 (日本放送協会). (2016年11月18日). http://www3.nhk.or.jp/news/web_tokushu/2016_1118.html?utm_int=news_contents_tokushu_002 2017年1月18日閲覧。 
  33. ^ 昨年の国内の医薬品市場は10兆5千億円 前年比1%減”. 朝日新聞デジタル (2018年3月1日). 2018年3月2日閲覧。
  34. ^ “高額な抗がん剤オプジーボ 価格引き下げへ”. NHK WEB 特集 (日本放送協会). (2018年3月5日). https://www3.nhk.or.jp/news/html/20180305/k10011352131000.html 2018年3月5日閲覧。 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]