カタラガマ (スリランカ)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
カタラガマ

කතරගම
கதிர்காமம்
Kataragama
カタラガマ神殿
カタラガマ神殿
スリランカの旗 スリランカ
ウバ州
モナラーガラ県
等時帯 UTC+5:30 (スリランカ標準時)
 • 夏時間 UTC+6

カタラガマシンハラ語: කතරගම, タミル語: கதிர்காமம், 英語: Kataragama)は、スリランカウバ州モナラーガラ県にある仏教徒ヒンドゥー教徒ヴェッダ人巡礼地南インドからも巡礼者が訪れる。地名の由来ともなったヒンドゥー教の神スカンダをまつるカタラガマ神殿がある。中世には小さな村であったカタラガマは現在、スリランカ南東部で急速に発展し続けている。

キリ・ヴィハーラ寺院にある仏塔ランドマークとなっている[1]。この仏塔は紀元前6世紀に地元のマハセーナ王によって造られたとされている。紀元前から数多くの歴史に登場する場所であり、かつてはルフナ王国の都であった時期もある。1950年代以降政府による開発が行われ、公共交通、医療福祉、ビジネス、観光施設などが充実して行った。近隣にはヤーラ国立公園もある。

地名の由来[編集]

この地が初めて文献に現れるのは、パーリ語で書かれた年代記マハーワンサであり、この地を「カージャラガーマ」と表記していた[2]。マハーワンサでは、サンガミッター英語版によってスリー・マハー菩提樹がスリランカにもたらされた際、それを祝う祭りにカージャラガーマの貴族たちも参加したという[3]。その他、ヒンドゥー教の神スカンダ(カーティケヤ)の村という意味の「カーティケヤ・グラマ」がなまってカタラガマになったという説もある[4][5]。ただし、地名の由来については専門家の間で統一の見解は存在しない[6]

シンハラ語の「カタラガマ」が文字通り意味するのは「砂漠の中の村」であり、実際この村は乾燥地帯に位置している。ちなみに、砂漠を意味する「カタラ」と村を意味する「ガマ」からなる[7][8][9]。一方、タミル語の「カティルカーマム」は光を意味する「カティル」と愛を意味する「カーマム」からなっており、同じくスカンダの伝説から来ているとされる[10]

先住民であるヴェッダ人の間では「川の猟師」を意味する「オー・ヴェッダ」または「オヤ・ヴェッダ」と呼ばれている[11]スリランカ・ムーアイスラム教の聖人であるヒズル英語版をまつるイスラム寺院があり、そこへ訪れる[12]

歴史[編集]

先史時代[編集]

カタラガマ周辺には少なくとも12万5千年前から人類が生活していた痕跡が残されている。また、石器時代に人類が生活していた痕跡も残されている[13]

歴史時代[編集]

歴史時代に入ると、この地域周辺では小規模なため池による灌漑農業が行われるようになった。カタラガマが初めて年代記に登場するのは紀元5世紀に書かれたマハーワンサである。そこでは、カタラガマから高僧が紀元前288年マウリヤ朝アショーカ王から菩提樹を受け取りに来たという記載がある。

ルフナ王国時代には都として繁栄し、セイロン島北部の王国が南インドの王国から侵攻された際の避難先となっていた。しかし、13世紀になるとこの周辺の地域は放棄されたと考えられている[13]

考古学的発見によると、キリ・ヴィハーラは紀元前1世紀に一度改築されていると考えられる。この地域にはその他にも数多くの遺跡が残されている。カタラガマ神殿では、16世紀までにシンハラ仏教の守り神ともされているスカンダを祀るようになった[14]。また15世紀までにはこの町がインド、スリランカのヒンドゥー教徒の巡礼地として人気を博するようになった。カタラガマ神殿の人気は、16世紀にタイで書かれたパーリ語の年代記にも記されている[14]

カタラガマ神殿[編集]

聖地として[編集]

カタラガマは複数の宗教において聖地となっており、多くのスリランカ人はカーストや部族を超えてカタラガマ神への崇敬を抱いている。カタラガマ神はこの国において強力な神であり、個人的な問題の解決やビジネスでの成功、念願成就など数多くのご利益があるとされる。

ヒンドゥー教[編集]

スリランカや南インドのタミル系ヒンドゥー教徒たちはこの町を「カティルカマム」と呼び、ヒンドゥー教の神スカンダと結び付けられている。スカンダは南インドのヒンドゥー教シヴァ派では「スブラフマニヤ」とも呼ばれており、その他にもクマーラやカールッティケーヤなどという別名もある[15]。スカンダの別名に多く含まれる「カティール」はぼんやりとした光を意味する言葉である。外見は6つの顔と12本の腕を持つ姿か、もしくは1つの顔と4つの腕を持つ姿で表される。

仏教[編集]

スリランカ仏教ではカタラガマ神を「仏教の守り神」として祀っており、この地はスリランカ仏教16の巡礼地の1つとなっている。同国の年代記『マハーワンサ』によると、インドから菩提樹(スリー・マハー菩提樹)がアヌラーダプラへもたらされた際、カタラガマの貴族が祝いに訪れたとされている。カタラガマ神殿の裏にある菩提樹は、このスリー・マハー菩提樹から植樹された8本のうちの1本であり、紀元前3世紀に植えられた[16]

神殿の近くには仏塔が建てられているが、これはマハセーナ王によって建立されたとされている。伝説によると紀元前580年釈迦が3度目にスリランカを訪れた際、当時この地を支配していたマハセーナ王と面会しこの仏塔の場所で説教を行なったとされる。これらの伝説により、この地はスリランカの仏教徒にとって聖地とみなされている。

脚注[編集]

  1. ^ Amarasekara, Janani (2008年1月13日). “Blessed Kataragama”. Sunday Observer. 2018年1月23日閲覧。
  2. ^ Gombrich, Richard Francis; Gombrich, Richard; Obeyesekere, Gananath (1988) (英語). Buddhism Transformed: Religious Change in Sri Lanka. Motilal Banarsidass. pp. 437. ISBN 9788120807020. https://books.google.com/books?id=rpN9atSFua0C&q=kajaragama&pg=PA437 
  3. ^ Kacaragama, aka: Kajaragama, Kataragama; 1 Definition(s)”. Wisdom Library. 2018年1月23日閲覧。
  4. ^ Arunachalam, Sir Ponnambalam (1937) (英語). Studies and Translations, Philosophical and Religious. Department of Hindu Affairs, Ministry of Regional Development. pp. 110. https://books.google.com/books?id=T8AcAAAAMAAJ&q=karthikeya+grama 
  5. ^ Wirz, Paul (1966) (英語). Kataragama: The Holiest Place in Ceylon. University of California: Lake House Investments. pp. 7. https://books.google.com/books?id=gtMXAAAAIAAJ&q=kataragama+karthikeya+grama 
  6. ^ Rasanayagam, Mudaliyar C. (1984) (英語). Ancient Jaffna. New Delhi: Asian Educational Services. p. 60. "The village, which was below the hill and on the banks of the Menik Ganga, was, in Sinhalese times, called Kataragama, the Pali form of which was Kajaragama. Its derivation from Kartigeya grama, as some scholars have attempted to derive it, has neither phonetic similarity nor linguistic authority" 
  7. ^ Clough, B. (December 1997) (英語). Sinhalese English Dictionary. Asian Educational Services. pp. 101. ISBN 9788120601055. https://books.google.com/books?id=CmrJwQoPcsgC&q=kataragama+desert&pg=PA101 
  8. ^ Raj, Selva J.; Harman, William P. (February 2012) (英語). Dealing with Deities: The Ritual Vow in South Asia. New York: SUNY Press. p. 111. ISBN 9780791482001. https://books.google.com/books?id=h80yOTwlAUcC 
  9. ^ Chandani Kirinde and Ravi Shankar (2016年10月2日). “Thirsty for water and justice”. The Sunday Times. http://www.sundaytimes.lk/161002/news/thirsty-for-water-and-justice-211094.html 
  10. ^ Gombrich, Richard Francis; Gombrich, Richard; Obeyesekere, Gananath (1988) (英語). Buddhism Transformed: Religious Change in Sri Lanka. Motilal Banarsidass. pp. 307. ISBN 9788120807020. https://books.google.com/books?id=rpN9atSFua0C&q=kataragama+folk+etymology&pg=PA307 
  11. ^ (英語) Ancient Ceylon. Department of Archaeology, Sri Lanka. (1971). pp. 158. https://books.google.com/books?id=fAdDAAAAYAAJ&q=kataragama+name+derive 
  12. ^ Jazeel, Tariq (2013) (英語). Sacred Modernity: Nature, Environment and the Postcolonial Geographies of Sri Lankan Nationhood. Oxford University Press. pp. 84. ISBN 9781846318863. https://books.google.com/books?id=SUAiCwAAQBAJ&q=kataragama+name&pg=PA84 
  13. ^ a b Jayaratne, D.K. (2009年5月5日). “Rescue Archeology of Ruhuna, Veheralgala project.”. Peradeniya University. 2010年10月5日閲覧。
  14. ^ a b Pathmanathan, S (September 1999). “The guardian deities of Sri Lanka: Skanda-Murgan and Kataragama”. The Journal of the Institute of Asian Studies (Institute of Asian Studies). http://kataragama.org/research/pathmanathan.htm. 
  15. ^ スカンダとは”. コトバンク. 2021年3月2日閲覧。
  16. ^ Kataragama”. Travel Sri Lanka. 2010年6月11日閲覧。