オフィクレイド

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バス・オフィクレイド、左B管10鍵、右C管11鍵。
ヴァルヴ式のコントラバス・オフィクレイド(D管)。レオポルト・ウールマン(Leopold Uhlmann)作、1840年頃、メトロポリタン美術館所蔵[1]

オフィクレイド仏語:Ophicléide、伊語:Oficleide、独語:Ophikleide、英語:Ophicleide)は、ビューグル属に属するキー式の管側孔を持つ低音金管楽器。19世紀初めにフランスで発明され、軍楽隊の低音楽器や聖歌隊の伴奏用として重用され、管弦楽にも使用されたが同世紀末頃にはチューバに取って代られた[2]

解説[編集]

オフィクレイドはロシア大公コンスタンチン・パヴロヴィチがイギリスのキイ・ビューグル奏者ジョン・ディスティン(John Distin, 1798-1863)が擲弾兵音楽隊(Grenadier Guards Band)でキイ・ビューグルを演奏しているのを聴き、パリの管楽器メーカー、アラリ (Halary) の楽器製作者ジャン・イレール・アステ(Jean-Hilaire Asté)に制作を依頼したことで開発された。アラリ社は1817年に7鍵のビューグル、クラヴィチューブ(Clavitube)9または10鍵のアルトまたはバスのビューグル、カンティクラーヴ(Quinticlave)、そしてバス楽器としてオフィクレイドを考案し、1821年に特許を取得した。これらは木製の管楽器セルパンおよびその派生楽器のバスホルン(フランスではセルパンフォルヴィールSerpent Forveilleと呼ばれていた)をもとに開発され、管はファゴットのように中央で折れ曲がり、サクソフォーンのように管の側面についた9個から12個の音孔をキーを押すことで開閉して演奏を行う。ただしサクソフォンのような一元化されたキーシステムは持たず、ファゴットのように両手で抱えて演奏する(サクソフォーンはオフィクレイドをもとに開発されたと考えられている)。一般にオフィクレイドと呼ばれている楽器は、トロンボーンユーフォニアムと同じ全長のB♭管、またはC管で、トロンボーンやユーフォニアムよりやや口径の小さいマウスピースを用い、約3オクターブの音域を演奏する。これをバス・オフィクレイド(実際はバリトン)として、他に9鍵アルト(実際はソプラノ)、アルト(前述のカンティクラーヴ)、コントラバス(実際はバス)などのオフィクレイドも造られた。

オフィクレイドという名前はアラリ社が特許を取得した際の商品名で、ギリシア語で蛇を意味する ὄφις (ophis) とキーを意味する κλείς (kleis) に由来する造語であり、セルパン(フランス語で蛇の意味)にキーを付けた楽器であることが示されている[3]

オフィクレイド(バス・オフィクレイド)はスポンティーニのオペラ『オリンピア』(1819年)で初めて用いられ、以後ロマン派時代のオーケストラにおいて金管楽器群の低音部を担ったが、次第にチューバが主流となった。イタリアスペインフランスなどでは主に軍楽隊で20世紀初頭まで用いられていたが、その後サクソルンが主流となった。有名な楽曲では、ベルリオーズの『幻想交響曲』(1830年、初めの指定楽器はセルパンだったが、初演前にオフィクレイドに変更された)、メンデルスゾーン『夏の夜の夢』序曲と劇付随音楽(序曲1826年、全曲1842年、ただし、メンデルスゾーンの自筆譜にはイングリッシュバスホルンが指定されている)、ヴェルディの『レクイエム』(1874年)などで用いられている。ワーグナーはオペラ『さまよえるオランダ人』(1842年)を作曲した当初はオフィクレイドを編成に加えていたが、後にチューバへと書き換えている[4]

オフィクレイドの音色は、バリトン・サクソフォーンに似た外観や、音孔が管体の随所にあることから、粗野で音量に乏しいものと連想されがちであるが、実際はユーフォニアムのような音色と、当時のオーケストラの中での役割としては十分と思われる音量を兼ね備えている。ただし、低音域は第1倍音で奏されるため、ユーフォニアムのペダルトーンのようなやや荒い響きになりやすい。

現在、オフィクレイドが指定されている楽曲を演奏する場合、ごくまれにオフィクレイドを忠実に使用する場合もあるが、大抵はチューバで代用される。ただ、音域が比較的高いため、また音色や他の楽器とのバランスなどの兼ね合いから、B♭管やC管よりも、E♭管やF管のチューバ、あるいはユーフォニアムを使用するのが好ましいとされる。また、現代では後述のヴァルヴ式オフィクレイドのような楽器も開発されている。

主要メーカー[編集]

オフィクレイドを製造していたメーカーは、上記のアラリの他、主だったところではゴートロ(Gautrot)、ケノン(Couesnon)などがある。また、アドルフ・サックスやその父も製造していた。生産は20世紀初頭に一旦途絶えたが、21世紀になり、イギリスのウェセックス・テューバ(Wessex Tubas)[5]や日本のプロジェクト・ユーフォニアム(PROJECT EUPHONIUM)[6]などの会社が、かつてのバスやアルトのオフィクレイドを復刻させた楽器を販売するようになった[5][6]

また金管楽器製作者の中川崇雄[7]は、"Valved Ophicleide"(ヴァルヴ式オフィクレイド)というF管の楽器を製造している[8]。この楽器は、オリジナルのオフィクレイドのようなキー・メカニズムではなくロータリーヴァルヴを採用している[8]

現代の奏者[編集]

参考文献[編集]

  • 『音楽大辞典1 アーオ』(平凡社、1981年)
  • 『Ontomo mook 楽器博士佐伯茂樹がガイドするオーケストラ楽器の仕組みとルーツ』佐伯茂樹:著(音楽之友社 2018.3)
  • 『オフィクレイド教則本の比較研究』橋本晋哉(「洗足論叢」第49号 2020 年度、pp.27-37)PDF

脚注[編集]

  1. ^ Leopold Uhlmann | Contrabass Valve Ophicleide in D | Austrian | The Met”. メトロポリタン美術館. 2020年6月23日閲覧。
  2. ^ 小項目事典, ブリタニカ国際大百科事典. “オフィクレイドとは” (日本語). コトバンク. 2021年9月30日閲覧。
  3. ^ 『音楽大辞典1 アーオ』
  4. ^ ^ 『名曲の暗号 : 楽譜の裏に隠された真実を暴く』佐伯茂樹(音楽之友社 2013.12)
  5. ^ a b Ophicleide and Saxophone | Quality Brass Instruments”. Wessex Tubas. 2019年5月22日閲覧。
  6. ^ a b AMUSE CLASSIC OPHICLEIDE”. プロジェクト・ユーフォニアム. 2019年5月22日閲覧。
  7. ^ 会社理念” (日本語). Takao Nakagawa. 2019年5月22日閲覧。
  8. ^ a b Valved Ophicleide”. Takao Nakagawa. 2019年5月22日閲覧。
  9. ^ Douglas Yeo. “Douglas Yeo: Historical Instruments Vitae”. Douglas Yeo Trombone Web Site. 2019年5月22日閲覧。
  10. ^ Understanding Period instruments | The Ophicleide with Marc Girardot”. Monteverdi Choir and Orchestras Official Channel, Youtube (2018年11月28日). 2019年5月22日閲覧。
  11. ^ Elizabeth Fortescue (2017年5月17日). “Bike crash steered SSO’s Nick Byrne into passion for the ophicleide”. The Daily Telegraph (Sydney). 2019年5月22日閲覧。
  12. ^ プロフィール”. 佐伯茂樹オフィシャルサイト. 2019年5月22日閲覧。

関連項目[編集]