アーク溶接

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アーク溶接

アーク溶接(アークようせつ、英語:arc welding)とは溶接方法の一つで、空気(気体)中の放電現象(アーク放電)を利用し、同じ金属同士をつなぎ合わせる溶接法。母材と電極(溶接棒、溶接ワイヤ、TIGトーチなど)の間に発生させたアークによってもたらされる高熱で母材および溶加材(溶接ワイヤ、溶接棒)を溶融させて分子原子レベルで融合一体化する接合法であり接着とはまったく違う。電気溶接とも言われることもあるが、これには抵抗溶接も含まれる。

特徴と種類[編集]

ガスシールド・アーク溶接の模式図
1.溶接ワイヤ 2.シールドガス 3.ノズル 4.電極 5.アーク 6.溶解池 7.母材
半自動溶接によるレ型開先の多層盛溶接

材料によっては高熱に曝されると性質が変化したり、劣化する恐れがあるので、溶接を行う際は、JIS規格に規定された耐久性が得られるか検討する必要がある。また、アーク溶接を行う際は労働安全衛生法第59条3項「アーク溶接」による特別教育を修了する必要がある。

被覆アーク溶接で使用する溶接棒は、芯線より発生したアークを、被覆材から発生したガスでシールドし、大気中の窒素酸素が溶接部に混入するのを防止している。この他、被覆材の成分は、溶接金属の脱酸精錬や、スラグになってビード形状の成型などの働きをする。被覆アーク溶接は手溶接、手棒溶接と言うことがある。被覆アーク溶接での進行方向は、右利きなら左から右へ、左利きなら右から左へ、いずれの場合も進行方向に対して5度から10度傾けて傾けた方向に進む。

連続的にワイヤやガスを供給する溶接を手棒溶接に対する意味で半自動溶接と言う。被覆アーク溶接とほぼ同じ用途の溶接として半自動アーク溶接がある。被覆アーク溶接(しばしば手棒溶接ともいう)はいわゆる溶接棒を溶接材として使うが、溶接棒は比較的短いためしばしば短くなった溶接棒を交換する必要があり、大量に溶接を行うには必ずしも適していなかった。このため開発されたのが溶接材として非常に長いワイヤーを使う半自動アーク溶接である。半自動溶接はガスシールドアーク溶接なので風に弱く、屋外では使用しにくい。おもに工場内で使われる。

ティグ溶接ミグ溶接マグ溶接炭酸ガスアーク溶接では、電極(溶接ワイヤ)から発生させたアークを、アルゴン炭酸ガス等のガスで覆い、アークの安定、溶融金属中に大気が混入しないようにする目的がある。この為に使用されるガスをシールドガスと称する。ミグ溶接、マグ溶接、炭酸ガスアーク溶接は溶接ワイヤやシールドガスの連続供給が可能で、溶接の中ではスポット溶接と並び、最も自動化が進んでいる。これらガスシールドアーク溶接では進行方向にノズルを向けて、右利きなら右から左へ、左利きなら左から右へ進む方法を前進法、逆に進行方向と反対にノズルを向けて進む方法を後退法と呼び用途やワーク形状によって使い分けられている。

真っ直ぐ連続してビード(溶接痕の盛り上がり)を置くことを(ビードは置くと表現するのが正しい。英語ではビード・オン・プレート(bead on plate)と呼ぶ)ストレート・ビードと呼び比較的薄い材料に適している。また進行方向に対して振幅を与えつつ進んで置いたビードをウィービング・ビードと呼び多層盛溶接などの比較的厚い板に適している(時折誤記されているが、ウェービング(waving)ではなくウィービングweaving)が正しい呼称であり、“縫い合わせるように”という意味である。文字通り二つの板を縫い合わせるように進行する)。

アーク溶接の種類[編集]

アークと電気[編集]

電流と電圧[編集]

アーク

アーク溶接では電力により溶接棒もしくは溶接ワイヤを溶融させる。アーク溶接を行うにはこの電力、つまり電流電圧のコントロールがきわめて重要である。電圧が低い場合、右図(1)のようにアーク長は短くなる。逆に電圧が高い場合、右図(3)のようにアーク長は長くなる。また、同じ電圧で電流が増せば、右図(1)のようにアーク長は短くなる。逆に同じ電圧で電流が減れば、右図(3)のようにアーク長は長くなる。

普通の伝導体の場合、電流は電圧に比例して増大するが、アーク溶接の場合は電流は電圧に比例しない。電圧を上げるとアークが大きくなり、その分抵抗値が増すからである。この性質を利用してアーク溶接の溶接機には、負荷電流と負荷電圧が別々に設定できるように、それぞれにつまみがついている。これは以下のようなしくみになっている。

アーク溶接の溶接機(電源)は、電流と電圧のコントロールの仕方により、定電圧特性のものと垂下特性のものの2種類がある。

定電圧特性[編集]

定電圧特性とは、負荷電流が増加しても負荷電圧が一定となる性質のことである。実際には負荷電圧を一定の値に保つように、負荷電流が自動制御される。定電圧特性の溶接機は主に半自動アーク溶接に使われている。

半自動アーク溶接の溶接機で電流の設定値を増すと、すぐに負荷電流が増えるのではなく、まず送給装置からのワイヤーの供給速度が増す。このときワイヤーによってアークから融解熱が奪われるため、アークが小さくなる。アークが小さくなると負荷電圧が下がるが、溶接機はこれを検知し自動的に電圧が元に戻るまで負荷電流の量を増やす。

逆に溶接機の電流の設定値を減らすと送給装置からのワイヤーの供給速度が減る。するとワイヤーによって奪われる融解熱が減るためアークが大きくなる。アークが大きくなると負荷電圧が上がるが、溶接機はこれを検知し負荷電圧が元に戻るまで負荷電流の量を減らす。

要するに、半自動アーク溶接の溶接機はワイヤーの供給速度によって電流をコントロールするしくみになっており、実際の電流値(負荷電流)は定電圧特性を持つ電源の平衡機能によって制御されている。(電源の自己制御作用)

垂下特性[編集]

垂下特性とは、負荷電流が増えると負荷電圧が低下する特性を意味している。これは内部抵抗値を持つ電池や発電機など一般的な電源の持つ性質である。溶接では電流の高い領域、すなわち、電圧が変化しても電流があまり変化しない領域が使われる。垂下特性の溶接電源は主に被覆アーク溶接やサブマージアーク溶接などに使われる。

溶接では電流の高い領域、すなわち、電圧が変化しても電流があまり変化しない領域で使うようになっている。垂下特性の溶接電源の場合、アーク長が変化しても負荷電流の量は一定なので溶接棒の溶ける量はあまり変わらない。発生する熱量が変わらないのでアーク長はすぐに元に戻る。従って、アークの長さが変化しても電流はあまり変化しないので、垂下特性の溶接電源なら手作業でも安定した溶接が行える。

電流とワイヤー速度[編集]

半自動アーク溶接では、電流ツマミの設定値はそのままワイヤーの送給速度になる。このワイヤー送給速度は4~16m/分程度が標準的に使用される。ワイヤー送給速度を増加し、適正なアーク長となるようにアーク電圧を上げると、溶接電流が増加するので母材への入熱が増大し、深く溶け込む。また、同じ電流値でもワイヤー径が細くなると、アークの電流密度が上がり、局部的な入熱が増大する。従って、細いワイヤーほど深く溶け込みやすい。

深い溶け込みはアーク溶接では一般に望ましいこととされるが、液体が激しく動くことになるので、その分スパッタなど増えることにもなるので注意しなければならない。

移行状態[編集]

溶接棒や溶接ワイヤが溶けた溶融金属が母材上に移動することを溶滴移行という。この溶滴移行の様子は電圧電流、シールドガス、溶接材の種類などによって著しく変化する。

低電流の状態では、アーク熱により溶融した溶加材(溶接棒のこと)の先端部が溶融した母材に接触し(短絡)、アークが消えるとともに溶加材から母材へと流れるように溶融金属が移動する。これを短絡移行と言う。

炭酸ガスアーク溶接における高電流の状態では、溶融した溶加材は大きな滴になって移行し、一部の溶融金属が飛び散るなどの現象が生じる。これをグロビュール移行という。飛び散った溶融金属はスパッタといい、溶接ビードの回りにこびり付き、溶接の外観を悪くする原因となる。しかし、うまくコントロールできればグロビュール移行は高速な溶接ができるという長所がある。

MAG溶接における高電流の状態では、溶加材から母材への溶接金属の移動が非常に小さい滴の状態で行なわれる。これをスプレー移行と言う。スプレー移行はスパッタが少ないため外観が良く、かつ溶け込みも深く、能率も良い溶接ができる。

シールドガス[編集]

シールドガスの働き[編集]

アーク溶接で溶融している金属に大気が接すると、大量の窒素が金属の中に溶け込む。溶融金属が凝固するときに、この窒素が一気に析出し泡となってそのまま固まってしまう。この状態をブローホールといい、この状態になると溶接部分の機械的強度が著しく低下する。代表的な溶接欠陥である。水を急速に氷らせると、炭酸ガスが析出して真っ白な氷になるが、それと同じ現象である。

そのため、空気中でアーク溶接を行うには何らかの方法で空気とアークや溶融池を遮断する必要があり、シールドガスが用いられている。シールドガスとしては二酸化炭素アルゴンを主成分とし、時にはヘリウム水素酸素などを添加したガスが使われる。

日本では二酸化炭素を使った炭酸ガスアーク溶接が主流だが、欧米ではアルゴンやヘリウムを使ったマグ溶接ミグ溶接が主流で、炭酸ガスアーク溶接による製品は二流品とされている。

アークとシールドガス[編集]

シールドガスはその名の通り溶融金属を大気から保護する目的もあるが、それ以上にアークそのものの素材になるという重要な機能がある。アークとはプラズマの一種で、気体が電離したものである。電離とは高温により原子から一部または全部の電子が飛び出している状態になっている。電子が電離することをイオン化、あるいはプラズマ化などと言う。電離した電子が電荷を運ぶので、アークおよびプラズマは気体であるにもかかわらず、電気を通す伝導体である。

アークとプラズマは厳密に使い分けされている言葉では無いが、慣例的に通電状態にあるプラズマをアークと呼ぶことが多い。アークは一般に強い紫外線熱線を含む激しい光線を発する。

誤解されることが多いが、アーク溶接のアークは気化した金属ではない。シールドガスがプラズマ状態になったものである。プラズマは不安定な状態で、大気の中では急速に冷えて普通の気体に戻ってしまうが、アークは電流が通ることで自ら発熱し、その熱でプラズマ状態を維持することができる。アーク溶接のアーク熱の発生温度は約4000℃-6000℃(太陽の表面温度とほぼ同じ)の超高温になっており、鉄などは簡単に溶融できる。

発生温度が同じであれば、光のエネルギーもほぼ同じぐらい発生しており、また光のスペクトルも大気による遮断効果も近距離なため弱いので、強烈な紫外線から人体を保護するための保護具の装着は不可欠である。

特に溶融池は五感の全てをもちいて凝視しなければいけないのであるが、アークを直視する場合は必ず遮光ガラスごしに視ることが必須である。

最初のアークは、最初に溶加材(溶接棒や溶接ワイヤのこと)が母材とスパークした瞬間に、その熱でシールドガスがイオン化することによって生じる。アークは電気を通すため、一度アークが生じるとアークを介して電気が流れるようになる。するとアーク自体が発熱し、周囲のシールドガスをイオン化する。アークはある段階まで成長すると一定の条件下で安定状態に入る。そのアークが溶加材や母材を溶融させていく。

シールドガスはアークを保護するとともに、アークそのもののベースである。従って、シールドガスの成分はアークの状態を大きく左右し、さらに溶接の結果に大きな影響を与える。特に二酸化炭素はアークの特性を大きく変化させる物質である。

シールドガスの種類[編集]

シールドガスに使われる物質は二酸化炭素アルゴンヘリウム水素酸素などである。一般的なのは二酸化炭素アルゴンである。日本では二酸化炭素だけを使うケースが多い。欧米ではアルゴン、もしくはアルゴンと二酸化炭素を混ぜたシールドガスを使うのが普通である。また、米国ではヘリウムも比較的多く使用されているようだ。

アルゴンは空気中に含まれているので、沸点の違いを利用して液化した空気から生産される。しかし、アルゴンと酸素は沸点が近い(それぞれ-186℃と-183℃)ので、分離が難しい。そのため、安物のアルゴンを使うと溶接のスラグが多くなり、欠陥が発生しやすい。

アーク溶接における二酸化炭素の働き[編集]

CO2は化合物であり、CO2が電離してプラズマになることは無い。CO2はプラズマ状態になる前に、高熱により酸素炭素に分かれる分解を起こす。その酸素と炭素がさらに電離してプラズマとなり、それがアークを形成する。

シールドガスはアークや溶融金属を空気から保護するために使うのだが、CO2から生じた酸素、しかも電離した活性な酸素が溶けた金属と化学反応を起こすのではないか、と疑問が生じる。幸いなことにアークの中には活性化した炭素もあり、炭素は鉄よりイオン化傾向が強いので酸素と結びつきやすい。つまり鉄と酸素が結びつく前に炭素と再びくっついてしまい、鉄は酸化しない。逆に何らかの原因でアークの中の酸素が不足すると、鉄と炭素が化合し、鉄がもろくなる。還元反応といい、転炉で鉄を精錬するのと理屈は同じである。

しかし、やはり少しは鉄と化学反応を起こして酸化鉄を生じるため、CO2で溶接するとアルゴンだけで溶接するより多くスラグが出る。液体の鉄は非常に重いため、酸化鉄などの不純物は鉄が冷えて固まる前に表面に浮いてくるのでほとんど問題になることはない。しかし溶接条件によっては溶接内部にスラグが入り込み、溶接欠陥を生じてしまうこともある。なお、溶接金属が炭素よりイオン化傾向の強いアルミのような金属ではCO2は使えない。

上記のようにCO2は化学反応を起こすため、炭酸ガスをシールドガスとして使うと、アークの中にはアルゴンガスだけのときよりも複雑な現象が生じる。CO2は酸素と炭素に化学分解するときに周囲から大量の熱を奪う。そのため溶融金属の温度も下がり、その表面張力と粘性が大きくなる。その結果、比較的大きな溶滴が生じ易くなり、スパッタが生じやすくなる。

これらのため、CO2で溶接するよりアルゴンガスなどで溶接したほうが、一般的には溶接の品質が良いと言われる。また、CO2は高熱で化学分解すると炭素原子1個、酸素原子2個で合計3個の原子に変わり、急激に体積が膨張する。さらに化学分解によりアークから熱量が奪われる。その結果アークが圧迫されて細く鋭くなり、狭い範囲に熱が集中しやすくなる。これを熱的ピンチ力という。その結果、母材に深い溶け込みができやすく、かつ速い溶接が可能になり、溶接対象物への熱影響が少なくなる。これらの現象は溶接に対して、溶接欠陥や外観を悪くするという悪い要素と、溶け込みが深く、熱影響が少なく、速い溶接ができるという良い要素を与える。

そのため一概にはCO2は悪いとは言えず、目的によってはアルゴンガスより良い結果が得られる場合もある。また、アルゴンガスとCO2を混ぜて使い、両方のいい面を利用する溶接があり、これをマグ溶接という。日本では、CO2が20%、アルゴンが80%の比率のMAG溶接がもっとも一般的な比率である。

さらに、アルゴンガスとヘリウムガスでは微妙に異なる。シールドガスのメーカーはこれらのガスを混ぜる比率を研究し、目的別に最適なシールドガスを売り出している。高速溶接のできるシールドガス、溶接品質の良いシールドガス、深い溶け込みのシールドガスなどが販売されており、中には通常の4倍以上の速度で溶接できると謳うシールドガスもある。

アーク溶接と材料[編集]

熱影響[編集]

突合せ継ぎ手をアーク溶接で接合したときの熱影響の模式図。最も濃い部分が溶接ビード。

金属を一部分だけ加熱し冷却すると歪む。そのため溶接を行うと溶接された部材は歪んでしまう。

金属を一部分だけ加熱すると当然その部分は膨張する。しかし周囲は冷えたままなのである。すると、膨張した部分は周囲から圧縮を受ける形になる。その結果、加熱された部分は冷えたままのところより柔らかいので、加熱された部分は縮む方向に塑性変形することになる。さらに、この一部分だけ加熱した金属を常温まで冷却すると、加熱を受けた部分は元の体積より小さくなり、周囲を強烈な力で引っ張ることになる。この結果、製品全体が歪む。また加熱を受けた部分の周囲には強い引張応力が残る。これを残留応力といい、最終的な製品の強度に影響する。

溶接の周囲では母材の組織の変化が発生する。金属は規格ごとに結晶構造や化学組成が決められているが、溶接のように急激な加熱と冷却をしてしまうと、これらの結晶構造や化学組成が変化する。

鉄鋼[編集]

Fe-C状態図
炭素量と温度により、鉄はさまざまな組織となる。

アーク溶接の主たる対象材料は鉄鋼である。

右図はFe-C状態図と言い、縦軸が温度、横軸が炭素量となっている。鉄鋼は温度と炭素量により相変化を起こし、物理的特性の違う組織に変化する。右図は十分に冷却時間を取った場合の鉄鋼の相変化を表している。溶接の場合は急激な温度変化を伴うため、右図に示される相変化を激しく遷移し、加熱と冷却の仕方によって様々な組織に変化する。

そのため一口に鉄鋼と言っても様々な種類があり、アーク溶接に適さない種類の鉄鋼もある。また、溶接可能な鉄鋼でも、溶接するにあたって特別な処理が必要となるものもある。このような溶接に対する材料の性質を溶接性と言う。一般的に硬い材料ほど溶接しにくい。

鉄をアーク溶接すると、溶融部は液相から急激に固相に移行し急激に冷却されることになる。また溶接周辺部も急激な加熱のあと急激な冷却を受けることになる。鉄はこれらの熱影響によって成分や結晶構造が変化し、鉄の種類によっては強度が不足したり、変形したり、亀裂が生じたりする。鋼材をある程度まで熱してから急激に冷却すると、いわゆる焼きの入った状態になって硬化を起こす。鋼材には炭素が含まれているためで、この炭素が鉄と化学反応を起こしたり、結晶構造を変化させるなど結果として硬化が起きる。鉄鋼が硬くなると脆くなるため機械的強度が低下することがある。そのため、一般に炭素が少ない鋼材のほうが溶接性が良いとされる。

鉄を硬化させる物質は炭素だけではなく、マンガンやシリコンなども硬化の原因となる。これらの物質の影響を炭素の影響に換算したものを炭素当量と言う。

アークの陰極側から電子が飛び出すのは、溶けた溶接母材表面のスラグと呼ばれる酸化物層に浮かぶ陰極点と呼ばれる部分からである。鉄はアルミやチタンと異なり表面を酸化膜が覆うことはほとんど無いため、アークの電流を安定的に流すためにはチタン酸化物のルチール(TiO2)を含むフラックスを使用する。 アルミ、シリコン、マンガンなどの酸化物より、チタンの酸化物は電気を良く通す良導体であるためである。溶接ワイヤにもチタンが加えられる。 鋼鉄の溶接時のシールドガスに炭酸ガスを用いたり、アルゴンガスに少量の酸素を加えるのは、酸化物の形成を促進させるためである。 また、溶接ワイヤ表面にチタン酸化物を塗布することで「溶滴」を小さくしている。溶融酸化物が溶滴の表面を薄く覆うことで表面張力が下がり、溶接ワイヤから小さな粒の状態で溶接母材表面へ飛んでゆくためである。自動車鋼板などでの薄板の溶接ではチタン酸化物を塗布せず、大きな溶滴によってワイヤと母材を直接接触させ短絡させることでアークが薄い鋼板を突き抜けないようにしている。

チタン酸化物(ルチール)が溶接部位に溶け込むが、このチタン鋼部分の結晶構造はチタン酸化物が核となって生じる結晶粒が数μm以下で微細となり、その靭性も良好となる。溶接部位に含まれる酸化物は鋼鉄母材の10倍程度となるが、強度等ではむしろ優れたものとなる[1]

軟鋼[編集]

炭素が0.25%以下の焼き入れ硬化が無視できる鋼材を軟鋼と言う。最も一般的な鋼材で引っ張り強度は400N/mm2程度である。低炭素鋼普通鋼などとも言う。

JIS規格では、一般構造用圧延鋼材のSS400という鉄鋼が軟鋼に相当するが、JIS規格ではリン硫黄の成分のみが規定されており、炭素や他の成分は規定されていない。従ってメーカーやロットによっては同じSS400でも溶接に適さないものもある。

そのため溶接用に規定された軟鋼としてはSM材とSN材が規定されている。SN材は特に建築用として規定された材料で、大地震などで十分な強度が得られるように成分調整と検査が義務付けられた鋼材である。軟鋼は特に溶接性の悪い材料ではないが、比較的柔らかい鋼材のため、溶接量が多いと大きな歪みが生じる。そのため形状によっては縮み代逆歪み、冷却などの対策が必要になる。

余談だが、日本では鉄と鋼は一緒くたにされているが、日本以外では全く違う物質として認識する地域もある。日本のSS400だと規格上、国によっては鋼として分類されずにクズ鉄同然の見方をされることがある。

高張力鋼[編集]

高張力鋼とはJISに規定された鉄鋼で、490N/mm2以上の一般構造用鉄鋼を言う。溶接性、切り欠きじん性などに配慮することもJISに規定されている。溶接性も規格に入っているため溶接性は悪くないが、硬いため形状と溶接量によっては亀裂が生じる場合もある。また軟鋼に比べると炭素が多いため、焼き入れ性が強く、アーク溶接を行うと多かれ少なかれ焼き入れ硬化を起こす。強度的な問題が生じる場合は、予熱や後熱処理などが必要となる。

TMCP鋼[編集]

炭素や合金を少なくし、溶接しやすい高張力鋼とするため、普通の圧延鋼板よりも低い温度で精密に温度制御しつつ圧延した鋼材である。組織が微細なため、炭素当量が少なくても普通の圧延鋼板なみの強度がある。炭素当量が少ないので熱影響部の硬化及び切り欠きじん性の低下が少なく溶接性は良好である。

TMCP鋼は溶接用に開発された素材だが、ほかにも様々な鋼材が溶接用に開発されている。特に低温に強いものや、高温につよいもの、サビに強いものなど目的に応じたものがある。

継手形状[編集]

溶接継ぎ手の形状

接合する母材と母材の配置のしかたには多くの種類がある。用途により使い分ける。その一部を右図に示す。

  1. 突き合わせ継ぎ手
  2. 開先継ぎ手(両開先)
  3. 重ね継ぎ手
  4. 隅肉継ぎ手

いずれの溶接も二つの材料に均等に熱を加えることが基本であり断面方向の狙い角度が要である。誤った溶接法・溶接材料を適用したり、母材に与える熱量が過大または過小であった場合、期待する強度が得られず部材が破断する。

突き合わせ継ぎ手は別名、バット溶接とかIバット(アイバット)などと言う。アーク溶接の場合、ピッタリくっついた突き合わせ継ぎ手は施工しにくい。そのため、ウラガネ(裏金または裏鉄)という薄いプレートを裏側に付け、突合せの間隔を板厚以上に取るのがふつうである。

開先継ぎ手は溶接しやすいのだが、開先を作るための加工コストが必要になる。また図のような両開先継ぎ手の場合、母材の薄い部分が溶け落ちてしまうため、ウラガネを使うのが普通である。

重ね継ぎ手、隅肉継ぎ手は中厚板の溶接で最も一般的な溶接である。図には無いが片側開先の隅肉継ぎ手も多い。

歴史[編集]

用途[編集]

溶接ロボットによるアーク溶接の様子

アーク溶接の用途は広く、自動車列車船舶航空機建築物建設機械など、あらゆる金属構造物にごく一般的に使われていると思ってよい。母材は鉄鋼が多いが、アルミチタンなどほかの金属にも普通に利用される。

アーク溶接と安全[編集]

アーク溶接は強烈な紫外線を発生する。その強さは、アークから50cm離れた皮膚に数秒間アーク光を曝しただけで炎症を起こすほどであり、日光の比ではない。長時間アーク光に曝した場合、火傷、水ぶくれ、シミなどの症状が発生する。何度も至近距離で強烈なアーク光に皮膚を曝すと最悪皮膚に至る場合もある。通常、溶接の光では日焼けと同じような炎症を起こし皮が剥けるものの、小麦色の肌にはならない(しかしシミはできる)。裸眼でアーク光を見た場合、電光性眼炎(電眼炎)という炎症を起こす。何度も電光性眼炎になると視力の低下や最悪の場合失明に至る。

また金属ヒュームという酸化鉄からなる煙を発生し、大量に吸った場合、金属ヒューム熱じん肺などの深刻な病気の原因となる。ヒュームには一酸化炭素オゾンも混ざっており、換気には十分注意しなければならない。

防護装備[編集]

強力な紫外線を避けるため、アーク溶接作業には長袖、長ズボンの作業服、溶接面、皮手袋が必須である。さらに、ヒュームを避けるために防塵マスクが必須である。また必要に応じて安全靴スパッツ(足カバー)、厚手の耐熱エプロン、ヘルメットゴーグルなどを着用しなければならない。さらに場合によってはワセリンや熱焼け防止クリームなどの表皮保護剤(ゲル状クリーム状の物が望ましい)を顔面や頸胸部周囲などに事前塗布しておく事が望ましい。また、溶接作業者の更衣室、休憩室などには衣服に付いた粉塵を吸い取る装置や、空気清浄器などを設置することが望ましい。

関連企業[編集]

脚注[編集]

  1. ^ 新日本製鉄編著 『鉄と鉄鋼がわかる本』 日本実業出版社 2004年11月10日初版発行 ISBN 4534038356

関連項目[編集]