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ノヴィ・サド市長室の外にある多言語看板セルビア語ハンガリー語スロバキア語の他、パンノニア・ルシン語の4ヶ国語で書かれているのが分かる

文化的モザイク(ぶんかてきモザイク、Cultural mosaic、フランス語:la mosaïque culturelle)とは、様々な民族集団や言語文化社会の内部で共存する様を表す言葉[1][2]アメリカ合衆国が支持する同化政策を指してを指して用いられる場合が多い、人種のるつぼ論のような他の制度とは異なり、多文化主義の考えを擁護[3][4]。各民族が独自の文化や伝統を保持することを奨励する傾向が強い[5]

概観

カナダ統計局が示した同国の民族文化的側面は、21世紀初頭においてより進歩主義的かつ多民族、多文化化しているという。報告の序文では次のように述べている。

過去100年間におけるカナダへの移民は、どの新しい移民の波も国内の民族的、文化的構成に加わりながら、カナダを形作っている。50年前、ほとんどの移民はヨーロッパ出身者でった。今やほとんどのニューカマーアジア出身となっている。その結果、カナダにおける可視的少数派が増えている。そして、2001年国勢調査における民族的祖先に関する質問に回答する際、200以上もの民族集団を挙げたカナダ人は、国家が新千年紀を迎えるに当たり、多様で豊かな文化的モザイクを反映している。[6]

起源と語の使用

カナダ社会を形容して「モザイク」という語を用いるのは、ジョン・ミュレー・ギボンの著書『カナダのモザイク』(1938年)が初出とされる。ギボンはアメリカの人種のるつぼ論を明確に批判。同論を移民やその子孫がアメリカの生活様式に同化する余り、故国や起源となる文化との紐帯を断ち切る過程と見なしたのである [7]

ジョン・ポーター1965年社会学の研究論文「垂直的モザイク カナダにおける社会的階級及び権力の分析」を発表。同書では一部の集団(例えばイギリス系)が収入教育健康状態に関して他民族よりも良好であることを明らかにしている。逆に南欧系はこれらの指標があまり良く無く、最も劣悪なのは先住民イヌイットであったという。

ポーターはこの垂直的配列を、意思決定における権力や影響力に関連しているのではと推論。したがってイギリス系は、政府や経済的、政治的領域におけるエリートの間で大きな影響を与える傾向にあるとした[7]

ポーターの発見は1965年以降幾つかの研究において実証されたり、僅かではあるが修正されてもいる。例えば、民族間での経済格差が若干狭まり、フランス語圏が政治や政府において優位に立っている点である。しかしながら、カナダにおける社会経済的エリートはイギリス系が支配的である状態は変わらない[7]

多文化主義政策に対する影響

20世紀初頭以降、カナダは世界で最も多くの移民を受け入れてきた国家の1つとなっているが、1960年代までは移民は社会の主流への同化を期待されていた。しかし、社会が激変する時代を迎えると、ポーターの研究はカナダの社会政策に際立った影響力を行使。カナダを諸文化のモザイクとして見ることが、1960年代末以降のピエール・トルドー政権における多文化主義政策の土台となってゆく。

同政権は1969年フランス語英語双方を公用語とする公用語制定法を可決させ、他民族に関しても、その民族遺産の中から良いものを保持する機会を持つべきであるとの答申が、関連諮問機関から出されたのである[5]。かくして「文化的多様性はカナダを豊かにする」[5]という前提の下、1971年公的多文化主義法が制定され、翌年に多文化主義担当大臣が任命。1973年には国務省多文化主義局と共に、カナダ多文化主義協議会が設立されている。

批判

文化的モザイク理論は批判が無いわけではない。グローブ・アンド・メールジェフリー・シンプソンカールトン大学アンドリュー・コーエン教授ジャーナリズム学)といった一部の学者は、文化的モザイク理論が空論に過ぎず、アメリカやカナダの移民が多かれ少なかれ「同化」しており「多文化的」であるという証拠がごまんとあると論じている[8]

同じく「公的な」政府の施策としての多文化主義に批判的な国内の保守派活動家は多い。ミカエル・ジャンカナダ総督2005年4月、同概念を公然と批判、カナダ人の「ゲットー化」に導いたとして糾弾している[9]

文化相対主義の観点からも批判は根強い[5]。異なる見解同士を等価値と見なすため、よりましな選択肢を取るのが不可能となってしまうという見解である[5]レジナルド・ビビーは『モザイクの狂気』(1990年)の中で、「教養があり、啓発された、洗練されたカナダ人は、ほぼ何事にも寛大であり、何事に関してもめったに立場を明らかにしない人々」であるとの警句を残している[5]

関連項目

脚注

  1. ^ Douglas, Allan (2004). Understanding military culture: a Canadian perspective. McGill-Queen's University Press. pp. 111–115. ISBN 0-7735-2664-1. http://books.google.ca/books?id=z1OcatV808wC&lpg=PA111&dq=Cultural%20mosaic%20Canada&pg=PA111#v=onepage&q&f=true 2011年1月16日閲覧。 
  2. ^ Kalman, Bobbie (2010). Canada: The Culture. Crabtree Pub. p. 4. ISBN 978-0-7787-9284-0. http://books.google.ca/books?id=gPEItATPByoC&pg=PA4&dq=Canadian+Cultural+mosaic&hl=en&ei=nWMzTbi8AcGblgfz3Yj9CQ&sa=X&oi=book_result&ct=result&resnum=5&ved=0CEMQ6AEwBA#v=onepage&q&f=true 2011年1月16日閲覧。 
  3. ^ Burgess, Ann Carroll; Burgess, Tom (2005). Guide to Western Canada (7th ed.). Globe Pequot Press. p. 31. ISBN 0-7627-2987-2. http://books.google.ca/books?id=TuggI-Ye_AUC&lpg=PA31&dq=Cultural%20mosaic%20Canada&pg=PA31#v=onepage&q&f=true 2011年1月16日閲覧。 
  4. ^ Levine, Randy and Gifty Serbeh-Dunn (Spring 1999). "Mosaic vs. Melting Pot Voices, Volume 1, Number 4. Retrieved on: June 13, 2008.
  5. ^ a b c d e f “モザイク”と呼ばれるカナダの多文化主義の独自性と功罪 - 『モザイクの狂気』とキラン・アルワリアと『灼熱の魂』をめぐって大場正明ブログ
  6. ^ Statistics Canada. Canada’s ethnocultural portrait: The changing mosaic.
  7. ^ a b c Valee, F. Vertical Mosaic. The Canadian Encyclopedia. Historica Dominion. Retrieved on: 2011-09-22.
  8. ^ Gardner, D. (September 24, 2008). "We're often more like Americans than we're like other Canadians." Canwest.com Ottawa Citizen. Retrieved on: 2009-11-20.
  9. ^ Ghettoization and the Cultural Mosaic, Free Access

関連文献

外部リンク