コンテンツにスキップ

音位転換

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
音位転倒から転送)

音位転換(おんいてんかん、英語: metathesis)あるいは音位転倒とは、言語の、とりわけ語形の経時変化や発音・発語に関連した言葉で、語を構成する音素の並び順(以下、音の並び)が入れ替わってしまうこと。英語のまま「メタセシス」と呼ばれることもある。

概要

[編集]

音位転換は多くの言語で日常的に見られる現象である。ときに、音位転換後の語形が優勢になり、時を経てそのまま定着してしまう場合もある。

原因については、いくつか挙げることができる。

  • 調音上の要請 - 比較的発音しにくかった音の並びが入れ替わり、より発音しやすい形になるもの
  • 民間語源的な例 - 意味の上で関連のある別の語やよく似た語に“ひっぱられ”、結果として音位転換も生じてしまうもの
  • 原因のはっきりしないもの

各国語における例

[編集]

日本語

[編集]

かなとかなが入れ替わる形で(より正確にはモーラを単位として)起こることが比較的多いが、子音だけが入れ替わったり、複数のモーラがまとまって動くようなケースもなくはない。子どもがよく間違える。「タガモ()」「すいせんかん(潜水艦)」「ふいんき(雰囲気[1]」「ガジャイモ(ジャガイモ[2]」など。アニメ映画『となりのトトロ』では妹のメイがトウモロコシをちゃんと言えずトウモコロシと言ったり、オタマジャクシをオジャマタクシと言ってしまったりする。北陸では「生菓子」を「ながまし」というように方言として定着する場合もある。また、「シミュレーション英語: simulation)」がしばしば「シュミレーション」と誤読される[3]など、外来語にも例が見られる。

以下、比較的なじみの深い語彙の中から例を挙げる。転換にかかわる箇所を太字で示している。

  • 新しい: アラタシ → アタラシイ
  • 山茶花: サンザカ → サザン
  • 映日果: エイジツカ → *ジチク → イチジ
    ※ただし「イチジク」の語源には異説もある。
  • 舌鼓: シタツヅミ → シタヅツ
  • 秋葉原: アキバハラ → アキハバ

英語

[編集]

古英語ラテン語古仏語などにわたる語の変遷は煩雑なので、同語源語彙どうしを比較するにとどめる。本来の音の並びに近い語を左側に置き、並びの変化の概略(正確なものではない)をカッコ内に示した。左の語が右の語の直接の祖先というわけではないことに注意。

  • three - thirty (ri → ir)
  • turbulence - trouble (ur → ru)
  • miscellaneous - mix (sk → ks)
  • tax - task (ks → sk)
  • neuron - nerve (wr → rw)

脚注

[編集]
  1. ^ 麻野一哉飯田和敏米光一成の著書『日本文学ふいんき語り』『恋愛小説ふいんき語り』のタイトルの由来にもなっている(『日本文学ふいんき語り』双葉社、2005年、3-7頁。ISBN 4-575-29861-1
  2. ^ 小笠原群島の方言(小笠原方言)でも用いられる(ダニエル・ロング、橋本直幸(編集)『小笠原シリーズ (3) 小笠原ことばしゃべる辞典』南方新社、2005年、58頁。ISBN 4-86124-044-1)。また、とんねるずの楽曲「がじゃいも」のタイトルの由来にもなっている。
  3. ^ 石綿敏雄は、日本語の(漢語由来の)拗音には歯音系のシュ・ジュが多く、唇音系のミュ・ヒュ・ビュが少ないことから、日本人にとって「シミュレーション」より「シュミレーション」のほうがずっと発音しやすく、このことが誤表記・誤発音の要因となっているのではと推測している。石山茂利夫『今様こくご辞書』読売新聞社、1998年、48-51頁。ISBN 4-643-98075-3

関連項目

[編集]

外部リンク

[編集]