資金洗浄

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資金洗浄(しきんせんじょう)とは、犯罪によって得られた収益金の出所などを隠蔽して正当な手段で得たお金と見せかけることで、一般市場で使っても身元がばれないようにする行為である。「マネー・ローンダリング」「マネー・ロンダリング」(: money laundering[† 1])などとも言う。金融庁・警察庁などの公的文書[1][2]では「マネー・ローンダリング」で統一されており、経済産業省では「マネー・ロンダリング」[3]、外務省[4]・報道では「マネーロンダリング」の使用が多く、「資金洗浄」単体での表記はまれである。略称は「マネロン」。マイヤー・ランスキーがマネーローンダリングを初めて行ったといわれる。

概説

規制薬物取引、盗品などの贓物(ぞうぶつ)取引、身代金詐欺違法賭博脱税粉飾決算裏金などの犯罪行為によって得た現金(=汚いお金)から、出所を消し(=汚れを洗い流し)、正当な手段で得たお金と見せかける(=綺麗に見せかける)ことを比喩的に、お金を「洗浄」すると呼ぶ。捜査機関による口座凍結、差押、摘発、徴税等を逃れる目的で行う。まず一般市場の金融システムに不正資金を取り込み、複雑な金融操作でカモフラージュしお金の出所がわからなくさせて、不正資金をもとに得た富を、あたかも正当な資金であるかのように見せかけて取得するというステップを踏む。たとえば、金融機関架空口座等を利用して転々と送金を繰り返したり、債券株式を購入したり、古典的な方法としては大口寄付をしたり、海外送金し架空ビジネスに利益計上させて国内に戻したり、合法的な財産と混和させるなどの方法が採られる[5][1]なお、海外での利益計上の際は、少しでも課税による目減りを減らすために税率が低い、いわゆる「タックス・ヘイヴン」と呼ばれる低税率国を迂回する事が多い。

犯罪資金を資金洗浄せずに使用した事が切っ掛けで、犯罪者が検挙されることがある[5]。課税強化の要請が強い国々では脱税防止やキャピタルフライトの防止に重きが置かれるようになっている。

実行犯を逮捕しても資金が隠されることもある。また、資金洗浄により行方が分からなくなった不正資金は、次の犯罪の資金源となる事も多い。 犯罪抑止や防犯の観点からも対策は重要であり、多国間で様々な取り組みを行っている。

インターネット

最近ではオンラインゲームでゲーム内経済を混乱させるとして問題になっているリアルマネートレーディング(RMT)行為なども、これに悪用されているのではないかという懸念が根強く指摘されている。2013年5月28日には、インターネットを使用したマネーロンダリングとして、米ネット決済サービス「リバティー・リザーブ」が起訴され、60億ドルがマネーロンダリングされたと報じられる[6]。この様に、近年ネットを使用した資金洗浄も年々増えてきている。

テロリスト

2001年9月11日アメリカ同時多発テロ事件が発生した後、国際テロリズム組織「アルカーイダ」が資金洗浄行為を行っていたという疑惑が浮上し、各国の金融機関がテロリストのメンバーの口座を凍結する事となった。それまで、組織犯罪による資金洗浄のみが注目されてきたが、この事件をきっかけにマネーロンダリングがテロの温床になっている事が浮き彫りになり、対テロ対策としての取締強化にも繋がっている。ただし、多発テロの後でEU内にできた手形交換所は実態が不明である。

国際決済

21世紀ではHSBCホールディングスのケースが世界中の注目を集めている。クリアストリームのエルネスト・バックスは、タックス・ヘイヴンの資金洗浄を嗅ぎ回る1人のジャーナリストに向けて、こう言った[7]

「あんたらは、花の蜜を集めるだけ集めて、蜂蜜をつくるのを忘れてるミツバチだ」

その真意たるや、隠し金という蜜は点在する租税回避地から国際証券集中保管機関という蜂の巣へ集められるが、ジャーナリストはそれが分からず蜂のように世界を飛び回っているというのである。

歴史

麻薬新条約採択以前については大規模な資金洗浄の例が多い。en:Nugan Hand BankBishop, Baldwin, Rewald, Dillingham and Wongのケースはその一角である。

  • 1988年12月 「麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約」(ウィーン条約)(麻薬新条約)採択。
  • 1989年7月 アルシュ・サミット開催(フランス)。金融活動作業部会(Financial Action Task Force on Money Laundering, FATF)設立。
  • 1990年4月 FATF、マネー・ローンダリング対策に関する「40の勧告」提言(1996年に改訂。警察庁による和訳)。
  • 1995年6月 ハリファクス・サミット開催(カナダ)。薬物犯罪以外の重大犯罪に関するマネー・ローンダリング対策についても討議。
  • 1996年6月 FATF「40の勧告」改訂 マネー・ローンダリング対策を、薬物犯罪からそれ以外の重大犯罪に拡大した。
  • 1998年3月 バーミンガム・サミット開催(イギリス)。先進国間で、マネー・ローンダリング情報分析機関(Financial Intelligence Unit; FIU)の設置義務付け(日本は2000年2月に、金融監督庁(現在の金融庁)のもとに「特定金融情報室」を設置)。
  • 2000年6月 FATF、マネー・ローンダリング対策に非協力的な15カ国・地域(Non-Cooperative Countries and Territories, 一覧)を公表。
  • 2000年11月 国際組織犯罪防止条約(パレルモ条約)
  • 2001年10月 9.11米国同時多発テロを契機に、テロリズムに対する資金供与の防止に関する国際条約 

         FATF臨時総会、テロ資金供与に関する「8つの特別勧告」

  • 2003年6月 FATF「40の勧告」改訂 非金融業者(不動産・貴金属・宝石等取扱業者等)、職業的専門家(法律家・会計士等) に対して、疑わしい報告義務を課す。
  • 2006年10月 FATF、マネー・ローンダリング対策に非協力的で、特別の注意を払うべき国や地域は無くなったと発表した

日本

日本では、規制薬物取引に関する資金洗浄行為は「麻薬特例法」(平成3年法律第94号)、その他の資金洗浄行為および組織的な資金洗浄行為(不法資金による会社乗っ取り行為など)は、「組織犯罪処罰法」(平成11年法律第136号)により、それぞれ禁止されている。

2004年には、アメリカシティグループ傘下のシティバンク、エヌ・エイ在日支店(現シティバンク銀行)の富裕層の資産運用を助言するプライベートバンキング部門において、融資と債権の違法な抱き合わせ販売や株価操作のための資金提供、組織犯罪関係者の資金洗浄の手助けや匿名口座と知りながら大口顧客の口座開設などを行った不祥事が金融庁に摘発され、拠点の認可取り消しなど、金融庁の厳しい行政処分が行われたと同時に同部門の閉鎖、全面撤退が行われた(シティバンク、エヌ・エイ在日支店に対する行政処分について)。なお、この際の業務改善が不十分であったとして、同行在日支店の後身となるシティバンク銀行が2009年に(前身を含めれば再び)行政処分を受け、個人金融部門の販売業務が1か月停止された(シティバンク銀行株式会社に対する行政処分について)。

この様な悪質な資金洗浄の事例に対する対策を強化するため、2007年1月4日から本人確認法施行令等が一部改正され、現金でのATM振り込み限度額が一回につき10万円に引き下げられ、10万円を超える現金での振込みを行う際には窓口にて本人確認書類を提示することが義務付けられた。

また、2003年に改訂されたFATF「40の勧告」を日本国内において実施することを目的として、2007年4月1日、犯罪収益移転防止法が一部施行された。これにより、従来金融庁に設置されていたFIU(特定金融情報室)が国家公安委員会警察庁刑事局組織犯罪対策部犯罪収益移転防止管理官)に移管された。

脚注

注釈

  1. ^ 英語発音: [ˈmʌnɪ ˈlɔːndərɪŋ] ニ・ーンダリング

出典


関連項目