被害者なき犯罪

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被害者なき犯罪(ひがいしゃなきはんざい、英語: victimless crime, crimes without victims)とは、1965年アメリカのエドウィン・シャーにより提案された「被害者のいない(ように見える)犯罪」を指す刑事法学上の概念。

概要

売春賭博麻薬堕胎ポルノ談合自殺脱税、不法移民、武器の所持などが典型例として挙げられる。

シャーなどによれば「被害者がいないにもかかわらず、社会道徳的に悪であるから、あるいは社会的法益を侵害するからなどという理由により、これを処罰の対象としている国家が多い」との提起がなされた。

個人の自由を広く認める立場や、この類の活動の違法化は裏社会の温床となり、二次犯罪が多発して社会的被害が大きいとする立場から、これを非犯罪化ないし非刑罰化すべきである旨の主張がなされている。

問題点

被害の有無にかかわらず、「被害者とされる側の人間が起こす犯罪」であるため、刑事的介入が難しく、違法化はより悲惨な結果を招くとの批判もある。

たとえば、違法化しても売春の根絶は難しく、結果として、売春婦が危険で不衛生な状態の下、裏社会に搾取されるなどの問題も指摘されている。この反省から、欧州では公娼制度を復活させた国もある。

麻薬においては、薬物乱用使用者自身が被害者ともいえる。

また、捕鯨問題を例にとると、闇雲に間接的なものまで視野に入れてしまうと「食事の為に鯨を殺すのは残酷であり、私は友人(鯨)を殺された被害者だ」等とされ、犯罪にされかねない(鯨になど任意の動植物の名を入れればいかに理不尽か明確となる)。

ゆえに、個々の犯罪類型の具体的な検討が求められる一方、国民の自由を重視するのか、それとも、国家の刑事的介入を重視するのかという、両方の視点からの検討が必要である。

「売春防止法」

日本でも、売春防止法は「ザル法」と評され、母体保護法により堕胎罪が死文化しているなど、国民の自由と刑事規制の間で揺れ動いている。 この意味で、被害者なき犯罪はボーダーライン上ないしグレーゾーンにある犯罪類型であると評価できる。

もっとも、本当に被害者がいないとは断言できない。堕胎においては、医師と母親の同意があるとしても、胎児が被害者であると考えることもできる。

麻薬

原則合法化の下で、医者から処方することにして管理する方が、関連犯罪の減少、更に税収のメリットなどがあり、合理的だと主張する意見もある。

特に米国では、麻薬の取り締まりがザル法と厳格対処の間を揺れ動く間に、膨大な数の人間が麻薬取締法で摘発され、先進国としては類をみない受刑者人口の一因となっている。これが麻薬合法化で一挙に解決するとする主張もある。

一方で、そのようなことをすれば、社会秩序の崩壊を招くとの反論も存在する。

ヨーロッパのいくつかの国では、麻薬中毒者に医師の監視の下、麻薬を提供するクリニックが実験的に運営されている。

関連項目