自衛隊の階級
自衛隊の階級(じえいたいのかいきゅう)について解説する。
自衛隊に至るまでの変遷
第二次世界大戦の敗退に伴い、旧日本軍は1945年(昭和20年)に解体された。マッカーサー書簡により、1950年(昭和25年)に日本における武装組織として警察予備隊が創設されたが、軍隊とは異なるということから、隊員は「警察官」と呼称され[1]、階級も旧軍の階級と異なり、警察に準じた名称となった。これは、1952年に創設された海上武装組織である海上警備隊も同様であり、旧軍とは異なる階級を用いた。後の保安隊や警備隊も、旧軍の階級を用いていない。
1954年に自衛隊が創設されると、旧軍の階級名そのものは用いなかったが、将官・佐官・尉官・曹の名称は復活している。
警察予備隊(1950~1952年)
警察予備隊の警察官の階級は、警察予備隊令施行令(昭和25年政令第271号。1950年8月24日公布・即日施行、8月14日遡及適用。こちらは警察予備隊令と異なりポツダム政令でなく普通の政令)第三条により規定されていた。
当初は、のちに3等警察正となる階級は「警察士長」であり、また、3等警察士の階級は置かれていなかったが、1952年3月11日の一部改正により改称・新設された。このほか、 警察監には、さらに甲(長官の指定する職にある警察官)と乙(甲以外の警察官)の級の区分があった。
なお、「相当階級」に記載の後継組織における階級は概ね相当するものであり、(後継と言えども別組織なのであるので当然ではあるが)職位や職権などに関しても完全に一致するものではない。また、陸上自衛隊の准陸尉・陸曹長・3等陸士については、警察予備隊の警察官や保安官には該当する階級がない。
分類 | 階級名 | 相当階級 | ||
---|---|---|---|---|
保安官 | 陸上自衛官 | |||
士官相当 | (将官) | 警察監[2] | 保安監 | 陸将 |
警察監補 | 保安監補 | 陸将補 | ||
警察正 (佐官) |
1等警察正 | 1等保安正 | 1等陸佐 | |
2等警察正 | 2等保安正 | 2等陸佐 | ||
警察士長/3等警察正 | 3等保安正 | 3等陸佐 | ||
警察士 (尉官) |
1等警察士 | 1等保安士 | 1等陸尉 | |
2等警察士 | 2等保安士 | 2等陸尉 | ||
(3等警察士) | 3等保安士 | 3等陸尉 | ||
警察士補 (下士官相当) |
1等警察士補 | 1等保安士補 | 1等陸曹 | |
2等警察士補 | 2等保安士補 | 2等陸曹 | ||
3等警察士補 | 3等保安士補 | 3等陸曹 | ||
警査 (兵卒相当) |
警査長 | 保査長 | 陸士長 | |
1等警査 | 1等保査 | 1等陸士 | ||
2等警査 | 2等保査 | 2等陸士 |
海上警備隊(1952年)
海上警備隊の階級呼称[3]は、1952年に制定されている。警察予備隊と同様に、旧軍とは異なる階級名であるが、正・士・補など警察予備隊の階級と似通った名称を用いている部分がある。また、警察予備隊と異なり、最下位の階級として3等海上警備員が設けられている。
分類 | 階級名 | |
---|---|---|
(士官相当) | (将官) | 海上警備監[2] |
海上警備監補 | ||
海上警備正 (佐官) |
1等海上警備正 | |
2等海上警備正 | ||
3等海上警備正 | ||
海上警備士 (尉官) |
1等海上警備士 | |
2等海上警備士 | ||
3等海上警備士 | ||
海上警備士補 (下士官) |
1等海上警備士補 | |
2等海上警備士補 | ||
3等海上警備士補 | ||
海上警備員 (兵卒) |
海上警備員長 | |
1等海上警備員 | ||
2等海上警備員 | ||
3等海上警備員 |
保安庁保安隊(1952~1954年)
保安隊の階級[4]は、1952年に制定されている。正・士・補・査など、警察予備隊から継続されている部分がある。
分類 | 階級名 | |
---|---|---|
(士官相当) | (将官) | 保安監[2] |
保安監補 | ||
保安正 (佐官) |
1等保安正 | |
2等保安正 | ||
3等保安正 | ||
保安士 (尉官) |
1等保安士 | |
2等保安士 | ||
3等保安士 | ||
保安士補 (下士官相当) |
1等保安士補 | |
2等保安士補 | ||
3等保安士補 | ||
保査 (兵卒相当) |
保査長 | |
1等保査 | ||
2等保査 |
保安庁警備隊(1952~1954年)
警備隊の階級[4]は、1952年に制定されている。海上警備隊時代と似た名称を用いている。
分類 | 階級名 | |
---|---|---|
(士官相当) | (将官) | 警備監[2] |
警備監補 | ||
警備正 (佐官) |
1等警備正 | |
2等警備正 | ||
3等警備正 | ||
警備士 (尉官) |
1等警備士 | |
2等警備士 | ||
3等警備士 | ||
警備士補 (下士官) |
1等警備士補 | |
2等警備士補 | ||
3等警備士補 | ||
警査 (兵卒) |
警査長 | |
1等警査 | ||
2等警査 | ||
3等警査 |
自衛隊
陸上自衛隊・海上自衛隊・航空自衛隊の自衛官の階級は、自衛隊法に基づき、それぞれ陸将・海将・空将を最高位とし、それぞれ16階級が定められている[5]。階級呼称も陸海空それぞれが完全に対応しており、将の階級を除いて略称が同じになる(将補・1佐・2佐など)。3尉以上を幹部自衛官とし[6]、そのうち1佐、2佐を上級幹部、3佐、1尉を中級幹部、2尉、3尉を初級幹部となる。その下に准尉があり、さらに下士官・兵に相当する曹・士の階級が設けられている。各自衛隊ではこれら階級に応じて階級章が定められている。
当初は15階級であったが准尉(准陸尉、准海尉、准空尉)[7]が1970年5月25日に、曹長(陸曹長、海曹長、空曹長)[8]が1980年11月29日にそれぞれ新設された。また、2士の下に3士が設けられていたが、これは自衛隊生徒制度の改正に伴い、2010年10月1日付で廃止となった[9]。代わって設けられた自衛官候補生は、自衛官ではないため、法律上は階級外となる。
昇任については、昇任に要するまでの在職期間の原則が定められており、2士では六ヶ月であるが、1佐では6年となっている。これらの期間は、勤務評定や職務上の功労、殉職等の状況に応じ短縮されることがある[10]。また、普通退職や定年退職で勤務成績が優良な場合や、公務負傷による退職等の場合も特別昇任が行なわれる[11][12][13]。
自衛隊の昇任制度は平時の軍事組織で有事軍隊ではない。米軍では、昇任後一定年次経って、その一つ上の階級に行けないものは退職しなければならない。(この点はキャリア官僚がポスト争奪に負けると退職するように)兵士の命を預かる幹部としての経験と指揮能力の両方があるか、常にチェックされ階級を上がっていく。昇任にふさわしくない人は一般社会へ去る[14]。
予備自衛官及び即応予備自衛官についても階級が与えられており、階級名の冒頭に予備もしくは即応予備とつける[15]。退職時階級が原則であり、予備自衛官は予備2佐以下[16]、即応予備自衛官は2尉以下となる[17]。予備自衛官補については、訓練終了後に階級が与えられ、技能公募では予備2佐以下、一般公募では予備2士となる。
階級の表示であるが、根拠法となる自衛隊法では階級に用いられる数字は漢数字で表記されているが、「防衛庁における文書の形式に関する訓令」(昭和38年8月14日防衛庁訓令第38号)第2条第2項及び「公用文作成の要領」(昭和27年内閣閣甲第16号)第3に基づき防衛庁の公文書では自衛官の階級の略称にアラビア数字を用いている。
将官
将官は将と将補の二つが設けられている。将(陸将・海将・空将)の中でも統合幕僚長たる将及び陸上幕僚長、海上幕僚長又は航空幕僚長たる将は、法令上は一般の将と同一であるが事実上別個の階級とされ、大将に相当する扱いがなされており、四つ星の階級章や階級名の大将の英訳、そしてNATO階級符号'OF-9'が適用される等、一般の将と異なっている[18]。現在、認証官とする事が政策として盛り込まれている。'一般の将'は中将に、将補は少将に比され、定年も60歳であるが、'幕僚長たる将'は62歳となっている[19]。また、俸給表では、将補は公務員指定職の適用を受ける「将補(一)」とそれ以外の「将補(二)」の二段階に分けられている。
1980年代には、将官の数が多く、自衛官隊員における割合が高すぎるとして、俸給の改定があったことも契機に、将の職約40個を将補職に、将補職約70個を1佐職に変更し、将官の数を削減している[20]。
2000年代においては、海外での行動の際における階級上の均衡・カウンターパートの調整を図るため、准将相当のワン・スター・ジェネラルの導入も検討された[21]が、現時点では未だ実現に至っていない。
佐官・尉官
佐官・尉官は合わせて六段階に分けられている。定年も異なり、1佐は56歳、2佐・3佐は55歳、尉官は54歳である[19]。また、俸給表からは1佐は「一佐(一)」「一佐(二)」「一佐(三)」の3段階に細分化されている。非公式な俗称ではこれを「1等1佐」「3等1佐」または「1佐の一」「1佐の三」(それぞれ俸給表の1等陸海空佐(一)、1等陸海空佐(三)にあたる)などと呼ぶことがある。
曹・士
准尉に加え、曹については4段階、士については3段階に分けられている。幹部候補生は3尉任官前に指定される曹長とされる。また、自衛官候補生は教育期間終了後、2士に任用される。定年については、曹長・1曹が54歳、2曹・3曹が53歳となっている[19]。士については任期制の隊員であり、自衛官候補生の3ヶ月に加え、陸は1年9ヶ月(技術職は2年9ヶ月)、海空は2年9ヶ月の任期となる。これは希望と選考により、継続任用もなされる。
曹士の能力活用に関連し、各自衛隊で名称が異なるが、最先任下士官制度が導入されている。陸は最先任上級曹長制度、海は先任伍長制度、空は准曹士先任制度の名称となっている。ただし、これは職務であり、階級とはなされていない。これとは別個に下士官の活用・人事制度の改善を図るため、准尉を廃止し階級としての上級曹長制度を導入することが検討されている[21][22]。
階級表
下表に自衛官の階級と英語名称の関係図を示す[23][24]。
区分 | 陸上自衛隊 | 海上自衛隊 | 航空自衛隊 | ||
---|---|---|---|---|---|
幹部 | 将官 | 将 |
陸将 General(英語版防衛白書) Lieutenant General(LTG)[25][26] (中将相当[27]からの訳例) |
海将 Admiral(英語版防衛白書) Vice Admiral(VADM)[25][28] (中将相当[27]からの訳例) |
空将 General(英語版防衛白書) Lieutenant General(LtGen)[25][29] (中将相当[27]からの訳例) |
将補 | 陸将補 Major General(MG) |
海将補 Rear Admiral(RADM) |
空将補 Major General(MajGen) | ||
佐官 | 1佐 | 1等陸佐 Colonel(COL) |
1等海佐 Captain(CAPT) |
1等空佐 Colonel(Col) | |
2佐 | 2等陸佐 Lieutenant Colonel(LTC) |
2等海佐 Commander(CDR) |
2等空佐 Lieutenant Colonel(LtCol) | ||
3佐 | 3等陸佐 Major(MAJ) |
3等海佐 Lieutenant Commander(LCDR) |
3等空佐 Major(Maj) | ||
尉官 | 1尉 | 1等陸尉 Captain(CPT) |
1等海尉 Lieutenant(LT) |
1等空尉 Captain(Capt) | |
2尉 | 2等陸尉 First Lieutenant(1LT) |
2等海尉 Lieutenant Junior Grade(LTJG) |
2等空尉 First Lieutenant(1stLt) | ||
3尉 | 3等陸尉 Second Lieutenant(2LT) |
3等海尉 Ensign(ENS) |
3等空尉 Second Lieutenant(2ndLt) | ||
准尉 | 准陸尉 Warrant Officer(WO) |
准海尉 Warrant Officer(WO) |
准空尉 Warrant Officer(WO) | ||
曹士 | 曹 | 曹長 | 陸曹長 Sergeant Major(SGM) |
海曹長 Chief Petty Officer(CPO) |
空曹長 Senior Master Sergeant(SMSgt) |
1曹 | 1等陸曹 Master Sergeant(MSG) |
1等海曹 Petty Officer 1st Class(PO-1) |
1等空曹 Master Sergeant(MSgt) | ||
2曹 | 2等陸曹 Sergeant First Class(SFC) |
2等海曹 Petty Officer 2nd Class(PO-2) |
2等空曹 Technical Sergeant(TSgt) | ||
3曹 | 3等陸曹 Sergeant(SGT) |
3等海曹 Petty Officer 3rd Class(PO-3) |
3等空曹 Staff Sergeant(SSgt) | ||
士 | 士長 | 陸士長 Leading Private(LPT) |
海士長 Leading Seaman(LS) |
空士長 Airman 1st Class(A1C) | |
1士 | 1等陸士 Private First Class(PFC) |
1等海士 Seaman(SN) |
1等空士 Airman 2nd Class(A2C) | ||
2士 | 2等陸士 Private(PVT) |
2等海士 Seaman Apprentice(SA) |
2等空士 Airman 3rd Class(A3C) | ||
自衛官候補生 | Self defence official cadet |
幕僚長たる将
幕僚長たる将は他国の軍隊における大将に相当する。
- 統合幕僚長たる陸将・海将・空将 「General/Admiral serve as Chief of Staff of Joint Staff Office」(英語版防衛白書)[24]「General(GEN)」(陸将)、「Admiral(ADM)」(海将)又は「General(Gen)」(空将)
- 陸上幕僚長たる陸将 「General serve as GSDF Chief of Staff」(英語版防衛白書)[24]「General(GEN)」[25]
- 海上幕僚長たる海将 「Admiral serve as MSDF Chief of Staff」(英語版防衛白書)[24]「Admiral(ADM)」[25]
- 航空幕僚長たる空将 「General serve as ADSF Chief of Staff」(英語版防衛白書)[24]「General(Gen)」[25]
脚注
- ^ 警察予備隊施行令 第三条
- ^ a b c d 実際には長官の指定する職に就く(甲)とそれ以外の職に就く(乙)に分かれ、前者は将の、後者は将と将補の中間の上級少将とでもいうべき立ち位置にあったが、自衛隊発足にあたってこの区分はなくなった。
- ^ 法律第九十七号(昭和二十七年四月二十六日)海上保安庁法の一部を改正する法律 別表第二
- ^ a b 法律第二百六十五号(昭和二十七年七月三十一日)保安庁法 第三十条
- ^ 自衛隊法 第三十二条
- ^ 自衛隊法 第二条
- ^ 法律第九十七号(昭和四十五年五月二十五日)防衛庁設置法等の一部を改正する法律
- ^ 法律第九十三号(昭和五十五年十一月二十九日)防衛庁設置法等の一部を改正する法律
- ^ 法律第四十四号(平成二十一年六月三日)防衛省設置法等の一部を改正する法律
- ^ 自衛隊法施行規則
- ^ 自衛官の昇任に関する訓令
- ^ 自衛官の特別昇任の選考基準
- ^ 3曹への特別昇任の選考基準
- ^ ビジネス社発行 井筒高雄著「安保法制の落とし穴」165ページ半田滋の文
- ^ 自衛隊法 第69条及び第75条
- ^ 予備自衛官制度
- ^ 即応予備自衛官制度
- ^ 平成16年防衛白書
- ^ a b c 自衛隊法施行令
- ^ 昭和61年 防衛白書「自衛隊の体質改善のための諸施策」
- ^ a b 防衛力の人的側面についての抜本的改革報告書 平成19年6月28日 防衛省
- ^ 平成23年度概算要求の概要 防衛省
- ^ 自衛官の階級 防衛省
- ^ a b c d e 2012年英語版防衛白書
- ^ a b c d e f 新和英大辞典,研究社
- ^ 猪瀬直樹の「眼からウロコ」 しがらみに捉われなければ正しい答が出せる
- ^ a b c 自衛隊及び各国軍隊の定年年齢(参考15)防衛省改革会議資料
- ^ 階級章 海上自衛隊
- ^ 階級章(アメリカ空軍及び航空自衛隊)アメリカ空軍資料