自作 (アマチュア無線)

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自作(じさく)とは、アマチュア無線の楽しみ方のひとつで、アマチュア無線家がアマチュア無線に使用する機器などを設計・製作することである。

概要

電波は「人類共通の財産」であり、何人もこれを独占することは許されない。しかし一方で電波は利用できる部分の少ない貴重な「資源」であり、皆がこれを自分勝手に利用すれば直ちにその枯渇を招く。このため全世界的にある程度(電界強度によって規定される)以上の電波の利用については「正当に許可された者」だけに許される「許可制」となっており、これはアマチュア無線についても例外ではない。

電波の利用は公共の福祉増進のために行われるものとされており、したがって営利目的の電波利用等については相応のさまざまな制限が課される。特に商業用無線設備の変更などは容易なものではなく、簡易に免許を受けられる無線機などについては、使用者がその筐体を開くことすら法令で禁じられ、封印されているものもある[1]

一般にアマチュア無線といわれるものは、法令上「アマチュア業務」と定義される無線業務、「素人無線業務」ではなく「私的学究無線業務」であり、国際法・国内法共に「自作」はアマチュア無線家、すなわちアマチュア業務を行う無線従事者に、その学究業務のひとつとして「許可」されている。営利を目的としない学究目的のアマチュア無線は、電波利用の本来の姿のひとつであり、全ての無線設備の設計・製作・運用がアマチュア無線家に対して許可される。しかし、許可業務であることから、自作したものが何らかの事由により違法あるいは不法なものとなり、他に損害を与えた場合などには行政処分、最悪は刑事罰の対象となる。

すなわちアマチュア無線家の「自作」とは、「楽しみ」ではあるが、責任をもって遂行することを前提に、国から許可された「アマチュア業務」の一つであり、一般的な意味での自作とは別物なのである。

送信機の自作

送信機のうち最も自作が簡単なのが電信の送信機である。搬送波を電鍵のオン/オフによって断続し、モールス符号を送る仕組みである。また振幅変調 (AM) の送信機の自作も比較的容易で、振幅変調の運用が行われている事実上唯一のバンドである50MHz帯において自作機の使用が多い。

大出力の送信機ほど製作が難しくなるため、小電力 (QRP) の送信機の自作から始めるのが通例である。また送信機の出力電力をさらに増幅するリニアアンプ(ブースター)の自作も多く見受けられる。

送信周波数の安定性を確保するため、長波中波帯の一部を除いては水晶発振回路水晶振動子を用いて非常に高い周波数安定度の電気信号を発生する回路)が用いられる。

概して採算が取れずメーカーが量産しないような種類の送信機が自作される。

送信機の改造

輸出用市民ラジオ(CB無線)を周波数の近い28MHzのアマチュア無線機に、一部の400MHz業務用無線機を430MHzのアマチュア無線機に改造することがある。さらには1970年代の古い短波無線機に、当時はなかった10MHzや18MHzといった、通称「WARCバンド」が送信できるように改造したケースもある。

受信機の自作

受信機の自作は、真空管が全盛の時代にはラジオの自作としてアマチュア無線家以外にも広く親しまれていた。

受信関係の機器で、手持ちの受信機では受信できない周波数帯を受信するためのクリスタル・コンバータ(周波数変換器―既存の受信機に取り付けることによって別の周波数帯の受信を可能とする装置)は、受信機本体よりも自作が容易である。この例として、かつては28MHz帯の周波数を有する無線機に接続して、無線機単体では送受信できない50MHz帯や144MHz帯の周波数に変換して送受信する、トランスバーターという周波数変換装置の自作も多く行われていた。

アンテナの自作

送信機・受信機に比べるとアンテナの自作は実用性が高く、今でも市販品に対しての競争力は失っていない。また性能の良し悪しが電波の強さに比例するため、性能改善が出来たときは実利面での満足感が得られる。ある程度の測定や調整の技術を修得すれば、自分の運用スタイルに合ったアンテナを設計・製作することもできる。アマチュア無線家によって開発されたアンテナ(HB9CVヘンテナなど)もある。

デジタル無線機の自作

1990年以後デジタル無線機の自作も行われるようになった。JA1IHEによるパケット通信機器の製作は米国の機器にプロトコルを合わせたものであり、RSV96やNEKOシリーズは英国のG3RUH方式の機器との互換性を持つものである。一方、2000年頃にはデジタル変調やスペクトラム拡散を独自方式で作成するアマチュア無線家があらわれ、関東で2局(G.711, G.721および直接変調)、関西で1局 (CDMA) が免許を受けている。 しかしその後、メーカー製デジタル無線機 (GMSK+twin VQ) が発売されたため、純粋な通信目的で独自方式に追従する局は無いようである。

アマチュア以外の無線通信の世界では1990年以後、大企業を中心に優秀な人材と資金を多く投入した結果、急速にデジタル無線技術が向上したが、日本のアマチュアのデジタル無線技術は大きな遅れをとった。これは近年の傾向として、日本では優秀な自作家がその活躍の場をアマチュアからプロに移し、その技術をアマチュアに還元しなくなってきていることが背景にあると言われるが、その根本には、個人としてのデジタル無線技術の開発は金銭的な負担が大きいこともあるが、アマチュア局に対して新しいデジタル変調方式が免許されにくいという問題があるためであるとも言われている。

アマチュア局の免許において、「通信の相手方」は「全世界の多数のアマチュア局」であり、アマチュア局は他の業務局のように、いわば「身内同士の通信」のためにあるという解釈はされない。アマチュア局以外では、従来より「身内同士の通信の秘匿性」をいかに高めるかということに尽力されてきた。このため古くより、アマチュア局の通信は普通語、他の業務局の通信は暗語といった規定があったわけであるが、デジタル変調方式は、従来、オペレータや傍受者(第三者)の、いわば「遵法精神」に依っていたところに加え、ハード的に高い秘匿性を得られるものであること、少ない周波数を有効に利用できるものであることから、アマチュア局以外では格好のものとなり、急ピッチでデジタル化が進められた。 しかし一方で皮肉にもこれは、「アマチュア局が、ごく一部のアマチュア局のみが復調できる変調波により通信を行うことは問題がある。」すなわちアマチュア局の輻射する電波の変調方式は、「汎用とすることを目的として公開されたものを用いるべきである。」と、より強力に解釈されることになってしまったのである。

例えばD-STARであれば、ストリームプロトコルは公開されたものの、肝心の音声圧縮アルゴリズムが公開されず、結果、アマチュアはメーカー製の基板を少々加工してGMSK変復調部に接続するという方法でしか免許を受けることができない状況にあった。そこで、日本のあるアマチュア無線家は、D-STARの研究関連文書を総務省が管理していることを逆手に取り、行政機関の保有する情報の公開に関する法律に基づく公開請求を行い、これを認めさせた。結果、音声圧縮アルゴリズムにAMBEを採用していることなどが公開され、2007年頃からようやく、D-STAR関連の本格的な自作が試みられるようになってきている[2][3]

また、このD-STARは「標準方式」とされているため、D-STAR以外のデジタル音声通信方式の免許申請については、その免許の必要性について明確な説明ができないと、「アマチュア局に認められたものではない。」として拒絶されてしまう結果になりかねない。前述のG.721についても、その後申請した各局は拒絶されている。

歴史的にアマチュア無線家の無線技術に関する貢献度は大きく、今後も当然、期待されるべきものであるが、上述のようにこれを阻害することにもなりかねない矛盾も生じている。このようなことから現在、アマチュア無線への包括免許制度の導入が望まれている。

周辺機器の自作

上記以外にもアマチュア無線の運用には電波の送信・受信に直接関係する機器だけでなく、数多くの周辺機器が必要であり、それらの自作の楽しみもある。

送受信機やアンテナは電気工学電子回路に関する専門的な知識や技術、また測定器や特殊な部品などが必要な場合も多いが、周辺機器は最低限度の機械工作の技術があれば製作できる例も多く、材料もホームセンターや廃材を利用して入手しやすい。[4]

アマチュア無線家を対象とした、各種コンテストでは自作した周辺機器を用いたり、また自作した周辺機器そのものが表彰される例もある。[5]

  • 自作周辺機器の例

自作・改造機器による開局等の手続き

上記自作・改造送信機は、技術基準適合証明を受けていないため、空中線電力が200W以下の場合、保証認定業務を行う「TSS(株)」を経由して開局などの手続きをする。アマチュア局の開局手続きも参照。

受信機および周辺機器については、法的制限を受けず自由に製作、改造が可能で必要な手続きも無い。これは、これらの機器が動作原理上、電波の質に影響を与えないためである。

アンテナの自作改造は、直接的には法的制限を受けていないが、電波の質に影響を与える可能性があり、また利得の向上にともなって電波障害を引き起こすこともありえるため、入念な調整と各種測定が必要である。また、タワー型のアンテナを立てる場合は、建築基準法や各市町村自治体が定める条例と照らし合わせて禁止されていない範囲で行い、必要に応じて各種申請や手続きが必要である。新設したアンテナは周辺へ及ぼす影響が変わることから、電波障害の有無について調査を行うほうがよい。

脚注

  1. ^ 例えば身近な携帯電話などがそうである。携帯電話は誰でも使用できるものであるが、れっきとした無線局であり、携帯電話事業者が包括的に免許を受け、ひとつひとつ管理しているものである。(特定無線設備)よって使用者が中を開け、勝手に修理あるいは改造して使用することは許されない。バッテリケースの内側に貼付してある特定無線設備の技術基準適合証明等のマーク(技適マーク)を剝がしてもいけない。
  2. ^ [1] DXV Project
  3. ^ [2] D-STAR技術情報
  4. ^ 高山 繁一 著「つくるハム実用アクセサリー―あなたも自作にチャレンジ」CQ出版社 (1990年4月)ISBN:4789812855
  5. ^ 日本アマチュア無線連盟主催 自作品コンテスト入賞作品[3]

関連項目