税務調査

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税務調査(ぜいむちょうさ)とは、行政機関が納税者の申告内容を帳簿などで確認し、誤りがあれば是正を求める一連の調査をいう。

概要

(日本での)実地調査状況
  件数 申告漏れ
所得額
追徴税額
申告所得税 56千件 4,959億円
(879万円
964億円
(171万円
法人税 139千件 20,493億円
(1,474万円
3,799億円
(273万円
相続税 14千件 3,995億円
(2,882万円
856億円
(618万円
2009年平成21年)事務年度[1]
かっこ内は1件当たり金額

日本の所得税法人税相続税を始めとする国税の多くでは、納税者自身が管轄の税務署所得などの申告を行って税額を確定させ、この税額を自ら納付する申告納税制度が採られている[† 1]。しかし、自ら申告する以上、その内容や税額に誤りが生じたり、悪質な納税者による虚偽の申告により不当に納税を免れられる恐れがある[2]。日本の国税庁の文書では、「このような誤った申告が横行し、納税者間に課税の不公平感が生じないよう、国税庁およびその管轄組織[† 2]により、納税義務が適正に果たされていないと認められる納税者に対して、その誤りを正すために行われる[3]」とされる(と主張される)。

調査対象の納税者は、KSKシステム(国税総合管理システム)を活用して、データベースに蓄積された所得税法人税の申告内容や各種資料情報などを基に、業種、業態や事業規模などの観点を踏まえて選定されている[4]

調査の下準備を行った上で、納税者に文書提出や電話、来署を求めて申告の是正を行うほか、調査対象となる納税者の活動拠点に出向いて日々の取引が記帳された帳簿書類などを調査する「実地調査」、納税者の取引状況を確認すべく取引先を調査する「反面調査」、納税者の資産状況や取引状況を知るために取引銀行を調査する「銀行調査」を、それぞれ実施している[5]

実地調査では、国税査察官の写真入り身分証明書が納税者に必ず提示され、身分氏名が明らかにされる。原則として、納税者本人の立ち会いの下に行われるが、必要に応じて関与税理士を立ち会わせることができる[6]

税務調査において、その申告内容に誤りが認められた場合は、その内容や状況によって、不足していた申告所得税法人税などのほかに延滞税の納付が必要となる。さらに、過少申告加算税、無申告加算税[7]重加算税が付加して課されることもある[8]

調査方式

強制調査

「マルサ」で知られる国税局査察部(調査査察部)が、脱税の疑われる納税者に対して、裁判所の令状を得て強制的に行う調査をいう。納税に関する資料を押収できる権限を有し、納税者はこの調査を拒絶できない。脱税行為が証拠上特定されれば検察庁に告発され、その場合には刑事事件として処理される事となる。ただし、概ね脱税額が1億円を超え、かつ悪質な仮装隠蔽工作がなされたと想定される事案に限られる[9]

概ね年間200件前後の調査について着手、処理されている。経費を不当に計上した手口が多く、近年ではタックスヘイブンや、国際取引を利用した事例も見られる。脱税で得た資金は、現金、預貯金または有価証券や金地金として隠匿されているものがほとんど。なお、国税査察官より検察官に告発され、2010年(平成22年)度中に一審判決が言い渡された事件は152件で、すべてに有罪判決が出されている[10]

任意調査

強制調査とは異なり、国税通則法第34条の6第3項の規定[† 3]に従って、国税局資料調査課国税局調査部、管轄税務署の調査官(以下、「担当職員」と称する)により納税者の同意の下で行われる調査をいう[† 4]。一般的な税務調査のほとんどは、この任意調査である。同項に定める通り、担当職員は税金に関する質問を納税者に行える「質問検査権」を有しているため、納税者はこの質問を黙秘したり、虚偽の陳述をすることができない[11]

任意調査が実施される際には、納税者またはその関与税理士[† 5]あてに、電話または文書で1週間以上前に事前通知されるのが一般的である。なお、示された日程について都合が悪ければ、変更することができる。ただし、現金で商売を行う事業者に対してなど、ありのままの事業実態などの確認を行う必要がある場合には、事前通知なく抜き打ちで調査することが認められている[12][13]。この事前通知は、所得税の調査で約8割、法人税の調査で約9割実施されている[14]

規模

管轄税務署から担当職員が行う一般的な任意調査の多くは、1名ないし2名で1週間にわたって行われる。一方、現金商売を営む事業者に対し、事前通知なしに調査を行う際には、4、5名で調査に当たるのが一般的である。国税局が直接管轄する調査では、調査範囲が大きいため、5名以上でチームが構成され、1週間以上かけて実施される[15][16]

主要な着目点

事業者を対象としたもの

税務調査で指摘される課税漏れの原因は、大きく「売上除外」「棚卸除外」「経費の仮装」に集約される。これらが故意に行われたものかどうかを判別することが、調査のポイントとなる[17]。申告に当たって仮装隠蔽が行われた事実が明らかな場合には、国税通則法第68条に定める重加算税の対象となる[18]

現金管理状況
現金受払簿と実際の現金残高があっているか。どんぶり勘定をしていないか。
資金の流れと管理状況
どのような取引先からどのような方法で受発注し、納品、決済しているか。
売上繰り延べ
本来はその期の売上であるのに、翌期の売上ということにしていないか。
自家消費分の計上漏れ
自家用に使える商品消費した場合、その分の売上計上が漏れていないか。
棚卸計上漏れ
棚卸在庫を過小に見積もっていないか。そのために帳票類をごまかしていないか。
帳票類の整合性
見積書請求書納品書領収書がすべて揃っているか[† 6]。不自然な日付や金額の記載はないか。
修繕費と資本的支出との区分
多額の修繕費が計上されている場合、「原状回復」を超えて対象物の価値が増していないか。
私的費用の経費計上
事業と関係のない、代表者の私的な費用を経費計上していないか。
代表者による不正蓄財
代表者が、本人または家族の名義で不正な蓄財を行っていないか。
人件費の管理状況
従業員源泉徴収漏れはないか。架空の人件費計上はないか。
消費税の課税仕入と非課税仕入の混同
計上された課税仕入額に非課税分が含まれていないか。
消費税の不正還付
虚偽の申告により、不正に消費税の還付金を受けていないか[19]

結末

調査の結果、申告内容に間違いがあり、追加に納税をしなければならないとき、修正申告の場合には申告書を提出した日が、更正・決定の場合には更正通知書を発した日から1か月後の日が納期限となる。その際には、国税通則法第2節に定める加算税(過少申告加算税・無申告加算税)の税率が通常よりも高くなり、あわせて延滞税の納付を要する[20]ことに注意しなければならない。

申告是認

納税者の申告内容に間違いがなかったことをいう。特段の指導事項もなかった際には、納税者に対して「調査結果についてのお知らせ」という書面が送付される。申告誤りなどには至らないものの、今後の申告や帳簿書類の備付け、記録、保存に関して指導事項がある際には、その旨の説明や指導が行われた後に、税務調査の終了が明確に伝えられる[6]。かつては納税者に対して「申告是認」の通知書を送っていた[21]

修正申告

担当職員より指摘を受け、納税者が自発的に申告を修正することをいう。税務調査において申告内容に誤りが認められた場合、納税者に申告の誤りの内容などについて、担当職員より説明される。この際には「修正申告等について」という書面が用いられ、申告内容の誤りを是正するための修正申告を勧められるのが一般的である[6]。仮にその指摘に不服があったとしても、修正申告を出してしまった場合は、原則として後から不服の申し立てをすることはできない[22]

更正・決定

納税者が修正申告書を提出しない場合に、税務署長が職権で納税者の申告内容を改めて、通知する処分をいう。この際には納税者あてに「更正通知書」または「決定通知書」が送付される[6]。納税者はこの処分に不服であれば、税務署長あての不服申立て、異議申立てを経て、国税不服審判所に審査請求をすることができる。ただし、これらの処分が出るまでには相当の時間がかかる上、その間の延滞税が生じる点に留意する必要がある[22][23]

税務調査を大きく扱った作品

参考文献

  • 大村大次郎 編『脱税のススメ -税務署撃退編-』彩図社、2005年。ISBN 4-88392-515-3 
  • 大村大次郎 編『節税ウラワザ集』データハウス、2005年。ISBN 4-88718-788-2 


脚注

注釈

  1. ^ 国税通則法第16条第1項「申告納税方式 納付すべき税額が納税者のする申告により確定することを原則とし、その申告がない場合又はその申告に係る税額の計算が国税に関する法律の規定に従つていなかつた場合その他当該税額が税務署長又は税関長の調査したところと異なる場合に限り、税務署長又は税関長の処分により確定する方式をいう。」
  2. ^ 11の国税局、1つの国税事務所、524の税務署が置かれている。
  3. ^ 「国税庁長官は、前二条及びこの条の規定を施行するため必要があると認めるときは、その必要な限度で、その職員に、納付受託者の事務所に立ち入り、納付受託者の帳簿書類(その作成又は保存に代えて電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他の人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)の作成又は保存がされている場合における当該電磁的記録を含む。以下同じ。)その他必要な物件を検査させ、又は関係者に質問させることができる。」
  4. ^ (原則として、日程など)「納税者の同意を得て調査を行う」という建前はあるものの、故意に税務調査を拒絶することはできない。
  5. ^ 税理士法第30条の規定による代理権を証する書面を提出している税理士(いわゆる顧問税理士)がいるときは、同法第34条の規定により、納税者に対する通知とあわせて、その関与税理士に対しても通知される。
  6. ^ 保存すべき帳票類が揃っていない、または記載された内容が不正確で信頼性に乏しいなどの理由から、担当職員が十分に調査できず正確な所得を計算できない場合、推計した所得額を基に課税を行うことができる。これを推計課税という。

出典

関連項目

外部リンク