熱中性子炉

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

これはこのページの過去の版です。Xqbot (会話 | 投稿記録) による 2012年5月20日 (日) 16:00個人設定で未設定ならUTC)時点の版 (r2.7.3) (ロボットによる 変更: ta:வெப்ப நியூத்திரன் அணு உலை)であり、現在の版とは大きく異なる場合があります。

熱中性子炉(ねつちゅうせいしろ,: Thermal-neutron reactor)とは、主に熱中性子による核分裂連鎖反応臨界状態を維持する原子炉である。

概要

中性子を吸収したウラン235が、クリプトン92バリウム141核分裂した様子。これが熱中性子炉内での反応であるとするならば核分裂に寄与した中性子は熱中性子であり、核分裂時に放出している中性子は高速中性子である。

減速材
燃料棒
制御棒
或る燃料棒中で発生した高速中性子は減速材中で減速し熱中性子と呼ばれる状態へ変化した後、他の燃料棒へ達する。

核分裂で発生した中性子は平均秒速2万kmという高速度、高エネルギーであり、高速中性子と呼ばれる[1]。低濃縮ウランを用いる場合、反応の起こりやすさは基本的に中性子の速度に反比例するため[2]、高速中性子では核分裂連鎖反応の持続が難しい。このため、水や黒鉛等の減速材を用いて平均秒速2.2km程度まで減速させる[1]。減速した状態の中性子は周囲の物質と熱的平衡状態にあるため、熱中性子と呼ばれる[1]。この、熱中性子を用いて臨界状態を維持させるのでこの炉型は熱中性子炉、と呼ばれる。

利用状況

熱中性子炉、という炉型は臨界状態を維持するのにどの性状の中性子を利用するのか、という観点から原子炉を分類した際の1つのカテゴリであると言える。この観点からの分類では現在のところ以下の3つの炉型、カテゴリに分けることが出来る。

上記の3つの炉型の内、低減速炉は現在研究中であり[3]、高速中性子炉も高速増殖炉という形で研究中である[4]。つまり、原子力発電用として実用化されている原子炉は熱中性子炉に限られていると言える。

高速増殖炉は低減速炉と異なり、原型炉、実証炉としてもんじゅ[4]スーパーフェニックス[5]等が運転した経歴がある。しかし高速増殖炉の研究が比較的進んでいる日本でも高速増殖炉の導入は2050年頃を目指すとしている段階である[4]

炉型

熱中性子炉に分類される主な炉型は以下の通り。

比較

熱中性子炉に分類される軽水炉と、高速中性子炉に分類される高速増殖炉との比較表を以下に掲載する[6]

分裂に寄与
する中性子
燃料 減速材 冷却材 転換比
高速増殖炉 高速中性子 プルトニウム約16~21%
劣化ウラン約79~84%
なし ナトリウム 1.2
軽水炉 熱中性子 ウラン235約3~5%
ウラン238約95~97%
軽水 軽水 0.6

尚、上の表の転換比とは消費される核分裂性物質と、生成される核分裂性物質との比であり、1を超えると増殖率と呼ばれる[7]。高速増殖炉では燃えた量よりも多くのプルトニウムを得ることが出来るため核分裂炉の完成型等と呼ばれる事がある[8]。熱中性子炉の場合は転換比は1を超えることのできない設計となっているため増殖炉とすることは出来ない。また、冷却材にナトリウムを用いる高速増殖炉は、冷却材の温度を現在世界の発電炉の80%以上を占める軽水炉よりも200℃程度上げる事が出来るため、熱効率が高くなるという利点もある[9]。ただ、高速増殖炉において冷却材にナトリウムを用いる場合、ナトリウムの化学的活性が強いため多くの技術的な問題がある事[9]等から熱中性子炉が多く用いられているのが現状である。

脚注

  1. ^ a b c ATOMICA 熱中性子炉 - 2011年1月20日閲覧
  2. ^ 出典は参考文献P40より
  3. ^ ATOMICA 低減速炉の技術開発の進捗と課題 - 2011年1月20日閲覧
  4. ^ a b c 日本原子力産業協会 高速増殖炉の開発 - 2011年1月20日閲覧
  5. ^ ATOMICA 高速増殖炉の原子炉本体 - 2011年1月20日閲覧
  6. ^ ATOMICA 原子炉の比較 - 2011年1月20日閲覧
  7. ^ 出典は参考文献P62より
  8. ^ ATOMICA 高速増殖炉 - 2011年1月20日閲覧
  9. ^ a b 出典は参考文献P64より

参考文献

  • 鈴木穎二著 『核エネルギーの世界』 東京電気大学出版局、昭和61年11月30日第1版第1刷発行

関連項目

外部リンク