法務博士(専門職)

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法務博士(専門職)(ほうむはくし せんもんしょく、Juris Doctor degree (J.D. または JD)、Doctor of Jurisprudence degree (D.Jur. または DJur) )は、専門職大学院が付与する専門職博士号のひとつであり、主に法科大学院修了した者に授与される。

日本では原則として、学士学位[1]を修得した後に3年又は2年の課程を修了することで授与される。

各国の学位

カナダオーストラリアシンガポール香港フィリピン北アイルランド韓国などの大学でもアメリカにならった大学院レベルの法曹養成課程が導入されており、修了者にはJuris Doctorの学位が授与されている。中国語では「法律博士」と訳される。

法務博士学位の比較[2]
法域 学術的内容を欠くか? 修業年限 当該法域の法学士課程と
異なるカリキュラムか?
法曹資格取得のために
追加の教育が必要か?
米国 Yes 3 No No
オーストラリア No 3 No No
カナダ No 3 No Yes
香港 No 2–3 No Yes
シンガポール No 2–3 No Yes[3]
日本 No 2–3 Yes Yes
フィリピン No 4 Yes Yes

アメリカ合衆国

アメリカ合衆国では、大学(短期大学を除く)を卒業した後に、ロースクール(標準修業年限: 3年)を修了するとJuris Doctor(日本語訳: 法務博士)が与えられる。

また、Juris Doctorとは別に、標準就業年限一年間のLL.M.(Master of Laws, 法学修士)がある。ほとんどの学生はJ.D.取得後に就職をするが、引き続きLL.M.コースに進学する学生もまれにいる。しかし、多くのLL.M.受講生は、一旦実務を経験した後に(または実務のかたわら夜学などで)、高度に専門的な法学教育を受けるためにロースクールに戻る。特に、税法・国際法・金融法などの分野にこの傾向が顕著である。それ以外には、外国で法学の学位を取得した学生が、米国法を学ぶためにLL.M.を受講するケースが多い。日本の法学部の卒業生である法律家官僚を始めとして、非英米法系の法学教育を受けた者は、アメリカのほとんどの州で司法試験の受験資格がないが、アメリカのロースクールで一定の単位を取得することにより受験資格を得ることができる場合がある。例えば、ニューヨーク州では、非英米法系の法学教育を3年以上受けて当該国の法曹になりうる資格を取得した者は、アメリカ法曹協会が公認したロースクールで20単位以上取得すれば司法試験の受験資格が得られるが、この要件は通常LL.M.課程修了により満たすことができる。

北アメリカ諸国における法学の最高峰の学位は、S.J.D.(Doctor of Juridical Science、法学博士、法科学博士)であるが、実際のところ裁判官等を含めた実務法曹にJ.D.以上の学歴が要求されることは、まれであるとともに、実務経験が重視される分野であるので、その取得は重視されていない。

オーストラリア

オーストラリアでは、JDを取得するには、3年間のフルタイム教育(またはそれと同等)を受けている必要がある。JDは豪州資格フレームワーク(AQF)において、レベル9:Master's degree (extended)に分類される。

日本

日本の学位・称号等の分類
分類 大区分 小区分 授与を行う標準的な課程
学位 博士 規定なし 大学院の博士課程
(前期2年の博士課程を除く)
修士 規定なし 大学院の修士課程
(前期2年の博士課程を含む)
専門職学位 法務博士(専門職)[4] 法科大学院
教職修士(専門職)[4] 教職大学院
修士(専門職)[4] 専門職大学院
(法科・教職大学院を除く)
学士 規定なし 大学
短期大学士 規定なし 短期大学
 
分類 大区分 小区分 授与を行う標準的な課程
称号 準学士 規定なし 高等専門学校
高度専門士 規定なし 特定の専修学校の専門課程
(主に4年制以上)
専門士 規定なし 特定の専修学校の専門課程
(主に2〜3年制)


日本の「法務博士(専門職)」の学位は、法科大学院制度創設に当たり設けられたものである。これは、アメリカ合衆国ロー・スクールで修了者に「ジュリス・ドクター」(Juris Doctor、J.D.)の学位が授与されていることを参考にして名称等が定められた[5]。1991年(平成3年)以降の日本の学位制度においては、学位に付記する専攻分野の名称は各大学等がそれぞれ定めることになっているが[6]、法科大学院の課程を修了した者に対して授与する学位は「法務博士(専門職)」に限られ、それ以外の名称の学位が授与されることはない[7]

「法務博士(専門職)」の学位は、専門職学位の一つであり、「博士」の語を含むものの、学位請求論文の審査を経て授与される「博士の学位」とは別個のものである。法務博士(専門職)の学位取得に際しては、研究業績の提出および審査が不要である。法務博士(専門職)の肩書きを使用する場合は、専門職であること、および、取得大学名を明記しなければならない(学位規則)。

この学位を授与されると、新司法試験の受験資格が得られる[8]。また、一定の要件を満たした場合は、税理士試験の税法科目が一部免除される[9]。法務博士(専門職)は、通常の修士課程修了と同程度に相当するものとみなされ、通常の大学院の博士課程後期課程等に進学する資格を認められることが多い。ただし、通常の博士課程後期課程等に進学する場合には、修士論文等を執筆していないため、入学審査において別途、研究論文等の提出を要求されることが多い。(他の専門職学位と共通する特典については専門職学位#専門職学位の意義を参照。)。

脚注

  1. ^ 学士(法学)」に限られない。
  2. ^ Verification of the data in this table can be found in the subsequent paragraphs of this section.
  3. ^ Singapore Management University's (SMU) Juris Doctor degree, Ministry of Law (Singapore). Retrieved 14 February 2014.
  4. ^ a b c 学位規則(昭和28年文部省令第9号) 第5条の2
  5. ^ 中央教育審議会大学分科会法科大学院部会(第4回)次第
  6. ^ 学位規則10条。
  7. ^ 学位規則5条の2。
  8. ^ 司法試験法4条1項1号。
  9. ^ 税理士法施行規則2条の2第3項。

関連項目

外部リンク