未接触部族
未接触部族[1](みせっしょくぶぞく)、或いは非接触部族[2](ひせっしょくぶぞく)とは、自らの選択または周囲の状況によって、ファーストコンタクトや、より巨大な文明(特に現代文明)との、生活に大きな影響を与える接触を行っていない部族のことである。世界の一体化により、その数は21世紀を迎えるまでに極めて少数となっている。
概説
先住民の保護活動を行うNGO「サバイバル・インターナショナル[3]」によると、2013年時点で全世界には未接触部族が100以上あると推定されている[4]。
未接触部族が居住する地域は、いずれも国民国家の領土となっている。だが、国連が定義する「先住民の権利」には「孤立したまま暮らす権利」も含まれており[5]、未接触部族が望まない接触は彼らの自己決定権を侵害するものであると先住権問題の活動家は主張している[6]。
未接触部族は、飛行機の頭上通過を含めて何らかの形で外部との接触を持っており、「サバイバル・インターナショナル」の職員は彼らが外部者の存在を十分に認識していると述べている。その上で未接触部族が外部者との接触を拒否する理由として、人類学者は過去の歴史によって部族が外部に対する恐怖を持っているからだと考えている。アメリカ大陸のインディアンのように、孤立した部族はしばしば外部から殺害ないし奴隷化され、外部者を恐れることを学んだ部族はそのメッセージを口頭で伝承してきたのである[6]。
孤立した部族に対する攻撃は21世紀に入っても確認されており、南アメリカ大陸では違法な森林伐採や石油・ガスの採掘で非接触部族が生活地を失ったり、外部者による虐殺行為が発覚したりしている[6]。一方で接触を試みる外部者に対し積極的な反撃を行う非接触部族もおり、侵略者とみなした外部者を弓矢で攻撃して死傷させた事例[7]や、未接触部族の調査のために居住地の上空を飛行した飛行機に矢を放った事例[8]もある。
一方で、未接触部族の側から外部へ接触してくるケースも報告されている。未接触部族は「謎に満ちた部族」と扱われることもあるが、言葉が似通った部族が仲介することでコミュニケーションを取ることができる部族もおり、ペルーのマシコ・ピロ族のように研究が進んでいる部族もある[2]。ただし、未接触部族は感染に対する免疫力が不足している可能性があり、未接触部族にとって文明側との接触は病気の伝染によって大幅に構成員を減少させるリスクがある[9][10]。実際、非接触部族の見学を目的とした観光客が病原体を持ち込んだため、マシコ・ピロ族で病気が蔓延する問題が生じている[11]。
部族の居住分布
先住民の保護活動を行うNGO「サバイバル・インターナショナル(Survival International)」によると、2013年時点で未接触部族が確実に居住している地域は、アマゾン熱帯雨林を中心とする南アメリカ大陸、イリアンジャヤ(ニューギニア島のインドネシア統治地域)、及びアンダマン諸島の3か所である。マレー半島と中部アフリカにも居住している可能性があるが、確認が取れていない[4]。
国別にみると、ブラジルは未接触部族の存在が最も多く確認されている国で、各種調査を通じて77の部族が特定されている。また、ペルーにはおよそ15の部族が存在し、インドネシアには数十、ブラジル・ペルー以外の南米諸国に少数、インドには2つの部族がいると考えられている[4]。
他に、マレーシアに居住する一部のテミアル族(Temiar People)が熱帯雨林の奥深くで外部と未接触の生活を送っている[12]が、「サバイバル・インターナショナル」は彼らを未接触部族と認定していない。
代表的な未接触部族
- マシコ・ピロ族
- ペルーのマヌー国立公園に数百人いるといわれている。未接触部族ではあるが、周辺のイネ族などの先住民たちと共通の言語を持っており、コミュニケーションを取ることは可能。周囲の村に移り住んでいるマシコ・ピロ出身者もいる。また、ペルー政府職員が接触するルートもある[2]。
- センチネル族
- アンダマン諸島の北センチネル島に住む部族。人口は50ないし400程度[13]と考えられている。島民は排他意識が非常に強く、2004年のスマトラ島沖地震には救援物資輸送のヘリコプターが矢で攻撃された。2006年には島に漂着したインド人2名が殺害され、遺体の回収に向かったヘリコプターまでも攻撃を受けたため、現在も回収に至っていない。インド政府およびアンダマン・ニコバル諸島当局は、この島は「治外法権」だと考え、今後とも干渉しない方針である。
- 2018年11月には、地元漁師を雇った米国人宣教師が接触を試みて、矢を射られて退却したが、11月16日に再び北センチネル島に接近し、漁師たちに「船には戻らない」と告げて島に上陸した。翌朝、漁師たちは先住民が宣教師の遺体を引きずって運び、海岸に埋めるところを目撃しており、島に接近するのを手引きした罪で7人の漁師がインド当局に逮捕された[14]。
脚注
- ^ “新たに確認、アマゾン未接触部族”. ナショナルジオグラフィック. (2011年7月6日)
- ^ a b c Nadia Drake (2015年10月27日). “「非接触部族」マシコ・ピロ族、頻繁に出没の謎”. ナショナルジオグラフィック 2018年11月26日閲覧。
- ^ Survival International
- ^ a b c Bob Holmes (2013年8月22日). “How many uncontacted tribes are left in the world?”. ニュー・サイエンティスト 2018年12月20日閲覧。
- ^ Roberto CORTIJO (2015年3月30日). “なぜ今?アマゾンの密林を出る孤立先住民族、ペルー政府困惑”. AFPBB News 2018年11月26日閲覧。
- ^ a b c Nuwer, Rachel (2014年8月4日). “Future – Anthropology: The sad truth about uncontacted tribes” (英語). BBC. 2018年12月20日閲覧。
- ^ “宣教師を殺害したインド孤立部族、侵入者拒む歴史”. ナショナルジオグラフィック. (2018年12月1日) 2018年12月21日閲覧。
- ^ “新たな写真が公開、アマゾン孤立部族”. ナショナルジオグラフィック. (2011年2月4日) 2018年12月21日閲覧。
- ^ “Isolated tribe spotted in Brazil” (英語). BBC. (2008年5月30日) 2018年12月20日閲覧。
- ^ “Close camera encounter with 'uncontacted' Peruvian tribe” (英語). ニュージーランド・ヘラルド. (2012年2月2日) 2018年12月20日閲覧。
- ^ Jason Koebler (2014年8月4日). “Tourists on 'Human Safaris' Are Harassing Uncontacted Peruvian Tribes” (英語). Vice Media 2018年12月21日閲覧。
- ^ “Temiar”. Native Planet 2018年12月21日閲覧。
- ^ George Weber. “The Andamanese - Chapter 8: The Tribes(英語)”. pp. part 6. The Sentineli. 2013年3月6日閲覧。
- ^ “米宣教師を殺したセンチネルは地球最後の「石器人」”. Newsweek日本版 (Newsweek). (2018年11月27日) 2018年12月2日閲覧。